Staras

March 18, 2019

Staras

ガンジス川を遊泳する男がいる。

髭をのばしたお爺さんの隣にいる、薄汚れたシャツの男の子は泣きそうになった。

今日、赤ちゃんの頃以来、ガンジス川に入るようだ。

 

バシャ

男はガンジス川から上がると、インド人女性たちは嫌そうに男を見た。

男はピッタリとした赤い海水パンツをはいている。

清潔そうなバスタオルで体を拭いた。

 

インドネシア

パシャ

白い壁の前の女性は、ピッタリとした白いワンピース、パーマがかかった髪の毛でポーズをとった。

「ママに反対されない?」

カメラマンは聞いた。

「ううん、喜んでる。」

女性は言った。

 

カシャ

高校生らしい女の子は、一眼レフカメラで蝶の写真を撮った。

「デジィ!」

男子生徒が女の子を呼び、デジィは笑い、手を振った。

 

何人かの男子生徒がいたが、デジィを呼んだ男がかけてきた。

「リザ!」

「また、写真撮ってるんだ?」

「うん。」

「ジャカルタにも、カメラ持って行く?」

「いや‥。」

2人は街を歩いた。

 

さっき写真を撮られていた女性の写真が貼ってある。

リザが言った。

「ジョアンナさん綺麗だね。少し、デジィに似てる。」

「従姉だから。彼女がどうしてこんなに有名になったのか分からない。」

「彼女、きれいだから。デジィは写真の勉強をして、ジョアンナさんのこと、撮ってあげれば?」

「やだ。恥ずかしい。こんなすごい人と、できれば関わりたくない。」

 

デジィとリザは付き合っていないが、ジャカルタの学校に進学した二人は、同じアパートの隣の部屋に住むことになった。

 

デジィは高校の頃に、精神病で入院をした。

統合失調症と診断されたのだ。デジィはよく一人でしゃべっていたので、仕方がない。

それでも、デジィは統合失調症でなかった。

デジィは軽い、自閉症である。

日常生活はなんとか普通に送れるので、両親は仕方なく、デジィが希望した洋裁の学校に進学させた。

デジィは才能の代償として、精神病を患っている。

デジィが好きだったリザが、隣の部屋に住みたいと言ったので、両親はそれを許した。

デジィが心配だったからだ。

 

ガチャ

リザがドアを開けた。

「あ、鍵、閉めてなかった。」

「気をつけた方がいいよ。ジャカルタは都会だから、恐ろしい人がいるよ。」

「うん。」

リザは、デジィの部屋に入ってきた。

 

「こんな薬、飲んでるんだ。」

リザがデジィのサプリメントを手にとった。

ひと瓶7000円はするサプリメントを5種類飲んでいる。

「親が進めてきたものだから。」

「そうか。」

 

デジィは言った。

「リザって、いつも一人でエッチしてるでしょ?」

「してないよ。」

リザは赤くなった。

「デジィこそ‥。」

「私はそんなことやってない。」

デジィはリザを部屋から追い出した。

 

一人の男がサングラスをして、ジャカルタ空港を歩いている。

この人はインドネシアの競泳選手である。

前に海外の試合に出場するために、何度かこの空港を利用したが、今度ジャカルタで開かれる水泳の国際試合があるので、空港がどんな感じか見ておきたかったのだ。

 

「モデルの写真がこんなにある。」

ブランド広告の前を、男は小走りで通り過ぎて、立ち止まった。

「やっぱりな!!」

大きな声で言ったので、客がちらちらと男を見た。

「あああ!」

男は頭を抱えて、しゃがんだ。

男はスマホを開いた。

ファイサル・キキ

キキはインドネシア人なので、どちらも自分の名前だ。

代表選手として提出した写真である。

 

自分の写真とジョアンナの写真を見比べて、キキは口をへの字にした。

 

 

「なんでそんなに練習するの?」

知り合いの男の競泳選手ルードが、プールサイドでキキに声をかけた。

キキは、ゴーグルをはずし、答えた。

「なんでって。予定がないから。」

 

ルードはキキのライバルである。

ルードは言った。

「彼女つくったら?」

「いや、いいや。」

キキはまた泳ぐために、中の方に行った。

恥ずかしくなったキキがゆっくりと泳いでいると、ルードが飛び込んで、速く泳ぎ始めた。

今日は勝負する気になれない。

 

キキは帰ろうとした。

「ええ?一緒に泳ぎましょうよぉ!」

「やっぱり今日は帰りたい。ごめん、また今度‥。」

「わかった‥。」

ルードは、水着が張り付いたキキのお尻を見つめた。

 

キキの水着はピッタリしすぎていて、もう少しではみ出しそうだ。

 

 

ガガガガ

デジィは眼鏡をかけ、ミシンをかけている。

放課後は7時くらいまで教室で課題ができるのでありがたい。

「デジィ、まだいたんだ。」

「リザ。」

「終わりそう?一緒に帰る?」

「いや、いいよ。」

「せっかくだしさ、一緒に帰ろうよ。」

リザがデジィの前の席に座った。

 

学校にもジョアンナの写真が貼ってある。

「綺麗だね。彼氏いるかな?」

「いる。」

デジィが小声で言った。

「そうなの?!」

「うん。ジョアンナさんの好きな人は、水泳選手のキキって人。」

「なんで知ってるの?」

「従姉だから、分かる。」

デジィは笑った。デジィには才能がある。

 

「俺たちも付き合う?」

「いや、いいよ。あなたと結婚したくないし。」

「どうして?」

「誰とも結婚したくないの。」

2人はスーパーにより、別々の部屋に入った。

 

ついに水泳の国際試合の日がきた。

ガンジスで泳いでいたインドの競泳選手のビサルは、サングラスをつけ、空港を歩く。

一斉にカメラのフラッシュがたかれる中、ビサルはジョアンナのポスターの前で立ち止まった。

 

ジョアンナはキキを見に来た。2人はまだ話した事はないのに、ジョアンナはキキと知り合いのような感覚だった。

ジョアンナの家はお金持ちではない。

近くに駅があって、薄汚れた小さな家に住んでいた。

お母さんは、丸見えの庭に洗濯物を干したので、ジョアンナと妹のメリーは恥ずかしかった。

すると、パパがつるバラを植えてくれて、洗濯物が見えなくなった。

ジョアンナの家族は、ちゃぶ台でご飯を食べた。

パパは屁をしたり、くちゃくちゃと食べたので、もうこんなのは嫌だと思ったが、

パパは、「モデルがやりたいなら、やってみなさい。」と言ってくれた。

 

なんと、ジョアンナとメリーは、小学生の頃からモデルをやるのを許された。

ジョアンナとメリーは、デジィと妹のアリーのすぐ近所に住んでいて、デジィの両親も、自分の子がモデルをやるくらいならと、ジョアンナとメリーを推薦したのだ。

 

ジャカルタまでは、電車で3時間かかるので、芸能界が身近にあったわけではない。

 

「あら?あの人、映画スターのジルだわ。」

ある日、ジョアンナのママ、バルサが、デジィの家に映画スターのジルが出入りしているのを見てしまう。

「ユディ、さっきの人、ジルよね?」

バルサは、デジィのママ、ユディにたずねた。

「ええ。パパの弟なの。」

バルサはおどろいた。

 

そんなわけで、バルサの家と芸能界の縁ができたのである。

バルサは若い頃、何回かモデルをしたことがあった。

こんなに不景気と言われている時代に、きらびやかな世界に娘たちが行けることが嬉しかった。

「次はないかもしれないよ。」

と、娘たちに何度言っただろう?

 

「あんたはおかしいから、芸能人なんかやめなさい!」

「芸能人じゃない!私はモデルなの。」

そのたびに、ジョアンナは泣きながら言う。

ジョアンナが一番憧れていたことは、映画に出る事だと分かっていたので、

ジョアンナがモデルだけで我慢をしていたので、仕事をすることを許した。

それから、ジョアンナとメリーが4月生まれなのはラッキーだった。

 

でも、雑誌に出られるだけでもすごいことだ。

「一度やめて、普通の仕事に戻ったら?」

「まだ、ダメ。」

「東京に彼氏がいるんだ?」

「違う。好きな人も芸能人なんだからさ、今は頑張りたいだけ。」

ジョアンナが言うと、バルサは息を飲んだ。

 

「その人って映画スターなの?」

「ちがう!なんでそんなに映画スターにこだわるの?」

「いや‥、所かまわずキスするような人と一緒になってほしくなかったから。」

「あのね、私の好きな人は、キキさん。」

「キキさんって誰だい!」

「教えない。」

 

水泳の国際試合に、ジョアンナの姿がちらっと映ったので、バルサは胸をなでおろした。

「メリーも連れて行ってくれればよかったのに。」

 

 

ジョアンナは頬をふくらませた。

嫌なことを思い出したのだ。

昔は、家は和式トイレだったのに、小学2年の頃に洋式になった。

すると男子達は、いまだに和式トイレの女の子を可愛がった。

ジョアンナは少しだけ良いマンションに住んでいる。

キキは、安いアパート暮らしの女子を可愛がるかな?

 

キキはジャージ姿で、客席をのぞき、ジョアンナの姿を確認した。

手を振りたかったが、まだ一度も話したことがないのだから、そんな関係じゃない。

キキは恋愛に不器用だった。

国際試合という切羽詰まった状況になると、頭がクリアになる気がする。

 

キキは決めた。なんとかしてジョアンナの撮影を見に行き、話しかける。絶対に。

 

キキは今後の人生について決めたことを想い、ニヤニヤとした。

「自信があるのかい?うらやましい。」

ビサルは英語で話しかけた。

「えっ?」

キキは立ち止まった。

 

「君はこのプールで何度も練習をしているんだろ?僕は25メートルプールか、川でしか泳いでない。」

「そう‥。なんといっていいか。」

「でも今日は戦うよ。全力でね。」

ビサルはキキと握手をした。

 

ジョアンナは今日という今日まで、水泳の試合が男女一緒の日だと知らなかった。

落ち込んでしまう。

練習にハイレグの女子選手が登場して、ジョアンナは「いやー。」と声を出したかったが、出なかった。代わりに、じっと見た。

嫌な人をじっと見ると、すっきりするのが分かる。

 

「あれ?ジョアンナさんがいるよ。」

国際試合を見に来たリザが言い、デジィは少し笑った。

「やだ、どうしよう。」

 

まわりの客もジョアンナに気づき、少し笑った。

 

男子選手の練習になり、ジョアンナは笑ってキキを見た。

キキはジョアンナの目の前のコースで練習して、ジョアンナの目の前でプールから上がり、ジョアンナから目をそらした。

 

キキがジョアンナから目をそらしたので、ジョアンナは悲しくなったが、キキのお尻を見ると、自分の物だと確かに思った。

キキに気持ちを確認したい衝動にかられたが、我慢する。

 

「お姉ちゃん、どうするの?」

部屋でメリーが聞いた。でも、これは夢で、普段、メリーとはうまくいってない。

「キキが街で一人で歩いていたら、話しかける。でも、それ以上のことは‥。」

「何?できないの?」

「うん。だって、こんなに好きになっちゃったのにさ、フラれたら生きていけない。」

 

