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  • Shino Nishikawa

碌山

碌山

碌山の三周忌‥。

相馬愛蔵は、良の頭を叩いた。

良は愛蔵を見上げ、口の中でくちびるをかんだ。

「黒光!(こっこう)」

あの時、叫んでくれたあの人の事が忘れられないはずなのに、それなのに。

柳敬助作、順子像は語る。

「よしちゃんさ、大きくなったらえらくなりたい。えっとぉ、1番えらい人になりたい。」

それなのに‥。順子は赤い顔で泣いた。

柳敬助作、手ぬぐいを被った女は言う。

「あの人の事忘れられない。だけどクソみたいな味がしましたわ。どうして私ばかりそんな事に。」

「できた。」

碌山は出来上がった粘土のデスペアを前に満足そうに笑みを浮かべた。

1879年12月1日。

「わああ。」

4人の兄が、母親が抱く赤ん坊を覗き込んだ。

「可愛いー。」

赤い顔をした男の子たちは、交代で抱っこをして、頬を指で押したりした。赤ん坊は泣きだし、母親が取り上げてしまった。

「守衛ー!外で一緒に遊ばないか?」

「いい!兄ちゃんたちだけで、遊んどいで!」

兄達が5才の守衛に声をかけたが、守衛は絵を描くのに夢中だった。

「あーしんど。」

兄達が帰ってきた。一番上の兄だけが別の赤い顔で家に入ってきた。あの時はそうは考えなかったが、今となれば‥。もう、その話は忘れた方がいいだろう。

大きくなっても体を動かす事が嫌いな守衛は、あまり兄達と遊ばなかった。何度かは一緒になって遊んだが、すぐに疲れてしまう。兄達には、自分にはない別のエネルギーを感じた。

