マドモアゼルピカソ『無修正 未完』

April 11, 2018

マドモアゼルピカソ

ピカソは、ガブリエルより2才年上だった。

ピカソはスペイン生まれだが、5才の時、フランスに引っ越した。

歌うことが好きな7才のガブリエルを、ピカソは神妙な顔で見つめた。

「ガブリエル、歌下手だな。」

「どうしてそんなこと言うのよ!」

 

「ピカソ君が、また私の歌を下手だと言ったよ!」

ガブリエルは母親に泣きついた。

「泣かないこと。下手だと言われたなら、練習しなさい。あきらめたくない夢ならね。」

「分かった。」

 

妹のアントワネットが見ている。

「見ないでよ!」

ガブリエルはアントワネットに怒った。

「妹になんてこと言うの。」

母親はガブリエルの頭を軽くコツンとした。

 

ガブリエルとアントワネットは幼い頃に沢山喧嘩をしたので、ガブリエルはアントワネットを生涯大切にしようと決めた。

 

12才の時、両親が死ぬ。盗賊に撃たれたのだ。

ガブリエルとアントワネットには、お父さんは生きていると思えてしまったが、本当は母親の兄だった。

2人は修道院に預けられることになった。

 

パブロは、時々、修道院に遊びに来た。

「大丈夫か?」

日曜日、具合が悪いと言って寝ている17才のガブリエルに声をかけた。

「うん。誰?」

「俺だよ。パブロ・ピカソ。」

「あら、こんにちは。」

「具合悪いんだって?」

「ええ。でも、もう大丈夫よ。」

ガブリエルは起き上がった。

 

2人は、修道院の裏の小川がある綺麗な道を歩いた。

「18になったら、家に来ないか?」

「‥ピカソ家になら、年に3回は行っているけど?」

「そういう意味じゃない。結婚しようってこと。」

「結婚?パブロ・ピカソと私が?」

「そう。」

 

ガブリエルの横顔は白く、癖毛の黒髪が垂れていてとても美しい。

服は淑女のように、上品な黒と白のワンピースだ。

 

「どうかしらね。だってまだ、あなたと学校の先生と、近所の男の子何人かとしか出会ってないから。」

「じゃ、ダメ?」

「かもしれないわね。」

 

「でも、あなたとはこうしたいと思ってた。」

ガブリエルとピカソは、そこで初めてのキスをした。

 

修道院を出たガブリエルとピカソは、手をつないで街をデートしたし、悪い遊びもした。悪いタバコを2人で吸ったのだ。

「これ、吸ってみない?」

「どんな味?」

「君が確かめてよ。」

ピカソは長パイプをガブリエルに渡した。

 

「やだ、怖いわ。」

「大丈夫。ほら、こうやって、火をつけて。」

パブロは、長パイプを吸ってみせた。

「はー。いいよ、これ。ほら。」

ガブリエルは長パイプを吸った。

「変な味ね。不思議な感じだわ。」

「もっと不思議になるんだから。」

2人は先へ進んだ。

 

ある日、2人はパブにいた。

歌手がいるパブだ。

 

「ガブリエル、歌う気はない?」

「ダメよ、私なんか。」

 

帰り道、パブロは酔って歌ってみせた。

「ほら、歌ってごらん。」

コケコッコウの歌だ。

「ダメ、歌えない。」

ガブリエルは、細長い指を口元に当てて笑った。

 

「ココ。」

「何?」

木漏れ日が綺麗な日曜日、外のベンチで編み物をしているガブリエルに、パブロはニワトリの人形でツンツンした。

パブロは美術教師、ガブリエルはお針子をしている。

「結婚しない?」

「しない。だって夢を叶えてないもの。」

「夢?ココの夢は何?」

「分からない。分からないから叶えられないの。」

 

ココとアントワネットは、母親の兄の牧場で暮らしている。

伯父のバルサンは大変な裕福だが、結婚をしていない。

少しだけ遊び人のようだ。

「ダーリン、今日の晩飯は?」

「今日は肉の煮込み料理です。」

「うまそうだ。」

 

バルサンは休日のたびに仲間とお金の話をしている。

 

