SURF

January 27, 2019

Surf

今回の話は、ブラジル、サクアレマのサーファー、ダヴィ・コスタの物語である。

 

サングラスをした1人の男が、海岸沿いを、白い車で走っている。

 

ランドセルを背負った小学生たちが、笑いながら歩いてくる。

1人の男の子がポケットから小銭を出した。

周りの子もニヤニヤと笑う。

それは禁じられた遊びだった。

自販機に小銭を入れ、コーラを2本買った。

買ってもらった子供はすぐに口に運び、

買った子供がコーラを振り、開けると、勢いよくコーラは飛び出した。

夕日はとても綺麗で、子供達の笑う顔を美しく照らした。

 

サングラスの男が来た。

白い車の近くには、女が立っている。

男は聞いた。

「コーラ?」

聞かれたダヴィは思わずうなずいた。

サングラスの男は、他の子供達にもコーラを買ってくれた。

サングラスの男は、女のためにファンタを買い、自分には缶コーヒーを買っていった。

 

子供達はコーラを持って、上機嫌で家に向かう。

ベンチでオジサンが読んでいる雑誌の記事には、先ほどの男が載っていた。

『レオナルド・カリバーリョ』どうやら、20歳の天才サーファーみたいだ。

 

高校生になったダヴィは、白いシャツと黒い学生ズボン、リュックを背負った姿で、

ズボンから小銭を取り出し、数え、小学生の時に悪い遊びをした自販機でコーラを買った。

小学生の時より自販機は増えていた。

どうやら、一番端の自販機の影に誰かいるようだ。

1人の男が立ち、誰かがしゃがんでいる。

ダヴィは顔をしかめ近寄ると、顔を出したのは、ガブリエウ・フェレイラだった。

しゃがんでいたのは、黒髪でアジア人っぽいニコラス・イワツバメである。

ガブリエウはぶつぶつと話し、ニコラスはニヤニヤと笑って聞きながら、スマホゲームをしていたようだ。

ガブリエウは紫の学生服を着ており、ニコラスは黒の学生服を着ている。

2人ともとてもかっこいい。

 

「よぉ、ダヴィ。」

「うん。どうしてここに?」

「どうしてって。ここはたまり場だろう?」

「最近、いなかったから。」

 

あはは

ニコラスは顔を上げて、少し笑った。

ガブリエウは言った。

「サーフィンをやってる。」

「ああ‥。そうか。」

ダヴィは少し真剣な目になり、2人を見た。

「それで、出来るのか?」

 

「まぁ‥なぁ?」

ガブリエウとニコラスは目配せをした。

「お前もやらないか?」

ニコラスは聞いた。

「それは、親に聞いてみないと。」

ダヴィは答えた。

 

ガブリエウは聞いた。

「親父さんがダメって言うのか?」

「昔、やるなと言われた。」

 

ダヴィは家の玄関に浮かない顔で入った。

「ただいま。」

「ああダヴィ、おかえり。」

お母さんが顔を出した。

「今日、仕事は?」

「母さんは夜からだから。」

「父さんは?」

「父さんは、8時くらいに戻るから、ご飯を出してあげてね。」

「わかった。」

 

「サムエウは?」

「まだ帰らない。サッカーをやっているから。」

母親が言い、ダヴィは天を見た。

両親からしつこいほどに、サッカーを進められたのに、やらなかったのだ。

 

ダヴィは、台所の椅子に座り、洗い物をしていた母親は振り向いた。

「どうしたの?勉強をしなさい。」

ダヴィは黙りこんでいる。

「ああ、何か食べたいの?まだちょっと早いけど。」

 

「あ‥。」

ダヴィは言葉を飲み込んだ。

「言ってみなさい。」

「サーフィンをしたいんだ。」

 

「ああ‥。母さんじゃ分からないから、父さんが帰ってきたら聞いてね。」

「うん。」

ダヴィはうなずき、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。

家に帰ると、とりあえずマガジン(漫画)をめくるが、今日は読む気はない。

 

25歳になったレオナルドは、南米一のサーファーになっていた。

次に目指すのは世界王だ。

ダヴィはブラジルの動画サイトで、レオナルドの試合とインタビューを見た。

レオナルドはカメラに向かって、男の投げキスのような物をした。

決まっている。

ダヴィは真似してやってみた。

 

今まで、ダヴィは勉強をやっていた。

スポーツをやれば、どんどん体に吸収していく成長期の男の体をもてあそばせていた。

友達に誘われて、ビーチバレーはよくやっている。

学生服を砂だらけにして、友達と笑い合うのは、最高に楽しい。

サクアレマという場所にいると、本気でスポーツをやるなんて、バカらしく思えてくる。

だから、本気で勉強をやっていた。

 

ベッドに寝転んだダヴィは、ビーチバレーボールを、部屋に置いてある鉄カゴに投げ込んだ。

 

サクアレマだって、夜は暗い。

月は輝いていた。

「どうしてダメなんだよ!!」

ダヴィは親父に向かって怒鳴った。

「ダメだ。お前は勉強をすると言っていただろう。」

 

サッカーのユニフォームを着たサムエウは気まずそうに、風呂場に向かった。

 

「だけど、もう、勉強はやめたいんだ。サムエウだって、サッカーをしているだろう?」

「いいか、サッカーはな、ブラジルの誇りだ。

伝説のために戦うのなら、俺はいくらだって金は出すよ。でも、サーフィンは違う。」

 

