アイとテツ

May 14, 2018

アイとテツ

ピピッ‥

新田テツ27才は、スマホを見ながらため息をついた。

今は、取引先のスーパーで、Faxを送っている。

副店長が伏し目で、事務所に入ってきた。

「副店長、Fax送れたので、僕はこれで、帰ります。」

「あ、そう?お疲れ様です。」

副店長とは元々知り合いなので、この店に来るのは楽だった。

でも今日は、少し様子がおかしい。

「どうしたんですか?」

「今日さ、女の子も来たんだね。」

「え‥。女の子?」

「山田さん。」

「ああ。」

アハハッ‥テツは笑ってしまった。

テツの会社の、少々うざい子だ。

 

スーパーの店内を歩くと、スーツ姿の山田さんが、お菓子を見ていた。

「山田さん。‥どうしたの?」

「あ‥テツさん。」

「うん。今日、来ることになってなかったでしょ。」

「私も、現場知りたいので。」

「現場?」

 

テツは、山田さんを助手席に乗せ、会社の車を運転した。

 

午後3時。

テツの下に、山田さんが来た。

「これ、新商品なんですけどぉ、今みんなで、この商品で世界目指そうって話してたんですよ。」

「世界?これで?」

テツは、新商品を手にとり、しげしげと眺めた。

 

「へー。」

「へーってなんですか。へーって。」

「別に。頑張れば、きっと叶いますよ。あなた達なら‥。」

 

午後5時。

テツは朝8時から働いている。今日は終業の時間である。

ふぅ‥。

帰り際、会社の前にある自販機で、テツは温かいお茶を買った。

アイのインスタグラムを見る。

フォロワーは4人しかいない。

4は、最悪な数字だ。

 

「テツさーん。」

山田さんだ。

「ああ~。お疲れ様。」

「何見てるんですか?」

「なんでもないっ。」

「いいじゃないですかぁ。」

「ちょっと、勝手に見ないでくださいよぉ!」

「ああ~~。インスタ?」

「ああ‥。」

「私もやってますよぉ、ほら。」

「あ‥ホントだ。結構フォロワーいるんだね。」

「はい。」

山田さんはニッコリした。

 

金曜日。

「今日早いですね。プレミアムフライデーとかいらないって言ってたのに。」

山田さんが話しかけた。

「今日、プレフラじゃないじゃん。第一金曜日だよ。」

「あー、そうですよね。でも‥もう帰っちゃうんですか?」

「うん。半休。じゃ、お疲れ。」

「お疲れ様です。」

 

今日はアイに会う。

アメリカで、モデル兼絵描きをしているのだ。

テツは鼻歌を歌いながら、花屋で小さなブーケを買った。

 

駅前で、アイは、ヘッドホンで音楽を聴いていた。

「アイ!」

「あー。久しぶりぃ!」

アイは男だ。

「これ、ほら。」

「花ぁ?!」

「綺麗だろぉ。」

「花とかいらないよ、俺。」

 

「ごめんね、見たい映画に付き合ってもらっちゃって。」

「いいよ。」

「慧海(えかい)として今度、この監督の映画に出るんだ。」

「慧海?本名で?アイを捨てるってこと?」

「そういうわけじゃないけど、女に間違えられやすいから。あ、でもぉ、今まで通り、アイって呼んでいいから。」

 

 

「映画、面白かったよね。」

アイはそう言いながら、カラオケ店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「2名。」

「おタバコ吸われますか?」

「いいえ。」

「ドリンクバーおつけしますか?」

「お願いします。」

 

2人はドリンクバーに寄り、エレベーターで、番号の部屋に向かった。

「カラオケとか、久しぶりだなぁ~。」

「先に歌っていい?」

「どうぞ。」

アイは、十八番である尾崎豊のアイラブユーを歌い始めた。

 

カチャ

音がしたので、テツが見に行くと、バイオリンケースを持った女の子が逃げて行った。

「知り合い?」

間奏の間に、アイが聞いた。

「うん。最近、俺の後をつけている子。」

「ストーカー?!」

「そう。」

「大変だね‥。」

 

2人は交互に歌った。

「あの‥俺ちょっとトイレ。」

「うん。」

テツが女の子の部屋をのぞくと、ストーカーの蒼穹(そら)は、バイオリンを弾いていた。

 

 

月曜からの仕事はいつも通りだった。

山田さんはこの会社にコネがあり、テキパキと仕事をこなしているが、少々バカである。

そんな中、事件が起きる。

例のスーパーのゴミ箱に、人の遺体が捨てられていたのだ。

 

テツがいつものように、スーパーの事務所に行くと、副店長が、警察から事情聴取をされていた。

「どうしたんですか?」

テツが、冷食担当の小名木さんに聞いた。

「いや、今朝ね。ゴミ箱に、人の足が捨てられていたの。」

「え‥。」

「まだ、お客さんにはコレだけどね。」

 

テツは、真っ赤な顔で、会社があるビルの3階にある、無料ラウンジの椅子に座り、白いテーブルに肘をついた。

 

「どうしたんですか?」

「山田さん。」

「はい、お茶。」

「いや‥なんでもないよ。」

「ええ‥。話してくださいよぉ!」

「ホント‥なんでもないから‥。」

テツは、溢れてくる涙を手で隠した。

 

数日後。

テツは、辞表を提出した。

「辞めるって、なんで言ってくれないんですかぁ!」

山田さんが追いかけてきた。

「山田さん。ごめん。」

「いいですけどぉ。新田さんにはお世話になったので、最後にお礼言いたくて。はい、これ。」

「ええっ。」

それは、デパート等で売っている、少しだけ高級なクッキーだった。

「新田さん、お元気で。」

「ありがとう‥。山田さんも、元気でね。」

「はい!」

山田さんはニッコリと笑った。

 

 

テツは会社を出たが、会社があるビルの3階の無料ラウンジでは、髪が長めの男が、白いテーブルに突っ伏していた。

「あの‥、新田君なら、もう出たよ。」

「えっ。」

男は顔をあげた。アイだ。

 

 

テツは雑踏の中を、いつもよりゆっくり歩いた。

次の職場はまだ、決まっていないのだ。

 

「テツ。」

走ってきたアイは、テツの腕をつかんだ。

「アイ。」

 

「どうしたの?」

「俺、映画、ダメになった。」

「ああ。俺も今日、仕事辞めたから。」

 

2人は、アイの家で一晩を過ごすことにした。

「なんで、仕事辞めたの?」

「取引先で事件があったから。」

テツは、伏し目で答えた。

「事件?」

「殺人事件。殺された人の足が、スーパーのゴミ箱に、捨てられていたんだ。」

「うわー。酷いね。」

「アイは?映画ダメになったって。」

「ああ。エロい映画だったんだ。」

「そっか。」

 

つけてあるテレビは、とても賑やかだ。

 

「どうする気?」

アイが聞いた。

「まだ決まってない。」

 

プルルル

「あ、はとこだ。」

 

「もしもし。」

 

 

2人は、アイのはとこの家で、農業をすることになった。

テツとアイは幼馴染なので、実家から通う。

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