少年ポールのディズニーの夢『無修正』

April 10, 2018

少年ポールのディズニーの夢

ポールは、16才の黒人で、高校に通っている。

将来の夢はまだない。

 

「いいよ、私達がやっとくから。」

ロックスターのような格好の白人の女の子、チェルが言った。

女の子達はニヤニヤと笑った。

「あいつ、変わってる。」

チェルは言ったが、ポールはチェルの気持ちに気づいていた。

チェルは、ポールが好きなのだ。

 

「僕は君のような人とは、恋愛はできない。」

「はあ?」

女の子達は、ポールをせせら笑った。

「いいよ。私だって、今はあんたとは付き合いたくないから。」

チェルは答えた。

 

ポール一家は長い間、団地に住んでいたが、ついこの間、おじいちゃんの家に引っ越して来た。

転校する必要はなかった。

家は古いが、暖炉がある。

気づいたら、暖炉のそばで寝てしまった。

 

起きると、おじいちゃんの家に似ているが、別の家に来ていた。

暖炉の前の、ユリ椅子で老人が寝ている。

ポールは、椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。

 

「ヒール?」

「えっ。」

「ジョイ?」

「すみません、僕、間違って家に入ってしまったみたいで。」

 

老人は、目をこすりながら、ポールを見た。

「おや、新しいお手伝いか。」

「え‥。」

「よし、いい。今日は漫画の手伝いはないでな、庭の草むしりをしてもらおうか。」

老人はニヤリと笑った。

 

「え‥。」

「時給は15ドルだよ。何を立ってる。こっちだ。」

「15ドル‥。」

「このカマを使っていいで。」

「はい‥。」

ポールは老人に言われるがままに、草むしりをした。

 

草むしりを終え、部屋に戻ると、老人は酒を飲みながら、ブツブツとつぶやいていた。

「俺が生まれたのは、1901年12月5日だった。イリノイ州シカゴのとても貧しい家だ。母親はドイツ人とイギリス人のハーフ。戦争中は、自分も捕まるのではないかと怖かったよ。」

 

「あの、どうしたんですか。」

 

老人は遠くを見ながら話し続けた。

 

「父親は厳格だった。仕事に失敗してばかりだったが、いつも冒険の話をしてくれたので、俺は父が好きだった。ところで、今、父(ちち)と言っているが、日本では、father をそう呼ぶ。女性の胸もそう呼ぶらしい。父(ちち)という言葉を使い始めて10年になるが、つい最近まで知らなかった。」

老人は笑った。

「恥ずかしくないのかな?日本人はさ。」

アハハハ!老人は子供のような声で笑った。

 

「あの、僕、そろそろ帰らないと。」

「おやぁ‥。8時までではないのかい、スミス君。」

「僕の名前は、ポール・リアスです。」

「アハハ。変な名前。あ。」

老人は口をおさえた。

「人の名前を笑ったら怒られる。どこでジュディスが聞いているか分からないから。」

「ジュディス?」

「俺の面倒を見ている女でね、とても怖いんだ。」

「面倒を?では、その方が奥さんですか。」

「違う、違うってぇ。」

老人は手を目の前で振った。

「従姉だよ。旦那と子供と、近くに住んでる。」

「そうですか。」

外を見ると、知らない景色が広がっている。

ポールは顔をしかめて、窓に近づいた。

 

「何をやっている。物語の中に迷い込んだつもりか?」

「すみません、あなたの名前を教えてください。」

 

「アハハ、何、言ってんの。」

老人は笑った。

「じゃあ当ててみてよ。こっちに来て。」

ポールは老人について行った。

 

「君は黒人。真っ黒で、目しか分からない。」

老人は階段の上の段から、言った。

ポールはもしや、老人から、性的なことを迫られるのではないかと、一瞬、身を引いた。

老人はポールを怪訝な目で見た。

 

「黒人は書けない。だって分からないんだもの‥。それにイライアスがイケナイと言った。」

老人はぶつぶつとつぶやいていたが、「ああ!」といい、突然こっちに来た。

「大丈夫ですか!」

老人はハッとした顔をし、言った。

「すまん。つい、ガキの頃のことを思い出してしまう。」

 

「ここが、俺の秘密の部屋だ。」

そこには、ミッキーやアリスのデッサンが沢山貼ってあった。

「俺が誰かわーかるか。」

「どなたです。」

「まだ分からんか。」

老人は背をむけた。

ポールは、もしやこの老人は、ディズニーの画を盗んでいる人ではないかと疑い始めてしまった。

「お前は精神病患者なのか。」

老人は振り向いて言った。

「ちがいます。」

「ちがう?大体、俺の所に来るのは、死の病の者か、精神病患者だというのに。」

「あの、僕、もう帰ります。」

「帰る?帰り方はどうするのだ。」

 

「帰り、方‥。」

ポールはうつむいた。

 

「君はバスケが好きなのか。」

ポールは小柄でバスケは苦手だったが、いつもバスケプレイヤー風の服を着ていた。

「別に‥。ただ、この服は、好きで、よく着ています。」

 

「黒人は香水の臭いがすると思っていたが、違うね。君は人間の、まるで、恋人のような‥。」

老人が近づいてきたので、ポールは後退りした。

「何を。俺はウォルト・ディズニーだぞ。」

 

「ウォルトディズニー?」

「そうだ。」

「えっ、だってその人は、60年前に亡くなっているはずだ。」

 

「今は1964年。君の目の前にいる男は、62才のウォルトディズニーだ。」

ポールはうつむいた。

「どうした、信じないのか。」

「写真で見ていたのと、あまりにも違いますから。」

「写真はよく撮れたものしか掲載しておらん。」

 

「あの‥ウォルトさんは‥、黒人が嫌いだと思っていました。」

ウォルトさんは笑った。

「そんなわけないじゃん。」

アハハハ!

「一体、何を見て信じるの。」

「大体はWikipediaです。」

「ウィキ‥?アハハ!何それ。」

ウォルトさんは笑い続けた。

 

気づくと、自宅の暖炉の前で目を覚ました。

 

次の日、学校へは、ミッキーの絵の服を着て行った。

「おはよー、ポール。今日はミッキーなんだ。」

アジア人のウェアスルが話しかけた。

「ちょっと、ミッキーの夢を見ちゃって。」

「夢を?俺もこの前、夢見たぜ。」

ウェアスルが夢の話を始めた。

 

「あいつ、マジうける。」

女子達が爆笑している。

 

ポールは、親から掃除を頼まれていたが、学校から帰ると、ベッドでまた寝てしまった。

 

 

「死ぬ前に、ひとつ教えておく。ミッキーマウスを考えたのは、俺じゃない。父親のイライアス・ディズニーだ。」

ウォルトさんが覗き込んでいた。

「ウォルトさん?」

「ああ。そうだ。‥ちがう。ミッキーマウスを最初に書いたのは、俺じゃなく、父親のイライアスだ。」

「僕、まだ死にません。」

「‥ったく。わかっとらん。」

 

ウォルトの子供の頃は、ネズミが床を走るなんてことは、どこの家庭でもあった。

綺麗好きで、お金持ちに憧れていた兄のロイを励ますために、イライアスが書いたネズミが、ミッキーマウスの始まりだった。

「ロイ。ちょっと来い。父さんがいい物を描いたから。」

「何。」

「ほら。ネズミ君だよ。」

「うえー。」

ロイは舌を出した。

 

「お父さん、これ、何。ライチか何か。」

「ぶぶー。これはネズミです。」

「かわいい!これ、もらっていい?」

「いいよ。お前の物だ。」

イライアスはウォルトの頭をなでた。

 

ディズニー家の子供は、ロイとウォルトの2人だけだった。

 

イライアスは、冒険の話をしてくれた。

ジャングルで大トラを退治する話だ。

「‥それでな、父さん達は、道に豚の死体を置くことにした。おびき寄せ作戦だ。」

「おびき寄せ作戦?」

「そうだ。敵を騙して呼び寄せる時は、そう呼ぶ。」

 