ダヴィは親父を睨んだ。

「なんで?」

 

「サーフィンで死んだ子を知っている。とにかくダメだ。」

 

次の日も学校だった。

ガブリエウやニコラスとは違う学校だ。

ガブリエウとニコラスの高校の方が、風紀が自由で楽そうだった。

こっちの方が、勉強が難しい。

 

英語の授業中、校庭を見ると、2年の女子の先輩達が、ブルマ姿でビーチバレーのようなことをしている。

ダヴィは顔をしかめた。

美しい先輩たちの体に、傷がついてしまう。

あまりにも先輩たちが可愛いので、ダヴィは黒板に目を戻した。

ダヴィは気づかれないように、貧乏ゆすりを軽くした。

可愛い先輩と遊ぶ道もあるが、そんなことをすれば、高校生活が台無しになる。

いや、そんなことをしない方が、高校生活が台無しになるというヤツもいるが、

ダヴィは違った。

最近、気づき始めた。

自分には、スポーツ選手の素質がある。

なれるかはわからないが。

物思いにふけって、1人きりで廊下を歩きたいのに、

ダヴィが歩くと、いろいろな奴らが声をかけてくる。

「ダービ。」

チビで可愛いベアトリスが手を振った。

「Hi」

 

「ダヴィ。」

階段の所で、ダヴィの肩を抱いてきたのは、エイトール・リベイロだ。隣にはマテウス・ピントもいる。

「びっくりした。突然やるのは、危ないよ。」

ダヴィは階段を降り始めた。

「ごめん。今日、一緒に映画行かないか?」

「パス。勉強がある。」

「どうしてだい?テストなら、終わったばかりなのに。」

エイトールが言い、ダヴィは立ち止まった。

「三週間前に終わったばかりだよ。」

マテウスは言った。

「ダメだ。映画より、やりたい事がある。」

 

「それって、サーフィンだろう?」

「え‥ちがうよ。」

ダヴィは言った。

 

「当たりだ。」

マテウスはニヤニヤした。

「じゃあ、サーフィンをやろうか?俺の兄ちゃんの知り合いに、サーファーがいるから。」

エイトールは笑った。

 

その日、ダヴィ達は図書館に立ち寄り、本を読んだりした後、帰宅をした。

 

両親は食事をしていた。サムエウはまだ帰ってきていない。

「俺、今度、エイトールの知り合いのサーファーと一緒に、サーフィンしてもいい?」

「今度っていつ?」

母親が聞いた。

「日曜日。」

「友達の知り合いか?」

「友達の兄ちゃんの知り合い。」

 

母親は親父を見た。

「一度やってみて、ダメならやめろよ。」

「わかった。」

 

ダヴィは寝る前に、部屋を暗くして、家庭用プラネタリウムをつけた。

弟と一緒に買ったのだ。

弟はプラネタリウムをもう見ない。それよりも大切な物が出来たみたいだ。

 

昔、小学生のころに、父親と一緒にサーフィンをした事を思い出した。

最初は全然ダメだったのに、何度かやっているうちに立てるようになった。

父親はその頃からでっぷりと太っていたが、まるで細身の男が見えた気がしていた。

夢中になってやっているうちに、その細身のサーファーと一緒に波に乗っているような気分になった。

息子が波に飲まれないように、細身のサーファーは海の中に立ち、見張っている。

我に返ると、その人は太った自分の父親アルトゥールだった。

 

帰り道に、手をつなぎ、ダヴィは父親を見た。

やっぱり、父親はデブだ。小学生のダヴィは安心して、ニッコリと笑った。

 

 

「この人が俺のお兄ちゃん。」

エイトールは兄を紹介した。

「ハファエウだ、よろしく。」

「今日はよろしくお願いします。」

ダヴィは礼儀正しくすることを心がけた。

 

後ろから、サーフボードをかついだ男が来た。

肌は焼けていて、短髪の黒髪はとても清潔そうだ。

ハファエウは言った。

「今日、サーフィンを教えてくれるエンゾ・メンデスさんだよ。」

 

「よろしく。」

「よろしくお願いします。」

 

エイトールとマテウスはニヤニヤとした。

もう会った事があるようだ。

 

「エンゾは、高校の時、全国大会で優勝したことがある。」

「すごい。」

「たいした事ない。レオナルドには、全然歯が立たなかった。」

エンゾは笑った。

現在22歳のエンゾは、去年、25歳のレオナルドと対戦した。

同じ波なのに、神はレオナルドに味方をしているように思えた。

エンゾは全然技を決められず、しばらく海に浮いていた。

 

自分の目に、自分の歯に、サーフボードが当たらないように波に乗っていたのを思い出した。

ピーッ

ホイッスルがエンゾを呼び、ようやくエンゾはサーフボードに腹をのせ、

波をかき、砂浜に向かった。

 

砂浜に上がったエンゾの目に、サーフボードが目に当たり、潰れてしまっても、

サーフィンを続けている仲間の顔が浮かんだ。

エンゾは砂がついた塩っぽい手の腹で、目を抑えた。

 

ダヴィ達に、見本を見せようとサーフボードに乗ったエンゾは、一瞬、その時の事を思い出してしまった。

なぜ、海の神が、あの人に味方をするのかは分からない。

 

