戦友【ヘランの空】3

March 17, 2019

戦友【ヘランの空】3

伊部ヘランは果物の栽培を研究する、農業研究家だったが、韓国に行けると聞き、軍に志願した。

 

ヘランが船の中で、当時の韓国ガイドブックを広げると、丸吉が声をかけた。丸吉の手足は、ムティよりも長い。

「楽しい所じゃないんだよ。」

「じゃ、どんな所?この本が嘘ついてるってこと?だって、韓国って、すごく楽しそうだもん。」

 

はぁ‥

丸吉は、ヘランに歴史の説明をした。

説明が終わる頃には、ヘランは、船から戻してしまった。

 

「教授が説明している時、何してたの?」

「ずっと、果物のことを考えていた。」

ヘランは具合が悪そうに言った。

 

夕食を食べる時には、ヘランは元気を取り戻した。

「戦争ってよくないよな。」

ヘランが言うと、丸吉は神妙にうなずいた。

 

「どうした?」

42才の寺田小津が話しかけた。

小津は、ティーボスと呼ばれている。

この軍の年齢層は高く、平均年齢が36才くらいだ。

20代は何人かしかいない。

 

「こいつ、朝鮮のこと、なんにも知らないんですよ。」

丸吉がヘランを指した。

「なんにもって訳じゃないって。」

 

「伊部君、いい?今は戦争中だよ。俺達は、日本を守るために人を殺しに行くんだから。」

ティーボスが言った。

 

「そんな言い方ダメだよ。」

トナが言い、隣にいる幹雄を小突いた。

「うん。‥いや僕なんて、韓国で奥さんを見つけるつもりですよ。」

幹雄もカレーのようなものを食べながら言った。

 

「丸吉、起きてる?」

ヘランはベッドから声をかけた。

「うん。」

 

「俺達で、戦争を止めないか?」

ヘランは目をキラキラさせて言った。

 

「無理でしょ。」

丸吉は、そっけなく言った。

 

「何、それ。」

ヘランは丸吉を叩いた。

 

「いいか?アメリカは、イギリスとロシアとアメリカだけの世界を造ろうとしているんだ。」

「えっ‥、じゃあ世界は、3国だけになっちゃうってこと?」

「そう、それを止めるための戦争なんだから。日本が他の国から乗っ取られないために。そのためには、まず韓国を落としとこうってことだろ。」

「ふーん、そうなんだ。」

 

幹雄は起きて、天井を見ていた。

ティーボス、幹雄、トナは、未来から来ている。

勝夫という男も含めて、4人は、タルタル倶楽部というバンドをやっていた。

超人気バンドである。

 

ライブの前日の夜。

同じホテルに泊まっているのに、幹雄から電話がきた。

 

「ティーボ。明日絶対、歌詞間違えんなよ。」

幹雄はかなり酔っていた。

「うん。」

「一字一句。いいな。」

「うん。」

「分かってんのか?お前が歌詞を間違えるのが、どんなに恥か。俺のテンポまで、狂っちゃうんだから。」

幹雄はドラムである。

「分かった。歌詞、見とくね。」

ティーボスは電話を切った。

 

ティーボスは、ライブの前は不安定になってしまう。

渋谷で、ティーボスのファンだという男からもらった薬を出し、飲んだ。

すると、ティーボスの頭はクルクルと回りだしてしまった。

 

コンコン。

「はい。」

「ちょっと確認したいことがあって。」

トナだった。

 

「どうしたの?」

「クスリ飲んだ。」

「ええっ。ドーピング、ダメなんだよ。」

 

「うるさいぞ!」

酔った幹雄と勝夫が来た。

 

ティーボスは気を失ってしまった。

「ティーボ?!」

 

そこから4人は、戦時中にタイムスリップして来たのだった。

 

朝、幹雄が、ティーボスに話しかけた。

「昨日、人を殺すって言ってたじゃん。それ、良くないからね。」

「分かってるよ。世界のティーボスが、殺人なんかしたら、歴史的大事件になってしまう。」

 

「ねぇ、これ見て。」

トナが手帳を見せた。

これから先の歴史年表が書いてある。

『ヘラン達は、30年近く、韓国にいることになるとは、思ってもいなかった。』

韓国のガイドブックを広げるヘランと、丸吉を見て、タルタル倶楽部は笑った。

 

韓国につくと、港では、韓国の人達や、先に来ていた日本軍が迎えてくれた。

 

夜は、韓国料理を食べた。

「おいしい!」

「明日からは、こんなんじゃないからな。」

ヘランが言うと、丸吉が言った。

 

ヘランは、果物の栽培を研究する、農業研究家だったので、韓国人達に、果物栽培指導をするようになる。

 

1人の男が、木に登って、昼寝をしようとしていた。

 

「止めてください!!止めてください!!」

ヘラン達の声だ。

「ん?」

ヘラン達が、農業指導をしていた農家の土地が、日本兵に奪われそうになっていたのだ。

ザッ

男は、木から降りた。

 

『止めろ。ここは、韓国人の土地だ。』

「え‥。」

ヘラン達は、男を見た。

 