小学校では、クラスの病弱なクリス君のことを、ウォルトは心配していた。

「あの、さ。クリスと友達になりたいなら、私が放課後、おびき寄せてあげようか?」

「おび‥おびき寄せる?いいよ。クリス君とはもう友達だし、それに、おびき寄せるは、敵に使う言葉だ。」

「ホント?」

「うん、ホント‥。」

 

しかし、放課後もクリス君は教室で椅子に座っていた。

「どうしよう。」

ウォルトは、校門で、考えた。

クリス君のことは心配していたが、少し苦手だった。

 

「ウォル、まだいたのか。」

ロイが友人たちといた。

「マイコちゃんが、クリス君をおびき寄せたんです。」

「おびき寄せる?え、どこに?」

「教室です。」

ロイとウォルトが見に行くと、クリスはもういなかった。

玄関に向かう途中で、クリスは泣きながら先生と歩いていた。

「どうしよう。」

「だけど、お前がやったんじゃないんだろ。」

そのことでウォルトが少し泣き、公園に寄ったので、帰るのが6時になってしまった。

 

「お父さんに‥言う?」

「当たり前でしょう。どうしてこんなに遅くなったの!」

母親のフローラは怒った。

 

イライアスは、2人を正座させた。

「なぜそんなに遅くなったのか言いなさい。」

「マイコちゃんが、クリスをおびき寄せるとか言ってきてぇ。」

「おびき寄せる?そんなことしちゃダメじゃないか。」

「だけど、イライアスだって‥。」

父がこんなに怒っている時に、ウォルトが父をイライアスと呼んだので、ロイはウォルトをこずいた。

 

「なあ、ロイ。おびき寄せは、敵に使う言葉だ、分かるだろう。」

「分かるけど、この話に、俺は関係ないよ。」

「関係なくない。なんで弟を連れ、すぐに家に戻らなかったんだ。」

「‥ごめんなさい。」

 

「さぁさ、ロイはもういいから。」

フローラがロイの肩を持った。

 

「お父さん、僕‥。」

父は何も言わずに、どこかを見て、無視をしている。

 

ウォルトは立ち上がり、台所でパンを食べた。

 

寝る時になって、父に、

「今日はごめんなさいね、ダーリン。」

と言うと、父は笑って、ウォルトの頭をなでた。

 

ウォルトは子供の頃から、物語の話に入り込もうとする癖があった。

 

ウォルトが15才になった時に、ずっと憧れで眺めていた、父のネズミ君について、父にたずねた。

「父さん、これ、売れるかな?」

「売れないよ、そんなもの。くだらない。‥例え売れたとしても、せいぜい5ドルにしかならん。」

ウォルトはネズミの絵を眺めた。

「じゃあ、僕が売っていい?」

「そんなもので金儲けするつもりなら、返してもらう。よこせ。」

父はネズミ君の絵を破ってしまった。でも、ウォルトはネズミ君をマスターしていた。

 

見ていたフローラが、イライアスにこそこそ話した。

 

次の日、イライアスは笑顔で、言った。

「父さんが間違っていた。絵が描きたいなら、そうしなさい。」

夜間のアートスクールにウォルトを入れてくれた。

「父さん、僕、漫画家になる。」

「好きにしろ。ただ、一つ言っておく。くだらん話は書くな。書くなら、意味のある話にしろ。」

イライアスは、ウォルトを指さし、言った。

 

「あの‥。」

「ネズミはお前にやる。」

 

「ミッキーという名前にして。」

イライアスは、ニヤリと笑った。

 

フローラとイライアスは、クスクスと笑った。

それは、2人の間での、イライアスのあだ名だった。

 

 

ポールが庭仕事を終えて、部屋に戻ると、ウォルトさんが泣きながら1人でしゃべっていた。

「ごめんなさい、お父さん。でも、お父さんとお母さんを題材にした、映画を作ったんだよ!!オーロラ姫。見てくれた?‥なーに。お父さん、いつもお母さんにキスしてたでしょう。」

ウォルトさんは、ワーワー泣いている。

ガチャ。

家に誰か入ってきた。

 

「うるさいわよ!!何事なの!!」

「ジュディス。」

「ウォール、またなの?いい加減にして。」

 

「勝手に来るなと言ってるだろう!!」

「だけどね、ご近所さんにも、あんまり迷惑かけられないから。」

ジュディスは疲れたように言った。

「あら、新しい庭師さん?」

「そう。新人の、セント‥。」

「ポール・リアスです。」

「はじめまして、ポール。」

ジュディスはポールに微笑んだが、ウォルトさんに向かって、無言で顔の前に指さした。

ジュディスは晩御飯を作り始め、ウォルトさんはささやくように言った。

「映画に出てくる、乱暴な女のモデルは、大抵ジュディスだ。‥オーロラ姫の、悪い魔女の家来のモデルもね。」

ウォルトさんは、吹き出した。

「魔女の家来は、男なんだけどね。」

 

「ただいま帰ったぞー!」

おじさんと男の子が入ってきた。

「あら、早かったのねぇ。」

どうやら、ジュディスの夫と息子らしい。

 

「ねぇ、ここは人の家だよぉ。」

まさか乗っ取る気?ウォルトさんは、珍しいミニカーを見ながら言った。

 

「すみません、ウォルトさん。」

夫のルーターが紳士的に笑った。

 

「お肉だぁ!」

息子のハルが笑って言った。

 

 

「私は夕食の準備をするわ。その間、あなたは‥。」

「俺は、君の本を読んでいるよ。」

「じゃあ、とっておきの曲をかけてあげる。」

パメラは音楽をかけた。

「この曲は聴いているとね、物語に入り込めるの。」

ウォルトは無言でパメラを見た。

 

「いいね、オーロラはドイツ人だ。シンデレラもドイツ人。アリス?アリスはフランス人。でも、ドイツ人とのハーフっていう設定だよ。」

ウォルトは、パメラの本を読まずに、1人でぶつぶつと語りかけていた。

「じゃあ、そう言ってあげればいいでしょう。」

パメラが言い、ウォルトは黙った。

 

「ドイツ人ばかり、悪者にされて。可哀想に。」

パメラは、お洒落な肉料理を置いた。

「これは仔羊の煮込み料理よ。」

「わぁぁ。美味しそうだ。」

2人は横並びの机で、料理を食べた。

 

「じゃあ、白雪姫は何人なの?」

「白雪は‥日本人だ。」

「日本人?!やだ、ウォルト。知らないの?日本人のお姫様は、そんな城には住んでいないのよ。」

パメラは立ち上がり、本を持ってきた。

 

「ほら、これが、日本のお城。綺麗でしょう。」

「古いんだねぇ。」

「古い?当たり前でしょう。何百年も前に建てられたんだから。」

 

「私の先祖にはインド人がいたのよ。」

「インド人が?」

「インド人のことは書かないの?」

 

 

ウォルトは子供の頃のことを思い出した。

父親と、兵隊になりきり、遊んでいる。

 

漫画家になり、家を出た後も、辛い時は実家に帰り、父親に抱きついた。

 

まだそんなに有名ではないが、広報担当をお願いしている、アブに言った。

「とにかく。ウォルトディズニーは父親とは仲が悪い、ということでな。」

「え‥でも。この前もお父さんが会社に来ていたでしょう。仲が悪いと?」

「そう。仲が良いなんて、家族に迷惑をかけるだろう!」

 

 

「父さん!」

「あ‥俺達のネズミ君は、こんなにでかくなったか。」

父は、ミッキーのポスターを見て行った。

「ちがう、これは、ポスター用だよぉ!原寸大はこのくらい。」

ウォルトは指で示した。

 

「これ。見てよ、父さん。」

「なんだこれ。真っ黒じゃないか。」

「当たり前だ、黒人だよぉ。」

「‥いいか。黒人ってものは、こんなんじゃない。もっと恐ろしくて怖い人間なんだ。」

父は昔のように、物語を言う時の口調になった。

 