エンゾはとても速いスピードで波に乗り、とても難しい大技を見せてくれた。

この海岸の波とは、もう友達だ。

自分はイルカで、この波が一番の相棒のような物だ。

 

ここの波は、自分には良い波をくれる。

全く波立たない日もあるが、それはきっと‥。

何かを探せという事だ。

一度、女の子の赤いビキニを発見したが、それがどんな意味を持つのかは、想像したくなかった。

 

エンゾが大技を決めるたびに、砂浜の者達は歓声を上げた。

ビキニの女の子達も、セクシーな目線を向けている。

エンゾは少し嬉しくなった。

 

サーフボードを担ぎ、ダヴィ達の下へ向かう。

ビキニの女の子達をちらりと見て、自分の髪をなでた。

ああ、この選ぶ感じがとてもいいんだ。

 

ダヴィ達は拍手していた。

ハファエウは言った。

「やっぱり、君は最高だ。」

「そうかい?」

「ああ。」

 

「ダヴィ、君も、さっそくやってみよう。」

ほとんど初心者のダヴィに、エンゾは基本的な事から、丁寧に教えてくれた。

 

ダヴィは、最初は倒れたが、15分くらいやって、すぐに立てた。

「君には素質がある。」

エンゾは言った。

 

エイトールとマテウスも練習をしている。

 

ガブリエウとニコラスも海岸に来ていた。

ガブリエウは黄金に近く焼けた肌で、髪は金に近い。

目を細めて、ダヴィを見た。

 

練習の後、砂浜にある屋根付きベンチで、ダヴィは言った。

「今日はありがとうございました。何かお礼を‥。」

「いや、大丈夫だって。あれを見ろ。」

ハファエウは笑った。

屋根付きベンチの壁に貼られていたのは、エンゾのポスターだ。

エンゾは、モデルも時々やっていた。

「心配しないで。」

エンゾはゴールドの腕輪をつけ、ブランド品らしきパーカーを着た。

 

 

サーフィンの国際試合。

健闘したエンゾの後ろに、ダヴィもいる。

女子達はビキニを見せているか、へそ出しだ。

一斉にシャッターが押される。

エンゾは振り向いて言った。

「シャッターとかは普通だから。」

 

エンゾはすまし顔で観客達を見渡し、1人ゆるいTシャツを着ている黒髪で太ってメガネの女子を一瞥した。

エンゾはすまし顔で目をそらすと、本命の彼女に近寄り、頬にキスをした。

キャー

女子達は騒いでいる。

 

メガネの人はどこかに行ってしまった。

 

次にレオナルドの登場だ。

歓声はより一層高まった。

みんなレオナルドに手を出す。

レオナルドはクールな感じで、観客達の手を触り、片方の手で数えながら、出来る限り全員の顔を見た。

かっこいい。レオナルドはお洒落だ。

 

「ダヴィ。」

振り向くと、灰色っぽい茶色髪で、前髪がかわいい女の人がいた。

「先輩?」

ダヴィは言って、首を少し振った。

高校で見た先輩ではない。

 

ダヴィは夢から目覚めた。

 

親父は機嫌が悪く、ダヴィを無視したが、母親は神妙な感じで、ダヴィに挨拶した。

「おはよう、ダヴィ。」

「おはようございます。」

 

「僕、サーフィンをやりますから。」

ダヴィが言っても、親父は何も言わない。

 

ダヴィは家を出て、母親は親父を見た。

 

ドン

「何?」

放課後、玄関が混む時間、ジャージ姿でラクロスラケットを持ったベアトリスが、

友達と話しながら、さりげなくぶつかってきた。

「あら、ごめんなさい。」

「いいよ。許そう。」

ベアトリスはダヴィが好きなので、なんと言ったらいいか分からない感じだ。

 

「これから部活?」

「ええ。」

「頑張ってね。」

「ありがとう。」

 

ダヴィはベアトリスに手を振り、エイトールとマテウスと一緒に学校を出た。

玄関から、ベアトリスはダヴィの後ろ姿を見た。

「ああ‥、行っちゃった。」

 

ベアトリスは顔を少し得意気に戻し、友達と校庭に向かった。

 

ダヴィは、エンゾから古いサーフグッズをもらった。

 

別の日の放課後、ガブリエウとニコラスと合流して、サーフィンをすることになった。

砂浜の自販機は、今、業者の人が来て、入れ替えをしている。

ガブリエウとニコラスは飲み物を買いたいようだ。

 

自販機の隣で、3人は話した。

ガブリエウは聞いた。

「親父さんの許可は出た?」

「出ない。でもやりたい事だし、こんなに楽しい物は初めてだから。」

「まぁ、最初から無理は禁物だぞ。相手は海だからな。」

ニコラスは言った。

「分かってる。」

 

ガコン

はっ‥

見ると、綺麗な女性が飲み物を買いに来ていた。

ダヴィは息を飲んだ。

夢で見た女性だ。

女性は微笑み、行ってしまった。

 

海へと歩きながら、ガブリエウはダヴィを小突いた。

「知り合いか?」

「いや‥違う。」

「じゃ、好きな人?」

ニコラスも聞いた。

「いや、違うよ。」

 

「いいか。サーフィンは神聖な物だよ。恋愛は一切禁止だから。」

ガブリエウは言った。

 

海に向かいながら、ガブリエウは振り向いて言った。

「おーい。あと、人にぶつかんなよ。」

「あ、そっか。」

 

