戦友【アーティの死】9

March 21, 2019

戦友【アーティの死】9

「どう?乗ってみるか?」

2月1日。ムティが、馬を連れてきて、佑ジャンとミツジとナツに見せた。

 

「どうしたんですか、この馬。」

「もうそろそろ地上戦だっていうもんだからねぇ。」

 

「馬、使うんだ。」

佑ジャンとミツジは、顔を見合わせた。

最近では、ミツジも、銃の練習をしている。

 

今まで、戦闘部から外れていた、和田テヘラも、銃を巧から仕込まれている。

 

ちなみに、この部隊は、かなり上の部隊である。

言うならば、日本の1軍である。

 

 

「はい、乗ります!!」

佑ジャンは、目を輝かせた。

佑ジャンは、乗馬の名人である。

黒い馬を、上手に操ってみせた。

 

「すごい。」

「うまいなぁ~。」

ムティも感心していた。

 

マロやトウナ、リンチル、大ちゃんは、最近は、農作業をしている。

午後のお茶の時間に、マロが言った。

「なんだか、天国と地上の境目みたいだな。」

「うん。」

「どこかでは、みんな元気に、学校に行ったりしてんのかな。」

「そうかもしれませんけど‥もう、僕達はその年じゃないですから。」

「まあ、それはそうだけどさ。」

マロは笑った。

 

「ハカセさん、ちゃんと逃げ出したかな?」

トウナが言った。

「ん?」

マロは、何も知らない。

その時、腹をこわし、外に出られなかったのだ。

 

「あの‥。巧さんが、ハカセさんの飛行機にちょっとだけ多く、燃料をいれたんですよ。‥まあ、巧さん、ハカセさんにいろいろしちゃいましたから。」

大ちゃんが言い、リンチルもうなずいた。

 

マロは、偶然聞いてしまった、ハカセとハリーの会話を思い出した。

『飛行機を海に捨てれば、逃げられる。‥いや、僕だって、10キロ以上は泳げますよ。多分。休みながらなら。』

 

「ふーん。」

「まあ、どこかで生きていればいいですね。」

 

総は死んだ。

ヤマと同じく、突撃しようとしたが、ミンクの手紙を読んで、止めた。

総の体はバラバラにならず、飛行機と共に、海の底へ沈んだ。

 

2月5日。

アーティ(鎌吾亜貞)の突撃の日が来た。

綺麗な女性を撃ち殺していたのは、アーティだったのだ。

巧はそれを見抜いていたが、止めなかった。

こんな時代だ。醜い女性の方が多い。

 

ある日の深夜、どこから手に入れたのか、アーティは食堂で、洋酒を一人で飲んでいた。

「みんな噂してるぞ。お前が、男みたいな女と付き合っているって。」

「ああ。」

「いいのか。お前みたいなヤツが、そんな女で。」

「いいですよ。俺、綺麗な人、苦手ですから。」

「それで‥やったんか。」

「何をですか。」

「その‥、人とだよ。」

「やってないですよ。体が汚れますから。」

アーティは、洋酒を飲み干した。

「あ、ごめんなさい!巧さんも、飲みたかったですか?」

「あ‥いいよ、俺は。」

「これ、まずかったです。」

そう言って、アーティは、ビンをゴミ箱に捨てた。

 

いよいよお別れの日。

従道は、射撃の練習中に、後輩に撃たれ、ケガをしてしまっていた。

従道が言うと、アーティが答えた。

「ごめんな、俺の代わりに。」

「いいですいいです。俺も早く、ヤマさんや総に会いたいですから。」

 

兵士達は、みんな敬礼をした。

 

「アーティ。」

そこに、総の亡霊が現れた。

「え‥。」

 

アーティは、涙目になり、呼吸を整えた。

「大丈夫か。」

巧が来て、アーティを抱きしめた。

アーティは、巧の腕の中で、今までの殺人を思い出した。

でも、間違ったことをしたとは、思わなかった。

 

「これ‥。」

アーティは、胸ポケットから、ナイフを取り出した。

「伸に、カバーを作ってもらったんです。」

アーティは、巧にナイフを手渡した。

 

「日本が負けたら、銃は全て奪われます。」

 

アーティは、巧にハグをし、言った。

「終戦後、綺麗な人がいたら、これで殺してください。」

 

巧はアーティを見つめたが、アーティは背を向けた。

 

アーティは、飛行機に乗り込み、言った。

「おい、ミンクは来ないのか!!」

みんな黙っている。

 

ミンクは、足が痛い演技をずっとしていて、伸に頼み、車椅子を作ってもらっていた。

それを、アーティに一番に見せたかったが、間に合わなかった。

 

ミンクは、多久と伸に担がれて、来た。

でも、もう遅かった。

アーティは、飛行機の扉を閉めてしまっていたのだ。

 

『ばーか、開けないよ。』

 

ミンクは、多久と伸から降り、走って、手紙を飛行機の窓に投げた。

手紙は、窓に当たり、地面に落ちた。

 

アーティは、行ってしまった。

 

突撃15分前。

ムティとの会話を思い出した。

「特攻って、猛スピードでの突っ込みだから、手が離せないよね。」

「うん‥。」

「鼻水は、ヤバい状態になるな。」

「あはは。俺だって、死ぬ時くらいは、かっこつけたいですよ。」

 

アーティは鏡を見た。

「もうこの顔ともサヨナラだ。」

 

突撃準備。

突っ込んでいく最中、片手を離し、顔を拭いた。

『ヨダレも、ダメだから。』 

片手を離したことで、飛行機は傾き、ちょうど、敵の球をよけた。

 

アーティは突っ込んだ。

アーティの歯は、こなごなになった。

 

アーティは、目を開いたまま、動けなくなり、海に沈んでいく。

アメリカ兵も沈んでいくのが見えた。

 

仲良くなりたいと思って、手を伸ばそうとしたが、叶わぬ願いだと、理解した。

最後の力を振り絞って、目を閉じた。

 

5時間後、アーティの体は、また海に浮かんだ。

『無様。』

アーティは動けなかった。死んだのだ。

 

でも、また、夜になり、アーティは海の底深くへ、沈んでいった。

 

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