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  • Shino Nishikawa

少年ポール ディズニーの夢 修正後

最終更新: 2019年12月21日

少年ポールのディズニーの夢

ポールは、黒人で、高校生だ。

将来の夢はまだない。

「いいよ、私達が、掃除やっとくから。」

ロックスターのような服の女の子、チェルが言った。

女の子達は、ニヤニヤと笑っている。

「あいつ、変わってる。」

ポールはチェルの気持ちに気づいていた。

チェルは、ポールが好きなのだ。

「僕は、君のような人とは、恋愛はできない。」

「はあ?」

女の子達は、ポールをせせら笑った。

「いいよ。私だって、今は、あんたとは付き合いたくないから。」

チェルは答えた。


ポール一家は、長い間、団地に住んでいたが、ついこの間、おじいちゃんの家に引っ越して来た。

転校する必要はなかった。

家は古いが、暖炉がある。

気づいたら、暖炉のそばで寝てしまっていた。

起きると、おじいちゃんの家に似ているが、別の家に来ていた。

暖炉の前の、ユリ椅子で老人が寝ている。

ポールは、椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。

「ヒール?」

「えっ。」

「ジョイ?」

「すみません、僕、間違って、家に入ってしまったみたいで。」

老人は、ポールを見た。

「おや、新しいお手伝いか。」

「え‥。」

「よし、いい。今日は、庭の草むしりをしてもらおうか。」

老人はニヤリと笑った。

「え‥。」

「時給は15ドルだよ。こっちだ。」

「15ドル‥。」

「このカマを使っていいから。」

「はい‥。」

ポールは、老人に言われるままに、草むしりをした。


草むしりを終え、部屋に戻ると、老人は酒を飲みながら、ブツブツとつぶやいていた。

「俺が生まれたのは、1901年12月5日だった。イリノイ州シカゴのとても貧しい家だ。母親はドイツ人とイギリス人のハーフ。戦争中は、自分も捕まるのではないかと思ったよ。」