「お前は黒人なんて書かない方がいい。黒人はな、黒人だけのものだ。」

 

ウォルトは実家に帰り、父の職場を見に行くと、父は黒人青年と親しく話していた。

「父さんっ!あの人は?」

「ブルース。黒人のメロディーさ。」

父はウォルトと話す時は、物語口調のことが多かった。

 

「黒人の‥メロディー?」

「お前に黒人なんて分からん。」

父は遠い目をした。

 

 

「‥ったく馬鹿にしてくれるな。なめんな、っつーの。」

父は、酒を飲みながら怒っていた。母がお皿拭きをしながら聞いている。

ウォルトは父を眺めた。

 

父は怒っている時と、ふざけている時、半分半分である。

どうやら怒っている理由は、他の会社から引き抜きにあった、ウォルトのことであった。

ウォルトは父の想いに感動し、泣いた。

 

「いい?あなたと私の会話は聞かれているの。」

「ええっ。誰にだい?」

「それは誰でもない。妖精よ。」

「妖精‥?それはピノキオのブルーフェアリーのような人ですか?それともシンデレラのフェアリーゴッドマザー?」

パメラは首をふった。

「では、白雪姫の悪い魔女かい?あれは、君がモデルになってる。」

パメラは笑った。

「私がモデルですって?」

「ああ、そうさ。」

 

「そんなわけないでしょ。」

パメラは大笑いした。

 

「ところで、僕達はどこまで行くって言ったっけ?」

「ウォル、あなたとはどこにも行かないわ。私達のことは見られているのよ。」

 

 

2人は恋人‥だと思う関係だった。

 

しかし、ウォルトにとって、最大の試練が訪れる。

 

「ああ、もう信じられない!私のメアリを、映画化するだなんて!」

「そんなに怒らなくてもいいだろう。僕が一番好きな話だ。」

「言っておくけど、メアリは私だけの人なのよ!」

 

ウォルトはため息をついた。

「私だけの人なんて。では、なぜ、本を出版したんだ。」

「それにはいろいろ事情があるの。あなたには分からない、大人の事情ってものが!!」

ウォルトは黙って家を出た。

 

ウォルトは、1人で話す所が自分と似ていたし、ウォルトは、食べる時も音をたてて食べる。そこがパメラを安心させた。

パメラにとってウォルトは、気軽なボーイフレンドだった。

パメラは、ウォルトが自分よりもずっと大物で、ずっと仕事ができるということを考えないようにしていたせいで、一緒の仕事はうまく進まなかった。

 

「早く決めなよ。そうじゃなきゃ、僕は死んじゃうよ。」

「死ぬ、ですって?あなたが?」

「ああ、そうなれば、君は誰と食事をするんだい?」

「はい?食事ならいつも1人でとっています。」

「ああ、そうだった。えーと、僕が死んだら、君は誰とデートをするんだい?」

「あのね、私にはそういう人が他にもたくさんいるんです!」

 

ウォルトはまた、黙って家を出た。

ウォルトはパメラの人柄だけでなく、才能にも惚れていた。

もちろん独身だし、そこも好きだった。

パメラには、自分のように、有名になってほしかったのだ。

 

ウォルトの時代は、女性は、偉い人の旦那さんになるしか、偉くなる方法がなかった。

「アブ。僕は結婚する。」

「えっ、結婚?もしかして、トラバースさんとですか?」

「違うよ。結婚したことにする。」

 

ウォルトは結婚したことにした。そして、子供が2匹いることにした。

 

ポールはまた、ウォルトさんの家に来た。

「ポール。君の夢はなんだ。」

「僕の夢はまだありません。」

本当は少し、漫画家に憧れ始めていた。

「いつかは結婚して子供は欲しいと思っています。」

ウォルトは鼻で笑った。

 

「くだらんねぇ‥。実に、くだらん。」

ポールは黙った。

「だけど、ウォルトさんは、子供のために映画を作っているのに。」

「まぁ‥それはそうだけどぉ。でも君、考えてみなよ。誰かのお父さんを好きになってはいけないんだ。だから、僕の映画には、お父さんは出ない。あまりね。」

 

『人類繁栄のためには子供だって必要でしょう。』

そりゃそうだけどさ‥。パメラの言葉を思い出して、つぶやいた。

 

パメラが、ウォルトの会社に来ることになった。

ウォルトは、パメラのために、スイートルームを用意し、ディズニーのぬいぐるみを沢山置いた。

本当はそこで一緒に寝るためだ。でも、その願いは叶わなかった。

 

「何!これ!」

パメラのイライラは最高潮だった。

 

「えーと、パメラ。いいね、ここは会社だ。」

「ええ、そうでしょうよ。そして、私は‥あなたの、上司。」

「いや、上司ってわけじゃない。」

「じゃあ、取引先の役員ってわけだ。」

 

「とにかくさ、仲間には優しくしてくれよ。色目を使え、ってわけじゃない。」

「承知、しました。」

パメラはシャキッとしていた。

 

しかし、パメラは怒り狂ってしまった。

「ところでディズニーさん、この会社はどうしてこう、ハゲが多いの?」

「さあ、どういうわけだろうねぇ。」

 

音楽の話し合いでは、ついにパメラは泣きだしてしまった。

 

「ミッキーさん、なんなの?これ。」

「パメラ、ミッキーは父のあだ名だ。母がミニーで父がミッキー。多分、兄が生まれる前に2人でつけた。」

「そんなことどうでもいいわよ!!」

パメラは出て行ってしまった。

 

仕事は順調に進まなくなってしまった。

しかし、仲間も気が知れた連中なので、大丈夫だった。

 

そんな中、ウォルトは、ディズニーランドで働く、黒人青年と仲良くなった。

名前は、ウィルという。

「あの、僕、あなたがディズニーさんとは知らなくて。」

「いや、知らなくて当然だとも。写真の男とは全く違う。この前も、1人でメリーゴーランドに乗って、女の子に小遣いをやろうとしたら、逃げられたよ。」

ウォルトは、ウィルに絵を描かせるとうまく描いたので、ウィルを雇うことにした。

 

 

少年ポールのディズニーの夢Ⅱ

「‥なんで、ネズミ君の名前がミッキーなのぉ?」

「それは秘密です。お父さんとお母さんのな。」

「ふーん。でもさ、いつか教えてくれるよね?」

「さあ、どうかな。でも、秘密を解くカギは、いつも君の胸の中だ。」

父はキラキラして答えた。

「困るなぁ。だってキャラ設定が出来ないんだもの。」

「設定?漫画を描く上でか。」

「うん‥彼女がいるとか、子供がいるとか。」

「子供?ミッキーには子供いるよ。」

「えっ。それ、何人?」

「2人。あっ、2匹か。」

「それだけぇ?変だなぁ。ネズミなら、もっと沢山生まれるはずだもん。」

「まあ、父さんのネズミには、子供はそんなに生まれなかったんだな。よし、今日は、このへんにしておくか。」

「ちょっと待って。ミッキーの奥さんの名前だけ教えて。」

「ミニー・マウス。世界で一番カワイイ、ネズミちゃんだ。」

「ミニー?名前が、似てるんだねぇ。」

「ミッキーとミニー。いいだろう?」

「ふーん、へ・ん・な・の!」

ウォルトは大きな声で言った。

ウォルトは、軽度の知能障害だったので、ずっと幼いままだった。

一応、声変わりをしたが、高い声でも歌うことができた。

 

「お父さん、お母さんとじゃなかったら、誰と結婚したい~?」

「‥父さんは、お母さん以外とは結婚しないよ。ったく、このガキは何を言ってるんだ。」

「ち・が・う!もしもの話。お母さんだって、フランス人とドイツ人のハーフでしょう?何人と結婚したい?」

「そういうことなら‥中国人だな。それか韓国人。」

「ええっ。なんで?」

「綺麗だから。それに父さん、肉まんも好きだから。」

「ああ、そっかぁ。僕は、フィリピン人。」

「フィリピン?どうしてだ。」

「真珠を持ってるから。それに、それってみんななんでしょう?」

ウォルトは何も分かってなかった。

 

