検索
  • Shino Nishikawa

落語【阿弥陀如来】

落語『阿弥陀如来』

このお話は、1960年から80年にかけてのお話でございます。

丈八は、20代前半で、菊子という美しい娘と結婚して2人の男の子に恵まれてましたが、長男が9才で亡くなってしまいます。長男は1人で川に泳ぎに行き、溺れ死んだのです。菊子は、「あんたが子育てに身を入れてくれないからよ!」と、丈八を責めましたが、丈八は言いました。「菊子、お前が美しいから、息子は恨まれたんだよ。」菊子は丈八の言葉に胸を痛め、離婚を決意します。

34才の丈八は、東京でホステスをしていた女と付き合うようになりました。

「あんた、お酒どう?」「あんた、タバコは?」「あんた、お風呂は?」「私と一緒に入る?」

ホステスの女は、丈八といると、変になったようです。丈八はためらいましたが、女と一夜を共にし、病気に感染してしまいました。

「困ったな。」そう思っていたある日、昔の妻、菊子が次男を連れ、会いにきます。

「お父ちゃん、お父ちゃん。」次男は、丈八に飛びつきました。

「お父ちゃん、僕、またお父ちゃんと一緒に暮らしたいよ。」菊子も、丈八の手を握り、目を見つめて言いました。

「あんた、もう一度、やりなおそうよ。」

しかし、丈八はもう戻れません。

「ごめんな、ごめんな。どうしても、俺はもう一緒に暮らせないんだよ。」

丈八は涙ながらに言いました。

ホステスとも喧嘩別れした丈八は、ふと、阿弥陀如来の事を思いました。

阿弥陀如来は極楽浄土を建立した仏教の神様でございます。

極楽に往生したいと願えば、迎えにきてくれますが、迎え方は9つにランク分けされ、生前の信仰によって決められます。

最高ランクの上品上生で、阿弥陀如来が観音・勢至菩薩以下多くの仏尊を引き連れ、華やかな音楽を奏でながら迎えに来てくれます。しかし、ランクが下がるにつれ、引き連れてくる仏尊の位、人数が下がっていき、中品上生では阿弥陀如来と修行僧、中品下生では阿弥陀如来だけとなります。そして、一番下の下品下生では、阿弥陀如来が訪れることもなく、金の蓮華だけが現れるのみとなるのです。

丈八は、生まれた家が仏教徒だったので、そのまま仏教に入っていただけの男です。

菊子とよりを戻すこともできず、良い人生を歩まなかった自分は、阿弥陀如来が迎えに来てくれるはずがないと思い、落胆しました。

丈八は、お釈迦様にお祈りをしました。

「自分の人生が、上品上生のものではないことは分かっています。でも、金の蓮華だけが迎えに来て、途中で地獄に落とされたら怖いです。どうか助けてください。」

お釈迦様に祈り始めて100日目には、丈八はお釈迦様の金色の光を受け取るようになっておりました。

そして、ついに50才で丈八が死ぬ日の朝、お迎えが来ました。

迎えに来たのは、金の蓮華だけです。横たわった丈八は、お釈迦様に必死で祈りました。

『助けてください、助けてください。』 

すると、丈八の体から、黒猫が一匹出てまいりまして、金の蓮華に飛び乗ったのです。

金の蓮華は黒猫だけを連れ、空高く飛んでいきました。

残された丈八は‥もう一度生きることになりました。

しかし、今度は1人ではありません。お釈迦様と共にです。

丈八は毎晩にぎやかに、誰もいないはずの部屋で晩酌を交わしていました。

丈八のお釈迦様が本物だったのかは分かりませんが、丈八はたった一人で、豊かに天寿を全うしたのでございます。

#落語

© 2023 by EMILIA COLE. Proudly created with Wix.com