「じゃあ、どうすればいい?」

「落ちろ。」

ガブリエウは言い、ニコラスとガブリエウは、サーフボードに腹を乗せ、海に入った。

 

 

その後も高校は休まず通った。

前よりも、家でのご飯は美味しく感じる。

毎日が生き生きと輝いた。

 

 

2人の男が、チリの空港で話していた。

28歳の白人のチリ人ギジェルモ・サントスと、黒人チリ人のイニゴ・アモである。

空港のアナウンスが流れている。

ギジェルモが聞いた。

「飛行機の中で何する?」

「映画を観る。いつも楽しみにしているんだ。」

「そうか。俺は音楽でも聴きながら、寝ていこうかな。」

 

2人は歩き出した。

イニゴが聞いた。

「飛行機に乗るのは、いつぶりだ?」

「3ヶ月ぶりだよ。この前は、サイパンに行ったんだ。サーフィンの試合でね。」

「そうか。俺は9カ月ぶりだ。前回はバスケットボールの取材で、パリに行った。

黒人だから、よく仕事が回ってくる。」

 

前からCAが歩いてくる。

キリリとして、モデルのようだ。

いや、モデルより人形らしい。

 

ギジェルモは振り返って彼女を見て、首を振った。

「選手としてじゃないと、まるで無視だよ。」

「仕方ない。彼女達は、セレブの接待がしたくて、CAをやっているんだから。」

 

2人の飛行機は飛び始めた。

「ああ。イヤホンをどこにさすんだろう?」

「ここ。」

イニゴが指さした。

 

イニゴは映画をつけ、ギジェルモはアイマスクをして、毛布をかぶり、寝る準備に入った。

2人はビジネスクラスで、窓際の席だが、夜なので、綺麗な海は見られなそうだ。

ギジェルモはちらりと夜景を観た。

「キレイだ。」

 

「へぇぇ。そうかい。」

イニゴは興味なさそうだ。

「綺麗だよ、ほら。」

ギジェルモは窓のシャッターを開けた。

 

「興味ない。飛行機に乗るのは、特別な事だからな。」

イニゴは言った。

「いいか?俺達の婆ちゃんも爺ちゃんも、飛行機に人生で一度しか乗らなかった。

まだ乗ったことのないチリ人だって、たくさんいる。」

 

「そうだな。でも、楽しもう。久しぶりの観光だもん。」

ギジェルモはイニゴの手をとった。

こう見えて2人は従兄弟で、恋人ではない。

 

2人が空港に着いた時、もう朝になっていた。

「はああ。よく眠れた。高い場所の方が良く眠れるな‥。」

ギジェルモはつぶやいた。

 

サクアレマのターミナルには、強いサーファーのポスターが貼ってあった。

レオナルドとエンゾもいる。

 

「とりあえず、メシ食うか?」

「そうしよう。」

 

レストランに入り、2人は食事をすることにした。

「午後はサーフィンをする?」

イニゴは聞いた。

「そうだね。いい?」

「もちろん。」

 

食後のコーヒーを飲みながら、ギジェルモはレストランを見渡した。

「レオナルドはなぜ、リオオリンピックに出なかったんだろう?」

「聞いた話によると、左足のケガだって。」

「そうか。残念だな。出ていれば、きっと金メダルをとれていた。…あれ?次のオリンピックはどこだっけ?」

「東京だよ。」

「終わってる。」

ギジェルモは言った。

 

「そんな言い方ないだろう。東京の人達は、今、一生懸命、準備をしている。」

「でも、波までは準備できない。」

「日本でサーフィンをしたことがあるのか?」

「ああ。でも、ダメだった。」

 

「ああ‥。」

イニゴは少しうなだれた。

ギジェルモが言った。

「君の元彼女も、日本人みたいな感じだったよね。」

「ミカかい?でもあの子は、チリ国籍を持っていた。」

「まぁ、それはそうだけど。」

ギジェルモは目を落とした。

 

「東京でなら、俺も金をとれるかな?」

「さぁ‥。なんだかんだいって、強豪は集まると思うよ。なんてったって、4年に一度のオリンピックだからな。」

 

 

午後は、ギジェルモとイニゴはサーフィンをした。

ダヴィとガブリエウ、ニコラスも、明日のU20の試合に参加するために、練習していた。

地元のローカルテレビが、ガブリエウに取材に来ていた。

ガブリエウは一番の注目選手だ。

 

「あれ‥?」

ニコラスは目を細めて、海にいる上手いサーファーを確認した。

ダヴィも同じ方向を見た。

「ギジェルモ・サントスだ!!」

記者の誰かが叫び、カメラマン達は、一斉にシャッターを切った。

 

「ダヴィ、これを持って行け。」

「ありがとう。」

次の日、朝、家を出る時に、親父が木と麻のお守りをくれたので、ダヴィは首からかけた。

 

ダヴィはサーフィンの素質があり、短期間でもかなり上達したが、まだまだ格下なので、順番は3番手だった。

ダヴィは第一セットをなんとかとったが、全然ダメだった。

ガブリエウとニコラスは準決勝まで残ることになった。

 

ニコラスは準決勝で負け、決勝はガブリエウとフラビオの対戦である。

 