13才くらいの頃、相馬愛蔵と知り合いになる。「あの人すごいんだぜ!」守衛は愛蔵をほめちぎったが、9才年上の愛蔵を見た両親は、あまり良い顔をしなかった。

なぜだろう?今思えば、あの頃のあの人はさほどすごくなかった。

その頃の守衛には、愛蔵が良くない男だとは分からなかった。

愛蔵は東穂高禁酒会をつくり、村の青年たちにキリスト教と禁酒を勧めたり、廃娼運動も行っていた。

青年は森の中にいた。肌が透き通った綺麗だが冴えない女と経験をする。

あの時、なぜ頭にきたか分からないが、その女を殺してしまった。首を絞めた時、その女は口を開き、舌を出した。涙もこぼしていた。

「やり!」

青年は白い顔で涙をこぼして、笑い走っていた。数日後、青年は職員室に呼ばれ、尋問をされ、高校を退学した。

この物語は、僕には関係ない。僕には関係ない。

守衛は外で絵を描くようになる。白いパラソルの女が通りかかった。

「こんにちは。絵を描いているの?」

「うん。」

「見せてごらん。」

「はい。」

「あら、上手ね。私も‥東京で絵を学んでいるのよ。」

「へええ、東京さ、まだ行った事ないです。」

「とても綺麗な場所よ。」

女は都会で学んだ女を演じたようだった。守衛は人の瞳の奥をのぞく癖がある。

その後も何度も守衛は外で絵を描いた。もう一度、あの人に出会う機会をうかがったのだ。

村でそんなにすごくはないが役人の爺さんがくる。無視する日もあるし、絵を見てくる日もある。

「荻原君、絵を見せておくれよ。」

「いやだ!」

「ほら、お駄賃だぞ。」

「ええ?いいの?はい。」

お駄賃をもらった守衛は、爺に絵を渡した。

女も守衛に会いたかった。家で何度も一人芝居をした。ああ、そうだったか。それならいっそう、僕はあなたと出会わない方がよかったかもしれない。

「ほら、ボウヤ。ごらん。婚約指輪よ。」

「こんにちは。」

女はやっと、絵を描く守衛を発見する。神様は合わない2人を会わせなかった。しかし、2人の意思で運命は変わってしまった。ようやく、女の一人芝居が叶う日がくる。

それでも当日はうまくいかない。

「あの‥、こんにちは。」

「はい。」

「絵を見せてくれる?」

「どうぞ。」

絵を受け取る時、女は左手につけた婚約指輪を見せる事ができた。守衛はにっこりと笑い、少しだけ息を飲んだ。

「旦那さんどんな人なの?」

女は立ち上がって、ようやく本音が出た。

「おかしい人よ。本当に少し変なの。」

「ええ?名前を言ってよ。そうじゃなきゃ、分からないから。」

「名前は相馬愛蔵。」

「本当?!その人すごい人だぜ、なんで結婚できたの?」

すると、女はようやく得意気に笑って言った。「内緒。」

「なんで、内緒なんだよ。」

『あなたの名前を教えて。』

自分の名前を言わなかった事を思い出して、女は振り返った。

「私の名前は、良。綺麗な名でしょう?」

次に良が守衛に会った時は、愛蔵と一緒だった。愛蔵は仲間の中にいる守衛と話し、守衛は後ろにいる良の所に挨拶にきた。

「相馬黒光さんですよね?」

「え‥。」

良は、号を言われたので、少し体を凍らせた。

「え?ちがうの?」

「ええ、そうだけど。」

「大丈夫?」

「はい。」

「便所ならあそこだよ。いい?」

「うん、あとで行ってくる。」

良は愛蔵と一緒にいて、幸せな時もあれば、冷める時もあった。そして、何より嫌だったのは、両親の前で号の名前、『黒光』を呼ばれた時だ。

母親に、「しばらく会えなくなるね、良ちゃん。」と言われた時、安心と切なさでいっぱいだった。両親の前では娘でいたが、愛蔵の前では女でいる。だから、両親と会うのは気まずかった。

良は、もしも守衛のような男と一緒になれれば、両親の前でも主人の前でも変わらずに、娘でいられる気がした。そんな事を想う夜は、愛蔵が帰らない日で、良は1人で布団の中で涙を流した。静かな夜で、誰かが見ている気がして、心は楽になった。

「あいつクソしてたぜ。」

イヤな男が、愛蔵が入っている便所を指さした。

良はそんな時、静かに赤くなる。

次の日の朝、良は自分が一番うまく描けた油絵にかけてあった白い布をとった。油絵を見て自信を取り戻したが、愛蔵が帰ってきたので、一瞬で嫌な気分になってしまった。

でも、愛蔵が美味しい料理屋さんに連れて行ってくれて、元気を取り戻せた。

「愛蔵さん、昨夜はどうしたの?」

「いや、仕事仲間と飲んでいただけだよ。」

「あら、禁酒の事はあなたが言ったんじゃない?」

良は笑顔を見せた。

「守衛くんは、絵がうまいので、明治女学校に行って学べばいいわ。」

誰もいない時に、良は一人で守衛に話しかけた。

「女学校ですって?やだ、おかしい。」

しかし、守衛は本当にその通りにする事にした。1899年明治女学校の巌本善治を頼って上京し、画塾「不同社」に入る。明治女学校の構内の処静庵に仮寓した。

良はその事を聞き、心を落ち着かせ、頬を高揚させた。家の中に愛蔵が入ってくる。

「おかえりなさい。」

「おお。ただいま。」

愛蔵は微笑んだ。愛蔵は女から超がつくほどモテる。その事は良をよい気分にさせた。

相馬夫妻は東京に住んでいる。良は守衛に会いに行きたい気持ちを抑えたが、心の中では何度も明治女学校まで行き、守衛が仲間より外れている所を想像した。墨絵ばかりを描いて、頭をかきむしっている。

しかし、実際、良が明治女学校を訪れると、守衛は想像と全然ちがっていた。守衛は油絵を見せ、無言で良を見つめた。守衛の目には臆病な感じがない。誰の事でもバカにしているようなのに、時に、尊敬のまなざしを向けてくる。