いよいよ試合が始まった。

女子選手の後ろ姿は哀れな物だった。

なので、ジョアンナは指を組み、彼女達の幸せについて祈る事にした。

 

リザはデジィに話しかけた。

「あいつら、きもくない?」

「うん‥。」

「まるで、エイリアンだ。」

リザが言い、デジィは笑った。

 

キキの番が来て、キキは確かにジョアンナを見たので、ジョアンナは下を向いた。

『一番になってほしくない。』 

ジョアンナは強く思って、キキは二番だった。

ジョアンナは、二番でも許せなかったが、キキはまたこちらを見たので、許すことにした。

 

ビサルは最下位だ。

「くそ‥。」

見た目は良い男なのに、弱い自分が情けなかった。

インド人記者がインタビューしようと近寄ってきた。

「答えることは何もない。」

「いやいや、困りますって。それじゃ。あなたはインドの代表なんだからさ。」

 

「すまない、負けてしまった。」

ビサルは言った。

「それだけ?」

「ああ、それだけだ。」

 

「インタビューも練習しましょう!」

インド人記者は、ビサルの背中に向かって言った。

 

 

「あれ?ジョアンナ?」

「ああ、偶然!」

試合の後、入口で、ジョアンナが飲み物を買おうか迷っていると、ヘアメイクをしている男レノが声をかけた。

「来てたんだ?」

「うん。」

「知り合いでもいるの?」

「いない。でも、ほら、好きな人がさ。」

「えっ?!」

 

「あれ?言ってなかった?」

ジョアンナは恥ずかしそうに笑った。

 

トイレで用をすましたデジィとリザは帰ろうとした。

2人はジョアンナを見つけた。

「ヤバい!」

デジィはバッグで顔を隠し、走った。

ジョアンナは一瞬、こちらを見たが、また大人っぽく笑って、レノと話し始めた。

ファンがジョアンナの写真を撮ろうとして、

ジョアンナは「ノー。」と言って笑って断った。

 

デジィも何度かジョアンナに言われたことがあるが、別に写真を撮ろうとしていたわけでなくて、メールをしていただけだった。

ジョアンナは人としても面白い。

 

最下位のビサルのことをみんな気にしない。

ビサルはジョアンナに近づいた。

「こんにちは。」

「え?」

 

「え?ってなんだよ。」

レノがジョアンナにつっこんだ。

「だって‥。別に知らない人だったからぁ。」

 

「モデルのジョアンナでしょ?」

「うん。どうして知ってるの?」

「空港で、君の広告を見たよ。」

「そっか、ありがとう!あなたは、モデル?」

「いやいや、ちがう。僕は競泳選手さ。今日も出ていたんだ。」

「へぇ~、そうなの。私のボーイフレンドも競泳選手よ。今日は2位だったわ。」

「オーマイガー!キキ?」

「ええ、そうなの。」

 

『まだ、話した事ないけど。』

 

「じゃ、また会おう!」

ビサルは手を振ってお別れした。

ジョアンナは、大スターと会った後の気分になった。

 

ジョアンナはレノに聞いた。

ジョアンナにとって、レノは弟のような存在だ。

「次、撮影所、いつ来る?」

「撮影所?スタジオだろ。」

「うん、そうだけど。」

「次は、きっと来月だ。」

 

「はいはい、今日もよろしくね。」

今日のメイク担当はおばさんだ。

「はいっ、よろしくお願いします。」

 

一番いいのは、若いお兄さんの時だ。でもあんまりない。

外国人のカメラマンの日は大体来てくれるけど、そんな撮影の日は必ずメリーが来る。

モデルとしてのキャリアはジョアンナの方が上だが、メリーはとても綺麗なので嫉妬してしまう。

メリーが肩を出した黒いミニドレスで、腰に手をあてて、カメラマンを睨んでいた時は、正直ゾッとした。

その日は、ジョアンナはロングドレスを着せられた。

 

黒の伊達眼鏡とグリーンのパーカーで撮影所に入ったが、ヘアメイクをして、ドレスで登場すると、「ほら、やっぱりね。」と、ジョアンナは気合が入った。

メリーが呆然として、ジョアンナを見つめ、ジョアンナは勝ち誇った感じで、カメラの前に立った。

「あー、可愛い。」

ピンクのキャラクタートレーナーに着替えたメリーは、モニターを見た。

「ぶれた写真が一枚もないよ。」

「見せて!」

ジョアンナが来た。

「ああ‥。」

ジョアンナが思うほどでもなかったが、みんないいと言っているので、よしとしよう。

「もう一回撮る?」

カメレオンが聞いた。

「うん。」

 

「あ、ぶれてる。」

「えええ!」

 

「やだぁ!」

ジョアンナは、小学生の頃、初めての撮影の後は、ぶれた写真を思い出して、車の中で大泣きした。

そして、高校からは本気になったので、ぶれた写真が何枚あるか、数えるようになった。

今では、写真がどんなにぶれても気にしない。

前に、外国人の可愛いメンズモデルと撮影した時には、ジョアンナばかりがぶれてしまって、痛い思いをした。

『このメンズ君、なんで全然ぶれないの。』

 

「すみません。もう一度いいですか?」

「いいよ。」

 

次は、ジョアンナはうまく写り、メンズ君の目は、眼鏡の奥で逆さになったりしていたので、ジョアンナは満面の笑みを見せた。

『よかった。』

 

「ごめん、今度は僕が。」

「いいわよ。」

ジョアンナは笑った。

笑うと、何もかも忘れられるから不思議だ。

 

「今日、担当させていただきます、ラビです。」

「ラビ?」

「ラビって珍しいですよね。」

ラビは二十歳くらいの女の子で、ヘアメイクをしてくれたが、あまりよくなかった。

一応、何枚かは採用になったが、あまり好きではない。

できたら、モデルを引退したようなババアがいい。

 

ジョアンナもやってあげてもいい。

ジョアンナはいずれ、モデルを辞めるつもりだった。

みんなが自分を忘れるまで、撮影所で片付けの仕事をすればいい。

 

「そんなのヤダ‥。」

「大丈夫ですかっ!?」

「うん、大丈夫。ごめんね。」

「いえ‥、お気に召さないようでしたら、言ってください。」

ジョアンナの魂は生粋のお姫様である。だから、モデルの仕事もうまくいった。

 

お母さんは、「モデルなんてダメだから!」と言ったが、

従妹とその両親が応援してくれたので、モデルで第一線を走ることができた。

全ては、友達が‥、いや、好きな人が日本の第一線を走っていたためだ。

ジョアンナを追う男は多かった。なので、好きな人を選ぶのに苦労した。

もしかしたら、キキのことを、本当に愛しているわけではないのかもしれない。

 

「人はだれしも、一番愛している物は自分なんだから。」

お母さんはよく言う。

 

メリーと仲良くしたいのに、うまくいっていない。

お母さんが撮影所に来た時に、3人で撮ったのが、とても面白くて、泣きそうになった。

子供の頃のような姉妹に戻れた気がした。

出来上がった写真を見て、ジョアンナは聞いた。

「これ、使わないでしょ?」

 

「いや、わかんない。聞いてみるね。」

スタッフの眼鏡の男は答えた。

「ううん、使わなくていいよ。でもさ、私、これ欲しいんだ。」

「わかった。あとあげるね。」

「ありがとうございます。」

 

ジョアンナは、お母さんが来ても、かっこよく決めポーズをつけた。

むしろ、お母さんが見ている方が、本気になれた。

デジィのお母さんなら、

「はずかしいー!やめなさい!」と、言うはずだ。

バルサは、デジィのお母さんユディの姉である。

2人は全く正反対の性格だ。だから、うまくやってこられたのかもしれない。

 

ジョアンナは男についてよく分からない。あまり経験がなかったので、下心に意識を向けた事がなかった。

それがとてもよい。下心ムンムンのカメラマンとも、仲良くおしゃべりしながら、ポーズを決めた。

「ゲエ。‥あら、ごめんなさい。」

ジョアンナはしゃべりながら、ゲップをした。

ゲップをくせが治らないが、別に意識してない。

 

ブッ

「あら、失礼。」

ポーズを決めながら、ジョアンナが言った。

「え、今の音、ジョアンナ?」

「そう、ごめんなさい。おならしちゃった。」

「アハハハハ!」

「でも、実はでてないから。」

「出てたら、もっと臭うでしょう。」

 

よく、成功した大女優が言う。

「私は、他の女優たちより、恵まれた環境にいたわ。とても素晴らしいスタッフに囲まれて、仕事をしていたのよ。」

 

ジョアンナも同じだった。

みんな、ジョアンナの魅力に吸われて、この世界を訪れた者たちだ。

 

その日、ジョアンナは腹を下していた。

腹の痛みに耐え、ポーズを決める。

「あれ、いつもとちがうんだね。」

「うん、ちょっと、トイレ行ってくる。」

「わかった。」

 

「大丈夫?」

「うん。」

「腹?」

「うん、そうだけど、ちゃんと拭いたから。」

ジョアンナが言うと、カメラマンは少し引いて、ジョアンナを見た。

「あら、やだ。」

ジョアンナは赤くなった。

 

 

「あんた達、そんなんじゃ生き残れないんだからね!」

小学生の頃、撮影の後片付けを手伝うジョアンナとメリーに、一線を走るモデルが言った言葉だ。

「え‥。」

2人はメモ帳を持って、その人達の撮影を勉強した。

今思えば、どうしてあんなことが許されたのかは分からない。

 

まず、モデルは敬語を使わない。

「はい」も、「はーい」と言う。

なので、ジョアンナとメリーは、言葉遣いにも気をつけた。

モデルの世界の言葉遣いは、外とは真逆である。

しかし、メリーは60才をこえたお爺さんカメラマンに、タメグチをきく自分が怖くなった。

それ以来、敬語に直した。でも、モデルらしく、高い声で話すことにした。

 

「わかりましたぁ!」

「はい、ありがとうございましたぁ!」

 

「あんた、もう少しちゃんと話せないのかい!」

見学に来ていたバルサが言った。

「ごめん、ママ!ちょっと待ってくれるぅ?」

 

スタッフがバルサに挨拶をしたが、バルサは無視をした。

「こんなところ、もう出ようよぉ!」

バルサは、メリーの背中を持って、外に出した。

「あんたは一体、どうしちゃったんだい?」

バルサは泣きだしそうだ。

メリーも泣いた。

「ママ、ごめん。スタジオでは私、モデルなんだからさ。」

「でもさ、メリー、いつもの声でちゃんと話そうよ。」

「うん。」

メリーは泣いた。

 

ジャカルタのスタバでデジィはパンを食べた。

隣に男が座ったと思ったら、地元の友達ウィリーだった。

「やっぱ、デジィ?」

「うん。」

「ここ、座っていい?」

「いいよ。彼女できた?」

「いないよ。」

「お前、今、なにやってんの?」

「え‥。」

デジィは、ウィリーを見た。

お前なんて呼び方をしたのは、彼氏しかいなかったからだ。

 