ガブリエウは注目されていた。

カメラのシャッター音の中、ママがくれたお守りを握りしめた。

ガブリエウのママはもう60歳だ。

パパは45歳なので、ちょっと複雑だったが、ガブリエウはママとパパが好きだった。

 

試合直前に、記者がガブリエウに取材しようとしたので、ニコラスが止めた。

 

試合中、初っ端から、ガブリエウはトイレに行きたくなった。

記者がいて、トイレに行けなかったのだ。

でも、試合は海の中だ。もしもしたってバレない。

いつもどおりの波なのに、なんだか難しく思えた。

 

ギジェルモとイニゴも試合を見ていた。

 

フラビオは大技を決め、波の中をくぐり抜けた。

ガブリエウはやろうとしたのに、スタートでもう、ボードから落ちてしまった。

もう体は真っ赤なのに、心は真っ青だ。

 

「ああ‥。」

ダヴィは息を飲んだ。

 

フラビオはそんなガブリエウを見て、少しだけ肩をすくめ、次の波に乗った。

フラビオは一本目ほどではないが、うまく波にのった。

 

ガブリエウはくちびるをかみ、集中した。

「ガブリエウ!!」

ダヴィは叫んだ。

「ガブリエウ、集中しろ!!」

ニコラスはさらに大きな声で叫んでいた。

 

ガブリエウは波に乗った。

2本目は上手く乗れたし、良い技を決めることが出来た。

でもこのままでは勝てない。

 

3本目。まだ時間がある。

ガブリエウは勝負に出た。

ガブリエウが大技を決めようと飛んだ瞬間、試合が終了し、

サーフボードがガブリエウの腕に直撃した。

 

勇ましく砂浜にあがるフラビオ。

記者たちはフラビオにかけより、ガブリエウを見ようともしない。

ガブリエウの腕から、血が流れていた。

 

「大丈夫か、ガブリエウ!!」

ニコラスとダヴィがガブリエウに駆け寄った。

ニコラスはバスタオルで血を抑えた。

 

ギジェルモとイニゴが来た。

ギジェルモはバッグから医療品を出し、応急処置をしてくれた。

「これは応急処置だよ。すぐに病院に行った方がいい。」

 

その様子を、離れた場所で、レオナルドが見ていた。

 

エンゾとニコラスがガブリエウを支え、病院に連れて行った。

ダヴィはどうすることも出来ず、立ち尽くしてしまった。

ギジェルモが話しかけた。

「さっきの波乗りだけど‥。」

ギジェルモは改善点を教えてくれた。

「ありがとうございます。」

ダヴィは信じられないという顔をした。

たくさんの若いサーファーが出場したのに、自分のサーフィンを覚えていてくれたからだ。

「君は良い子だから、僕は覚えていた。」

ギジェルモは言った。

 

「3泊4日の旅行もあっという間だったね。」

イニゴがビジネスクラスに座りながら言った。

「そうだね。」

若い金髪白人がエコノミークラスに歩くのを見て、ギジェルモは昔の事を思い出した。

 

初めての国際試合で、エコノミーに座ったギジェルモ。

ギジェルモは真ん中の座席で、隣の若者が窓を開けて外を見て、楽しそうに話していたので、ギジェルモは思わず立ち上がって、後ろから見てしまった。

 

まだ飛行機は離陸していない。

1人の老紳士が来て、ギジェルモに言った。

「ねぇ、君は、ビジネスクラスに乗ってくれ。大切な試合の前だからね。」

老紳士は膝をつき、ギジェルモの手を握った。

「これは、おこずかいだよ。」

「いや、でも‥。」

「いいんだ。」

老紳士は手を振り、飛行機から降りた。

上品な男のCAが、ギジェルモを案内した。

 

その人は、空港の会長だった。

 

 

ギジェルモはその時のことを思い出し、少し懐かしそうな目をした。

 

飛行機は離陸をした。

 

「レオナルドと話せなかった。」

ギジェルモは言った。

「残念だったな。」

 

「東京で会えるかな‥。」

「その前に会うさ。あと2年あるんだ。」

 

「だけど、本当にいい波が?」

「いや、東京湾でやるわけじゃない。神奈川の方だよ。」

「なんだ。やっぱり神奈川か。神奈川なら、ローカルの大会に出たことがある。」

ギジェルモは言い、イニゴはギジェルモを見た。

 

「東京は、クソみたいに暑いんだ。人口が多すぎる。

あれだけの人のうんこが流れ込んでいる海なんて、女のケツをなめるのと同じだね。」

ギジェルモは言い、イニゴは聞いた。

「女のケツをなめた事があるのか?」

 

「ああ。あるとも。だから、僕はサーフィンを始めたんだ。」

 

 

試合後、ガブリエウはしばらくの間、安静にすることになった。

ダヴィが他の仲間と練習をする姿を、ガブリエウは目を細めて見た。

ニコラスはガブリエウに言った。

「マスコミのことは無視しろ。」

「そうだな。ありがとう。」

 

なんと、レオナルドが現れた。

レオナルドは駆け寄ってきたファンに、油性マジックで腕にサインをしたりした。

 

ファンに手を振り、レオナルドはガブリエウの方に来た。

「レオナルドさん。」

「ガブリエウ。この前の試合は惜しかったな。」

「いいえ。僕が完全負けていました。」

「そんなことない。〇〇を直せば、すぐによくなる。」

 