ある日、ロイが言った。

「父さん、僕、陸軍に志願します。」

「陸軍に?ちょっと待て、ロイ。死ぬかもしれないんだよ?」

「ダグラス兄さんも戦っている。僕、ダグラスを支えたいんです。」

 

夜、イライアスとフローラは話した。

フローラは、結婚当初から、『ディズニー』という名字に目をつけていた。

大きな会社か、ブランドになると思っていたのだ。

自分達は無理なので、‥まあ、無理というのも、フローラには、おとぎ話は結婚して終わる、ということを分かっていたのだ。

「なあ、君の話はまだ終わらないのか。」

イライアスは本当にフローラのことが好きだったため、よく嫉妬し、喧嘩になった。

 

「結婚したら、子供を設けないと、つまらないってことだな。」

「そうなるわね。私は絶対に女の子がほしいわ。」

 

子供ができる前から、2人は紙に書いて、名前を考えていた。

『ウォルト・ディズニー』

この名前が最高のブランド名だと思った。

でも、兄を見た時に、ロイにしか思えず、ロイに決めた。

ロイはかっこよくなる、という、両親の理想通り、ロイは美男子に育った。

 

「ロイ・ディズニーもなかなかいい名前よね。」

「俺は、こっちの方が上だと思うよ。」

ロイは2人にとって、ウォルトよりも大切な人だった。

ロイは才色兼備で、優しかったため、2人は、ロイを子供ではなく、人と呼んでいた。

 

「うちには、大人が2人。人が1人。子供が1人。」

「ねえ、それ、どういうことぉ?」

 

台所では、ロイが母親と話し、母親が泣いてしまっていた。

 

「えっ‥。お母さん、大丈夫ぅ?」

 

「父さん。やっぱり僕、志願します。ダグラスさんの、力になりたいですから。」

「お前が決めたことなら‥仕方ないな。行ってこい。」

ロイは少し泣いた。

「行くってどこに行くのぉ?」

「戦争だ。ウォル。」

「嘘でしょぉ‥!!」

ウォルトは大泣きした。

 

その次の日。

ウォルトは15才にも関わらず、父の上に座っていた。

「ウォル、父さんがもしも明日、死んだらどうする。」

「決まってもないのにやめてよ!!」

ウォルトは泣いた。

「父さんが死んだら、家はお金がなくなる。それに、お母さんが1人になる。

それにさ、僕に冒険や、歌を教えてくれる人がいなくなる。」

「歌?今まで自分が言うまで気づかなかった。父さんは歌も教えてくれていた!」

 

ウォルトは冒険の話に夢中だった。

しかし、冒険の話に登場する歌は全て、父が作ったものだった。

 

ある日、小学校から帰ると、父が小さなピアノを弾いていたことを思い出した。

 

父の曲は、のちに、ロイが完成させ、売った。

それがアニメ会社設立の資金になったのだった。

 

 

ポールは、今日は学校で、調理実習の日だった。

みんなでハンバーグを作るのだ。

「ポール。何、そのぐちゃぐちゃ。こう。こうやるの。」

チェルが、ポールにハンバーグの丸め方を教えた。

 

「おい、マジでお前ら、付き合ってんのか?」

白人のルゥがニヤニヤと笑った。

「ばーか、違うっつーの。」

チェルが言った。

 

「ポール、今日も仕事、やっとくから。」

「仕事‥って?」

「掃除。」

女の子達はニヤニヤと笑った。

 

「いいの?」

「いいよ。」

アハハと、女の子達は笑った。

 

すると、女性の先生が入ってきた。

「ほら、女子達、何やってるの!ポール君にちょっかい出すのはやめなさい。」

女の子達は、バツの悪そうな顔をしてうつむいた。

「先生、違うんです。女子達が、掃除をしてくれるって言ってくれて‥。」

「掃除を?ポール、あなたは掃除を女子にやらせるつもりなの!!」

「あの‥。」

チェルは言いかけたが、また口を閉じてしまった。

結局、全員で、無言で掃除をすることになってしまった。

 

「ポール、今日はごめんね。」

「ううん、こちらの方こそ。」

ポール、と言って、他の女の子達もクスクスと笑った。

 

家に帰ると、疲れたので、また寝てしまった。

 

するとウォルトさんが、酒を飲みながら、ぶつぶつとひとり言を言っていた。

「ちがう‥いや、そうだ。ダグラスはきっと、日本を守るためのスパイなんだ。でも、ダグラスは、俺達と親戚だから、アメリカは攻めない。大きな爆発は、ダグラスがやったことじゃない。もちろん関わってもない。むしろ、止めようとしていたんだ。そうだ、その通りだ。」

まるで、自分自身に言い聞かせるような言い方だった。

 

ウォルトも実際、ロイと一緒に志願したが、体が小さい上に、年齢が達していないため、説得され、諦めることとなった。

 

 

「ポール?」

「はい、すみません。」

「また来たのか。謝るくせはあった方がいい。俺もすみませんが口癖だった。」

ウォルトさんはうっとりするような目で、天井を眺めた。

 

「あの‥失礼かも、しれませんけど。お酒‥飲みすぎると、よくないって。」

「酒か?いや俺は、映画のストーリーを考えているんだ。あ~、次回作は、どんなストーリーにしよう。それで、どんなお姫様にしよう。」

 

「‥酒を飲むと、くるくる世界が回って面白いんだよ。でもね、昔‥。」

ウォルトさんは笑いだした。

「ドラッグを飲んだこともあってね。」

あー、あの時は面白かった。

ウォルトさんはニヤニヤと笑った。

 

 

 

会社に雇った黒人のウィルは、とても器用な男で、ウォルトほどではないが、上手い絵を描いた。

 

「久しぶりだな!ウォル。」

兄さんのロイが会社に帰ってきた。

「おや、そちらの人は?」

「新しく雇ったウィルだよ。ウィルのおかげで、黒人のことも描けるかなぁ?」

ウィルはにっこりと笑った。

 

「無理はやめておけ。‥無理じゃ、ないのか。」

「今度、試してみるよ。」

 

「そうだ、兄さんな、今度、養子をもらうことにしたから。」

ウォルトとウィルは顔を見合わせた。

「それって‥どういうことだい?」

「養子だよ。男の子をもらうつもりだ。」

「結婚するのか?」

「したいが‥できない。なんせ、相手が沢山いるものでね。」

 

「ねえ、知ってる?結婚したら、物語は終わるって。」

「そうなんですか?‥僕の母親は、2回離婚して、今は1人です。」

「ふーん‥。」

「でも、新しい人と暮らしてるみたいです。」

「自由なんだね。黒人、って。」

 

 

ウォルトは家で尋ねた。

「兄さん、結婚したら、物語は終わるって言ってたよね?」

「おい、何を言っているんだ。物語は一生続く。誰がそんなことを。」

「父さん。昔、僕達に言っていたじゃないか。」

「はああ。あの人はろくなことを言わなかった。」

 

「ひどい。父さんの悪口を言うなんて。」

ウォルトが言うと、ロイは少し笑い、鼻をさわって下を向いた。

 

「おい、あの黒人にも用心しろよ。薬(やく)を持ってるかもしれないからな。」

「なんでそんなこと言うのぉ!」

ウォルトは、ミッキーのペットの犬のぬいぐるみを投げた。

 

「ねえ、兄さんが、ウィルがクスリを持ってるかもしれないって言ってた。」

「ええっ。僕はそんなもの、持っていませんよ。それに、母親に禁止されているんです。」

「でも、どんな感じなのかなぁ‥?ドラッグをやるって。」

「さあ、分かりません。‥うちの母親が、昔、やったことがあって、酷い目にあったと言っていました。」

「へええ。なら、なんで、みんな、そんなものをやるんだろう。」

「さあ‥僕には、分かりません。」

 