「どうした、ガブリエル。」

「退屈なんです。」

「今日はあの男は来ないのか?お前のことを、ココと呼んでる。」

「今日は仕事なので来ません。」

 

「可哀想に。アントワネットは、朝早くから将校と出かけて行ったぞ。2人はもうすぐ結婚かもな。」

バルサンはにんまりした。

 

「午後は乗馬をやるが、お前もどうだ。」

 

ココは乗馬をすることにした。

そんなにうまくはないが、そこそこは乗れる。

上手い女は乗馬をする時、男服を着るが、ココは違った。

 

「なんだ、着替えたのか。」

バルサンはココを見て笑った。

ココは、黒と白の淑女ワンピースを着ている。

「その服で馬に乗るのか?」

「ええ。お気に入りなの。」

ココは馬に飛び乗った。

 

ココはバルサンに恋心を抱いていなかったが、バルサンと馬に乗るのは楽しかった。

 

夜、バルサンは、ココの部屋に来た。

「ココ。どうだ?自分が作った物を売ってみたら。」

ココは驚いてバルサンを見た。

「店の物じゃなく、お前独自の物をさ。お前には他の人とは違う、才能がある。」

ココはうつむいた。

 

 

ピカソが朝、学校へ行くと、同僚の数学教師ヒーマスが話しかけた。

「チュチュと言ったか?」

「なんです?」

「いや、パブロ君がよく一緒にいる子だよ。」

「ココのこと?」

「あぁ、そう。あの子は綺麗だ。結婚するのかい?」

「いえ。断られてて。」

ピカソが言うと、ヒーマスは楽しそうに笑った。

ココは男性から人気だった。

 

「しびれるぜ。」

「セクシーだよな。」

ピカソが家に帰る途中、若い男2人が話していた。

ピカソはそれがココのことだと分かったので、下を向いてクスクス笑った。

 

1909年。

ココはパリのマルゼルブ大通りに帽子のアトリエを開業する。

思っていたより好評だったので、ココはお客が来るたびニッコリした。

ココが好きな男達も、女性を連れ、店に訪れた。

「いらっしゃいませ。」

ココの声は女性にしては低い声だ。

でもまるで母親のような笑顔に男性達は喜び、帽子をとって挨拶をした。

 

「ダーリン、調子はどう?」

「順調よ。」

ピカソの方も画家として売れ始めていた。

1人の男が店に入ってきた。

「あら、こんにちは。」

「こんにちは、ガブリエル。」

『誰?』

『カペルさん。』

「どうだい、例の話は。」

「正直なところ、まだうまくまとまってないの。私ってそれほど自信家じゃないのよ。」

 

「でも、ここは店じゃない。アトリエだ。君はもっと大きな店を持つべきだ。」

 

1910年。

ココは、カペルの援助により、パリのカンボン通りに【シャネル・モード】をオープンする。

ピカソとは別れていなかったが、夕方ピカソは、店のカウンターで色っぽく話すココとカペルを見てしまい、胸を押さえて少し悲しんだ。

 

10日間ほど、ピカソは店に来なかった。

カラカラン

夜6時、店にピカソが入ってきた。

「やあ。」

「久しぶりね。」

「大変だったよ。ルーブル美術館からダビンチのモナ・リザが盗まれてね。僕も疑われて、一週間も捕まっていたんだ。」

「あなたじゃないんでしょ?」

「もちろんさ。僕じゃない。多分、お前の知り合いの、カッペルだとかいう男が、告げ口したに違いないんだ。」

「そんなわけないじゃない。カペルはいい人よ。あなたどうかしてるわ。」

「どうかしてるのはココの方だよ。なんであんな訳の分からないヤツ、信用するんだ。」

「あなたってどうしてもカペルを悪者にしたいのね、だったら、カペルに聞いてみればいいじゃないの。」

ココは大笑いした。

 

売上は好調で、1913年にはドーヴィルに二号店をオープンする。

しかし翌年には第一次世界大戦が勃発する。

「いいかい、君は歴史上最も成功した女性になれる。ココ・シャネルの名前を消さないためには、戦争中は命が助かりそうな方につくんだ。」

ピカソはココに言い聞かせた。

 