ダヴィは練習を終え、ガブリエウとレオナルドの方にかけてきた。

レオナルドがガブリエウに聞いた。

「東京に出たいか?」

「はい。」

「じゃあ、治ったら、一緒に練習をしよう。仲間も一緒でいい。」

レオナルドは、ダヴィのこともちらりと見て言った。

「はい、よろしくお願いします。」

ガブリエウは頭を下げた。

「よろしくお願いします。」

ダヴィも言い、レオナルドは笑って手を振り、行ってしまった。

 

「はは。良かったな。」

エンゾは笑って言った。

「はい。」

「早いとこ、ケガを治せ。」

ニコラスは言った。

 

「俺はちょっと予定があるから、まだ残るけど、お前たちはもう帰れ。」

エンゾは言った。

「予定ってなんですか?」

ダヴィが聞いた。

「トイレ掃除。」

「じゃあ、俺も手伝います。」

 

エンゾはダヴィを見た。

「いいの?でも臭いぞ。」

「僕、やります。」

「わかった。頼む。」

 

ダヴィはエンゾの後ろを歩きながら、ガブリエウとニコラスに手を振った。

エンゾは腕をさすって振り向いた。

「サーフィンの後は、少し冷えるな。」

「はい。」

ダヴィは少しも寒くなかった。

 

トイレの前で、ビーチの管理人の奥さんが、掃除用具と長靴を用意してくれていた。

「エンゾ。いつもありがとう。」

「いえ、当然のことですから。今日は、後輩も手伝ってくれます。」

「あら、よろしくね。」

 

エンゾはビーチサンダルのまま、トイレ掃除をしようとした。

「エンゾ、長靴を履いて。そのために、ちゃんと洗って干したの。」

「でも、いつもこのままだし。」

「ダメ。爪から菌に感染するわよ。」

「ああ‥。」

エンゾは笑い、エンゾとダヴィは長靴をはいて掃除をした。

海のトイレなので、水をながして、洗剤をまいて、ブラシでこすって、また水を流すという感じだった。

 

「ありがとう。はい。」

掃除を終えた頃に、旦那さんも現れて、2人にドリンクをくれた。

「ありがとうございます。」

 

帰り道に、エンゾが言った。

「俺たちは海で遊んでいるから、海に恩返ししないといけない。

まぁ‥、今日はトイレ掃除だったけどな。」

今日のエンゾは、黒いパーカーを着ている。

ダヴィは白いTシャツに短パンだ。

ダヴィは筋肉というポンプがついたので、寒がりではなくなった。

エンゾの方が、筋肉がついている。寒がりなのはきっと、恋人の影響だ。

 

「はい。これからも、そういう時には、誘ってください。」

「OK。」

エンゾは分かれ道で、自転車に乗り、手を振って行ってしまった。

 

ガブリエウのケガが治り、レオナルドの指導が始まった。

レオナルドはガブリエウやダヴィ、ニコラスだけでなく、他の者たちにも指導してくれた。

生徒が多かったので、レオナルドは言った。

「いいか。バディを組め。」

「はい。」

「海は時に容赦なく、お前たちの命を奪う。気を抜くな!!」

レオナルドは念のため数を数えた。

レオナルドは昔、女友達をサーフィンで亡くしているので、サーフィンで仲間が死ぬ事を恐れていた。

しかも、そのせいで弱くなったのだ。

ちなみに、二十歳のころに連れていた女とは、もう別れた。

 

日曜日には、ほぼ毎回、レオナルドは現れたので、みんな上達した。

ガブリエウは特に上手くなったので、このままいけば、オリンピックも狙えそうだ。

みんな、そこまで人生をサーフィンだと決めていなかった。

ダヴィもそうだ。ダヴィは鼻を少しつまんで、鼻水が出ていないか確かめた。

 

ダヴィは学校でも、ぼんやりすることが多くなった。

学生服のズボンをまくりあげて、すねに貼ったタトゥーシールを見せている。

ベアトリスはドアの所で、友達と一緒にちらちらとダヴィを見た。

 

「なんだ?これは。」

「シールです、先生。」

「ダメだ!」

先生は、定規で、ダヴィのすねを叩いた。

 

土曜日の夜。ビーチで男性アイドルのコンサートが開かれた。

ダヴィは、エイトールとマテウスと一緒に見に来た。

豆電球でデコレーションされたステージに、男性アイドルグループが立ち、ダンスを始めた。

「4シックスだあ!!」

「生ステイシー!!かっこいい!!」

エイトールとマテウスは、このアイドルグループを気に入っているので、前の方に行ってしまった。

 

「あれ?」

ダヴィは、前に夢で見た女性を見つけた。

女性は1人で、パフォーマンスを見ている。

 

アイドルグループのステージが終わると、女性は少しため息をついて、帰ろうとした。

「あの。」

「え?」

「前に会いましたよね?」

「あなたと私が?」

「はい。」

 

「ごめんなさい。覚えがないの。」

「そうですか‥。」

ダヴィは言い、女性はまた帰ろうとした。

 

「4シックス(アイドルグループ)のこと、好きなんですか?」

ダヴィが聞くと、女性はしょうがないという感じでこっちに来た。

「ええ、好きよ。」

 

2人は、ビーチに開かれた屋台で食べ物を買い、テーブルで話すことにした。

2人は話す姿を見て、エイトールとマテウスは顔を見合わせ、笑ってしまった。

 