「あの、どうしたんですか。」

老人は、遠くを見ながら話し続けた。

「父親は厳格だった。仕事に失敗してばかりだったが、いつも冒険の話をしてくれたので、俺は、父が好きだった。」

「あの、僕、そろそろ帰らないと。」

「おやぁ‥。8時までではないのかい、スミス君。」

「僕の名前は、ポール・リアスです。」

「アハハ。変な名前。あ。」

老人は口をおさえた。

「人の名前を笑ったら怒られる。どこで、ジュディスが聞いているか分からないから。」

「ジュディス?」

「俺の面倒を見ている女でね、とても怖いんだ。」

「面倒を?では、その方が奥さんですか。」

「違うってぇ。従姉だよ。旦那と子供と、近くに住んでいる。」

「そうですか。」

外を見ると、知らない景色が広がっている。

ポールは顔をしかめて、窓に近づいた。

「何をやっている。物語の中に迷い込んだつもりか?」

「すみません、あなたの名前を教えてください。」

「アハハ、何、言ってんの。」

老人は笑った。

「じゃあ当ててみてよ。こっちに来て。」

ポールは、老人について行った。

「君は黒人。真っ黒で、目しか分からない。」

老人は、階段の上の段から、言った。

ポールはもしや、老人から、性的なことを迫られるのではないかと、一瞬、身を引いた。

老人は、ポールを怪訝な目で見た。

「黒人は書けない。だって、イライアスがイケナイと言った。」

老人は、ぶつぶつとつぶやいていたが、「ああ!」といい、突然こっちに来た。

「大丈夫ですか!」

老人はハッとした顔をし、言った。

「すまん。つい、ガキの頃のことを思い出してしまう。」

「ここが、俺の秘密の部屋だ。」

そこには、ミッキーやアリスのデッサンが、沢山貼ってあった。

「それで、俺が誰だか、分かったか?」

「分かりません。」

「まだ分からんか。」

老人は背をむけた。

ポールは、この老人は、ディズニーの画を盗んでいる人ではないかと疑い始めてしまった。

「お前は、精神病患者なのか。」

老人は、振り向いて言った。

「ちがいます。」

「ちがう?大体、俺の所に来るのは、死の病の者か、精神病患者だというのに。」

「あの、僕、もう帰ります。」

「帰る?帰り方はどうするのだ。」

「帰り方‥。」

ポールはうつむいた。

「君はバスケが好きなのか。」

ポールは小柄で、バスケは苦手だったが、いつもバスケプレイヤー風の服を着ていた。

「別に‥。ただ、この服は好きで、よく着ています。」

老人が近づいてきたので、ポールは後退りした。

「何を。俺は、ウォルト・ディズニーだぞ。」

「ウォルトディズニー?」

「そうだ。」

「えっ、だってその人は、60年前に亡くなっているはずだ。」

「今は1964年。君の目の前にいる男は、62才のウォルトディズニーだ。」

ポールはうつむいた。

「どうした、信じないのか。」

「写真で見ていたのと、あまりにも違いますから。」

「写真は、よく撮れたものしか掲載しておらん。」


気づくと、自宅の暖炉の前で目を覚ました。

次の日、学校へは、ミッキーの絵の服を着て行った。

「おはよー、ポール。今日はミッキーなんだ。」

ウェアスルが話しかけた。

「ウォルトディズニーさんの夢を見ちゃって。」

「夢を?俺もこの前、夢見たぜ。」

ウェアスルが夢の話を始めた。

「あいつ、マジうける。」

女子達は爆笑している。

ポールは、親から掃除を頼まれていたが、学校から帰ると、ベッドで寝てしまった。


「死ぬ前に、ひとつ教えておこう。ミッキーマウスを考えたのは、俺じゃない。父親のイライアス・ディズニーだ。」

ウォルトさんが覗き込んでいた。

「ウォルトさん?」

「ああ。そうだ。‥ちがう。ミッキーマウスを最初に書いたのは、俺じゃなく、父親のイライアスだ。」

「僕、まだ死にません。」

「‥ったく。わかっとらん。」

ウォルトの子供の頃は、ネズミが床を走るなんてことは、どこの家庭でもあった。

綺麗好きで、お金持ちに憧れていた兄のロイを励ますために、イライアスが書いたネズミが、ミッキーマウスの始まりだ。

「ロイ。ちょっと来い。父さんがいい物を描いたから。」

「何。」

「ほら。ネズミ君だよ。」

「うえー。」

ロイは舌を出した。

「お父さん、これ、何。ライチか何か。」

「ぶぶー。これはネズミです。」

「かわいい!これ、もらっていい?」

「いいよ。お前の物だ。」

イライアスは、ウォルトの頭をなでた。

ウォルトが15才になった時に、父のネズミ君について、ウォルトはたずねた。

「父さん、これ、売れるかな?」

「売れないよ、そんなもの。くだらない。‥例え売れたとしても、せいぜい5ドルくらいにしかならん。」

ウォルトは、ネズミの絵を眺めた。

「じゃあ、僕が売っていい?」

「そんなもので金儲けするつもりなら、返してもらう。よこせ。」

父は、ネズミ君の絵を破ってしまった。でも、ウォルトは、ネズミ君をマスターしていた。

見ていたフローラが、イライアスにこそこそ話した。

次の日、イライアスは笑顔で、言った。

「父さんが間違っていた。絵が描きたいなら、そうしなさい。」

アートスクールにウォルトを入れてくれた。

「父さん、僕、漫画家になる。」

「好きにしろ。ただ、一つ言っておく。くだらん話は書くな。書くなら、意味のある話にしろ。」

イライアスは、ウォルトを指さし、言った。

「あの‥。」

「ネズミはお前にやる。」

「ミッキーという名前にしろ。」

イライアスは、ニヤリと笑った。

フローラとイライアスは、クスクスと笑った。

それは、2人の間での、イライアスのあだ名だったのだ。

ポールはまた、ウォルトさんの家に来た。ウォルトさんは、泣きながら1人でしゃべっている。

「ごめんなさい、お父さん。でも、お父さんとお母さんをモデルにした、映画を作ったんです。眠れる森の美女。見てくれましたか?‥なーに。お父さんだって、いつもお母さんにキスしてたでしょう。」