「えっとねー、洋裁の学校に行ってる。」

「そっかぁ。デジィ、服好きだったもんね。俺は、大学で、バスケをやってる。」

「そうなんだ。」

デジィは下を向いた。大学のことはよくわからない。

 

「でも、うまくいかないかもしれない。人付き合いが下手だから。

人から、嫌われたらどうしようとか、思わない?」

 

「別に‥、その人のことが嫌でも、何も言わなければ、何も伝わらないよ。

どんなに心の中で憎んでも、口に出さなければ伝わらないから、大丈夫。」

 

「ああ、そっかぁ。だから、デジィってしゃべらないんだね。」

「うん。」

 

 

「よっす、デジィ!」

「あ、どうも。」

図書館で雑誌を読むデジィに、地元の友達イヴァンが話しかけた。

「お前、今なにやってんだっけぇ?」

「え‥。」

 

「洋裁の学校に行ってるよ。」

「あ、そっかぁ。俺もだよぉ、偶然だね。」

「うん。」

「でも、俺はァ、洋裁は向いてないね。俺はァ、バレーをやる。」

「ええ‥。」

「ボールだよ。」

「そっか、頑張ってね。」

「あ、そのモデル、デジィに似てんだねぇ。」

「従姉なんだよ。」

「あ、そっかぁ。でも似てねぇよぉ。」

「うん‥。」

 

インド‥

ガンジス川で水浴びをして、お爺さんは手を合わせて目をつぶり、若い女性もそうした。

若者たちが来て、叫んだ。

「そこからすぐに上がれー!この川は神聖なんかじゃない!」

 

水浴びをしていた者達はぶつぶつと文句を言い、若者のうちの一人カビーヤは、近くにいた男達にガンジス川に落とされた。

 

若者たちはカビーヤを拾い上げ、川を後にした。

「だけど、ガンジスは普通の川だよ!だってさ、ビサルさんは、ガンジス川で毎日泳いでたんだぜ?それで、最下位だよ!」

「うん。ガンジス川の効果は、絶対に何もないよ。」

 

「あ、ビサルさん!」

ビサルが長めの赤い海パンをはき、上半身は裸で、サングラスをかけ、歩いてきた。

「ガンジスで今日も泳ぐんですか?」

「ああ、当然だ。ガンジスは神聖な川だよ。」

「けど、ビサルさん、負けっちゃったじゃないか。」

「でも、インドネシアで良い事があった。ある女性と出会って、俺は恋に落ちたよ。」

ビサルはサングラスを外して、太陽を見つめた。

 

「え‥。」

 

ビサルはモデルの仕事を始めた。

最初のうちはポーズが分からなかったけど、だんだんと慣れてきた。

ちょっと恥ずかしいとは思ったが、ジョアンナを思い出せば、どうってことない。

 

インドの若者たちは、ビサルのポスターを呆然と眺めた。

ビサルは街の人気者である。

 

インドネシア

「いらっしゃいませ。」

デジィは、スタバよりは格下のチェーンのカフェで働いている。

スタバは好きだから、働きたくはなかった。

 

目の前に、長身で優しげな男が立った。

「えっとぉ、カプチーノひとつ。」

「かしこまりました。」

 

カプチーノを飲みながら、雑誌を見るその男を、デジィはちらりと見た。

『この人はよく来るから、もしも、自分目当てだったらどうしよう。』

デジィは胸に手を当て、顔をしかめた。中二病がいまだに治らない。

 

「注文いい?」

「はいはいはいはい。あらぁ。」

そこにいたのは、リザだった。

「どう、仕事慣れた?」

「うん。」

「コーヒー、Sサイズ。」

「かしこまりました。」

 

デジィはまたさっきの男を盗み見た。

ジョアンナが表紙の雑誌を読んでいる。

『よかった、私じゃなくて、ジョアンナが目当てみたいだ。』

「エドさん?こんにちはぁ!」

「リザ!」

その男エドとリザは知り合いみたいだ。

 

数日後、リザとデジィは本屋に立ち寄った。

「あれ‥これって、リザの知り合いの人じゃない?」

「エドさん、モデルやってたんだ。」

「きっと、ジョアンナさんが目当てで始めたんだよ。」

「でも、この顔じゃ‥。」

 

「あっ。」

リザが男を見て言った。

「有名なバレーボールの人だよ。」

 

「ビアンカだ。」

ビアンカは、ジョアンナさんが表紙の雑誌を持ち、レジに向かった。

少し赤くなって、本屋を出た。

 

デジィは言った。

「有名人に声かけちゃダメだよぉ!」

「わかってるって。俺はデジィとはちがう。」

 

「この雑誌、買う?」

デジィは、エドが出ている雑誌を指して聞いた。

「どうしよう。エドさんのことは好きなんだけど、今は金欠なんだよ。

そうだ、デジィが買って、貸してよ。」

「え‥。いやーいいわ。」

「ふーん。」

結局リザはエドさんの雑誌を買った。

 

「さっきさ、エドさんのこと、この顔じゃって言ったじゃん。なんのこと?」

リザは聞いた。

「ああ。ちょっと顔がうすいからさぁ、ジョアンナさんとじゃ合わないかなぁって。」

「エドさんはモデルだけじゃなくて、バスケもやってるよ。」

「そうなんだ。」

 

デジィは疲れたように、買い物袋をさげて、部屋に入った。

2人は一緒に夕ご飯を食べた事はない。

リザはデジィの礼儀正しい所が好きだった。

「ゴホゴホゴホ。」

今は疎遠になっている実の弟から、ゲップの臭いをかがされた時のことを思い出した。

 

デジィは、マット布団の上で、少し目を開けた。

天井には天窓があるので、光で起こされる。

掃除出来ないのが難点だ。本当の自分の家でなくてよかった。

こんなアパートなら、一生住める気がするが、そんなことをしたら、みんないなくなってしまう。

バスの中で、ジョアンナさんは大きな瞳でこちらを見て、大きな声で言った。

「私なんて、あんたの年の時、もう第一線に立ってたんだからね!」

まわりの客は、ジョアンナさんをジロジロ見て、デジィは吹き出した。

「まだ線にも立ってません。」

 

「自分が何になるのかもわかりません。」

 

精神病になったら、高校もやめてしまった。

自分は遅れてしまっている。勉強もできないし、洋裁も好きじゃなかった。

 

今の自分にあるとしたら、とりあえず、ラヴかな?

 

ウィリーは聞いた。

「デジィ、アドレス教えてよ。」

「えー、いいよ。」

「どうして?」

「あまり、男の人と連絡先交換しないから。」

「ふーん。」

 

イヴァンも聞いた。

「デジィ、連絡先交換しよ。」

「えー、いいよ。」

「なんで?」

「あー、お父さんの連絡先しか入れてないから。」

「あ、そっか‥。」

 

 

学校の休憩時間、女の子達と仲良くおしゃべりしていたリザが、こちらに来た。

「デジィのアドレス教えて。」

「いいよ、すぐに会えるじゃん。」

「でも、念のため。」

「いや、いいわ。あんまり男と連絡先交換しないから。」

「そっか‥。」

 

授業の少し前に、スマホのアドレス帳を開いて、デジィは口をへの字にした。

正直いうと、お父さんの連絡先も入っていない。

妹のアリーとはうまくいっていないので、名前だけが入っている状態だ。

 

もう仲良くしたくない、中学の友達数人の名前もある。

もう嫌だ。ウィリーもイヴァンも優しいが、自分のことをよく知っているリザを選ぶのがいいのかもしれない。

「サ・イ・テ・イ。」

デジィは顔をつっぷした。

 

学園祭では、デジィはカフェでデザートを担当することになってしまった。

「なぜに?」

正直言って、デジィはクラスの中のエース的存在だった。

でも、生徒は気づいていないし、先生はデジィを見ないようにしている。

 

「ああ、都会で暮らすにはお金がかかるから、誰も、他人を稼げる人間には育てねぇよ。」

 

リザが来て言った。

「デジィ、残念だねぇ。服の勉強をしているのに、カフェの担当になるなんて。」

「うん。リザはどこ担当?」

「ファッションショー。女子のヘアメイクを。」

「マジ?すごいじゃん。多分、ジョアンナさんが来るよ。」

 

「リザー!」

ファッションショーの女子たちがリザを呼び、リザは走って行ってしまった。

 

インドのビサルは、50メートルプールで練習していた。

「ビサルさん、俺たちまでいいんですかぁ?」

若者たちも来ている。

「ああ、好きに泳いでいい。」

「すげー広いなぁ。」

「うん。」

「やばくないかぁ!」

若者たちはビートバンを使って泳ぎ始めた。

 

「キサルさん‥。」

「ばか、ビサルさんだよ!」

 

ビサルは、どうやったらもっと速くなるか、考えている感じだ。

自分はジョアンナさんに惚れているが、ラヴはしていない。

だからきっと、もっと速くなれるはずなんだ。

 

 

学校の自習の時間に、リザは女子たちとファッションショーについて話し合っていて、デジィは次に作る服のデザインを考えていた。

念のために、子供用のデザインも書いてみる。

 

そして、顔と髪の毛と腕と足を描く。

洋裁をやり始めて、デザイン画を描いているうちに、絵がうまくなったようだ。

「あ‥。」

 

「きっと、このままだと、漫画家になれるな。」

 

「そうだ、いいことを思いついた。漫画家になろう。」

デジィは思いついたことを考えて、ニヤニヤとした。

実家は裕福だ。だから、実家に戻って、コンビニでバイトしながら、漫画家を目指せばいい。

ジョアンナさんも私を追って来ると思うが、描いた漫画を見せてあげよう。

 

「デジィ、これ見て。」

リザが来た。

「え‥?」

「バレーボール選手のビアンカさんも、モデルを始めたんだよぉ!」

「すごい!!」

バレーボール選手とは思えない奇抜な衣装で、しっかりとポーズを決めていた。

「でも、モデルってなんの意味があるの?」

デジィは吹き出した。

「でも、かっこいいじゃん。」

「まぁ、そうだよねぇ。目の保養になる。‥えっ!」

デジィが次のページをめくると、ビアンカがズボンを脱いで、パンツ姿になっていた。

パンツと言っても、ただのパンツではない。

ぴちぴちの海パンだ。

 

 

学祭当日。

デザートを盛り付けるデジィの前に、エドが来た。

ジョアンナさんが一人で来て、お茶を飲んでいたので、

「ジョアンナさんと一緒に座ってあげて。」

デジィは言った。

「え‥。」

エドは振り向いて、一人でいるジョアンナさんを見た。

「モデルのジョアンナさんとさ、仲良くすればいいじゃないですか。」

「うん‥。」

エドはジョアンナのテーブルに座って、何か話しかけ、ジョアンナさんは少し泣いた。

 

デジィは気分を良くして、デザートの盛り付けに取り掛かった。

 

「味はいいけど、音楽の趣味が悪い。」

ジョアンナさんはエドに言った。

「そう‥?ジョアンナは、どんな音楽が好きなの?」

「ジョウ・ヒサイシ。彼、見た目は悪いけど、良い人だと思う。」

「たしかに。僕も、ジョウが好きだよ。」

 

