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  • Shino Nishikawa

落語【仕事】

落語【仕事】

僕が落語家になる前に、会社に勤めていた時の話をしようと思います。僕はこの会社で人生を送るのもいいかもしれないと思い始めた矢先、ある商品開発に関わりました。それが世間の女性の間で大ヒットしたので、開発メンバーの一人である僕がテレビの取材を受ける事になりました。僕は自分を綺麗に見せるために、その日、ファンデーションを塗る事にしました。僕がトイレでファンデーションを塗っていると、同じ開発メンバーの中原君という男が来て言いました。

「おや、○○君、良い物を持っているねぇ。」「うん、僕は今日大役を務めますから。」

「ふーん、そうか。僕はテレビに出ないけどさ、そのファンデ、少しばかり貸しておくれよ。」「うん、いいけど、気をつけて使ってね。」「わかった、ありがとう。」

中原君は僕のファンデを使い始めましたが、一生懸命、ほくろを消そうとしています。そばかすくらいは消す事はできても、ファンデでほくろは消えないのです。

ほくろを消そうとする中原君を僕はみじめに思い、ついには、テレビに出るという大役をゆずってしまったのでございます。そうです、僕は、中原君の心理戦にまんまと引っ掛かってしまったのです。

出張の時などは、よく中原君と同じ部屋になりました。僕はトイレが近いので、相部屋は嫌でしたが、中原君はトイレにあまり行きません。

「中原君、君はトイレにもあんまり行かないし、些細な事は気しないタイプなのかな?」

「そうだな、僕は小さな事にはこだわらない。僕の体の中にはちがうタイプの男も住んでいるもんでね、アドバイスをもらっているのさ。」

「ええ?それって、聞こえないはずの声が聞こえるってことかい?あんまりそういう声を信じない方がいいと思うよ。」

「ううん、僕は大丈夫だ。これ以上は話せないけど、○○君にも分かる日がくるはずだよ。」


僕は今までの仕事を、全て中原君にゆずることになりました。しかし、その日から、僕の体の中にも声が響くようになり、トイレの回数も減り、些細なことが気にならなくなったのです。そう、中原君は妖術師であり、仕事と引き換えに、自分の体に住んでいる怪物を分けてくれたのでございます。


#落語

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