ウォルトさんは、ワーワー泣いている。

ガチャ。

家に、誰かが入ってきた。

「うるさいわよ!!何事なの!!」

「ジュディス。」

「ウォール、またなの?いい加減にして。」

「勝手に来るなと言っているだろう!!」

「だけどね、ご近所さんにも、あんまり迷惑かけられないから。」

ジュディスは疲れたように言った。

「あら、新しいお手伝いの子?」

「そう。新人の、セント‥。」

「ポール・リアスです。」

「はじめまして、ポール。」


「私は夕食の準備をするわ。その間、あなたは‥。」

「俺は、君の本を読んでいるよ。」

「じゃあ、とっておきの曲をかけてあげる。」

パメラは音楽をかけた。

「この曲は聴いているとね、物語に入り込めるの。」

パメラは言い、キッチンに行ってしまった。

「いいね、オーロラはドイツ人だ。シンデレラもドイツ人。アリス?アリスはフランス人。でも、ドイツ人とのハーフっていう設定だよ。」

ウォルトは、パメラの本を読まずに、1人でぶつぶつと語りかけている。

「じゃあ、そう言ってあげればいいでしょう。」

パメラが言い、ウォルトは黙った。

「ドイツ人ばかり、悪者にされて。可哀想に。」

パメラは、お洒落な肉料理を置いた。

「これは、仔羊の煮込み料理よ。」

「わぁぁ。美味しそうだ。」

2人は横並びの机で、料理を食べた。

「じゃあ、白雪姫は何人なの?」

「白雪は‥日本人だ。」

「日本人?!やだ、ウォルト。知らないの?日本人のお姫様は、そんな城には住んでいないのよ。」

パメラは立ち上がり、本を持ってきた。

「ほら、これが、日本のお城。綺麗でしょう。」

「古いんだねぇ。」

「古い?当たり前でしょう。何百年も前に建てられたんだから。」


「いい?あなたと私の会話は聞かれているの。」

「ええっ。誰にだい?」

「その人は妖精よ。」

「妖精‥?ピノキオのブルーフェアリーのような人ですか?それともシンデレラのフェアリーゴッドマザー?」

パメラは首をふった。

「では、白雪姫の悪い魔女かい?あれは、君がモデルになってる。」

パメラは、笑った。

「私がモデルですって?」

「ああ、そうさ。」

「そんなわけないでしょ。」

パメラは大笑いした。


2人は恋人‥だと思う関係だった。

しかし、ウォルトにとって、最大の試練が訪れる。

「ああ、もう信じられない!私のメアリを、映画化するだなんて!」

「そんなに怒らなくてもいいだろう。僕が一番好きな話だ。」

「言っておくけど、メアリは私だけの人なのよ!」

ウォルトはため息をついた。

「私だけの人なんて。では、なぜ、本を出版したんだ。」

「それには、いろいろな事情があるの。あなたには分からない、大人の事情ってものが!!」

ウォルトは黙って家を出た。

ウォルトは、1人で話す所が自分と似ていたし、食べる時も音をたてて食べる。そこが、パメラを安心させた。

パメラにとってウォルトは、気軽なボーイフレンドだったのだ。

パメラは、ウォルトが、自分よりもずっと大物で、ずっと仕事ができるということを、考えないようにしていたせいで、一緒の仕事はうまく進まなかった。

「早く決めなよ。そうじゃなきゃ、僕は死んじゃうよ。」

「死ぬですって?あなたが?」

「ああ、そうなれば、君は誰とデートをするんだい?」

「あのね、私にはそういう人が、他にもたくさんいるんです!」

ウォルトはまた、黙って家を出た。


ウォルトは、パメラの人柄だけでなく、才能にも惚れていた。

もちろん独身だし、そこも好きだった。

パメラには、自分のように、有名になってほしかったのだ。

ウォルトの時代の女性は、偉い人の奥さんになるしか、偉くなる方法がなかった。

「アブ。僕は結婚する。」

「えっ、結婚?もしかして、トラバースさんとですか?」

「違うよ。別の女性と結婚したことにする。」

ウォルトは結婚したことにした。そして、子供が2匹いることにした。

「ふん。」

