戦友2【出発】

May 27, 2018

戦友2【出発】

二十歳の時に結婚したメメという女性は、3回目の結婚で26才だった。

今までに、子供を4人生んでいるらしい。でも1人は死産だった。

 

4月に、親の勧めで結婚した。

それ以降、メメの叔父と叔母の家で、農作業をしながら、一緒に暮らした。

メメは役場に仕事があるとのことであったが、大抵は家にいた。

役場で、上司の男に言い寄り、首になったのだ。

 

「どうすんだ。こんな給料で!!」

夜九時。叔父の怒鳴る声が聞こえた。

清明がそっと見に行くと、叔父と叔母の前で、メメが泣いていた。

「いい、メメちゃん。あなたの給料は、30円よ。」

「うっ‥。」

 

「あの‥。」

清明が声をかけた。

「メメの給料が低くても、俺がなんとかしますから。」

 

叔父と叔母は、顔を見合わせた。

「そうは言うけど、お前は、俺の畑で銭を稼いでるんだぞ。なぁ、前に言っただろう?野菜は銭だってさぁ!」

「ちょっとあなた。」

「俺の畑の銭は、俺のもんだ。」

叔父は、清明につめよった。

 

次の日の朝。

叔母は、白米を盛りながら言った。

叔父は、漬物をつついている。

「俺の畑の銭は、俺のもんだって言ったじゃない。銭って、野菜でしょう?その野菜が、全部あなたのものなの?」

「はは、それは違うな。」

「ねぇ?昨日の言い方は、あんまりよ。」

 

「あら。」

「おはようございます。」

清明が頭を下げた。

「おお、おはよう。昨日は悪かったな、あんな言い方して。」

「いえ、とんでもありません。」

 

「もう、2人とも仲良くしなさいよ。清明君、メイコちゃんはまだ休んでいるから。少し、具合が悪いみたい。」

「そうですか。」

 

朝食の後、清明は、メイコの様子を見に行った。

「メイコ、大丈夫か?」

「うん‥。」

「どうした?」

清明は、メイコの体を布団の上からさすった。

 

「妊娠したかも‥。」

「妊娠?」

「うん。アキちゃんの子。」

「そう‥。」

清明にはまだ、身に覚えのないことだったので、うつむいた。

 

清明は、縁側を歩きながら思った。

メイコが宿しているのは、多分、叔父さんの子だ。

 

農作業の休憩の合間、清明は座って考えた。

 

ブーン

 

青空には、飛行機が飛んでいる。

もうすぐ戦争が始まるのだ。

 

「そうか。戦争だ。」

 

清明は立ち上がった。

 

休日。

「あら、アキちゃん、お出かけ?」

叔母が話しかけた。

「はい。中学時代の友人に会うんです。」

「そう。楽しんでね。」

「おお、清明。出かけんのか。」

「中学時代の友人に会うんですって。」

「そうか。銭はあるか。」

「はい、あります。」

清明は家を出た。

 

中学時代の友人に会うというのは、嘘だ。

役場の知り合いの新島総に会いに行くのだ。

 

「お、清明。」

「どうも。」

「どうしたんだ?俺は今、仕事中だぞ。」

新島総は、ズボンの後ろポケットから、メモ用紙を取り出しながら言った。

「わざわざ会いに来るなんて、何か、よっぽどの用があるんだろう?」

 

清明は、新島の前にかがむような感じで言った。

「な、もうすぐ、戦争が始まるだろう?」

「ああ。そうだ。アメリカに、占領されないためのな。」

「徴兵が出たら、まず俺にくれ。」

「何?」

「だから、徴兵の赤紙は、まずに俺にくれ。」

「俺が手配をするのか?」

新島は、立ち上がったので、みんながジロジロと見た。

「ちょっと‥。」

 

「お前、戦争で、勲章がもらいたいのか?それで、偉くなりたいんだろう。」

「違う。そんなんじゃない。」

「いや、そうだ。そうに決まっている。」

「違う。妻のメイコが、妊娠したけど、俺の子供じゃない。叔父の子供なんだ。」

「お前は、妻と何もやっていないということか?」

「そうだ。この通り、助けてくれ。」

「俺に出来ることはな。もうどいてくれ。お客が来てる。」

清明が後ろを見ると、にこやかな老人が、待っていた。

 

「おーい。」

買い出しをして、夜道を歩いていた清明に、新島が話しかけた。

「ん?なんだ、新島か。」

「なんだとはなんだ。」

「いや‥。」

日に日に大きくなっていくメメのお腹に、清明は不安を感じていたのだ。

「奥さんのことか?」

「うん‥。もしも本当に、俺の子供じゃなかったらと思うと怖いんだ。」

清明が言い、新島は星空を見上げた。

 

「ほら。兵士の募集だよ。」

「え‥。」

「前に言っていただろう?赤紙が来たら欲しいって。」

「あ‥。うん。」

清明はびっくりした顔で、日本兵の募集要項を受け取った。

 

「じゃ、俺はこれで。奥さん、待ってるから。」

新島は、腕を曲げ、わざとらしくふりながら、歩きだそうとした。

 

「新島。」

「え?」

新島は振り返った。

「ありがとうな。」

「あ、うん。」

 

途中、雨が降ったので、新島は黒い鞄で頭を隠して、家に向かった。

 

自宅前まで来ると、新島は垣根から家を覗いた。

玄関で、妻と男が話している。

 