「あ‥。」

出来上がったデザートをカウンターに置いたデジィは、ビアンカが来ていることに気づいた。

「ビアンカだ‥。」

ビアンカはサングラスをつけて、辺りを見回し、サングラスを下にずらして、ジョアンナさんを見つめた。

そして、こちらに来て、注文を迷い始めた。

デジィの前に立ったので、デジィは身を引いてしまった。

 

ビアンカはランチプレートを注文し、テーブルに置いた。

 

エドとジョアンナは、ビアンカをちらちらと見ている。

サングラスをつけたビアンカは、シャツの前を開けて、割れた腹筋を見せた。

 

「やめろ!」

「やだぁ。」

ジョアンナは笑った。

 

そして、ビアンカはジーパンを少し脱いで、パンツを指した。

そのパンツは、雑誌ではいていた海パンだ。

 

「こっちこいよ!」

エドは、ビアンカの手を引いて、自分達のテーブルに座らせた。

ジョアンナはにんまりとして、楽しそうだ。

 

デジィも笑ってしまった。

 

「デジィ?」

「リザ!」

「何か楽しい事でもあったの?」

「いや、ジョアンナさんが来ているから。」

「本当だ。」

リザはジョアンナを見た。

生徒がジョアンナに迷惑をかけることを心配したが、今日はエドとビアンカが彼女を守っているから、大丈夫だ。

 

ビアンカがジョアンナに聞いた。

「俺たちなら、どっちが好き?」

「別に、どちらでもいいよ。」

「ええ?!それどういう事?!」

エドが身を乗り出した。

 

「他に‥いるから。」

「そうなんだ‥。」

2人は少し残念そうにした。

 

久しぶりに撮影所に来たレノが、ヘアメイクをしながら、ジョアンナに聞いた。

「メンズモデルとの撮影、初めて?」

「何回かしたことある。でも、うまくいかなくて。」

「そりゃそうだよ。でも、ジョアンナなら、大丈夫。人形と思えばいい。」

ジョアンナは自分の姿を鏡で見た。

ジョアンナはモデルがやりたかったし、こういう風になるのが好きだったし、

強力なバックがいることを分かっていた。

線に立っていないデジィの存在だ。

ママも、モデルをやっていたし、親戚はみんな応援してくれている。

 

「そういえば、今日メリー来てるかな?」

「どうかな?」

 

「あっ。」

メリーは、アリーと手をつないできた。

「アリーちゃんと?」

「うん。そこで会ったから。」

「そう。見学する?」

「うん。」

アリーはうなずいた。

 

ジョアンナはただの知り合いだと思っているが、社長はバルサに惚れていた。

それもラッキーだった。

 

「どんな感じにする?」

ジョアンナはお洒落な眼鏡のスタッフに聞いた。

スタッフは写真を持って、説明をした。

「うん、わかった。」

ジョアンナは、モデルの仕事が普通の仕事とはちがうと分かっていた。

 

ジョアンナとメンズモデルは、近づいたり、喧嘩ポーズをしたりした。

近づいて、喧嘩して、大喧嘩して、また近づくというストーリーが完成した。

メリーは心の中で嫉妬したが、アリーは大笑いしていたので、よかった。

 

「やだ、ごめんなさい。」

自分の白目の写真を見て、ジョアンナは笑った。

「ううん、いいよ。」

メンズモデルは、目を合わせられなかった。

一度合わせたんだけど、ちょっとくらくらとしてしまった。

 

着替えて、悪魔ポーズをして、悪魔のカップルになって、その後は、ロマンティックなカップルになって、撮影は終了した。

ロマンティックな撮影の頃に、飽きたメリーは、アリーを外に連れ出した。

 

「今日はありがとう。」

「ううん。」

メンズモデルは、満足した感じだ。

 

「この後は?」

「ああ、彼氏と会うから。」

「そうか‥。」

メンズモデルは頭をかき、後ろを向いた。

 

キキは彼氏じゃない。

 

「彼氏ってホント?」

「うん。」

お洒落な眼鏡のスタッフが聞き、ジョアンナは答えた。

 

ジョアンナは外に出て、地下鉄に駆け下りた。

 

「お姉ちゃん!」

「メリー?」

「うん。アリーちゃんはもう帰った。どこ行くの?」

「水泳の競技場。」

 

「えーなんで?」

「好きな人がいるから。」

「嘘ぉ、誰?もしかして、ルード?」

「ちがう。キキの方。」

ジョアンナは笑った。

「ふーん。」

「ついて行ってもいい?」

「ダメ。」

ジョアンナは、モデルとしてはライバルのメリーに、なかなか優しくできなかった。

 

「なんでぇ~~。」

メリーは足をバタバタした。

ジョアンナは昔のような姉妹に戻ったかなと思い、少し笑った。

 

「お姉ちゃん、私、この前、一人でアメリカに行ってきたの。」

「はぁ?何ソレ。撮影?」

「ちがう。ただの1人旅。」

「はぁ?ふざけんなよ、お前!」

ジョアンナは大声を出し、まわりの客はじろじろと見た。

ジョアンナは恥ずかしさと悔しさで、電車を降りた。

「ちょっと、お姉ちゃん。子供みたいだよ!」

 

「子供扱いすんな!!」

ジョアンナは、人前で、バルサにも大声を出した。

 

ジョアンナは恥ずかしさをこらえ、また次の電車に乗った。

とにかく、誰か、すごい人に会って、力をもらいたかった。

 

それに、今日あの競技場に行っても、キキには会えないかもしれない。

でも、あそこに、良い感じのベンチがあった。

あそこで、キキと弁当を食べられたら、どんなにいいだろう。

でも、ジョアンナはお洒落な女だから、そんなことはできない。

あのベンチで缶コーヒーを買って、ジョウ・ヒサイシの曲を聞いて、のんびりしたい。

明日は休みだ。休みの日は、絵を描いていることが多い。

下手な絵だけど‥。

一度、キキとの結婚式の絵を描いてみて、少し泣けてきた。

私って、どんだけけなげな女なんだよ。

でも、エドを思い出すと、エドと付き合うのもいい感じがする。

 

あ、そうだ。

私、ブランドのこと、何も知らないから、今度デジィに聞いてみよう。

インタビューで、よく好きなブランドを聞かれるから。

 

『ブランドとか、あまり気にしてないの。ロゴって見えなくなるでしょ。』

あ、良い感じがする。

正直言って、ユニクロの服が一番よかった。

でも、モデルらしく、GAPの白無地のトップスを着た時には、みんなが私を見つめていた。

 

「お前、どんだけ自分のことスキなんだよ。」

ジョアンナは、よく自分に向かってそう言う。

「はい、好きです。それの何がいけないのかわからないし、私は、誰かに嫌われたり、変に思われたりすることは気にしない。」

 

「やっぱり、私はすごいかもしれない。」

 

「だって、こんなに綺麗なんだもん。」

ジョアンナは、鏡で自分をまじまじと見つめた。

ジョアンナは、ずっと憧れだった一人暮らしをしていて、少し良いマンションに住んでいる。

「みんな、なんとかして、ここに住もうとするんだよ?」

ジョアンナは、言った。

「それは、あなたがいるから。はい、ちがいます。」

ジョアンナは、一人でいる時、一人でしゃべる癖が治らない。

お節介な嫌な人が、ジョアンナに作業療法を紹介して、一度、行ってみた。

すると、いつものカメラマン、タナさんもついてきて、一緒に作業をした。

楽しかったけど、やっぱりモデルに戻りたい。

デジィも応援してくれているし、きっと大丈夫だ。

 

「ああっ!」

ジョアンナは、中学の時、バスケ部の練習中に鼻を折り、入院した。

ジョアンナのおじいちゃんが医師だったので、よかった。

むしろ綺麗になった。メリーとアリーちゃんは、魔女みたいと言うが、ジョアンナは気に入っている。

メリーもバレー部で鼻を折ったが、そこまで鼻が伸びなかった。

メリーは、ジョアンナにボールを当てた子が、わざとだと分かっていた。

「ンカ、お姉ちゃんのこと、ありがとね。きゃはは!」

メリーは、ジョアンナにボールを当てたンカに言った。

 

ジョアンナも、メリーにボールを当てた子に言った。

「チョン、メリーのこと、ありがとね。あの子、おかげで綺麗になったからさ。」

 

ジョアンナは、水泳競技場がある駅で降りた。

一度、止まって、考えるポーズをした。いつでもポーズを決めちゃう。

何気なくやるのがコツだ。

「キキ、いるかな‥。」

 

辺りは暗くなってきている。

ガコン

自動販売機で缶コーヒーを買った。

いい感じだと思ったベンチには、先客がいる。

「まぁ、お爺さんなら、いいか。」

ジョアンナは、少し離れたお爺さんの隣に座った。

 

 

ワアアア

インドでは、水泳の大会が行われていた。

ビサルは世界では最下位でも、インドでは一番速い選手だ。

女子選手に、自分が何を言ったかも分からないほどの、酷い言葉を浴びせた。

でも、ネットニュースの世界で生きている日本の女子選手よりは、悪い奴ではないと分かっていた。

ネットニュースに自分が載せる事が、どれほどのストレス解消になるか知っている。

俺はバカではない。

ピッタリとした水着をはく。

一番に、誰に体を見せたいのかは、分かっていた。

 

『好きな人が盗られたという、劣等感があるから、競泳を続けている。』

 

俺の好きな人は、ジョアンナだ。

ジョアンナはきっと、俺の体を見てはくれない。

見てくれないから、見てくれるまで、自慢の体を見せつけたい。

 

レースが始まった。

今日は、いつものとりまきの後輩、クマールも参加している。

スタート前、クマールはこちらをちらちらと見た。

 

やっぱり、今日も一位だ。ビサルはグーをあげ、隣の選手と握手をした。

 

 

「ああ~。ルードの記録よりも、3秒も遅いよ。」

競技場で、スマホでレースを見ていたキキがルードに言った。

「ほら、こんな奴も出ているし。」

キキはクマールを指した。

クマールは遅れすぎて、途中で棄権した。

水の中で立って、顔をぬぐっている。

 

「インド、ヤバくない?」

ルードが言った。

「白の帽子ってのがなぁ‥。」

キキは笑った。

ビサルは、仁王立ちでインタビューを受けている。

 

 

涼しい風が吹いて、ジョアンナは身震いした。

『間違えちゃった。いる?』

って、ダメだよね。

 

ジョアンナは笑った。

『きっと、お爺さん、糖尿病だよね。』

 

ジョウ・ヒサイシの曲を聴く予定だったが、今は音楽がない方が心地よかった。

『お爺さん、入れ歯かな‥。』

ジョアンナは下を向いて、お爺さんをカメラだと思って見つめてみた。

 

「ええっ。」

何か冊子を読んでいたお爺さんは、ジョアンナのしている事に気づき、声を出した。

「それ、なんですか?」

「これ、脚本だよ。」

「へ?脚本?映画関係者なんですか?」

「そう。監督をやっているの。」

ジョアンナはびっくりした。

ジョアンナはにんまりして、考えた。

『でも、危なっかしい映画かもしれない。』

 