メガネをかけたウォルトは、自分の結婚の記事を読んで、新聞を投げ捨てた。

「えーと、パメラ。いいね、ここは会社だ。」

「ええ、そうでしょうよ。そして、私は‥あなたの、上司。」

「いや、上司ってわけじゃない。」

「じゃあ、取引先の役員ってわけだ。」

「とにかくさ、仲間には優しくしてくれよ。色目を使え、ってわけじゃない。」

「承知、しました。」

パメラはシャキッとした。

しかし、パメラは怒り狂ってしまう。

「ディズニーさん、この会社は、どうしてこう、ハゲが多いの?」

「さあ、どういうわけだろうねぇ。」

音楽の話し合いでは、ついに、パメラは泣きだしてしまった。

「ミッキーさん、なんなの?これ。」

「パメラ、ミッキーは、父のあだ名だ。父がミッキーで、母がミニー。多分、兄が生まれる前に2人でつけた。」

「そんなことどうでもいいわよ!!」

パメラは、出て行ってしまった。


「‥なんで、ネズミ君の名前がミッキーなのぉ?」

「それは、秘密です。」

「ふーん。でもさ、いつか教えてくれるよね?」

「さあ、どうかな。でも、秘密を解くカギは、いつも君の胸の中だ。」

父はキラキラして答えた。

「困るなぁ。だってキャラ設定が出来ないんだもの。」

「設定?漫画を描く上でのか?」

「うん‥彼女がいるとか、子供がいるとか。」

「子供?ミッキーには子供いるよ。」

「えっ。それ、何人?」

「4人。あっ、4匹か。」

「それだけぇ?変だなぁ。ネズミなら、もっと沢山生まれるはずだもん。」

「まあ、父さんのネズミには、子供はそんなに生まれなかったんだな。よし、今日は、このへんにしておくか。」

「ちょっと待って。ミッキーの奥さんの名前だけ教えて。」

「ミニー・マウス。世界で一番カワイイ、ネズミちゃんだ。」

「ミニー?名前が、似ているんだねぇ。」

「ミッキーとミニー。いいだろう?」

「ふーん、へ・ん・な・の!」

ウォルトは大きな声で言った。


ウォルトは、子供の頃のことを思い出した。

父親と、兵隊になりきり、遊んでいる。

漫画家になり、家を出た後も、辛い時は実家に戻り、父親に抱きついた。

会社を立ち上げたウォルトは、広報をお願いしている、アブに言った。

「とにかく。ウォルトディズニーは、父親とは仲が悪い、ということでな。」

「え‥でも。この前も、お父さんが会社に来ていたでしょう。仲が悪いと?」

「そう。仲が良いなんて、家族に迷惑をかけるだろう!」


「父さん!」

イライアスが、ウォルトの会社に来た。

ウォルトは、イライアスに漫画を見せた。

「父さん、これ見てよ。」

「なんだこれ。真っ黒じゃないか。」

「当たり前だ、黒人だよぉ。」

「‥いいか。黒人ってものは、こんなんじゃない。もっと、恐ろしくて怖い人間なんだ。」

イライアスは、物語を言う時の口調になった。

「お前は、黒人なんて書かない方がいい。黒人はな、黒人だけのものだ。」


ウォルトが実家に戻った時、イライアスの仕事場に行くと、イライアスは、黒人青年と親しげに会話をしていた。

「父さん、あの人、誰?」

「ブルース。黒人のメロディーさ。」

「父さんだって、黒人と仲良くしているのに、僕が黒人を書いちゃダメなの?」

「そう、お前が黒人を描くのは、ダメだ。黒人は黒人のものだ。前に言っただろう。」


メリーポピンズの制作がはかどらない中、ウォルトは、ディズニーランドで働く、黒人青年と仲良くなる。

名前は、ルイ・ワイルドアースという。

ウォルトがメリーゴーランドの馬に、横座りしていたので、ルイが注意したのだ。

「お客様、申し訳ありませんが、横座りは危険ですので。」

「なぜだ?書いてなかったぞ。」

「すみません、でも決まりなんです。」

「決まり?ウォルトディズニーが、決めた決まりか?」

ウォルトが引き下がらないので、2人は事務所で話すことになった。

「あの、僕、あなたがディズニーさんとは知らなくて。」

「いや、知らなくて当然だとも。写真の男とは、全然違う。」