ダヴィは聞いた。

「アリシーさんは、サクアレマ出身ですか?」

「いいえ、違うわ。サンパウロ出身よ。」

「ああ、じゃあ、サッカー選手がたくさんいる‥。」

「ええ。私の友達にも、有名になった人がいるわ。」

アリシー・スーザは、スマホを見せた。

 

「ロレンゾ・アルベス?!すごい。若手では、一番有名な人だ。」

「ええ。この前、メールがきたの。でも、返信がないから、きっといたずらね。」

アリシーは可愛らしく微笑んだ。

 

アリシーは自分からは話さない。

相手は高校生なので、自分から口を開くのは気が引けた。

「アリシーさんは、今いくつですか?」

ダヴィは聞いた。

「19歳よ。見える?」

「もう少し年上かと‥。」

「あら、残念ね。去年、高校を卒業したばかりなのに‥。今は、カフェで働いているの。」

 

「ああ‥。よければ、アドレスを交換しませんか?」

ダヴィは提案した。

「ええ、いいわよ。」

アリシーは笑顔になった。

アリシーはスマホを開き、4シックスのメンバー、ステイシーからのメッセージをスワイプした。

 

エイトールとマテウスも合流して、少し挨拶を交わした後、お別れした。

アリシーは1人暮らしの狭いアパートに戻り、ベッドに座って、少しほほえんだ。

こんなに幸せな気分になったのは、久しぶりだ。

 

アリシーはシャワーをあび、少し寝た。

ピピピ

夜11時半、アリシーのアラームは鳴る。

アリシーは起きて、スクーターで、約束の場所に向かう。

夜12時、約束のトンネルに来た。

ここは、車は通れない。

アリシーは音をかけずにダンスをした。

アリシーはかなり上手い。

 

カタン

アリシーはダンスし続けた。

後ろにステイシーが来て、踊りだした。

「こんばんは、ミゲウ。」

「今日来てくれていたね。」

「ええ。」

ミゲウはステイシーの本名だ。

ミゲウは、アリシーを後ろから軽く抱いた。

 

 

ダヴィは夢を見た。

青年が仲間を呼んでいる。

「1人ずつ、飛び込もうぜ。」

「やめろ、ロドリゲス。危険すぎる。下に何があるか分からない。」

「大丈夫さ。先輩たちもやったって。」

「ダメだ!!海の遊びは、サーフィンだけで満足できないのか?」

「満足できない。臆病だな。アルトゥールは。」

 

「大丈夫だよ。」

そう言って、海パン姿のロドリゲスは、崖から飛び込んだ。

「ああ!!」

仲間達は、崖の下へ走った。

 

ロドリゲスは浮いてこない。

 

警察が来て、遺体のロドリゲスを釣り上げた。

仲間達は、ロドリゲスの亡骸にすがりついた。

 

「は‥。」

ダヴィは目覚めた。

どうやら、父の記憶の中に入ってしまったようだ。

 

ダヴィが台所に行くと、父は新聞を読んでいた。

「昔、サーフィンで友達が亡くなったんだろう?」

「ああ、そうだよ。」

「崖からじゃなくて?」

「なぜそれを?誰かから聞いたか?」

「いや‥。」

ダヴィは、気まずい中、朝ごはんを食べ、高校に登校した。

 

チリのサーフィンU20の大会。

ギジェルモとイニゴは見に来ていた。

イニゴはシャッターを切る。

 

「そんなに撮るな。高校生だっているんだよ。」

ギジェルモは注意をした。

「ああ、これは仕方ないんだ。仕事だからね。これからはネット記事を書くつもりだ。」

「ネット記事を?」

「あれは若者が見るだろう?俺なら、うまく書けるね。」

イニゴはそう言って、シャッターを切り続けた。

 

大会はひと通り終わり、2人は車に乗り込んだ。

運転はイニゴだ。

「1位のボウヤは上手かった。」

「ああ。君が東京を狙うなら、強敵だな。」

 

「ああ‥実をいうと、過去に、日本のローカルの大会に、3度出場した。」

「3度も?!なぜ言わない。」

「だって、言えなかった。俺は、チリ代表のサーファーなのに、ローカルの民家に泊まらされたんだ。試合の炊き出しは怖くて飲めなかった。日本で前にあっただろう?

毒入りカレーの事件がさ。」

 

「毒入りカレーはずいぶん昔の事件だよ。ローカルというけど、君は、試合に出るたびに申請しないといけない。君が申請できるのなら、世界レベルの大会だろう?」

「名目上はそうだよ。でも、まわりが弱すぎたんだ。あんな馬鹿みたいな大会は初めてだった。」

「では、なぜ3度も出場した?」

 

「日本には弱い。呼ばれるたびに行ってしまう。」

「なら、もう、呼ばないでもらいたいな。」

「そうなんだよ。」

 

 

高2になったダヴィ。

レオナルドやエンゾが出場する大会が開かれ、ダヴィ達は見に行った。

ちなみに、ガブリエウも出場した。

1位レオナルド、2位エンゾ、3位ガブリエウという見事な結果になった。

 

「東京に出場するなら、君は、俺を倒すしかないな。」

エンゾはガブリエウに言った。

「はい。」

「健闘を。」

「ありがとうございます。」

ガブリエウは真剣な表情で、エンゾの手を握った。

 