そこが、荻原守衛という男をバカにできない理由の一つである。

守衛は、アメリカに留学する事になった。

守衛のアメリカ留学の事を聞いた相馬夫妻は、心臓をぐっと押さえつけられた気分になった。呼吸がうまくできず、涙が出た。嗚咽した愛蔵を見た時、良は愛蔵が自分と同じ人間だという事が分かった。守衛が芸術を選んだ瞬間、良は愛蔵を本当の意味で選んでしまったのだ。

守衛には、日本のために芸術を発展させる義務があった。

「黒光!」

桜の葉がとても美しいあの日、川の向こうから守衛が大きな声で良を呼んだ。良はあの日、人生で一番誇らしかった。

守衛は洗礼を受けて渡米し、ニューヨークに来た。フェアチャイルド家で働きながら、絵画を学び、来る日も来る日もデッサンを続けた。人間を描くことに夢中になった守衛は、目に見えない骨格や筋肉の動きまで徹底的に研究し、つぶさに肉体を写し取ろうとした。しかし、守衛はまだ本当に描くべきものを見出せずにいた。

1901年、相馬夫妻は東大赤門前のパン屋本郷中村屋を買い取った。どんどん洋式に移り変わる日本で、パン事業に目をつけたのだ。相馬夫妻は着物姿で、従業員に挨拶にきた。なぜ、シルクハットを選ばなかったか。ステッキを持ち、店の中をあちこちさしたら面白かっただろうに。愛蔵はそんな事で、よく心をつまらせた。

良は中村屋事業でアメリカに行けたらいいと想像し、心を躍らせた。しかし、事業はうまくいかない日もくる。そんな日は、良は守衛を憎らしく思い、涙をこぼしながら、針仕事をしたりした。

1903年、アメリカからフランスのパリに訪れた守衛は、衝撃的な作品に出会う。

オーギュスト・ロダンの「考える人」である。

守衛は息を飲んだ。

『人間を描くとはただその姿を写し取ることではなく、魂そのものを描くことなのだ。』

1904年、愛蔵は初めて食べたシュークリームの美味しさに感動する。外国人がお土産として持ってきたのだ。今思えば、その人は天の国の人だったのかもしれない。

愛蔵は死ぬまでそんな事には気づかなかった。ただ、クリームパンという美味しい食べ物、みんなから喜ばれる食べ物を発明した事が嬉しかった。

1904年、守衛は彫刻への転校を決め、ロンドン経由でニューヨークに戻った。彫刻のために人体解剖学を研究した。

1905年には、柳敬助、高村光太郎と関わるようになる。

守衛は日本人なので、仏教徒でいなければならなかった。しかしまだ少年だった頃、愛蔵という男に憧れて以来、守衛はキリスト教の道を歩んでしまっていた。だから、守衛の人生は少しだけおかしいのだと思う。守衛は毎日溢れ出るイラつきを芸術で発散させていた。

『Yasha』その言葉が胸に響き、辞書で調べたが、英和辞書には出ていなかった。

守衛は、初めて敬助と光太郎に会った時、不信な目で2人を見た。

「why-…?」

「同じ日本人だ。」

2人は笑い、守衛と握手を交わした。守衛はまだ2人を信用できなかったが、2人の絵を見るとすぐに好きになった。自分の方が強い表現をしている。

「ほら。」

守衛は2人に絵を見せたが、2人はそれを無視して、絵を描き続けた。2人には2人の絵に対する情熱が別にあるようだったので、守衛は残念に思った。いずれは3人で彫刻作品を作れたらとも想像したが、すぐに消えた。

1906年、守衛はオランダを経由して、再びパリに渡る。アカデミー・ジュリアンの彫刻部教室に入学し、彫刻家になろうと決意する。学内のコンペでグランプリを獲得するほどの実力を身につけていった。