「何を言っている?」

「ここは、日本国の土地だ。」

 

日本兵は笑い、勝手に契約書にサインをした。

 

「止めろって!!」

男は、日本兵に飛び掛かったが、他の日本兵が、銃を向けた。

 

『もういいです。すみません。』

韓国の農家の方が泣いた。

 

「‥ッ。」

男は、それでも、日本兵を殴ろうとした。

『満っちゃん、もう止めて。』

『おばさん。』

『もういいから。』

おばさんが、満を止めた。

 

日本兵は土地を奪い、引き上げた。

 

「ごめん、助けられなくて。」

「いえ‥。俺達も、日本兵なんで‥すみません。」

「あなた達は、韓国人に優しくしてくれている。あいつらとは違う。」

 

ヘランは下を向いた。

「あなたの名前は?」

「俺は、朝鮮の満。13才の時に、日本から、朝鮮に来ました。」

「そうだったんですか。僕の名前は、ヘランです。」

「僕は、丸吉です。」「ティーボスです。」

「あ‥幹雄です。」「トナです。」「勝夫です。」

みんな、満と握手をし、仲良くなった。

 

そんな中、ヘランは、農家の娘と恋に落ちる。

名前をソナンという。

 

ある日、ヘランが農業指導している農家の馬小屋から、女の声が聞こえてきた。

ソナンが馬の毛並みを整えていたのだ。

 

ヘランに気づいた馬は、突然暴れだした。

「どうしたの?」

ソナンは馬に声をかけたが、ソナンは倒され、手からは血が出てしまった。

 

ヘランは飛び出し、馬をなだめた。

 

「大丈夫?」

ヘランは、ソナンに、持っていた包帯を巻いた。

その後、夕方の田舎道を歩き、丘の上から、マジックアワーの景色を見た。

ちなみに今は7月である。

 

「時々、ヤシャは分からなくなるの。」

ヤシャとは、馬の名前である。

「分からなくなる?」

 

「私の顔も、自分の顔も、分からないくらいに、暴れちゃうの。」

「そうなんだ。」

 

「多分、星に帰りたくなると思う。ヤシャは、拾った馬だから。」

ソナンは言い、夜景を見た。

 

「ソナンって、日本語上手なんだね。」

「学校で習ったから。」

ソナンは現在22歳である。

「ごめん。」

ヘランは、ソナンの手を握った。

 

2人を、男が影から見ていた。

 

「おーい、ヘラン!」

ソナンとヘランが良い感じになった時、今日は基地に戻る日なので、迎えに来た丸吉が声をかけた。

 

ハッ

影から見ていた男は、また木の影に隠れた。その男は満だった。

満は、ソナンのことが好きだったのだ。

 

ヘランは少し怒って、ソナンに言った。

「ごめん、軍の人が来た。」

 

「そちらのお嬢さんは?」

「ソナン。ジュ家の娘さん。」

 

丸吉とヘランは、ソナンを家まで送った。

その姿を、満は静かに追った。

 

基地に向かう馬車の中で、丸吉が聞いた。

「あの子いくつ?」

「多分、23歳くらいじゃない?」

「へぇ‥。その年で結婚してないの、珍しいね。」

「俺達だって、30なのに結婚してないじゃん。」

「うん、まあな。」

 

馬車を降りる時、運転手の親父に、丸吉は代金と小瓶の酒を渡した。

親父は陽気に笑い、去った。

 

丸吉は、言った。

「でもさ、韓国の子とそういう風になるの、禁止だから。」

「うん‥。」

ヘランは悲しそうにした。

 

しかし、ヘランは、休日や時間が空いた夜に、ソナンに会いに行ってしまう。

 

ヘランの姿を、韓国の一部の若者達が追っていた。

実は、ヘランは韓国人で、韓国の李大王の息子だった。

それを、若者達に密告したのは、満だ。

 

李大王は、ヘランが生まれた時、写真を公開したが、息子の身を想い、日本の良い夫婦の下に、養子に出したのだった。

 

李大王は、こっそりとヘランに会いに行った。

そしてヘランが11才の時、写真をこっそり撮り、王子の姿として、国中に公開したのだった。

 

面影が残っていたので、韓国の若者達は、王子だと気づいた。

韓国に王子が戻ってきたので、李大王は安心し、1月21日に永眠する。

韓国の若者達は、今まで自分達の王子を捕らえていた日本を、訴える行動に出る。

 

1919年、2月28日。

留日朝鮮人学生が、東京神田のYMCA会館に、独立宣言書を提出する。

 

ついに、基地に韓国の者が来る。

「ヘラン様は、李大王の息子。韓国の真の王子です。」

「そんな‥。」

日本兵達は、みんな驚いた。

 

「一緒に来てください。」

ヘランは、連れて行かれることになった。

「すみません、ソナンには何もしないでください。」

「大丈夫だ。あなた様が愛した女性を殺すことはない。」

ヘランは一安心した。

 

ソナンは、満の家にいた。

満のお父さんとお母さんもいる。

「大丈夫ですか?」

家の中には、植物が沢山置いてあり、その植物に水をやりながら、満が聞いた。

「はい。」

「付き合っていた人が、王族だったなんて、驚きましたよね?」

 