みんなエンゾに手を伸ばしている。

エンゾは出来る限り多くの人の手をタッチして、全員の顔を見渡した。

「エンゾ。」

恋人が声をかけた。

エンゾの恋人のララア・イーザには、障害者の叔母がおり、とても苦しい中で生活していた。

ララアが実家を出れば、家庭は崩壊してしまう。

ララアの妹はどこかの誰かと結婚して、妊娠してしまった。

でも、ララアは透明な心を持っていた。

ララアはヒステリーを起こしやすく、仕事はあまりできなかったが、なんとか働こうとしていた。エンゾはララアを愛していた。

 

ララアにキスしたのは、夢の中での出来事だ。

現実では違う。

「Hi。」

まわりに気づかれないように、他のファンと同じようにタッチをした。

ララアは手をさわり、喜んでいた。

 

ガブリエウはファンに、はにかんで微笑み、サインをした。

サインをする時に決めたことは、サーフィンで歴史に名を残すことだ。

 

最後にレオナルドが来た。

レオナルドは両手を広げ、ファンの歓声を包み込んだ。

「愛しています。」

レオナルドは胸に手を当て、お辞儀をした。

レオナルドは両サイドのファンとタッチして、顔を見た。

 

 

次の日、ベアトリスの家は、親戚で集まってパーティーだった。

「レオナルドさんは?」

「彼は忙しいの。こんな場所には来ないわ。」

「つまんない。」

「しょうがないでしょ。それにね、レオナルドさんはあなたの従兄じゃない。はとこなの。」

お母さんはベアトリスに言った。

でも、ベアトリス・オリベイダの一族は、自分たちの血を誇りに思っていた。

 

ピピピピ

11時40分。アリシーのスマホが鳴った。

アリシーは起きる時間を10分ずらした。

 

「はぁ。」

アリシーは起きて、アラームを止めた。

スクーターで、約束の場所に向かう。

 

約束のトンネルにつくと、アリシーは踊るために、目を閉じ、リズムをとった。

アリシーが腕を一本ずつ優雅に重ね、ダンスを始めた時、1人の男が後ろで見ていた。

それはステイシーではない、ブラジル人のくせに白人もどきのロレンゾ・アルベスである。

ブルル

ロレンゾのスマホに電話が来た。

クラブのマネージャーからだ。

ロレンゾはトンネルの影に腰を下ろし、小声で話し始めた。

スマホには、名探偵コナンのマスコットがついている。

ロレンゾは、5歳の時から、コナンの大ファンである。

 

「はい、もしもし。‥ああ、なんだ。そのことなら、俺からコーチに伝えたよ。

二軍のやつらと練習試合をする。‥ああ、もちろんだ。」

ロレンゾが話している時、自動車とバイクが2台来たので、アリシーはダンスするのは止めた。

 

「何‥?」

アリシーは息を飲んだ。

車から男達が降りてきたので、ロレンゾはアリシーの腕を引いて、トンネルの影に連れて隠した。

 

「アリシー?」

ステイシーがアリシーを探した。

 

「あれぇ‥?ごめん、いないみたいだ。」

「なんだよ。つまんねぇ。」

「せっかく来たのにな。」

男達は帰って行った。

 

「行ったみたいだな。」

「ごめんなさい。ありがとうございます。」

アリシーは暗くて、誰か分からなかった。

 

「アリシー、僕はロレンゾだ。」

ロレンゾは言った。

「ロレンゾ?」

「ずっと君に連絡したかった。でも、俺は今、君と別の世界にいる。」

「ええ。」

アリシーは信じられないという表情で、ロレンゾを見上げた。

 

「だから、ここまで来るのも大変だった。ホテルを泊まりつないで、追手から逃げてきたんだ。」

「そう‥。でも、どうしてここが分かったの?」

アリシーが聞き、ロレンゾは笑った。

「勘だよ。君とは、昔からの知り合いだから。」

 

ロレンゾとアリシーは歩いて、アリシーのアパートまで戻った。

「ステイシーとは、もう別れた方がいい。」

「ええ、そうするわ。ありがとう。」

アリシーはそれ以上のことは言えなかった。

 

「では、また会おう。」

ロレンゾはそう言って、帰ってしまった。

ロレンゾにとって、それは紳士的で最良な別れ方だったが、アリシーはそれだけでは満足できなかった。

アリシーには何もない。

ダンスはできるが、自分がオーディションを受けても、ダメに決まっている。

 

 

次の日は、カフェの仕事は午前だけだった。

いつもは、図書館に寄ったり、お店を見たりして家に帰るが、

その日は、午後3時にはベッドでゆっくりとしていた。

カフェミュージックを流して、雑誌をぼんやりと眺める。

 

昨晩のことは、アリシーを助けてはくれたが、心の閊えまでは取ってくれなかった。

アリシーは、ステイシーにお別れのメールをした。

その後、ステイシーはしつこく連絡をしてきたが、ロレンゾがステイシーのプロダクションに連絡をしてくれたので、ステイシーからのメールは途絶えた。

ロレンゾが連絡してくれたと、アリシーはすぐに気づいた。

そして、少し嬉しくなった。

 

ダヴィは中間テストの結果が出ていた。

スポーツも強くて、成績優秀な生徒に憧れていたが、そうはいかない。

ダヴィの順位は、下から数えた方が早かった。

 

 

「ダヴィ。」

テストの順位表を見上げるダヴィに、ベアトリスが声をかけた。