ウォルトはいつも、写真撮影ではかっこつけた。


ポールは、今日は学校で、調理実習の日だった。

みんなでハンバーグを作るのだ。

「ポール。何、そのぐちゃぐちゃ。こう。こうやるの。」

チェルが、ポールにハンバーグの丸め方を教えた。

「お前ら、マジで付き合ってんのか?」

ルゥがニヤニヤと笑った。

「ばーか、違うっつーの。」

チェルが言った。

「ポール、さっきごめんね。」

チェルが廊下で話しかけた。

「ううん。」

「今日も仕事やっとくから。」

「仕事?」

「掃除のこと。」

「いいの?」

チェルはうなずき、女の子達は、「ポール。」と言って、ニヤニヤと笑っている。

放課後、ポールが帰ろうとすると、アレクサンドラ先生が声をかけた。

「ポール、掃除は?」

「あの‥女子達がやってくれるって‥。」

「どういうこと?あなたは、掃除を、女子にやらせる気?」

「すみません‥。」

ポールは、アレクサンドラ先生と教室に戻り、掃除を始めた。

チェルや他の女子達も、気まずそうに、ポールを見た。

家に帰ると、ポールはまた、暖炉の前で寝てしまった。


「ポール?」

ウォルトさんは赤い顔で、ブランデーに、ドーナツを浸している。

「あの‥失礼かも、しれませんけど。お酒‥飲みすぎると、よくないって。」

「酒か?いや俺は、映画のストーリーを考えているんだ。あ~、次回作は、どんなストーリーにしよう。それで、どんなお姫様にしよう。」

「‥酒を飲むと、くるくる世界が回って面白いんだよ。でも、昔、俺も、ドラッグをやったことがあったんだ。」

ウォルトさんは笑いだした。


「どんな感じなのかなぁ‥?ドラッグをやるって。」

「さあ、分かりません。‥でもうちの母親が、昔、やったことがあって、酷い目にあったと言っていました。」

ルイは、本当にドラッグをやったことはなかったが、地元で人気のDJコング・ドゥーインは、ドラッグをやっていると知っていた。

コングは、ルイの兄貴分である。


ルイは、コングのクラブに行った。

「よぉ、久しぶりだぜ、兄弟。」

「このクラブには、昔は、白人は入れなかったが、俺がやめさせたんだ。

見ろ。今では、黒人より、白人の方が多い。」

ルイはうつむき、顔をあげ、言った。

「兄さん、差別をしているのは、白人より黒人じゃないかと、僕は思うんだ。」

「兄弟。白人は、俺達を船に乗せて運び、奴隷にした奴らだぜ。」

ルイは鼻をかき、首をかしげた。

「いや、それは作り話だ。多分、白人の会社に、働きに行っていただけだと思う。」

コングは大笑いした。

「兄弟。そりゃ無茶な話だぜ。黒人差別については、教科書にも書いてある。」

黒人の仲間達が酒を持ってきた。

イエーとか、ヒューヒューとか、歓声をあげている。

「ほらな。黒人達はこうして、仲間うちだけで理解し合い、生きてきた。兄弟。」

次の日。明るくなって、ルイが散歩をしていると、コングが来た。

「ところでお前。どうしてこっちに来た?ディズニーで働いてるって聞いたぜ。」

「まさか、クビになったか?」

「いや‥兄さん、まだ、ドラッグ持ってる?」

ルイは、コング家の車庫に来た。

「ほら。昔の残りが、ここにまだある。」

コングは、ドラッグを持った。

「ディズニーさんが、こんなものをやってみたいと?」


夕日が差し込む窓際に、ウォルトとルイはいた。

「いいか。今から俺は、ドラッグをやる。2人でせーので飲もう。」

「僕もなんですか?」

「そうさ。当たり前だ。‥この会社にいたければね。」

ウォルトはニヤリと笑った。

気づいたら2人は、ゲイバーに来てしまっていた。

2人とも、ゲラゲラ笑っている。裸のオカマに、ウォルトはお札を渡した。

次の朝。

我に帰ったウォルトは、ドラッグをしても、なんの意味もないと実感した。

なんの夢も、見ることはできないし、危うく、犯罪に巻き込まれるところでもあった。

ルイは、疲れた顔で、いつも通り、ディズニーランドの掃除をしていた。