ウィルは本当にドラッグをやったことがなかったが、地元で人気のDJコングは、ドラッグをやっていると知っていた。

コングは、ウィルの兄貴分である。

ウィルは、コングのクラブに行った。

 

「よぉ、兄弟。久しぶりだぜ。」

「このクラブには、昔は、白人は入れなかったが、俺がやめさせたんだ。

見ろ。今では、黒人より、白人の方が多い。」

ウィルはうつむき、顔をあげ、言った。

「兄さん、差別をしているのは、白人より黒人の方じゃないのかと、僕は思うんだ。」

「兄弟。白人は、俺達を船に乗せて運び、奴隷にした奴らだぜ。」

ウィルは鼻をかき、首をかしげた。

「いや、それは作り話だ。多分、白人の会社に、働きに行っていただけだと思う。それは、黒人による、白人差別のための作り話だ。」

コングは大笑いした。

「兄弟。そりゃ無茶な話だぜ。黒人差別については、教科書にも書いてある。」

 

黒人の仲間が酒を持ってきた。

イエーとか、ヒューヒューとか、歓声をあげている。

「ほらな。黒人はこうして、仲間うちだけで理解し合い、生きてきた。兄弟。」

 

 

次の日。明るくなって、ウィルが散歩をしていると、コングが来た。

「ところでお前。どうしてこっちに来た。ディズニーで働いてるって聞いたぜ。」

ウィルは、黙った。

「まさか、クビになったか?」

「いや‥兄さん、まだ、ドラッグ持ってるかな?」

 

ウィルはコングの家の車庫に来ていた。

「ほら。昔の残りがまだここにある。」

ウィルは、ドラッグを持った。

「でもな、もう賞味期限切れかもしれない。サラエボ事件のプリンツィプも、毒が不良品で、自殺、できなかった。」

コングは夢見心地の目で、震え上がった。

 

「ディズニーさんが、こんなものをやってみたいと?」

ウィルはうつむいた。

 

2人は外に出た。

「いや~俺には、夢のような世界だぜ。」

「兄さん、今度、来てみないか?」

「いや、俺はいい。ラップとブルース。そして仲間。少しのレディー。俺には、それだけの世界で十分だ。」

コングは、余裕の表情で、ニヤリと笑った。

 

3日後の夕方5時。

夕日が差し込む窓際に、2人はいた。

「いいか。今から俺は、ドラッグをやる。2人でせーので飲もう。」

「俺も‥なんですか?」

「そうさ。当たり前だ。‥この会社にいたければね。」

ウォルトはニヤリと笑った。

 

気づいたら夜で、2人は、裸バーに来てしまっていた。

2人とも、ゲラゲラ笑っている。

恐る恐る、裸の女性に、ウォルトはお札を渡した。

 

次の朝。

我に帰ったウォルトは、ドラッグをしても、なんの意味もないと実感した。

なんの夢も、見ることはできないし、危うく、犯罪に巻き込まれるところであった。

ウィルは、疲れた顔でいつも通り出勤していた。

「ウィル。昨日のことは、これな。」

ウォルトは、人差し指を口に当てた。

ウィルは無表情で、うなずいた。

 

 

芝刈りが終わり、ウォルトさんが淹れてくれた、フレーバーティーを飲んでいると、スマホが震えた。

取り出すと、ウォルトさんが言った。

「ん‥なんだ、それは。」

「これは、スマートフォンです。」

「ちょっと、見せて。いい?」

「はい。どうぞ。」

 

「うわぁ、すごい。触っただけで、動くんだ。アハハ!面白い!」

 

「ウォルトさんのWikipediaも見られます。」

「ウィキ‥ああ。そうだ。見せてくれ。」

ウォルトさんは、真剣な表情になり、言った。

 

「これです。」

「アハハ!俺だぁ!はぁ~‥ちゃんと、ウォルト・イライアスとなってる。」

ウォルトさんは嬉しそうに笑った。

 

目を細め、読んで、読み終わった。

「全然、違うことも出てるんだねぇ。」

「そう、でしたか。」

「うん、そうだよぉ。差別なんてしてなかった。でも、してたのかなぁ‥。」

ウォルトさんは遠い目をした。

「そんなことは、ないと思います。多分、これが間違ってるんで。」

ウォルトさんはスマホをさわり続けた。

ポールは表情を隠したが、ウォルト・ディズニーが自分のスマホをさわっていることが、嬉しかった。

 

「アハハ!なんでぇ?お兄ちゃんの写真が、アブになってる。ほら。」

「え‥。」

「ホントはもっとかっこよかったんだよぉ。」

 

「お兄ちゃんの葬式の時には、若い女の子、カワイイ女の子、成熟した女の人、おばあさん‥。いろいろな女性が来てた。」

 

「まるで‥不思議な結婚式みたいだと思ったんだぁ。それでさ。このことを映画にしようと考えていたら、誰もいない部屋で、誰かから首をしめられて‥。」

ウォルトさんは、首をしめられているジェスチャーをした。

 

「兄は、俺よりもなんでもできたよ。」

 

ウォルトは、子供の頃から、踊ることが好きだった。

踊ることは得意ではなかったが、好きだった。

それは大人になってからも続いた。

二十歳の頃も少しやったが、30代半ばでもやってみた。

でもうまくできず、見かねた兄が、ウォルトに踊ってみせた。

「ワーオ、ロイ。ミュージカルスターになったら?」

「難しい提案だな。」

ロイは照れ笑いした。ロイの足は、小柄なウォルトに比べ、すらりと長かった。

 

ウォルトはなんと、60才の時に、宙がえりをマスターした。

今までは、絵を描くことと、お茶とコーヒーをいれることと、スクランブルエッグを作ること以外は、まともにできるとは言えなかった。

掃除の仕方も、普通の人とは違い、窓を箒がけしてから、拭いたりしていた。

 

ロイはびっくりした顔で、宙がえりをするウォルトを見た。

 

「えっ、ちょっと待ってください。Wikipediaによると、お兄さんは、ウォルトさんより後に、亡くなったはずです。」

 

「そうだ。今、君は西暦2002年にいる。」

ウォルトさんはニヤリと笑った。

「え‥?」

 

「俺はまだ生きている。911の時には、声明を出したが、あまりに事が重大すぎて、みんな気にしてなかったよ。」

あーつまらなかった。ウォルトさんは言った。

 

「その後も何度か声明を出したんだけどさ。」

 

「お義父さん。」

ロイの養子の、ヒーヤンが帰ってきた。

ヒーヤンは、台湾人と韓国人のハーフだ。

 

「今日は何を作ってくれるのかな?」

「今日はシチューです。」

「ええっ。またシチュー?」

ウォルトさんはニヤニヤと笑っていた。

 

 

少年ポールのディズニーの夢Ⅲ

 

「ウォルトは66才で死ぬことにした。亡くなるのには、理由がある。

親しい仲間はみんな孤独だったが、本制作が始まると、若いのが入ってきて、

みんな、恋をして、楽しんでいた。

 

ある日のことだ。

俺は、現場で泣いてしまった。

俺が、感動以外で泣いたことは、22才の時以来であった。

 

でも、それでようやく、楽しんでいた者達も気づいてくれた。

制作に集中し、恋もやめた。

 

もう、自分は、いない方がいい。

自分がいなくても、やっていける、それが、俺が死ぬ理由だった。

 

俺は、いつものように、ブランデーにドーナツを浸して食べた。

今日ならいけると思った。

そして、睡眠薬を服薬した。いつもの30倍の量だった。

 

俺はベッドに横たわり、眠るように死んだ。

 

第一発見者は、兄のロイだった。

俺が自殺したことに気づき、俺にすがりついて泣いた。

しかし、世界の子供達の夢を壊さないために、立ち上がり、自殺の証拠を隠滅した。

捨てた物は、睡眠薬だけでない。

俺の遺書まで捨てたのだ。

でも、絵だけは、のこしてくれた。

 

いつものように、ジュディスと旦那、息子のハル、ハルのガールフレンドのミカリが来た。

 