1914年春、ココは病魔に侵され始めていた。

ピカソとココは森を散歩していた。

ココは昨日の朝、血を吐いたが、ピカソには言っていない。

「大丈夫かい、今日は顔色が悪いようだ。」

「ええ、心配いらないわ。」

「そう。」

ピカソはニッコリと笑って言った。

「ここ、僕達が初めてキスした場所に似てないか?」

ピカソはうっとりとした様子で思い出話を始めた。

 

しかし、ココはピカソの話など聞いていなかった。

本当に具合が悪かったのだ。

「ごめんなさい。」

ココは走って小川に向かい、血を吐いた。

ココが好きだったため、ぼんやりとついてきていたジャンという青年がココを介抱した。

「ガブリエル、大丈夫?」

 

「ココ‥!!」

ピカソも走ってきた。

「血を吐いてる。」

「ああ!」

 

「先生、それでココは?」

「大丈夫、10日‥ほどです。」

「10日ほどって何がです!!」

「10日ほどで治ります。」

メガネの先生が悲しげに言った。

 

本当は、ココは1年の命だった。

 

病に侵されながらも、1915年、ビアリッツに【メゾン・ド・クチュール】をオープンする。

もうココの命がわずかと気づいたピカソとジャンは、服作りの勉強を始めた。

「こうなれば、僕がココ・シャネルを守ります。」

ジャンは言った。

「いや‥ココは長年、僕の恋人だった。君がやることじゃない。」

 

ピカソは猛烈に服の勉強をし、服にジャージーの素材を取り入れることを思いつく。

「ココ、初めてのコレクションだ。他のブランドとは違った物をやらなければいけない。どうだ、この服は。この素材、いいだろう。」

「ええ、そうね。」

具合の悪いココは、机で針仕事をしながら言った。

「無理するな。僕はずっと君と一緒にいたいのだから。」

「ありがとう。」

 

翌年のコレクションの時、ココはもう体が動かないほどだったが、モデルに服を着せ、ステージで一瞥した。

本当は笑うつもりだったが、具合が悪かったためだ。しかし、それが評価された。

 

3か月後、ココは亡くなった。

ココは死ぬ前、お花畑を見た。

死ぬ人は誰もが見るという、幻の光景だ。

そこには、最愛の人が映る。それも相思相愛の人だ。

ココにはピカソが見えた。

ピカソは笑って、ココに花の冠をつけようとした。

『でも違うわ。』

でもピカソのこと好きだったわ

 

ココはふわふわと浮き、今まで愛してくれた男性達の間をゆらゆらと通った。

『あら、もう終わり?残念だわ。』

 

次は結婚式の光景だ。

『どうして?』

そこにいたのはジャンだったので、ココは笑った後、泣いてしまった。

 

ココは亡くなった。亡くなった時、そばにいたのはピカソだとは分かった。

 

 

マドモアゼルピカソⅡ

1918年。

最愛のココを亡くすという悲しみを共有したジャンとピカソは、ココ・シャネルというブランドを歴史上最も偉大なブランドにするという計画を、Night Caféで話していた。

 

キキーッ

遠くで車のブレーキの音が聞こえたので、ジャンとピカソは窓を見た。

「なんだ、今の音。」

「さぁ、なんだろう。」

 

その音は、カペルが事故を起こした音だった。

カペルは自殺した。その車は、ココに会いに行くための愛車だったのだ。

もうなんの意味もない。

 

 

「大変だ、カペルが死んだ。」

ジャンがピカソのアトリエに来て言った。

ピカソは眼鏡を下にずらし、聞いた。

「死んだって、なんで分かる?」

「今朝の新聞に載ってた。パブロさん、新聞をとってないのか?」

ジャンはアトリエのソファーに座りこんだ。

「とってない。アナキストなものでね。」

ピカソは筆で少し絵にタッチしたが、立って窓際まで歩いた。

 

「あいつが死ぬとはな。死ぬ必要なんてなかった。ココは僕の恋人だったのだから。まさか‥。」

 

ジャンもピカソの後ろまで来た。

「愛していたんですよ。ココは沢山の人から愛されていた。」

「ふん。」

 