「ルイ。昨日のことは、これな。」

ウォルトが言うと、ルイは、無表情でうなずいた。


パメラが泣いてから1カ月後、メリーポピンズの打ち合わせが再開した。

パメラは、前よりも落ち着いて、打ち合わせに臨んだ。

ルイからコングの話を聞いたウォルトは、音楽制作に関わってもらうよう、コングを呼んだ。

「それで‥君の知り合いのDJには彼女はいないのか?」

「はい。今はいないと言っていました。」

「それはよかった。この仕事は、世界中の子供達と女性の夢を作る仕事だからね。」

コングは、ウォルトの作品を見て、心を入れ直し、まるで小学校の校長先生のような格好で現れた。

「あなたがコングさんですか。」

「はい。コング・ドゥーインです。」

コングは、音楽をお洒落にアレンジし、パメラも嬉し泣きで喜んだ。


「パメラ‥今日は食べに行かないか?」

普段は、外食が苦手なパメラだったが、渋々OKした。

2人は、いつもよりもお洒落な服で、少しだけ高級なディナーを食べた。

パメラが、外食を苦手な理由は、ウォルトの隣だと、みんながジロジロ見るからだ。

でも本当は、みんな、美しいパメラを見ているのだった。


「ウォルト。もしもあなたの話が本当なら、いつか人類は滅亡するわね。」

パメラが言った。

「両親に溺愛され、大きな夢を叶えた子供は、結婚しないなんて。」

「そう。それが魔法使いの掟だ。魔法使いになれば、もう結婚は出来ない。」

「ふ~ん。」

パメラは腕を組んで考えた。

「俺も兄さんも結婚してない。ディズニー家は滅亡なんだ。」

「えっ。ディズニーって、あなたの家だけなの?」

「そう。母さんの案でね。イズニをディズニーに変えたんだ。

1800年代はまだ、そういうことができたんだよ。」

「ふ~ん。」

「でも、君のような魔女にならない女性なら、絶対に子供を産んだ方がいい。」

「ええ、そうよね。私も本当は女の子が欲しかったわ。」

「しかし、僕の父親である、イライアス・ディズニーは、偉大な魔法使いだった。」


「イライアス!!」

「ああ?なんだ。」

「じゃーん!!ミッキーの家族です。」

イライアスはメガネをつけ、ウォルトが描いたミッキーの家族を見た。

「沢山いるんだねぇ。」

「当たり前じゃん。ミッキーは二十日ネズミだもん。」

「この子がね、ミッキーの妹のチッキー。」

うなずきながら、イライアスが言った。

「チミーじゃなくて、チッキーなのか?」

「そう!ミッキーのお父さんとお母さんは、子供達にキをつけたかったんです!それはね、家に、キツツキが巣を作っていて、その音が、幸せの音だったからなんです!」

「この人がミッキーのおじいちゃん。この人がおばあちゃん。」

「ああ、そうなんだ。」

「ミッキーとミニーには、子供が沢山いる。ほら。」

「この子だけ、白いんだねぇ。」

「この子はホワイト君。黄色のワンピースの子はレイちゃんで、とても小さい。」

「ミッキーと家族は、いつも猫に怯えて暮らしているんです。」

「ああ、猫にね。」

イライアスは、しげしげと絵を眺めた。


チェルが、ポールの机の前に座った。

「ポールさ、最近、ディズニーにハマってんの?」

チェルは、ポールが持っている、ディズニーのキーホルダーやグッズを見た。

クラスの仲間達は、2人を見守っている。

「うん。」

「私、ウォルトディズニーさんについて、まとめてみた。」

「これが、ウォルトさんの最初のキャラクター、オズワルド。」

「オズワルド?」

「うん。」


「やっぱり、キャラクターはお前が考えなきゃダメだ。ミッキーは、父さんが描いたキャラクターだ。」

ウォルトがもうすぐ有名になりそうな時、イライアスが言った。

「え‥。僕じゃ無理だよ。父さんもいてくれなきゃ。」

「ダメだ。集中して、考えろ。」

ウォルトはしぶしぶ、新キャラクターを考えた。でも、浮かばなかったので、父のネズミをウサギにしただけのキャラクターにした。

「これ‥。」

「これでもいい。それで、名前は?」