1907年春、守衛はロダンを訪ねる。夏、ロンドンで高村光太郎と美術館巡りをした。

光太郎が守衛に聞いた。

「聞いてもよい?」

「うん。」

「拙者、なぜうんとお金をもらっている?」

「働いたから。」

「どこで。」

「おばさんの所。」

「なぬ?!」

「ひゃはは。」

守衛は笑った。

光太郎が言った。

「拙者、こっちの方はやっとらんだろうな?」

光太郎は人差し指と親指を立てて見せた。

「やっとらん。」

「そうか。」

『殺した事は一度もない?』

光太郎は英語で守衛にたずねた。

「うん。ないけど、あん時、兄ちゃんがねぇ‥。」

守衛は赤くなり、頭を抱えてしまったので、光太郎は黙って歩き出した。

バーン

大きなドラム缶が倒れる音がして、光太郎が振り返ると、守衛がイギリス人たちに捕まっていた。

「おい!」

光太郎は走って、イギリス人から守衛を引き離した。

ディナーの席で、光太郎が聞いた。

「号は決まっている?」

「決まってねぇ。なんでもいいや、葉でも。」

「葉っぱ?」

「うん。てめぇの号はなんだい?」

守衛が肘をつき、聞いた。

「僕はそのままだよ。守衛もそのままでいいか?」

「やだ。」

「じゃあ‥、碌山は?」

「え?」

守衛は口を開き、体を起こした。

「碌山は?」

『僕が寝ずにつけたんだぞ。』

「いいのか?」

「うん、もちろん。」

この頃から、守衛は碌山という号を使うようになる。

1907年、守衛はロダンに面会する。「女の銅」「坑夫」を制作した。そして、イタリア、ギリシャ、エジプトを経て帰国する。

同じ年、相馬愛蔵は中村屋を新宿に移転した。

1908年3月に神戸に着港し、4月、京都、奈良をまわり、安曇野に戻った。次男の支援を受け、新宿にアトリエを新築させた。

良はそわそわして、新宿の街を歩いた。この8年間、嫌な事続きだった。しかし、守衛が帰ってきた事、さらに新宿にアトリエをオープンさせた事を聞いて、胸が高鳴った。

雑踏で守衛を見たように思い、良は体を白くさせた。

薄汚れた足袋の先を見て、自分の事を切なく思った。自分の事を可哀想だと思う人がもしもこの世にいたならいいのに‥。

守衛も良を見たように思ったが、荻原碌山として、芸術に集中する事を決めていた。

作品を作る時は、体が魂の炎で包まれ、手が自在に動くようだった。芸術でなら、自分は絶対に大丈夫という自信があった。

日本芸術発展のために心血を注いでいたある日、相馬愛蔵が訪れる。

守衛は芸術で疲れ切った心で、愛蔵に笑みを見せた。最初は思い切り睨みつけたのだが、愛蔵の顔を見ると、睨みがうまくできなかった。

守衛と相馬夫妻は家族ぐるみの付き合いが始まった。守衛は久しぶりに良と向き合い、良は少しやつれたなと感じた。守衛は芸術だけに没頭して、いずれは言語の仕事もしてみたいと思っていたが、そううまくはいかなかった。

『どの女の事も幸せにしていない。』

そういう神様の声が守衛に届いたのだ。自分に女という存在が必要あり、選ぶとするのならば、良だろうか?

守衛は、良の子供の世話をしたりするようになる。

良は守衛に体の付き合いをせまるかのように、夫の浮気について話したが、守衛には良がそういうものを求めているとは分からなかった。守衛は口をあんぐり開けて、良の話を聞き、「自分にできることがあれば。」と言った。

「ううん、ない。大丈夫。」良は笑ってみせた。良は自分が考えた事が起こらなかった事に安堵した。

それでも守衛は、神様の言葉を忠実に守るかのごとく、良のために作品を仕上げてみせた。心のどこかでは、良が求めている事が何か分かっていた。

守衛は「文覚」を制作する。人妻に恋した文覚は、思い余ってその夫を殺害しようとするが、愛する人妻を殺してしまう男だ。

守衛は、「文覚」「女の胴」「坑夫」を第二回文展に出品し、「文覚」だけが入選した。

1909年、愛蔵は中村屋を現在の本店の位置に出店した。愛蔵は高給で外国人技師を雇い、次々と新製品を発売した。中華饅頭、月餅、ロシヤチョコレート、朝鮮松の実入りカステラ、インド式カリーなどであり、このような異国風の商品で近所に進出したデパートに対抗した。