「じゃあな、桃子。」

「うん、ヤマちゃんも気をつけてね。」

「じゃあな、チー坊。」

ヤマは、新島の妻の桃子が抱っこする赤ん坊の頭をなで、行ってしまった。

 

「あ‥。総さん。いたの?」

「うん。」

「ご飯、出来ているわよ。」

「うん。今、ヤマがいたね。」

「ええ。次郎を可愛がってくれているの。」

「ふーん。」

「ご飯、用意するから。」

総は、桃子から次郎を受け取り、桃子の背中を見つめた。

総は目を落とした。次郎の顔はどことなくヤマに似ている気がする。

次郎の前に、一郎がいたが、4才で市長の養子に出した。

市長には、跡継ぎがいなかったのだ。

 

3人で食事をとり、次郎を寝かせると、夫婦のお茶の時間だ。

桃子は、総に緑茶を淹れた。

「あの‥。」

「どうしたの?」

「俺が戦争に行くって言ったら、どうする?」

「まぁ、少し嫌かな。」

 

「行くの?」

「うん。行こうと思ってる。」

「そう‥。」

桃子はうつむいた。

 

 

清明と総は、兵に志願することにした。

1940年の出来事である。

 

「総!戦争に行くって本当か?」

「うん。」

役所の外のベンチで、弁当を食べていた総に、ヤマが話しかけた。

「じゃぁ‥俺も行こうかな。」

「ホント?」

「うん。俺は独身だけどさ、お前はいいのかよ。桃子と次郎のこと。」

ヤマが言うと、総はうつむいた。

「実をいうとな、俺と桃子は、兄妹なんだ。」

「え?」

「そう。桃子は生まれてすぐに、養子に出された。今まで、黙っていてごめんな。」

 

「せんせーい!」

弓道の袴姿の男子学生達が、ヤマを呼んだ。

ヤマは、中学校で体育教師をしている。

 

「じゃ、俺、行くわ。」

「行くってどこに。」

「生徒達の所。」

ヤマは、生徒達の所に行ってしまった。

 

ヤマも、軍に志願することになった。

ヤマのお別れの式は、学生達が弔辞を読み、盛大な感じだった。

総と清明は、後ろから見守った。

 

もちろん、民(ミンク)も行くことになる。

 

「総ちゃん。」

「桃子。」

「いってらっしゃい。」

「うん。」

総は、桃子と次郎の手を握った。

 

「おーい、清明!」

伯父夫婦と、メメだ。

「気をつけてな。必ず戻ってこいよ。」

「はい。」

清明は敬礼をした。

 

「アキちゃん、これ。」

メメは、手作りのお守りを手渡した。

「ありがとう。」

「もうすぐ、生まれそう。」

「そうだね。」

 

「さぁ。もう行け。」

伯父が言った。

 

その汽車には、宮高真人(マージン)、東寺力(リキ)、赤山之道(ノリミチ)。

多久やマロ、リンチルも乗っていた。

 

まずはみんな、千葉にある校庭に集められた。

終戦時に戦犯となる隊長が挨拶をした。後ろには、巧達がいる。

 

まずはそこで一週間の訓練を行い、チーム分けされることになっていた。

 

「戦争って難しいよねぇ。ね、ノリちゃん。」

訓練の後、水道で顔や手を洗いながら、リンチルが言った。

多久、マロ、リンチルは、ノリと昔から仲が良かった。

 

「うん。」

「どうせなら、みんな同じ団がいいよなぁ。」

マロが言った。

「えー、マロとは別がいい。」

「え‥。」

「だって、殺しそうだもん。俺のことさ。」

「そんなことするわけねぇっぺ。なぁ、多久。」

「さぁぁ。」

多久は愛想なく答え、伸と話し出した。

 

「つれねぇヤツだぜ。」

 

マージンは手に擦り傷を負ってしまっていた。

「大丈夫か、その傷。」

ヤマが話しかけた。

「うん。」

「ほら、こうやって。」

ヤマが軽く包帯を巻いた。

 

マージンは、夕食の席で暗くなっていた。

「マージン。」

ノリが覗き込んだ。

「うん。」

「大丈夫?」

「うん。」

「無理するなよ。」

 

「戦争行きたくないわ。」

佑ジャンが、同じ年齢の小僧達と話している。

まだこの時は、ミツジやナツはいない。

ミツジとナツは、訓練や試験を受けず、ツテで軍に入った者達だった。

 

「じゃぁ、行くな。やる気がない者がいても邪魔になる。」

ノリが言った。

「えー。」

「お前達は、誰かの命令でここに来たのか?国を守るため。国を乙女を守るためにここに来たんだろう。」

「うん‥。」

「すいませーん。」

「僕、やめるのやめます。」

小僧達は、ノリに言われ、少し反省したようだ。

 

「向子‥。」

夜、マージンは、幼馴染の写真を見た。向子(むきこ)という名前だ。

 

「それにしてもつれないよなぁ。」

布団でマロが言った。

「女の写真なんか見ちゃってさぁ。」

 

「ちょっとやめなよぉ。もしかして、向子さんのことが好きなの?」

リンチルが言った。

「好きじゃねぇよ。わがままだぜ、アイツ。」

マロが言ったので、マージンは無視して横になった。

 

「惚れたもん勝ちってわけじゃねぇだろう‥。」

「やっぱ、好きなんだ。」

「違うって。」

マロとリンチルはこそこそと話し続けたが、マージンは無視して目を閉じた。

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