「どんな映画なんですか?」

「うーん‥。シリアスな部分もあるし、笑顔になれる所もある。僕は、庶民の生活を描きたいんだよ。」

「そうですか‥。」

 

ジョアンナは思い出した。

ジョアンナは、以前、業界人に本名を聞いて、教えてもらえなかったことがある。

なので、人に名前を聞くのが怖かった。

 

「お嬢さん、あなたは、映画に興味があるの?」

お爺さんは聞いた。

「はい。私、モデルなんですけど、女優をやるのは、ママが許してくれなくて。」

「モデル?あら、じゃあ、本物のジョアンちゃんかい?」

「はい、ジョアンナです。」

「おやおやおやおや。」

お爺さんはジョアンナと握手し、ジョアンナも満面の笑みを見せた。

 

「ヤマダ監督ぅ!」

なんと、その人は、日本で一番有名な映画監督だった。

「はいはいはいはい。」

その人は立ち上がった。

 

「あっ‥。」

「また、ママの許可が出たら、僕の映画に主演してね。」

ヤマダ監督は笑って、行ってしまった。

ジョアンナは、久しぶりに親族の男性に会った気がした。

 

パパはジョアンナが二十歳の頃に亡くなっていたし、おじいちゃんも去年亡くなったからだ。

 

 

試合の後、ビサルは後輩達にメシを御馳走することにした。

ファミレスで、クマールは泣いている。

仲間が言った。

「な、こんな場所、もう出ようぜ。お前、あんな負け方しといて、一位の人におごってもらうなんて、ダメだよ。」

 

「あ‥。」

ビサルがトイレから戻ってきた。

「どうした?メニューを選べ。全部、俺が払う。」

 

「いいんですか?」

「すみません、今日は負けてしまって。」

 

「負けたこととメシは関係ない。」

 

 

ジョアンナはベンチで、ジョウ・ヒサイシを聴いた。

やっぱりいい。

ジョアンナの想像の中では、キキはいつも一人でいるイメージだった。

ちょっとは、私の雑誌を見てくれているかな‥。

 

アハハ!

キキが仲間と談笑しながら歩いてきた。

ジョアンナは胸をおさえた。

好きな人には、自分に仲間がたくさんいることを見せたいものだ。

 

「あれ‥?」

ルードがジョアンナに気づき、キキに耳打ちした。

「あれ、ジョアンナさんじゃない?」

「うん‥。」

 

「今日こそ、告れば?」

「えー、でも、なんかこわい。」

 

ジョアンナは立ち上がった。

「え‥。」

キキの方に歩いてくる。

「キキさん!」

「はい。」

「あなたの連絡先を教えてもらえる?」

「ええ、なんで?」

キキは笑ってしまった。

「私と友達になってくれないかな?」

「ああ、そっかぁ。うん、いいよ。」

ジョアンナはモデルの時の睨みをきかせた。

 

「えっとぉ、俺だけでいいのぉ?ルードのは?」

「いい。」

 

「アハハ!」

ルードは笑った。もともと、ルードはメリーの方がスキだったのだ。

 

 

電車の中で、リザがデジィに言った。

「デジィが、今までにした一番悪い事を教えて。」

「えっ、悪い事?」

「うん。」

 

「えっとぉ‥。」

デジィは元彼としたラヴな悪い事が一番の悪い事だった。

でもそれよりももっと酷いのが‥。

いや、これは絶対に言う事はできない。

 

「うーん。」

「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。」

 

「あ、満員電車の中で、前の女性のトレンチコートに口紅をつけちゃったこと。」

「何ソレ。」

「何も言わずに逃げちゃった。」

「やだ、最低。」

 

リザは少し女っぽい。

リザになら、本当の一番の後悔を話してもいいかもしれないが、嫌われるに決まっている。

リザは半笑いで、遠くを見つめている。

「リザの悪い事は?」

「デジィほど、悪くはないから。」

リザは笑った。

デジィも少し笑った。

『悪い事を思い出すと、やっぱりそれほど悪い事ではなかった。

ジョアンナとデジィのおじいちゃんが死んだ日に、恋人と過ごした事。

その人は変な人だったから、その時のその人は、リザだと思ってもいい?』

 

「何?」

リザは笑った。

「別に。」

デジィは笑った。

おじいちゃんのことが好きでない方が普通だ。だって、おじいちゃんにはおばあちゃんがいる。

 

 

デジィにとって、ジャカルタのような都会は無理な場所だった。

でも、田舎に戻れば、終わりな気がした。

 

満員電車も苦手で、端の席が空いていれば座って、手すりに顔を押し付けた。

ガタン

駅に電車が止まり、デジィは顔を上げた。

すると、前にエドさんがいて、

「顔が菌だらけ。」

デジィに向かって言った。

 

デジィは何も言わなかった。

そもそもデジィのようなちっぽけな女学生が、インドネシアのトップリーグで活躍する先輩と知り合いという事自体、異常な事だった。

デジィは、保険がきかない精神病のクリニックに通っている。

カウンセラーの前で、デジィは、大泣きした。

「みんなが私を大人っぽいと言ってくる。私はまだ子供なのに‥。

私は人から見られているんです。」

それは、精神病の症状でなく、本当のことだった。

 

クリニックを出たデジィは、泣きはらした顔で、駅の階段を降りる。

見た事もないお洒落なスーツを着たイヴァンが、早足で階段を駆け下りた。

どうやら、デジィとは別の電車に乗るようだ。

イヴァンがどこに住んでいるのかは知らないが、同じ方角だったので嬉しかった。

でも、こういう事を、ずっと続けていてはダメだと思った。

 

時々、デジィは疲れ果てて、アパートに戻るのもやっとだった。

ちっぽけなアパートに住んでいても、デジィを見た人の多くが、

デジィを気にしているように思えた。

最近のデジィは、学校にはやっとの思いで通っていて、あとはバイトと、家ではDVD三昧だ。

学生なのに、勉強をしていない。ずっと映画を観ている。

このままではいけないと思うので、明日は、ビーズを買いに行こう。

絵の勉強は、20代前半に集中してやればいい。

 

『二十歳って、もう20代前半?』

デジィは、布団で心配そうに天井を見た。

何にもなれなければ、とても退屈そうだ。

 

でも、ジャカルタで、何にもなれなそうな気がする。

二十歳のみんなは、何をやっているんだろう?

運動かな?

ウィリーが言うバスケ、イヴァンが言うバレーボール。

エドさんが所属するバスケットボールクラブ、ビアンカが載っている雑誌。

ジョアンナさんの地位。

デジィが思うより、ずっと上の物だ。

デジィは、何も思わないことにした。関わらなければいい。

映画を観ていると、ふわふわと体が浮いた感じになる。

いつか映画を書きたい。

 

デジィは焦らなかった。

少しは泣いたけど、その事ではない。

自分の愚かな若さに泣けてきただけだ。

デジィが勉強をしなかったから、他の誰かが頑張って勉強をやっている。

だから、少しは、他人の役に立ちたい。

勉強が出来る人達の服を作ったりして、優しい王子の冷えた手をとって、ダンスがしたい。

 

311が日本で起きて、カラスが飛んだ。

ジョアンナさんは、誰かに支えられていた。

その瞬間、アリーとメールしていたのは嬉しかった。

ジャカルタの空から、カラスが数日間いなくならなくて、

本当に不吉だなと感じた。

ジョアンナさんは311が嫌そうだった。

ジョアンナさんがやることは、みんなが真似する。

 

日本の風が吹き、ジョアンナさんは、駅で鼻血を出した。

ジョアンナさんが手をあげていたので、デジィは駆け寄った。

「ジョアンナさん。これ。」

ティッシュを渡すと、どこからともなく、見た事ない男が現れて、ジョアンナさんを支えた。

「ありがとう。」

男は言い、ジョアンナさんをトイレに連れていった。

「手を上げたって、しょうがないじゃん。」

男は言った。

あとで分かった事だが、その男は、プロ野球選手だった。

ジョアンナさんのおかげで、デジィはいろいろな人を知ることができた。

 

アパートで、デジィは雑誌を読んだ。

服の作り方は、左から右へ流れていく。

テキストを見返すが、何が何だか全く分からない。

これも精神病の影響だろうか?

雑誌を見ていたって、服がまともに作れなければ、なんの意味もない。

 

デジィはビーズでアクセサリーを作ることにした。

かなり豪華な物を作れる。

でも、こんなもの、デジィだってつけない。

 

多分、ジョアンナさんもつけないだろう。

ジョアンナさんは、プライベートでは、ヒッピーみたいなアクセサリーをつけていた。

 

恥ずかしくて、とてもじゃないけど、ジョアンナさんには見せられない。

 

「やっぱり、映画を観よう。」

デジィは、布団に寝転がって、映画を観た。

ジャカルタに住んでいて、とても疲れている。

映画製作現場に行く気分じゃない。

でも、書くなら、どうだろうな?

デジィは少し笑った。

二十歳という若さが、本当に愚かで、情けなかった。

何かを持っていたら楽しいかもしれないが、何もない人には、恐怖の年齢である。

 

デジィは、自分が生まれる前の記憶がぼんやりとあった。

恋人と、木の下でモデルの練習をする、前世のジョアンナさんを覚えていた。

だから、本当に、ジョアンナさんを応援していた。

デジィはそんなことをしないので、写真写りが悪い。

 

 

「俺、バレリーナになるから。」

「はぁ?何言ってんだよ、お前。」

外で、言い争う声が聞こえたので、デジィがのぞくと、リザが弟のガウルと話していた。

ガウルが言った。

「俺、絶対にバレリーナになって、世界の舞台に立ってやるから。」

 

「だから、それ、きもいって言ったじゃん。」

リザが言った。

デジィは部屋の中に入った。

ガウルが奇声を出して、デジィはイヤホンをつけた。

 

リザは無理にドアを閉めたが、ガウルがドアをドンドンと叩いて、リザは部屋にガウルを入れることにした。

デジィは少し休むことにした。

 

カフェのバイト先には、嫌な先輩がいた。

大学名を聞くと、名前も知らない大学だった。

勉強ができないデジィが言うのもなんだが、先輩は歴史に残れなそうだ。

 

『この手で、何ができるかな。』

デジィは学生時代、手をよく見つめた。

絵を描くつもりなら、左手も鍛えるべきだ。

ペンを使うのは、想像以上に力を使う。

 

『でも、パソコンに打つならどうかな?』

デジィは考えた。

 

「注文、いい?」

「はい。」

「こんにちは。」

「あ、どうも。」

そこにいたのは、イヴァンだった。

「俺、彼女できたから。」

「そうですか。よかったですね。」

デジィは笑った。

 

「コーヒーひとつ。」

「Sサイズで、いいですか?」

「あ、うん‥。」

 