「名前‥。」

「おい。お前、友達の名前を使うなんて言わないよな?その子にもお金をあげなきゃいけなくなるんだから。」

「じゃ、オズワルド。」

オズワルドは、もともとグーフィーにつけていた名前だった。

「よし。」

父は笑った。


しかし、オズワルドは自分が先に書いていたという、ウォルトの中学時代の友人が現れたり、配給会社に権利を奪われたりしてしまった。

そのせいで、ウォルトの最初の会社はつぶれてしまう。

「やっぱり、主役は、ミッキーにするよぉ。」

「じゃ、そうしろ。その前に、母さんに聞いてな。」

「どうして‥母さんに?」

「どんな時でも、大切なことは、女親に聞いて決めるもんだから。」

ウォルトはしぶしぶ、フローラに聞いた。

「母さん、父さんのネズミを、僕の漫画の主役にしてもいい?」

「ふん、そのネズミで、あんたは何をするの?」

「僕は‥、世界中の人達を楽しませる、アニメを作りたいんだ。」

「大それたことを。そんなことしないでちょうだい。」

「どうだった?」

イライアスが聞いた。

「ダメ。」

「あぁ~。母さんは、分かっていない。いいか、お前の夢は、父さんの夢だ。やっぱり、母さんがなんと言おうと、ミッキーを主役にしろ。」

「うん。」

ウォルトは、ミッキーを主役にすることを決めた。


「父さん!」

イライアスが、ウォルトの会社に来た。

「俺達のネズミ君は、こんなにでかくなったか。」

父は、ミッキーのポスターを見て行った。

「ちがう、これは、ポスター用!原寸大はこれくらい。」

ウォルトは指で示した。

「動くんだよ!」

ウォルトは、イライアスに白黒アニメを見せた。

「いいけど‥ミッキーが小さすぎるんじゃないか?」

イライアスは、指摘した。

アブも、会社の従業員達も、イライアスと同じことを考えていたので、ウォルトを見た。

ウォルトは、ミッキーの大きさを見直すことにした。


「俺は65才で死ぬことにした。亡くなるのには、いろいろな理由がある。

親しい仲間は、みんな孤独だったが、本制作が始まると、若いのが入ってきて、

みんな、恋をして、楽しんでいた。

ある日のことだ。

俺は、現場で泣いてしまった。

それは、22才の時以来のことだった。

それでようやく、楽しんでいた者達も気づいてくれた。

制作に集中し、恋もやめた。

自分がいなくても、やっていける、もう自分はいない方がいい。

それが、俺が死ぬ理由だった。

俺は、いつものように、ブランデーにドーナツを浸して食べた。

今日ならいけると思った。

そして、睡眠薬を服薬した。いつもの30倍の量だった。

俺はベッドに横たわり、眠るように死んだ。

第一発見者は、兄のロイだった。

俺が、自殺したことに気づき、俺にすがりついて泣いた。

しかし、世界の子供達の夢を壊さないために、立ち上がり、自殺の証拠を隠滅した。

捨てた物は、睡眠薬だけはでない。

俺の遺書まで捨てたのだ。

でも、絵だけは、残してくれた。

ジュディスと旦那、息子のハル、ハルのガールフレンドのミカリが来た。

ジュディスは、「嘘でしょぉ!!」と叫び、俺にすがりついて大泣きした。

旦那ケイトは、俺の手を握って悲しんだ。

ミカリは、家を飛び出し、近所の女の子達を呼びに行った。

葬儀には、1000人以上の子供達が来た。

トイレが足りないと思ったが、みんなちゃんと我慢できた。

パメラは、悲しむファンの後ろで、腕を組み、俺の亡骸を見つめていた。

ロイが、外に出て風にあたっていると、

どこからともなく、声が聞こえた。

『ほら兄さん。俺の家の前に、遊園地を作った方がよかっただろう?』

ロイは涙をこぼした。

俺は、貧しい方が好きだった。

だから、金持ちになってからも、小さな家に住んだ。

ディズニーランドも、こんなに大きなものではなく、

俺の家の庭にある、小さな遊園地でよかった。

ディズニーワールドリゾートの完成を見ることなく、俺はこの世を去る。