ジュディスは、「嘘でしょぉ!!」と叫び、俺にすがりついて大泣きした。

ジュディスの旦那のケイトは、俺の手を握って悲しんだ。

ハルのガールフレンドのミカリは、家を飛び出し、近所の女の子達を呼びに行ってしまった。

 

葬儀には、1000人以上の子供達が来た。

トイレが足りないと思ったが、みんなちゃんと我慢できた。

パメラは、悲しむファンの後ろの方で、腕を組み、俺の亡骸を見つめていた。

 

 

ロイが、外に出て風にあたっていると、

どこからともなく、声が聞こえた。

『ほら兄さん。俺の家の前に、遊園地を作った方がよかっただろう?』

ロイは涙をこぼした。

 

俺は貧しい方が好きだった。

なので、金持ちになってからも、小さな家に住んだ。

 

ディズニーランドも、こんなに大きなものではなく、

俺の家の庭にある、小さな遊園地でよかった。

 

ディズニーワールドリゾートの完成を見ることなく、俺はこの世を去る。

 

映画を作る時にいつも悩んでいたことは、ラッキーエンドにするか、ハッピーエンドにするかということだ。

 

俺は、どちらかというと、ラッキーエンドの方が好きだった。

 

ありがとう諸君。俺に生きる希望を与えてくれたのは、諸君なのだ。」

 

 

「いい話ね、ウォルト。」

パメラが、珍しいフレーバーティーを持って、後ろに立っていた。

「だけど、どうしてそんなに、未来のことが分かるの?あまりにも、リアルすぎるわ。」

「それは‥。」

「ねえ、どうして?もしかしてあなた、未来を見てきたということ?そうなの?」

「いや、未来を見てきたわけじゃない。今のは、俺が考えた作り話だ。」

パメラは高らかに笑った。

「あなたって面白いのね。‥従姉と仲が良いなんて羨ましいわ。私の従兄なんて、変な女と結婚して、10年前に交通事故で亡くなってしまったのよ。」

「今でも親しくしているのは、ジュディスだけだ。というか、そっちが親しくしてくる。俺の従弟も、変な女と結婚し、戦死した。いたたまれないよ。」

 

「自分の思い通りにいく人なんていない。自分が思い通りにできる人間は、自分だけだ。」

「ええ、ホント、そうよね。」

「なあポム。俺がメリーポピンズをどうして、実写にしたか分かるかい?」

パメラはウォルトを見た。

「それは、君に主役を務めてほしかったのさ。だって君は昔、女優だったんだろう?」

パメラは少し笑った。

「でもそれはずっと昔の話よ。いろいろしてしまったけど、本当にお気に入りの映画になったわ。」

 

 

パメラが泣いてから1カ月後、メリーポピンズの打ち合わせが再開した。

パメラは神妙な面持ちだったが、前よりも落ち着いて、打ち合わせに臨んでいた。

ウィルからコングの話を聞いたウォルトは、音楽制作に関わってもらうよう、コングを呼んだ。

 

「それで‥その、君の知り合いのDJには彼女はいないのか?」

「はい。今はフリーと言っていました。」

 

ウォルトは、恋に関して、必要以上にうるさかった。

でもこれは、世界中の女子の夢を作る仕事なのだ。

 

コングは、ウォルトの作品を見て、心を入れ直し、まるで小学校の校長先生のような格好で現れた。

「ははぁっ。これはこれは。あなたがコングさんですか。」

「はい。コング・ドゥーインです。」

 

コングは、音楽をお洒落で現代風にアレンジし、パメラも嬉し泣きで喜んだ。

 

「パメラ‥今日は食べに行かないか?」

普段は、外食が苦手なパメラだったが、渋々OKした。

2人は、いつもよりもお洒落な服で、少しだけ高級なディナーを食べた。

 

パメラが外食が苦手な理由は、ウォルトの隣だと、みんながジロジロ見るからだ。

でも本当は、みんな、美しいパメラを見ているのだった。

 

 

「ポム、今日はどこかに食べに行きますか?」

「嫌よ。近くの店でテイクアウトしましょう。

それに私、この家が気に入ってるの。」

2人は近くのデリで、弁当を買ってきた。

 

「美味いね。パメラの料理の方がもっとうまいけど。」

 

パメラは食べ終わると立ち上がって、スケッチブックを持ってきた。

 

「私ね、あなたのように絵がうまくなりたくて、最近、お姫様の絵を描いているのよ。」

「へえ、見せてよ。」

 

「ほら。」

そこには、いろいろな国のお姫様の絵が、リアルに書かれていた。

「上手いじゃないか。」

パメラは満面の笑みで笑った。

 

「これはベトナムのお姫様よ。私、アジアに興味があるの。いつか、タイかベトナムに行ってみたいわ。」

パメラは夢見心地で言った。

 

 

 

女子達は、落ち込んでいるチェルのまわりに集まって座っていた。

男子達はニヤニヤと見ている。

ルゥは、チェルの取り巻きの1人で、インド人と白人のハーフ、リランカのことが好きだった。

 

「あんなやつ、止めた方がいいよ。まじで。」

「絶対、チェルのこと、裏切るって。」

 

ポールが来た。

女子は無言で、ポールを見た。

 

チェルもちらりと見たが、またうつむいた。

 

最近のポールは、ディズニーキャラクターのキーホルダーを、カバンに10個以上つけている。服は毎日のようにキャラクターだ。

 

「おはよー。ポール。」

男子達が少し引き気味で話しかけた。

「どうした、これ。」

「いやぁ、ちょっと最近、ハマっちゃって。」

ポールはニヤニヤと笑った。

 

男子達も心配そうな表情でポールを見つめた。

 

ポールは、進路調査の紙に、『ディズニーカンパニー』と書いた。

担任の、アレクサンドラ先生が呼びだした。

「ポール。ディズニーに入るためには、何の勉強が必要?」

「必要なものは、両親の愛です。先生。」

「ポール。あなたがご両親から愛されているのは、よく分かってる。でも、なんの勉強をすればいいと思う?」

「それは‥絵‥です。」

「そう。本当に入りたいなら、アートスクールに通わせてもらうとか、今の推理研究会から、美術部に変えるとか、そういうことが必要でしょう。」

「はい‥。」

 

 

「1901年12月5日。俺は、イライアス・ディズニーとフローラ・ディズニーの2人目の息子として、産声をあげた。元気だったかどうかは分からない。なんせ2500グラムの未熟児だったと聞いている。その日は、晴れの曇りで、紫色の猫が家の前に来ていた。その猫がチシャ猫のモデルとなっている。ちなみにそれを教えてくれたのは、父のイライアス・ディズニーだ。父はいつも、私に生きるために必要なヒントをくれた‥。」

ウォルトさんは、窓の外を見ながら、1人でしゃべっている。

 

「あの‥ウォルトさん?」

「ん?‥おや。ポールか。」

「はい。また、来てしまって。」

「いや、いいよいいよ、客人は歓迎だ。今、お茶をいれよう。」

 

 

「ウォルト。もしもあなたの話が本当なら、いつか人類は滅亡するわね。」

パメラをちらりと見て、ウォルトはハーブティーを飲んだ。

「両親に溺愛され、大きな夢を叶えた子供は、結婚しないなんて。だって、そんな子を、一族から1人出すんでしょう?」

「うん。それが魔法使いの掟だ。一族から魔法使いを出す方法。」

「ふ~ん。」

パメラは腕を組んで考えた。

 

「俺も兄さんも結婚してない。ディズニー家は滅亡なんだ。」

「えっ。ディズニーって、あなたの家だけなの?」

「そう。母さんの案でね。2人が結婚前に、イズニをディズニーに変えたんだ。

1800年代はまだ、そういうことができたんだよ。」

「ふ~ん。」

 

「君のような魔女にならない女性なら、絶対に子供を産んだ方がいい。」

「ええ、そうよね。私も本当は女の子が欲しかったわ。」

 

「しかし、イライアスは偉大な魔法使いだった。結婚して子供がいるのにさ。」

 