空には軍隊の飛行機が来た。

 

「田舎に行きたい。」

ピカソが言った。

「こんな場所では、芸術が出来ない。」

 

「いいですよ。パブロさん、ココ・シャネルは僕が守ります。」

ジャンはまたソファーに座った。

「サイズダウンしたんです。ココになるために。ココが死んだということは、あまり知られてない。」

 

「君がココに?」

 

「ココは、歴史上最も成功するはずの女性だった。だから、ココを歴史から消したくない。」

 

 

「いい香りね。」

ココになりきったジャンと、ピカソ、ココ・シャネルの経営者のピエールは、調香師エルネストの下に来ていた。

「ふふ、そうだろう?美しいマドモアゼル。あなたを表現しました。」

 

ピエールはエルネストと、お金の話をし始めた。

 

 

『これで本当にうまくいくのか?』

『ああ。これからブランドを大きくするためには、香水を売っていかなければならない。』

 

「マドモアゼル。」

「はーい!」

 

『な、あいつ、お前をココだと思ってる。うまくやれ。』

 

「この中でどの香りがいい?」

「うーん‥。」

ジャンとピカソは香りをかいだ。

 

『どうする?』

『No.5。ココが一番好きな数字だ。手紙ではGOの代わりに5を使っていた。』

 

「OK。No.5にするわ。」

「ファイブ?クリアな選択です、マドモアゼル。特別なアルデヒドを使っています。助手が原液と10パーセントの希釈液を間違えた結果、生成されたものです。それは心がなごむ冬の香り、つまりあなたです。」

 

ジャンとピカソは笑いをかみ殺し、下を向いた。

No.5は、戦争中もよく売れた。

 

 

ジャンはココに変装して、ピカソやピエールと、夜のパーティーに出向いた。

「こんばんは、マドモアゼル。」

「イーゴ・ストラヴァンスキー。‥あなたの曲、素晴らしいわ。そこにピアノがあるわよ。1曲弾いてちょうだいな。」

ジャンが言ったので、ピカソはジャンを小突いた。

イーゴは笑いながら、首をかしげている。

「君のためなら。」

イーゴは、美しい曲を弾いた。

 

「あーら、パブロス・ピカソね!」

別の場所でセレブと話していたココジャンは、ピカソの下に来て、大きな声で言った。

みんなこちらを見た。

「パブロス、あなたの絵、素晴らしいわ。今度、私の自画像を描いてちょうだいな。」

「え‥。」

ピカソがためらっていると、1人の女性がこちらに来た。

「よければ私があなたの絵をお書きするわ。」

「え‥。」

「私はマリーローランサン。」

マリーはニッコリと笑って握手した。

 

数か月後、マリーからシャネルの肖像画が送られてきた。

開けて、2人は、あまりの美しさに息を飲んだ。

 

「美しい。」

 

「‥でも本物じゃない。」

 

「こ、こんなの、ココじゃないよ。」

忘れかけていたココの顔や雰囲気を思い出したジャンが泣いた。

「送り返そう。」

ピカソが言った。

 

『この作品は美しすぎて、とてももらえません。あなたの生涯の財産として、後世に残してください。愛をこめて。ココ・シャネル、パブロ・ピカソ。』

2人は、美しい作品をマリーに返した。

 

『ふーん。』

なんと、マリーは全てを気づいていた。

「あんなのお姉ちゃんじゃない。ガブリエルはもっとワイルドで、もっと美しい。」

『私のガブリエル。』

マリーは絵を抱きしめた。

マリーはココの妹、アントワネットだったのだ。

 

 

「こんにちは。」

2人が作業しているシャネルのアトリエに、1人の男が来た。

それは、ココの叔父であるバルサンだった。

 

「エンティエンヌさん。」

「誰かが、ガブリエルのふりをして、ココ・シャネルを続けていると聞いたものでね。‥止めてくれないか、そういうことは。」

バルサンはニッコリ笑って言ったので、2人はうつむいた。

 

「会社はどんどん大きくなってる。どうする?」

バルサンは聞いた。

 

1939年、4千人を抱える大企業となったシャネルだったが、

 

 

続く

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