映画を作る時にいつも悩んでいたことは、ラッキーエンドにするか、ハッピーエンドにするかということだ。

俺は、どちらかというと、ラッキーエンドの方が好きだった。

ありがとう諸君。俺に、生きる希望を与えてくれたのは、諸君なのだ。」


「いい話ね、ウォルト。」

パメラが、珍しいフレーバーティーを持って、後ろに立っていた。

「だけど、どうしてそんなに、未来のことが分かるの?あまりにも、リアルすぎるわ。」

「それは‥。」

「ねえ、どうして?もしかしてあなた、未来を見てきたということなの?」

「いや、未来を見てきたわけじゃない。今のは、俺が考えた作り話だ。」

「あなたって面白いのね。」

パメラは高らかに笑った。


女子達は、落ち込んでいるチェルのまわりに集まって座っていた。

男子達は、心配そうに見ている。

「あんなやつ、止めた方がいいよ。まじで。」

「絶対、チェルのこと、裏切るって。」

ポールが来た。

女子達は無言で、ポールを見た。

チェルもちらりと見たが、またうつむいてしまった。

最近のポールは、ディズニーキャラクターのキーホルダーを、カバンに10個以上つけている。服は毎日のようにキャラクターだ。

「おはよー。ポール。」

男子達が、少し引き気味で話しかけた。

「おはようございます!」

男子達は、心配そうな表情でポールを見つめた。


「1901年12月5日。俺は、イライアス・ディズニーとフローラ・ディズニーの2人目の息子として、産声をあげた。元気だったかは分からない。なんせ2600グラムの未熟児だったと聞いている。その日は、晴れの曇りで、紫色の猫が家の前に来ていたと、父が教えてくれた。その猫がチシャ猫のモデルとなっている。父はいつも、俺に、生きるためのヒントをくれた‥。」

ウォルトさんは、窓の外を見ながら、1人でしゃべっている。

「あの‥ウォルトさん?」

「おや。ポールか。」

「はい。また、来てしまって。」

「いや、いいよいいよ。客人は歓迎だ。」


ディズニー一家は貧しく、ウォルトも、新聞配達を手伝ったりした。

「これでも、少しは金になるかな。」

イライアスが言うと、フローラはうなずいた。

ウォルトは物語のように、仲の悪い家同士の新聞を交換したりしなかった。

「えらいな。」

イライアスはニッコリ笑った。

「フローラ、ウォルトは本当にいい子だ。それに絵も上手だから、天才かもしれん。」

イライアスは、ウォルトに聞こえるように、話した。

時々、イライアスの友人が、牛肉をくれたので、食べることが出来た。

父は毎回、「あ~今日もくたびれた。」と言って、椅子に座った。


「今、君がいるのは2021年だ。」

「では、ウォルトさんはもう‥、120歳‥ということですか?」

「そう。俺は120歳だ。」

「そんな‥。」

「ああ、本当だ。」

ウォルトさんは満足そうに言った。

「君とは、また会えるといいな。」

「はい。」

ウォルトさんは、鼻歌を歌いながら立ちあがった。

ウォルトさんの背中は、だんだん遠くなる。

ポールは、自宅のベッドで起きた。


「これまでの話、信じるか信じないかは、君次第だ。」

ウォルトさんは、画面に向かって言い、ニヤリと笑った。

「それにしても、人生は素晴らしい。」

そう言って、窓を開けた。

「アハハ!今日はいい天気だ!」

窓を開けたまま、家のドアを開け、外に、歩いて行ってしまった。

ウォルトさんは、途中、宙がえりを一回した。


ミッキーが、ウォルト少年の手をとった。

偉大なるクリエイターとなった、ウォルトディズニーの手も、同じように。

【幸せな恋のメロディー】

【お洒落な2人】

【The Lucky End】

【We love】

【The World Map】

【Doughnut Dream】by Shino Nishikawa

#少年ポールの夢

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