 

 

「チシャ猫を描いてくれたのは、父だ。俺が描いたチシャ猫は、どこにでもいる猫だった。」

ウォルトさんは、ハーブティーをいれてくれた。

「ハーブティーはいい。孤独を癒してくれる。」

ポールもハーブティーを飲んだ。

 

「アリスのうさぎを描いたのは、俺だけどね。」

ウォルトさんは満足そうに笑った。

 

「昔は、養子に憧れていてね。俺の映画の話のほとんどが、生みの親ではない大人に育てられた話だ。」

 

「今でも、母が自分を産んだことは、半分信じてないがね。」

ウォルトさんは、窓の外を眺めながら、ハーブティーを飲んだ。

 

 

「イライアス!!」

「ああ?なんだ。」

「じゃーん!!ミッキーの家族です。」

イライアスはメガネをつけ、ウォルトが描いたミッキーの家族を見た。

 

「沢山いるんだねぇ。」

「当たり前じゃん。ミッキーは二十日ネズミだもん。」

 

「この子がねぇ、ミッキーの妹のチッキー。」

 

うなずきながら、イライアスが言った。

「チミーじゃなくて、チッキーなのか?」

「そう!ミッキーのお父さんとお母さんは、子供達にキをつけたかったんだぁ!それはね、家に、キツツキが巣を作っていて、その音が、幸せの音だったからなんです!」

 

「それでね、この人がミッキーのおじいちゃん。この人がおばあちゃん。ミニーのおじいちゃんはね、もう亡くなってしまっていないんです。」

「ああ、そうなんだ。」

「ミッキーとミニーには、子供が沢山いる。ほら。」

 

「この子だけ、白いんだねぇ。」

「この子はホワイト君。黄色のワンピースの子はレイちゃんで、とても小さい。」

 

「ミッキーと家族は、いつも猫に怯えて暮らしているんです。」

「ああ、猫にね。」

イライアスはしげしげと絵を眺めた。

しかし、ウォルトが大人になって、登場人物が多すぎると、アニメ制作が大変という理由から、ミッキーとミニー以外、カットされてしまった。

 

 

「わああああ!!またコリン君に、遊ぼうって言っちゃったよおおお!!」

中学生のウォルトは、大泣きしていた。

 

『コリン君、今度また、遊ばない?みんなでさ。家に集まって。』

『いや?それならデートはぁ?僕と2人で。』

 

「おい。コリン君は、病弱すぎるから、誘っちゃダメだって、父さんが言ってただろう。」

 

「ウォル。父さんが言っているだろう。社会で生きていくためには、余計なことに口をだすな、口をはさむな、って。」

ウォルトはロイを見た。

「な。お前は絵しか描けない。だからそのことをしっかり覚えるんだ。」

 

 

イライアスとフローラは、なぜか、よく、ハプスブルク家の話をしていた。

「ねえ、なんの話?」

「それはそれは、怖い、人食い鬼の話です。」

イライアスは言った。

「じゃあそれを教えてよ。」

「いいけど‥それは今度、出かけた時にな。」

 

 

イライアスは、ウォルトが変な不良に引っ掛からないよう、昼間の黒人パブに連れて行った。ちなみにこの店にはすでに、ロイを何度か連れてきていた。

 

店員もお客も、黒人ばかりだ。

みんな、ウォルトとイライアスをジロジロと見た。

 

「ああ~めんどくせぇ。」

イライアスは、黒人を睨み、舌打ちをした。

 

「お父さん、やめなよ!」

「いいんだ。」

イライアスは、横柄な態度をとった。

「お前の友達の、黒人のボリ君の家は、貧乏すぎるからな。関わっちゃだめだぞ。」

「お父さん!しーっ!」

 

「ごめんなさい、僕のお父さんが。」

ウォルトは黒人に謝りに行くと、黒人はニンマリ笑った。

イライアスがやっていることの意味を分かっていたのだ。

 

「なんだ。お前、あの人に何言いやがった。」

イライアスが聞いた。

「何も。お父さんが馬鹿だから、謝っただけ。」

「余計なことを言うな。」

イライアスがウォルトをゴツンとしたので、ウォルトはそのパブで、大変、肩身の狭い思いをして過ごした。

 

 

家でウォルトは父に聞いた。

「それでさ、お父さん!聞き忘れちゃった、人食い鬼の話。」

「ああ、そうだった。ハプスブルク家はな、フランスの王族だったんだけど、実は、人を食って生活してたんだ。」

「人を食べて?!」

ウォルトは手で口をおおった。

「それでな‥。」

父はハプスブルク家について話した。

途中、話がそれ、「アハハ!面白い!!」ウォルトは無邪気に笑った。

ウォルトは発達障害だったので、いつまでも子供のようだった。

 

イライアスは、フローラにこそこそ話した。

フローラは、ニヤニヤと笑った。

「実はな、父さん達、お前にまだ、言っていないことがあるんだ‥。」

「え‥。」

「父さんの父さんは、お前が生まれる前に亡くなっている。」

「うん‥。」

「お前の爺さんは、フィリピン人と黒人のハーフだった。」

「ええっ!」

「だからな、兄さんとお前は、フィリピン人、黒人、アメリカ人、ドイツ人、フランス人、イギリス人‥いろいろな国の血が混ざっているんだ。‥イギリスは、母さんの母さんが、フランス人だったんだけど、血はフランスとイギリスのハーフだったから。」

 

ウォルトは泣いた。

「それ‥ホントの話?」

「ああ、本当だ。」

イライアスは、誇り高く笑った。

 

ディズニー一家は貧しく、ウォルトも新聞配達や郵便配達を手伝ったりした。

「これでも、少しは金になるかな。」

イライアスが言うと、フローラはうなずいた。

 

ウォルトは物語のように、仲の悪い家の郵便を交換したりしなかった。

 

「えらいな。」

イライアスはニッコリ笑った。

 

「フローラ、ウォルトは本当にいい子だな。‥それに絵も上手だ。天才かもしれん。」

イライアスは、ウォルトに聞こえるように、こそこそ話した。

 

時々、イライアスの友人が、牛肉をくれたので、ステーキを食べた。

 

父は毎回、「あ~今日もくたびれた。」と言って、椅子に座った。

 

 

 

 

「あの‥ご両親と仲がよかったなら、亡くなった時とか、すごく、辛かったですよね‥。」

「ああ、辛かったとも。」

 

 

「お父さん、ミニーが亡くなるシーンを描いてみた。ほら。ミッキーが泣いてるんだよ。」

「おや。どうしてそんなもの描くの。ミッキーとミニーは、永遠だよ。」

「ダメ。これはイライアスとフローラの未来の姿なんだよ。お父さん。お母さんを残して、先にいったら、絶対にダメだから。」

 

 

「フローラ。俺は先に死ぬ。お前が先に死んだら、離婚ってことでいいな。」

イライアスは、よく言っていたのだ。

イライアスの願いは叶った。

イライアスは仕事中、心臓を押さえ、うずくまった。

でも、最後の力を振り絞って、家に帰った。

フローラは、イライアスはもうすぐダメになると予想していた。

 

支えてベッドに行き、看取った。

 

「‥とても、悲しいですね。」

「ああ。俺はその時、フロリダにいたがね。すぐに駆け付けたよ。」

 

「母が亡くなった時には、とても不思議な事が起こったんだ。」

 

 

「母は病院にいた。とてもいい病院だ。母のために大金を支払って、いい病室と、いい医者。そしてお婆さん看護師をつけた。

午後、寝ている母にすがって泣いていると、そのまま寝てしまった。

誰かにオデコをつかまれ、母から離された。

朦朧とする目でその人を見ると、その人は父だった。」

 

ウォルトさんは、うっとりとするような目で言った。

 

「とても‥素敵な話ですね。」

「そうだろう。父が一番大切な人は、母だった。だから、俺と兄に作品をくれたし、遺してくれた。ごらん。」

ウォルトさんは、父の遺品の、絵や物語が描かれたスケッチブックを見せてくれた。

 