図書館に、ビアンカが載っている雑誌が置いてある。新刊は借りられないので、デジィは毎月読んだ。ビアンカの写真はどんどん過激になっていくので、楽しかった。

かっこいい先輩を知っていて、エドのことも、ビアンカのことも、遠くから見るのが好きだった。

もちろん、ジョアンナさんが泣いた時には、どちらかが愛してあげてほしい。

 

 

『じゃあ、明日、10時に駅で会おう。キキ』

「どうしよ、何着てこう?」

ジョアンナは部屋で笑った。

ベッドの上に、何着か服が置いてあって、頭にはヘアバンドをつけていた。

 

「きゃ~。」

ジョアンナはベッドにつっぷした。

『セクシーポリス。』

昔、コスプレの撮影をした時のことを思い出して、ジョアンナは首を振った。

そういう撮影でも、胸とパンツを出していなければ、ジョアンナは平気だったし、大体は、他のモデルの子と一緒だった。

ジョアンナもスタッフと同じ仕事をしたりした。

 

駅につくと、キキが待っていた。

「じゃ、行こうか。」

「うん。」

今日は、遊園地に行く。

ジョアンナがずっと夢見ていたことだった。

キキはジョアンナの手を握ると、

「やだぁ。」

ジョアンナは手を放してしまった。

「私ね、手をつなぐとか、そういう事って、一回しかした事がないの。」

「そうなんだ、僕もだよ。」

 

「だから、大丈夫。」

キキはジョアンナの手を握った。

 

 

「はい、どうぞ。」

ビサルは、インドの貧しい子供たちに金貨のチョコレートを渡した。

後輩達も手伝っている。

女の子はしばらくチョコレートを見つめて、包み紙をはがして、チョコレートを口に入れて、にっこりと笑い、ビサルはその子の頭をなでた。

 

男の子は、本物の金貨ではなかったので、「わああ。」少し泣いたが、ビサルが何か言い、泣きやんでチョコレートを食べた。

 

「みんな、食べれば元気になる。」

ビサルは言った。

 

「ビサルさーん!」

若い女の子達がビサルに駆け寄り、一緒に写真を撮った。

 

スタジオでも一緒に撮ることになって、雑誌にも一応出たし、よかった。

ビサルは、芸能人の道を歩むことにした。それは、みんなを助けたいからだ。

でも、それには、もっと水泳で速くなる必要があった。

海外の速い選手が、速く泳ぐコツを教えてくれるはずがない。

アフリカから来たチビが、ビサルを指導した。

そいつの言う事が嘘かと思ったが、言う通りにしたら、速くなった。

いい奴だ。インドにずっといてほしい。

 

アフリカから来たナダルが、プールサイドで、後輩達と楽しそうに話す姿を、ビサルは眺めた。

 

 

疲れ果てたデジィが、イヤホンをつけ、目を閉じた。

ずっとイヤホンをつけているので、耳が痛い。

デジィはイヤホンをとり、キンキン痛む耳を抑えた。

すると、電車に乗ってきたエドがデジィを見つけ、隣に座った。

 

デジィは身を引いた。

隣に男性がいること自体、ちょっと苦手だった。

十代では、ラヴな失敗を繰り返したので、もう二度とラヴな失敗をしないと決めていた。

 

「デジィコさ、よく、手すりにこうやっているでしょ?」

「はい。」

「やめたほうがいいよ、あれ。いろんな人が触っている物だからね。」

「わかりました。」

 

「学校どう?」

「行ってません。」

「ええ?ダメだよぉ。将来が無駄になる。‥学校に行っていないなら、何をやってるの?」

「GAPで働いてます。」

「GAP?あそこ高いでしょ?デジィコのような二十歳の人が働く所じゃないよ。」

「でも、上に見られるから。」

デジィが言うと、エドは首をふった。

「デジィコはまだ子供。ジョアンナに比べたらね。」

「ジョアンナさんは、トップモデルですから。」

「綺麗だよね。」

エドは言い、遠くを見た。

 

次の駅で、ウィリーが乗ってきて、エドとデジィに挨拶したので、デジィは安心した。

エドは、ウィリーと話し始めて、次の駅で降りていった。

デジィはもうエドとは関わりたくないので、エドが手を振ってきたが、無視した。

 

「エドさんと付き合ってるの?」

「いや、エドさんは、ジョアンナさんのことが好きな人だから。」

「あ、そっかぁ。俺、あの人、よくわかんない。」

ウィリーは、苦笑いをした。

 

「デジィ、彼氏できた?」

「わ、私、彼氏とか作んないから。」

 

 

「今日、どこ行く?」

3回目のデートで、手をつないだジョアンナが、キキに聞いた。

「俺の家、来る?」

「あ‥、うん。」

ジョアンナさんは笑った。

 

デジィは、電車が嫌いで好きだった。

いろんな人と会えて、たまらなくわくわくしたし、夕方の涼しい風が好きだった。

でも、こんなにたくさんの人がいるのに、知り合いを一人も見ない日と、

知り合いに会っても、無視される日は虚しかった。

 

虚しいと言えば、デジィはまだビーズで豪華な物を作っていて、もしかしたら売りに出せるかなと思っている時、ジョアンナさんとキキが手をつないで、安そうなシンプルアクセサリーをつけていた時も虚しかった。

デジィが無理して勉強したブランドや、夜遊びのことも、

「あんまり、その場所に行ったことない。」

ジョアンナさんはそう言った。

自分よりすごい人が、自分が知っている都会を知らない時は、本当に虚しい気分になる。

 

だから、こんな都会から、出なくていけないと感じ始めていた。

 

ジョアンナさんとキキが、何をしたのかは分からない。

でも、二人は、堂々と手をつないで歩いて、ビアンカはそれを見て青ざめた。

ジョアンナさんとキキがしたことは、普通の恋人通しがやるような物だろう。

デジィが十代で経験した‥。

いや、ジョアンナさんは二十代だから、きっともっと深い物かもしれない。

デジィは、恋をするのは、二十代の方がよかったかもしれないと考えた。

いや、でも普通、十代で恋をしても、二十代でもまた恋をする。

デジィは普通じゃないから、仕方がない。

 

パラッ‥

デジィはいつものように、ビアンカが載っている雑誌をめくった。

「あ‥。」

 

『ビアンカ選手は、バレーボールの世界選手権に出場するため、この連載は休止いたします。』

 

「あはは、その人、そういえば、バレーボール選手だったよな!」

「えっ。」

大学生っぽい眼鏡の男が、雑誌を見て言った。

 

「ああ‥。」

デジィは雑誌を戻し、1階を見た。

図書館は二階建てだ。

なんとなく、イヴァンを探したが、いなかった。

似ている人が階段をのぼっていたが、デジィは間違えない。

 

デジィは図書館から出ることにした。

 

GAPの仕事は、きつかった。

辛くなって夜の11時まで、ロッテリアで過ごしてみたが、帰ることにした。

 

デジィはまた精神病になってきていた。

学校にまた行かれなくなったデジィは、女友達とも会わなくなった。

 

キキと手をつなぐジョアンナを見たエドは、思わず影に隠れた。

 

 

久しぶりに学校に顔を出したデジィを、リザはキルトの展覧会に誘った。

「デジィ、それくらいの交通費ある?」

「ある。」

「うん、じゃあ、行こうか。」

 

「手をつなぐ?」

「いい。」

「そっか。」

 

「デジィってさぁ、女友達いないでしょ?」

「うん、縁を切りたいと思ってる。」

「はああ?最悪だ。じゃ、男だけ?」

「いや、男もいないよ。だって、誰とも連絡先を交換してないもん。」

「ああ。ただの知り合い?」

「うん。」

 

キルトの展覧会を見た2人は、ちょっと疲れたが、胸がいっぱいになった。

 

「デジィコ、可愛いね。」

「は?」

「いやいや、言っただけだよ。」

リズは笑った。

 

「あ、デジィ!」

「ウィリーだ。」

 

「ここらへんで、俺たち練習してるんだよ。あ、そうだ。俺、プロに入ってぇ。」

「プロ?」

「バスケのさぁ、プロにチームに入ったんだ。」

 

「へぇぇ。」

「誰?」

リザが聞いた。

「地元の知り合い。ウィリーのこと、知らない?」

「知らなかった。」

「よろしく。」

「リザです。よろしくお願いします。」

 

「今日さぁ、エド先輩が超怒っててぇ。」

「あの、エドさんなら、僕も知り合いですよ。」

リザが自分を指した。

「マジィ?エド先輩がぁ、壁にボールぶつけたりしてぇ、超こわくてぇ、俺、練習ぬけてきたんだよね。」

 

ジョアンナの事で、むしゃくしゃしたエドは、壁にボールをぶつけたりした。

「お前ら、きちんと練習しなよぉー!!」

エドが、ボールを壁に当てながら、そう言ったので、ふざけているだけかと思い、最初は後輩たちも笑っていた。

でも、後輩がとれないような強いボールを出して、ウィリーもやっとの思いでパスをとった。

「遅い!」

ウィリーがフォームを決めていると、後ろにエドが来ていた。

「え、でも練習だしぃ、アホの先輩からぁ、フォームが汚いって言われてぇ。」

「人に向かってアホって言うな。フォームなんて、気にしてなくていい。」

「はい。」

 

エドの強いボールで、ついに後輩の一人が鼻血を出した。

エドは気まずくなり、トイレに入った。

トイレにいると、泣けてきた。

トイレットペーパーを多くとり、トイレからで、鼻をかんでいると、鼻血を出した後輩が入ってきた。

「ごめん、大丈夫?」

「うん‥。」

『先輩にはハイだろ。』

その時は、エドは我慢した。

 

ウィリーも来て、エドを見たが、さっき良い事を言ってくれたので、何も思わなかった。

 

午後の練習で、エドは奇声を出した。

そして、エドは倒れ込み、鼻血を出した。

「ええ‥。」

 

「大丈夫ですかぁ?」

ウィリー達もかけよったが、エドは倒れていて、調子が悪そうだ。

ウィリーは練習を早退した。

 

次の練習で、「この前はすみませんでした。」エドは謝った。

ちょっと泣けてきたが、エドはもともと大人になりきれてなかったので、大丈夫だった。全部、ジョアンナがあんな男と付き合ったせいだ。

 

仲の良いチームメイトが良いパスを回して、後輩に本当の実力を見せつけたので、

エドも難しいシュートを決めて、実力を発揮でき、失敗なんて、気にする必要なかった。

むしろ、いい方向に転んでくれた。

 

 

デジィはスタバでVOGUEを読んだ。

ジョアンナさんもVOGUEに載るようになったので、デジィは嬉しかった。

 

ジョアンナさんは今まで、インドネシアでしか出回らない雑誌に載っていた。

それなので、外国のファンがそれを手にすることは、少し難しかった。

 

ビサルは、VOGUEを手にして、少し笑った。

ついにジョアンナが世界進出すると思うと、ドキドキしてきて、胸をおさえた。

 

「すごい、世界記録が出たよ。ほら。」

ナダルがゴールしたビサルにタイムを見せた。

「マジか!!」

 

「ああ‥。」

ビサルは水面に大の字になった。

 