「今、韓国の王族は、地位を奪われ、日本の皇室の下にいる。そして、戦争が終われば、全て奪われるに違いありません。」

 

「それでもいいと?あなたが王子と一緒に暮らせるなら。」

 

 

3月1日午後、ソウルのパゴダ公園に、宗教指導者達が集められた。

ティーボス達は影から様子をうかがっている。

 

司会が会を進行し、ヘランは、前の台に立たされた。

丸吉も、韓国の者達と一緒に、並んでいる。

 

そして、最高指導者は、朗読を始めた。

「我らはここに、我が朝鮮が独立国であり、朝鮮人が自由民であることを宣言する。」

拍手が起こった。

 

みんな、空を見上げた。何も起こらない。

 

「これをもって、世界万邦に告げ、人類平等の大義を克明にし、これをもって、子孫万代に告げ、民族自存の正当な権利を永久に所有せしむるとする。」

 

ヘランは涙をこらえた。

 

3・1独立運動以後、韓国総督府は従来の統治政策を見直した。

 

ヘラン達はまだ韓国にいる。ティーボス達も、悪い薬を飲みタイムスリップを試みたが、帰ることはできなかった。

 

 

男が多いので、売春宿もできてしまった。

丸吉は、絶対に行くなと、軍のみんなに言う。

「特にあなたですよ。」

幹雄に指さした。

 

丸吉の軍の日本兵は、売春宿に止めに行ったが、売春婦達が聞かなかったため、みんな悲しくなった。

 

ヘランは果物栽培の指導を続けたし、隙を見て、ソナンに会いに行った。

 

「ダメだ、ヘラン様。もうこの女性に会ってはいけない。」

満は怒った。

「でも‥。」

ソナンは、ヘランの子供を宿していたのだ。

 

パン!!

日本兵が攻撃し、農園では、小さな銃撃戦のようになった。

パン!!

満が、ヘランとソナンの子を守った。

 

「ありがとう、満。」

「気をつけろ。この子は、韓国の王族の血を引いている。」

 

 

「もうすぐ戦争が終わるな。」

夕日を見ながら、丸吉が言った。ティーボス達は、目を落とした。

戦争の時代に来て、もうすぐ30年がたつのだ。

 

日本のポツダム宣言受諾により、朝鮮半島の統治権は、連合国側に代わる。

1945年9月2日。

アメリカ戦艦ミズーリの甲板上で、日本政府が公式に降伏文書に烙印した。

 

タルタル倶楽部の4人もまだ、現実に戻れていない。

 

朝鮮人によって朝鮮人民共和国が建国されたが、アメリカは認めなかった。

北をソ連が、南をアメリカが占領することとなった。

 

「韓国の王族は地位も富も奪われたって。」

ティーボスが言った。

「じゃ、ヘランも?」

「多分そうだと思う。」

 

ヘランは、王族の地位が奪われる儀式に出た。

 

みんなが日本に帰る日。

今まで関わった韓国の人達が、会いに来た。

 

「お父さんでしょ。違う?」

男の子は、丸吉に抱きついたが、丸吉は優しく放した。

 

タルタル倶楽部が仲良くしていた大工や漁師が来た。

 

 

「お父さん!!」

ヘランは振り向いた。

ヘランは、ソナンとの間に、5人もの子供を設けていたのだ。

「どうしても行くの?」

ソナンは聞いた。

「すまない‥。」

ヘランは、ソナンの手を握った。

 

 

ある夜、ヘランは1人で散歩をしていた。

前から、光った馬に乗った人が歩いてくる。

「何?」

ヘラン目は、目をこらした。

 

それは、リグウとロタだった。

ヘランは、息を飲んだ。

 

「私の名はリグウ。李王家の者だ。リ・ヘラン。あなたには、永遠の命が与えられている。あなたには、やるべきことがあるのだ。」

 

「やるべきこと?」

「それは、日本皇室への復讐だ。リ・ヘラン。使命を果たせ。」

リグウは、ロタに掛け声をかけ、行ってしまった。

 

「みんな、お別れだ。」

「やだよぉ!!」

「父さん‥。」

長男と次男も泣いた。

長女と次女も肩を落としている。

 

「どうしても行くんですか?」

三男が強く聞いた。

「ごめんな、父さんには、やるべきことがあるんだ。」

韓国兵達は、ヘランに敬礼をした。

 

娼婦だった女を、軍の日本兵は助けた。

2人は抱き合っているが、もうお別れである。

 

「満、日本に来ない?」

「俺は、朝鮮の満。日本には、戻らない。」

 

 

「さようなら!!さようなら!!」

「さようなら!!」

 

みんなお別れを言った。

 

タルタル倶楽部は、元の時代に帰った。

タイムスリップをしてしまった、ライブの本番前だ。

「あ‥戻ってるよ!!」

「本当だ‥!!」

「28年分、長生きしたね。」

 

「もう本番?」

 

 

ヘランは、焼けた日本を勇敢に歩いた。

そして現代でも、同じように。

 

【Asian Legend】by Shino Nishikawa

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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