多久さんの事件簿【和田コーチ殺害事件編】
「おーい、みんな集まれ。」
マントヒヒクラブのコーチが集合をかけた。
「はい。」
「実は、横浜のチームのコーチの和田さんが突然亡くなったそうだ。お前達も、よく会っていただろう。」
多久は和田さんのことを思い出した。
「岩名君、ナイスプレー!」
そのことを思うと辛くなり、多久は少し泣いた。
実際、和田さんは、殺害された。
毒殺だ。
和田さんは、横浜チームの次期監督と噂されていた。
殺したのは、コーチより下の、アドバイザー、山門(やまと)さんである。
夜、今日は来る予定でない、山門さんが事務所に来て、お茶を入れていた。
横浜チームでは、選手やコーチが何人か不審死を遂げており、犯人が山門さんだと噂されていた。
和田さんは心を決めた。
「今日はどうしたの?」
「いえ、ちょっとボールを取りに来たんです。」
「ボールを?」
「ええ、先生、お茶をどうぞ。」
「ふん。‥山門先生はどうしてバスケを教えているんですか?」
「好きだからです。」
「そう、でもね、バスケが好きより、人を好きじゃなきゃ、ダメなんです。昔、和弘君が亡くなったでしょう。何か知らないですか?」
「さぁ‥昔のことですので、ちょっと。」
和田さんは目を閉じ、お茶を飲んだ。
強く湯飲みを置き、激しい口調で言った。
「どうして私なんですか!あなたに今までいろいろ教えてあげたでしょう。」
「え‥。」
「ちょっと、帰る。」
和田さんは、体育館の外の階段で倒れこんだ。
「和田さん、和田さん。」
山門さんは和田さんの体をゆらしたが、和田さんは起きなかった。
山門さんは逃げた。
和田さんはその後、また起き、事務所に行き、息子に電話した。
「もしもし、今から迎えに来てくれるか?お父さん、もうダメかも。」
息子が来た時には、和田さんの意識はなかった。
「お父さん、救急車か。」
「あ‥。」
「そうだな。呼ぶぞ。」
和田さんは病院で息を引き取った。
寺田監督は、山門さんに聞いた。
「お通夜、行かないか。」
「いや‥ちょっと‥。」
「そうか。」
「お葬式。」
寺田監督は家まで迎えに来た。
「いえ、私は、この後、練習がありますから。」
「練習なんて休めばいいでしょう。」
「でも、生徒達待ってるし。」
寺田監督は目を伏せた。
山門さんはシラを切り続けた。
みんな目を伏せた。
警察でさえも。