良は誰もいない部屋で夫の浮気や育児の大変さについて、いないはずの守衛に語り掛けた。守衛が家に来て、お茶を出した後で時間が空いていても、夫の浮気について言えなかった。

『あんな事、二度と言うもんじゃない。言えるもんじゃない。』

守衛が良に聞いた。

「まだ続けてる?」

「ええ、まだ続けているの。昨日も夜の2時に帰ってきたのよ。」

良は思わず口をすべらせた。

「大丈夫?」

「ええ。子供がいるので、平気です。」

「そうか。」

守衛は笑った。

守衛は女を抱いたりするよりも、作品で女を作る方がよかった。いろいろな経験を通して大人になる。

それでも、守衛は忠実に、良のための作品を作った。

「デスペア」である。

第三回文展には「北條虎吉像」「労働者」を出品した。

1910年。心に重い闇を抱える守衛だったが、良をモデルとした作品を作る事により、心が少し癒された。それでも、守衛は良を妻にしたいわけではなかった。

愛蔵という実業家を夫に持つ良であるが、実家の家族とは離れ離れになり、人の道にそれた生き方をしていた。

『人道にそれた部分では同じ生き方をしている。獣道に入った部分では、自分は別の生き方をしている。』

皆が人生の長い時間を性に墜落する一方で、守衛はちがっていた。性に墜落した一人の友人である敬助をモデルにした銀盤を制作した。

最後の作品は、「女」である。

「もういいかな。」「もういいかな。」守衛は制作しながら泣いてつぶやいた。

「もういいよな?」

そう言って、尻を作った時は正直言ってうけた。

「もういい?」

焼いたりするのを手伝ってくれる男にも思わず言ってしまった。

「は?金はちゃんとあるって、さっき言ったよね。」

「うん、金は払うけどさ、もう潮時かもな。俺は。」

「ええ、この出来栄えで?」

「うん。」

守衛は少し笑った。

ほぼ完成した女を、記者たちが写真を撮りに来た。

守衛は隣でポーズを撮る。

「荻原さん、しっかり女を見てくれ。」

「うん。」

守衛は女を見た。

カシャ

守衛は困り笑顔で、カメラマンを見つめた。

カシャ

2010年4月20日の夜、守衛は朦朧とした体で、相馬家に来た。

最後まで、神さんの遺志に背かなかった。

『背かないぞ、俺は。神さんを、背きたくない。』

オホン

守衛は夫妻の前で喀血した。

すぐに、守衛を夫妻が支えた。

22日の午前2時半、頭に何かつけた医師が首をふった。

「守衛。」次兄が泣き崩れた。

守衛の死後、友人である戸張孤鴈から、守衛のアトリエを片付けるように言われた良は、「女」を見た。

透明となった守衛は、アトリエの天井付近に浮き、1人でアトリエに立ち尽くす女を見た。

恨めしくも愛おしい気分だったと思う。でも、やっぱり、心は重かった。

「胸はしめつけられて呼吸は止まり…自分を支えて立っていることが、出来ませんでした。」

良は1人で何度も何度も繰り返していた。

守衛は天国に来た。そこには、仏の神様方が待ち構えていた。今まで予想していなかった黄金の世界に、守衛はしっかりと手をついてひれ伏した。

そして、小さな人間となり横たわった守衛を、お釈迦様が黄金の手の上にのせた。

碌山の三周忌‥。

相馬愛蔵は、良の頭を叩いた。

良は愛蔵を見上げ、口の中でくちびるをかんだ。

「黒光!」

桜の葉がとても美しいあの日、川の向こうから守衛が大きな声で良を呼んだ。良はあの日、人生で一番誇らしかった。

End

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