「ナダルさん、それ、遅く押してたんだろ!」

後輩がかけてきた。

「ううん、ちがうよ。」

 

ビサルは夢見心地だ。少しガッツポーズをして、また泳ぎ始めた。

 

 

「デジィの年の人って、ホント、子供だよね。」

「はい。」

スタバでコーヒーを飲むデジィに、ジョアンナさんが話しかけた。

「今までさ、デジィの年より、ひとつ上の人とは関わったことがあったの。でも、最近、デジィと同じ年とか、それより低い人が入ってきたんだよね。」

 

「ええ‥。」

『でも、私は、同い年の人が読んでない雑誌読んでて‥。』

デジィはバッグの中から、VOGUEを取り出そうとした。

 

「お姉ちゃん。」

メリーが、ジョアンナを呼んだ。

「あ、ごめん。私、撮影あるから。」

「はい、頑張ってください。」

ジョアンナは満面の笑みで手を振って、行ってしまった。

 

 

ジョアンナは撮影所で、腕組みをして、デジィより一つ年下の撮影をながめた。

その子はピースをしている。

あごの下でピースをして、その後、ポーズを変えて、ピースを見せた。

ピースは遊びで撮影をする時のポーズで、仕事の時は、やっちゃいけないのは基本だった。

それをまるで、正しいかのように‥。

 

撮影を終え、何十枚という写真をモニターで確認し、タナさんがその子に言った。

ジョアンナも後ろに来ている。

「正直言っていい?これじゃダメ。」

「ええ‥。」

「ジョアンナ、アドバイスしてあげて。」

 

「うーん。人形のバービーちゃん分かる?」

「はい。」

「バービーちゃんって、最高のモデルなんだよ。」

 

「私ね、ずっとバービーちゃんのマネをしてきたの。バービーちゃんって、ピースができないでしょ。」

「はい。」

その子は泣いてしまった。

 

ジョアンナにとってモデルは、人生をかけた仕事だったので、甘い人が入ってきてほしくなかった。

 

次の撮影に入ってきた若い子を見たジョアンナは、息を飲んだ。

デジィの同級生のエロイスだ。

エロイスのことを、みんなが嫌っていた。

エロイスは少し知的障害があって、小さい頃、人の家の前でクソをしたりしたからだ。

親は、エロイスは普通学級に入れ、ちゃんとした治療をしなかったせいで、エロイスはおかしい大人になった。

 

エロイスはキャスケットをかぶった服で撮影所に入って、ロマンティックなドレスで撮影をした。

エロイスは後ろ姿を見せたりした。

タナさんが言った。

「もう後ろはいいから、前。」

 

エロイスは肩手を腰に当てて、ポーズをした。

ジョアンナは言った。

「あんた、トイレ大丈夫?」

「はーい、大丈夫ですぅ。」

 

モニターを見たタナさんが、振り返ってジョアンナに聞いた。

「どう?ジョアンナ。」

「別に、何も言う事ない。でも、お洋服が可愛く見えるのが一番なんじゃないの?」

「つまり、可愛くないってわけ?」

「そういう意味じゃない。」

ジョアンナは笑い、少し楽しくなった。

 

後輩たちが撮影をしていたが、ジョアンナの番になったので、ジョアンナはさらに楽しくなった。

ジョアンナはゴールドのドレスを着て、撮影をした。

 

「鼻毛出てる。」

後輩が言ったが、ジョアンナは顔をしかめ、気にしなかった。

 

いつのまにか、ジョアンナが鼻血を出した時、助けてくれたプロ野球選手が入ってきて、

後輩達と話していた。それでもジョアンナは気にしなかった。

いいドレスだったし、この写真を見て、買ってくれる人のためと、

どこかで自分を見てくれる人のためだ。

 

ジョアンナの載った雑誌を、インドの本屋で見たビサルは、にっこりと笑った。

 

「嘘ぉ、マジでぇ?!」

野球選手のジェフリーは、エロイスの話を聞いて言った。

 

「ちょっと、どうしたの?」

不機嫌なジョアンナはジェフリーの下に行った。

「この子、映画に主演したことあるんだって。」

「え‥。なんの映画?」

『高校生、初めての恋。』

「ええ、嘘ぉ‥!」

ジョアンナは目を見開いて、後退りした。

 

「びっくりするよな。」

野球選手はジョアンナに言い、ジョアンナは本当に信じられなかった。

 

『高校生、初めての恋。』は、ジョアンナが大好きだった漫画が、映画化されたもので、映画は微妙だったけど、内容は最高だと思った物だった。

ジョアンナはショックを受けたが、涙と怒りをこらえて言った。

「エロイスさん、でもあなたは、モデルとしてはまだだから、もうちょっと勉強して。」

「は?まだって何!」

「まだって‥まだダメってこと。」

「ああ‥。」

 

タナさんが言った。

「な、女優なら女優、モデルならモデルだから。もうここに来るな。」

 

エロイスは泣き、もう来なかった。

 

ジョアンナは考えた。

女優やタレントがモデルをしても、顔が勝ってしまって、洋服が目立たない。

ジョアンナはモデルしかやっていないので、服をよく見せるためにはよかったかもしれない。

でも、そんな中、テレビ出演の依頼がくる。

深夜のテレビの司会だ。

ジョアンナは嬉しくて、ママに確認をした。

「ねぇ、やってもいい?」

「大変な仕事だと思うけど、頑張りなさい。」

「ありがとう、ママ。」

 

メリーが変な事をすると困ると思ったので、メリーにも確認することにした。

「私、『お約束の時間』の司会をやることになったんだ。」

「そうなんだ、よかったね。お姉ちゃん、頑張って。」

「うん、ありがとう。」

 

ジョアンナは電話して、スタッフに聞いた。

「その撮影って、深夜に撮るんじゃないよね?」

「うん。大丈夫、収録は昼だから。」

「わかった。じゃ、その仕事、受けさせていただいてもいいですか?」

「うん。ジョアンナがいいなら、そう伝えておくね。」

「はい、ありがとうございます。」

 

ジョアンナは最後に、キキに確認することにした。

カフェに現れたキキは、少し口をとがらせている。

「どうしたの?元気ないね。」

ストローでジュースを飲みながら、ジョアンナが言った。

「ううん、そんなことないよ。」

「もしかして、うまくいってない?仕事。」

「いや‥仕事の方は、そんなに悪くないかな。」

キキは言った。

 

「そうなんだ。私ね、テレビに出演させてもらえることになったんだよ。」

「ええ、何の番組?」

「お約束の時間の司会。」

「へぇ、すごいじゃん。頑張ってね。」

「うん。」

 

初収録に向かうと、もう一人の司会の男、ダニーがジョアンナを見て言った。

「へええ、マジでジョアンナちゃん来てくれたの?」

「はい、よろしくお願いします。」

「いやいや、こちらこそよろしくね。」

「はい。」

ジョアンナは満面の笑みをみせた。

 

ジョアンナはサラサラストレートにしてもらい、真剣な表情でメイクをしてもらった。

メイクさんもなかなか可愛い人が多かったが、デジィからも、まわりの大切な人達からも、ジョアンナは他の人とは違うと言われていたので、大丈夫だった。

 

もうすぐ本番が始まる時、ダニーがジョアンナに言った。

「ジョアンナちゃん、ほんまにこの後、俺とどう?」

「えっ、俺とって?」

ジョアンナは笑った。

 

「ちょっと待って、始まるで!」

ダニーは言い、カメラに目線を向けた。

ジョアンナは良い感じで笑顔になったので、ちょうどよかった。

 

「ジョアンナ、もっとはっきり!」

男のプロデューサーが言い、ジョアンナもうなずいた。

ジョアンナは美しい容姿のわりには、プライドが低いのが長所だった。

それに、いろんな事を分かっていないので、芸能界でやってこられたのもある。

 

「ジョアンナちゃん、彼氏いるの?」

休憩時間、ダニーが聞いた。

「はい、います。」

「誰っ?!ちょっとちょっと、ヤバいんじゃないのぉ??」

 

「えっとぉ、競泳のキキさん。」

「マジでぇ?!じゃ、週刊誌にはまだ秘密?」

「いや、私、週刊誌とか出ないから大丈夫。」

「いやぁ‥、ジョアンナちゃんは可愛いからなぁ‥。」

 

「キキのこと、殺したいわぁ。」

ダニーが言った。

 

ジョアンナは笑い、聞いた。

「あの、殺すって嘘ですよね?」

「うん、嘘やけどぉ、ほんま。」

「ええ~!」

ダニーとの収録は楽しくて、ジョアンナは勉強になると思った。

 

 

イヴァンは、正義感にあふれて、バレーボールの世界に入った。

きっとデジィも、自分の家族も、都会のありふれたバレーボールクラブに入ったとしか、思っていないだろう。

でも、イヴァンが入ったチームは、バレーボールのトップリーグのクラブだ。

なぜ、ここに入る事になったんだろう?

えーと‥、有名なバレーボール選手とたまたま知り合えて、

「僕も、バレーボール選手を目指したいんですよ。」

と、言ったんだった。

なぜ、知り合いになったんだっけ?

 

えーと、試合を何度か見に行って、そうしたら、母ちゃんがその人と偶然知り合いでぇ‥。

地元で少しバレーボールを教えてもらってぇ、ジャカルタでもまた会って、

練習を見に行って、やることになったんだ。

偶然にしては出来すぎていた。運命ってことかな。

 

昔、有名なバレーボール選手が、結婚して、子供を作って、まわりの人達を悲しませたから、許せなかった。

周りからも、バレーを進められたから、ちょうどよかった。

 

正義は、ライオンのように、世間に牙をむいている。

牙をむいていない正義なんて、どこにもない。

 

ライオンというのは、王様のことだ。

本物の王様は、正義を持っていて、世間一般に牙をむいているだろう。

王様の正義を信じて、みんながついていくから、彼は王様なんだ。

 

 

そうこうしているうちに、その先輩は引退していて、結婚して子供がいた。

ふーん、先輩なんて、どうでもいい。

俺はもうあいつを忘れてやる。

せっかく、光からの使者になれたのに、もったいなかった。

 

結婚は大事でも、貴様は、スーパーヒーローを育てたんだぜ。

 

 

「遅いよぉ!!」

ジョアンナがテレビに出て、イライラしているビアンカが強い球を打った。

「うおお。」

なんとなく、イヴァンは調子が悪くて、とれなかった。

でも、ビアンカ先輩の前では、怖気づくことなく、本当の力を発揮できた。

 

「お前、すごいよぉ!」

「はい。ありがとうございます。」

「まぁ、ありがとうとかは別にいいけどぉ、このままだと、きっとお前は、世界一になれるぜ。」

「え、本当ですか?」

「うん、頑張って。俺さ、モデルやらせてもらっててぇ。」

「はい、知ってます。」

「だから、もしかしたら、バレー辞めて、モデル一本にするかもしれない。」

「そうなんですか。」

 

ビアンカはそう言いつつ、バレーの方も調子がよかった。

でも、きっとジョアンナが、今頃キキと会っている時の海外での試合で、ビアンカは全然ダメだった。

「先輩、どうしたんですかー。」

「決めてくださいよぉ。」

 