 

 

クラスの女子はまた、落ち込んでいるチェルのまわりに集まって話していた。

「チェル。本当にポールが好きなら、うちらも応援するよ。」

「でもさ。なんかあったら、スマホですぐに電話して。ポールに突然襲われたとか、そういう時は。」

 

ガラガラッ。

ポールが教室に入ってきたので、クラスのみんなは一斉にポールを見た。

「おはよーポール。」

インド系のマリューが声をかけると、他の男子達も、「おう。」などと声をかけた。

「おはよう。」

ポールは、ディズニーキーホルダーをじゃらじゃらつけ、夢見心地だ。

 

男子達はこそこそ話した。

ポールの学業態度にはなんの問題はなかった。

 

「ポール。」

チェルがポールの机に来た。

「えっ。」

「あの‥ポールがディズニーが好きみたいだから、私、ディズニーについて調べてみたんだ。」

「えっ。ホント?」

「うん。」

 

チェルはディズニーのイラストの切り抜きなどを貼った、ノートをみせた。

「これが、ウォルトディズニーさんの最初のキャラクター。オズワルド。」

「オズワルド??」

「うん。私達が生まれるずっと前に流行ったものだから。」

「へええ‥。」

 

放課後、チェルが言った。

「掃除、やっとくよ。今日こそ。」

「え。ホント?」

女子達がニヤニヤと笑っている。

 

ポールが玄関から出た時、教頭のヒーマス先生が声をかけた。

「ポール君。どこへ行くんだい?」

「えっ‥あの‥帰ります。」

「ダメだ。掃除をやってないじゃないか。」

 

ポールは校長室の掃除をやることになってしまった。

 

ポールは疲れ果て、今日も家に帰ると寝てしまった。

 

 

「アリエルは不憫な女だ。あれほどの美しい体を持ちながら、あの男の腕の中の物になるなんて。‥しかし、母親になって人魚に戻った姿は、圧巻だった。

カリスマを感じるな。恐怖に近いスリルだ。

‥ピーターパン2?馬鹿馬鹿しい。大体、1で、カフスボタンのシーンを描くのに、俺がどれだけ苦労したか、まるで分かっていない。子供達に悪影響を及ぼす映画の一つにすぎない。

 

2とか3とか、止めてもらいたいね。やるなら最初から、俺が1と書くというのに。」

ウォルトさんは、コーヒーを飲みながら、ぷりぷりと怒っていた。

「‥俺が描いた女の中では、ティンカーベルが一番好きだ。

ティンクが結婚することだけは絶対に許さない。」

 

 

「あの、ウォルトさん。」

「ん。」

「ポールです。」

「おお、ポール君か。久しぶりだね。」

「そう、ですか。」

「ああ。君に最後に会ったのは、もう8年前だ。」

「8年も前?」

「今、君がいるのは2010年だ。」

 

「‥じゃ、みんなもう、亡くなってる?」

「いや、そんなことない。ヒーヤンはまだ生きていて、俺の世話をしてくれているし、ハルと妻のミカリも生きてる。ハルは、結婚という道を選んだので、ディズニーカンパニーに入れてやらなかった。でも、スーパーで働いているよ。子供はいない。神様は、俺の遺伝子がつながらないようにしているらしい。‥ミカリもその友達も、アニメ制作に関わったが、お手伝いしかできなかった。」

ウォルトさんは、満足そうに言った。

「そうなんですか。」

ポールはうつむいた。

 

「パメラのことか?」

「はい。」

「パメラは死んだというか、小さくなった。」

「え‥。」

「80才の誕生日の朝、パメラは、赤ん坊に戻っていたんだ。パメラは、子供を持たなかったことに罪を感じていた。それで、自分自身が赤ん坊に戻ってしまったという訳だ。」

「‥本当にそんなことが?」

「ああ、本当だとも。」

 

「パメラは、養子に出した。南米だ。すぐに会えるようにね。」

すぐに会えるという訳でもないが‥ウォルトは頭をかいた。

「まあ、アジアに養子に出すよりかは、マシだろう。」

 

「カフェインは好きか?うまいカフェラテの淹れ方を知ってる。」

「はい。」

ポールは少し顔をあげ、答えた。

 

「インスタント、お湯、ミルク、はちみつ、‥またインスタント、砂糖、塩‥ん?塩?いや、そうだったかな。」

ウォルトさんはぶつぶつ言いながら、カフェラテをいれてくれた。

 

「どうだ。」

「美味しい、です。」

「そうだろう。疲れた時は、いつもこれを飲む。」

ウォルトさんは満足そうに言った。

 

「何か、俺に、聞きたいことはあるかい。‥夢の中で紛れ込んで来た者に、この質問をすると、大体、ミッキーはどう考えたのかとたずねてくる。‥ポール。君にはもう教えただろう?」

「はい。」

「他人は、他人のモノだ。自分は自分だけのモノ。それは家族や両親でも同じだよ。ポール、それは分かるな?」

「はい、分かってます。それで、ウォルトさんに聞きたいことは、オズワルドについてなんです。オズワルドは‥どうやって生み出されたのですか?」

「いい質問だ。」

 

 

 

「やっぱり、キャラクターはお前が考えなきゃダメだ。」

ウォルトがもうすぐ有名になりそうな時、イライアスが言った。

「え‥僕だけじゃ無理だよ。父さんもいてくれなきゃ。」

「ダメだ。集中して、考えろ。」

 

ウォルトはしぶしぶ、新キャラクターを考えた。でも浮かばなかったので、父のネズミをウサギにしただけのキャラクターにした。

 

「これ‥。」

「いい、いい。これでも。で、名前は。」

「名前‥。」

「おい。お前、友達の名前にするなんて言わないよな。その子にもお金をあげなきゃいけなくなるんだから。」

「じゃ、オズワルド。」

もともと、オズワルドはグーフィーにつけていた名前だった。

「よし。」

父はニヤリと笑った。

 

しかし、オズワルドは自分が先に書いていたという、ウォルトの中学時代の友人が現れたり、配給会社に権利を取られたりしてしまった。

そのせいで、ウォルトの最初の会社はつぶれてしまう。

 

ちなみに、5年後に、その中学時代の友人は自殺してしまい、そのことで、2年ほど、ウォルトは落ち込んでしまった。

 

「やっぱりミッキーにするよぉ。」

「じゃ、そうしろ。その前に、母さんに聞いてな。」

「どうして‥母さんに?」

「どんな時でも、大事なことは、女親に聞いて決めるもんだから。」

 

ウォルトはしぶしぶ、フローラに聞き、ミッキーを主要キャラクターに戻した。

 

王子のモデルは、大体、兄だった。

アブは昔からの友達で、生涯仲良くした。

 

 

「今までの話、嘘か誠か。決めるのは君次第だ。」

ウォルトさんは言った。

 

「信じてます。でもウォルトさんは今‥何歳ですか?」

「俺か?俺は109歳だ。」

「そんな‥。」

 

「ああ、本当だ。」

ウォルトさんは満足そうに言った。

 

「君とはまた会えるといいな。いつか、本物の君に会いたい。

アハハ!君の世界は今、何年だい?」

「今は‥西暦2021年です。」

 

「じゃ、それまで生きてる。」

ウォルトさんはニヤリと笑った。

 

ポールは、自宅のベッドで起きた。

 

 

 

「何度かお見かけした顔だなぁ。この物語に心当たりがある君には、前に夢で会ってる。」

 

ウォルトさんは画面に向かって言い、ニヤリと笑った。

 

「ああ~。それにしても、人生は素晴らしい。」

そう言って、窓を開けた。

 

「アハハ!今日はいい日だ!」

 

窓を開けたまま、家のドアを開け、歩いて行ってしまった。

ウォルトさんは、途中、宙がえりを一回した。

 

【The Lucky End】

【お洒落な2人】

【幸せな恋のメロディー】

【We love】

【The World map】by Shino Nishikawa

 

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