「うん。」

 

「あああ!」

後輩が大声を出し、ビアンカついに決めた。

ビアンカは仲間とタッチして、だんだんと調子がよくなった。

 

休憩中、イヴァンと同期のエリスが、ビアンカに聞いた。

「もしかしてぇ、先輩の好きな人ってぇ、ジョアンナさん?」

「え‥、うん。」

ビアンカは答え、イヴァンはエリスを小突いた。

 

「やっぱりかぁ。ビアンカとジョアンナって、名前も似ているし、そうだと思ってたんだよなぁ。」

「いや、でも付き合ってないからね?」

 

「先輩となら、きっとジョアンナさんも付き合ってくれますよぉ。」

「ジョアンナは、キキと付き合っているから。」

ビアンカは下を向いてしまった。

 

「お前は何も知らないんだな。」

イヴァンはエリスの前髪を持って言った。

「やだっ。」

「ダメ。」

 

その試合は、負けてしまった。

 

 

インドのプールで、ナダルに見守られながら、練習をするビサル。

泳ぎながら、テレビで、ダニーと談笑するジョアンナを思い出して、泳ぎを辞めた。

「ん?」

スマホで、海外の競泳試合結果を見ていたナダルが顔をあげた。

 

「きゃー。」

カラフルな水着をきた女子達が入ってきた。

普段のビサルなら、上がってしまうが、今日はどうでもよかった。

しばらく女子達をながめていると、女子達は気まずそうにした。

 

 

電車の中で、ジョアンナはレノに会った。

「今度あんたいつ来る?」

「どこの話?」

「え?」

「だってさぁ、スタジオだっていろいろあるだろう?ジョアンナだって、毎回同じ場所で撮っているわけじゃない。」

「うん。外での撮影は大変だよ。風も吹くしさ。」

「まぁ、そうだよな。俺、ヒビヤには明日行くよ。」

「そうなんだ。私、明日、そこじゃない。」

「じゃ、どこだよ?」

 

お洒落な2人を、奥さんがじっと見ている。

ジョアンナはちらりとその人を見て、小さい声で言った。

「裏原。」

「ああ、CBAな?」

「うん。」

 

ジョアンナとデジィは、血がつながっているせいか、よく偶然会った。

「撮影をする場所を、スタジオって呼ぶぅ‥?」

ジョアンナは聞いた。

「すみません、私は行ったことないから‥。」

「呼ばないよねぇ?だってさ、音楽スタジオとか言うじゃん。私ね、音楽のことは良く分からないの。デジィ、何の音楽が好き?」

「別に、なんでも聞きます。」

「ふーん、私は、ジョウ・ヒサイシ。」

 

ジョアンナは小さな頃からモデルをやっていて、お洒落な事を、他の人達より知っていた。

だから、『知らない』と答えることが、知っている事より、お洒落だったのかもしれない。

ジョウ・ヒサイシは確かに素晴らしい。

でも、彼のことは誰でも知っていて、デジィはみんなが知らない音楽を知っていた。

 

「こんにちは!今日もよろしくお願いします!」

ジョアンナは撮影所に入った。

ジョアンナはしっかりしていて、人間らしいので、スタッフからも好かれていた。

 

「あれ?今日、カメラマン、タナさんじゃないんだ。」

後ろで腕まくりをして、腕組みをしているタナさんに声をかけた。

「うん。おい、俺じゃなきゃ撮られたくないとかないの?」

「ない‥です。ごめんなさい。」

「いや、いいけどさ。今日、頑張れよ。」

 

「社長は?見ててくれるでしょ?」

「社長はわかんないけど、俺は見てるよ。」

「うん。」

 

ジョアンナはいつものモデルの子達を確認して、笑顔になった。

お洒落な音楽が流れて、不安な気分になった。

ジョアンナが苦手な音楽だ。

 

ジョアンナより少し若くて可愛い子は、かっこいいポーズを決めている。

ジョアンナは影から眺めて、顔をしかめた。

「どうしよう、今日無理そう。」

優しいメイクのおばちゃんに振り向いて言った。

「ジョアコなら、大丈夫。」

「うん。」

『ジョアコって何‥。』

ジョアンナはぶりっ子ポーズをしてしまった。

 

音楽はさらに激しさを増した。

でも、後ろにタナさんもいるし、大丈夫かな。

 

「どうすればいいですか?」

ジョアンナは、エロそうなカメラマンに聞いた。

「じゃ、ジョアンナは、四つん這いになって。」

「ええっ!私、そんなポーズしたことないです。」

 

「ああ‥。」

「どうしよう。」

 

「ちょっと、ジョアンナには、無理ですから!」

『俺の時なら大丈夫かもしれないけど。』

タナさんが割って入った。

 

「じゃ、どうする?今回の撮影のテーマが、野生なんだよ。」

 

「ああ‥。じゃ、ジョアンナはちょっとダンスする?」

「ダンス?それなら、できるかも!」

ジョアンナは、独学でダンスの練習をしていた。

「でも、最近踊ってなくて。」

「大丈夫だ。適当にやっとけ。」

「わかりました。」

 

ジョアンナは音楽に合わせて、楽しくダンスして、良い物が撮れた。

 

自分の番が終わったジョアンナはほっとして、私服に着替えて、後輩の撮影のアドバイスをしたりした。

今日のジョアンナは、白いダメージジーンズに、ピンクのトレーナーを着ている。

メリーがそういう服を着ていて、可愛かったからだ。

 

「よろしくお願いします。」

ブスっとしたメリーが登場した。

「ああ‥。」

ジョアンナはメリーに笑いかけたが、メリーは無視して行ってしまった。

 

「じゃ、メリーちゃんもダンスでお願いします。」

「ええ、何それぇ。」

メリーは泣きそうになった。

ジョアンナは言った。

「大丈夫、私もさっきやったんだよ。こうやって。」

ジョアンナはさっきやったダンスを見せた。

 

「どう?できそう?」

「うん。」

メリーは、本当に適当に踊って、相撲取りの押し出しのような動きをたくさんした。

「うわぁ‥。」

ジョアンナは笑った。

 

撮影が終わり、メリーは赤い目をしている。

ジョアンナがメリーにかけよった。

「ちょっとあんた、大丈夫?」

「うん。‥踊れポンポコリンだぁー!」

「うん、ちびまる子ちゃん、昔見てたよね。」

ジョアンナは笑った。

「私は今も見ているよ。」

メリーの視線の先には、エロイスがいた。

「え‥。」

ジョアンナは怖くなった。

メリーはエロイスが大嫌いだった。

メリーが初めて買ってもらった鉢植えに、幼いエロイスがクソをしたからだ。

家の目の前に、クソをされることさえ、信じられないことだった。

 

ジョアンナは言った。

「やだぁ、また来たぁ。」

 

「もしかして、今日のカメラマン、あいつの手下だったってこと?」

「うん‥。」

「どんだけぇ~~!」

ジョアンナは笑った。

 

「もう信じられない。」

 

それでも、仕事が一区切りついていたので、タナさんがこちらに来た。

「ジョアンナ、さっきのダンス、よかったよ。」

「うん。本当はさ、スクールに通いたいんだよ。もう大人なんだけど、いいかな?」

「そういう所もあるっしょ。」

 

さっきの曲が流れ、ジョアンナは踊り始めた。

タナさんやメリー、他のスタッフも同じダンスをしたので、面白かった。

 

エロイスは驚いて、小さくなった。

 

インドでは、本格的に芸能活動を始めたビサルが、女性達と踊っていた。

 

 

ジョアンナが休みの日、後輩がMVの撮影をするので、午後から見に来ないかと誘われていので、胸がざわざわしていた。

歯医者に行った帰り、偶然、キキが立っているのに気づいた。

「もしかして、キキ?」

「ジョアンナ。」

「昨日、メール返せなくてごめんね。」

「ううん。」

 

ジョアンナは周りを確認して、キキに抱きついた。

キキはドキッとして、止まってしまった。

 

インドネシアの水泳の試合の日がくる。

ジョアンナが、関係者の方をのぞくと、すんなりと入れてもらえた。

 

「キキ!」

「ジョアンナ、なんでここまで?」

「入れてもらえたの。」

ジャージを着て、帽子とゴーグルをつけた、他の仲間があぜんとして、ジョアンナを見た。

女子選手はストレッチをしていて、気まずそうにジョアンナを見上げた。

 

「キキ!」

「まさか、何か持ってきた?」

「あ、忘れちゃった。」

「いいよ。」

ジョアンナはキキの腕を持ち、抱きついたりした。

 

「マジで、なんで来たんですか?」

キキの仲間のカイが聞いた。

「えっとぉ、彼女だから。」

「ええ!」

カイは身を引いた。

 

「ジョアンナ、もう帰ってくれる?」

「帰らない。ずっと応援してる。」

 

「お姉ちゃん!」

メリーが呼び、ジョアンナは行ってしまった。

「メリー!」

「ルード!」

ルードがメリーを呼び、メリーは手を振った。

 

「ジョアンナが彼女ってヤバくね?」

カイはびっくりしていた。

 

その瞬間までは最高だった。

でも、男女混合のレースに、半笑いのキキが出た時、ジョアンナの心は冷えた。

 

正直言って、怖かった。

 

「嘘ぉ‥。ルードまで?」

メリーは、ジョアンナを見た。

ジョアンナは体中が凍えてしまって、答えられなかった。

 

キキは本気そうな泳ぎをしたので、ジョアンナは立ち上がって、会場を後にした。

キキがゴールした時、ふりむいたけど、ジョアンナはもういなくて、恐怖を感じた。

 

ジョアンナは入口で泣いていた。

メリーは言った。

「もうこんな所、出ようよ。」

「うん。」

 

帰りながら、メリーが言った。

「どうして、あんな事をするんだろうね?」

「わからない。」

 

「お茶する?」

「うん。」

辛い事があったが、そのおかげで、メリーと仲良しになれた気がした。

 

「競泳の人のこと、好きになるの、やめた方がよくない?」

「うん。」

ジョアンナはキキといろいろな事をした。

でも、大人にしてもらったし、本当にもういいかもしれない。

 

「バレーとかさ、バスケなら、男女別だし、そっちを見に行く?」

「うん、そうだね。」

「あと、サッカーもだよ。」

「私、知り合いいる。」

年下の人が、プロになったのだ。

その人のことは、お父さんみたいで、スキだった。

 

ジョアンナはキキの連絡先を消してしまい、その後もメールがきたが、返事をする気になれなかった。

 

ジョアンナとメリーは、心の傷を癒すように、暇と都合があえば、スポーツ観戦をするようになった。

 

ビサルは、そんなこともあるだろうなと思いながら、泳ぐしかなかった。

まず、ビサルが男女混合なんかに出たら、インド中の乞食が悲しむ。

 

「ジョアンナさんへ、あなたに会いたいです。」

ガンジス川のほとりで、ビサルは送らないラブレターを書き、後輩達は、ビサルをじろじろと見た。

 

 

 

 

 

 

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