戦友【ダグラスとチル】14

March 21, 2019

戦友【ダグラスとチル】14

日本軍は、沖縄での地上戦に突入し、佑ジャンとミツジは、久しぶりにバスで出かけることにした。

リオトが声をかけた。

「よっす。」

 

「リオトさん。」

「国に残っていたんですか?」

「うん、でも前は、マニラに行ってた。」

「マニラに?」

「もう帰ってきて3年になる。」

「そうなんですか。」

 

「マニラでは、最近も沢山死んだ。」

 

リオトは、母がフィリピン人とのハーフだったので、1941年5月。

マニラに留学することになった。

生物の研究をしながら、マニラで過ごしていた。

マニラはピリピリした空気に包まれていた。

今は第二次世界大戦の真っただ中である。

リオトは、教会で、神父と話をした。

戦争についての話である。

 

第一次世界対戦の発端は、プリンツィプという青年が起こした、サラエボオーストリア大公夫婦殺害事件だという。

神父の話によると、プリンツィプは、貧しい家の生まれで、子供の頃から、王族、貴族に対して、嫌悪感を抱いていた。

プリンツィプの生まれた国であるボスニアは、オーストリアに併合されてしまう。

サラエボは、ボスニアの首都だった。

 

1914年6月28日、フランツ大公夫妻を乗せた車が、サラエボに到着した。

【ツルナ・ルーカ】という組織が、夫妻の暗殺を計画し、プリンツィプも計画に加わった。計画は失敗し、市民が巻き込まれてしまう。

夫妻は、総督官邸に逃げ込んだが、負傷した市民を見舞うために、病院にむかった。

市内中心部を避けるルートを夫妻は話していたが、運転手にうまく伝わらなかったため、カフェにいたプリンツィプと遭遇してしまう。

 

そして、プリンツィプは夫婦を殺害した。

 

プリンツィプの墓には、「セルビア人の永遠の英雄」と書かれた記念碑があるという。

 

その話を聞いたリオトは、プリンツィプに深く心酔してしまった。

 

未熟なリオトは、ダグラス・マッカーサー暗殺を計画する。

ダグラスは、オーストラリアで連合国軍総司令官に任命され、フィリピン救済に尽力していた。

 

フィリピンはアメリカの植民地だったので、アメリカを敵国とみなす日本がフィリピンを狙っていた。

パールハーバー襲撃から2週間後、日本軍がルソン島に到着し、約10日でマニラを占領した。

 

リオトはプリンツィプだけでなく、日本軍の強さにも心を奪われてしまう。

フィリピンの血を継いでいるリオトは、日本のスパイとして、ダグラスに近づく作戦を、独断で決行する。

 

「マッカーサー司令官。こちら、フィリピンの地酒です。」

リオトは、ダグラスを信用させるため、なんの毒も入れていない酒を渡した。

「ふん。」

「どうですか。」

「ウイスキー以外の酒は嫌いなのだよ。」

「そうでしたか、すみません。」

リオトはニコニコして答え、部屋を出た。

 

側近のヒルカが言った。

「司令官。あのサルは‥。」

「ニンジャだよ。結構なことだねぇ。フィリピンで本物のニンジャに会えるなんて。」

「ニンジャですか‥。」

「日本では、スーパーモンキーをそう呼ぶ。」

ダグラスは、公表はしていないものの、東京の大使館で働いた経験もあり、日本通だった。日本茶が飲みたいと、心の中で思った。

ヒルカが部屋を出る時、呼び止めた。

 

「とっておけよ。」

「は?」

「だから、あのニンジャ君を。」

「‥わかりました。」

ヒルカは答え、ダグラスはニヤリと笑った。

 

リオトは1人で何かすることが好きだったが、仲間外れは苦手だった。

ご飯の時も、リオトだけ1人だ。

そんな時、アメリカ兵が話しかけた。

ダグラスの部屋で出会った、ヒルカだ。

「どうした、日本人。」

「違います。僕はフィリピン人です。」

「ふーん。こっちに来て一緒に食べるか。」

「え‥。」

リオトは笑った。

 

ヒルカの仲間達と、リオトは仲良くなった。

見張りも一緒にした。しかし、戦いは激化してくる。

 

ある日、日本兵の遺体が運ばれてくる。

目は開いたままだった。

基地の近くで亡くなったので、連れてきたようだ。

一応埋葬するらしい。

 

リオトは恐ろしくなり、眠れなくなった。

広間の隅で震えていると、ダグラスが話しかけた。

「どうした。チル。」

リオトは、自分のことをチルと呼ぶように回りに言っていたのだ。

「ね‥眠れなくて。」

「今日の遺体のことか。」

「僕のおばあちゃんが日本人だから。」

「そうだったか。」

ダグラスは目を落とした。

 

「私も、軍のみんなに、言っていないことがある。私は昔、東京で働いていたんだよ。」

リオトはダグラスを見た。

「このことがバレたら、私はスパイと見なされ、処刑されるかもしれない。だから私は、いつでも怯えている。」

ダグラスは近づいて言った。

「私が戦う訳は、日本を助けたいからだ。このことは、チルと私だけの秘密だからな。」

 

リオトはダグラスの背中を見つめた。

いつも隠し持っているナイフで、今なら突き刺せる。

でも、ダグラスが良い人だと分かったので、止めた。

 

リオトは安心して、その夜は眠りについた。

 

ヒルカの仲間だったアークが、日本軍の捕虜になってしまう。

リオトはまた震えた。

 

「チル‥アークは酷いことをされるかな。」

ヒルカが聞き、リオトは目を落とした。

 

ダグラスは、リオトを見るといつもは微笑んだが、その日は無視した。

 

夜、リオトが月を見ていると、ダグラスが来た。

「アークは何をされるだろう?」

「僕には‥分かりません。」

「想像できないくらい、酷いことか。」

ダグラスは行ってしまった。

 

その頃、アークは捕らえられ、泣いていた。

他にも何人も捕虜にされた。

銃を持った日本兵に、

「僕は何をされるか。」

と、泣いてたずねた。

日本兵は英語が分からなかった。

 

「母さんにも父さんにも友達にも会いたい。助けてほしい。」

アークは、泣いて頼んだ。

 

その日本兵も鬼ではなかった。

仲間と話し、捕虜に酷い仕打ちをしないように、大佐を説得した。

 

ダグラスは、アメリカ兵を守りたい気持ちで、5月10日に、日本に勝利を許した。

 

アークは帰ってきたが、殺された兵士もいた。

殺された兵士は、山積みにされ、火葬された。

 

「チル、さようならだ。」

ダグラスは言った。

「でも‥。」

「さあ、もう行くんだ。日本から迎えが来ている。」

外には、ダグラスのスパイだった日本軍の飛行機が来ていた。

その人は、リオトが死んだと思っていた棒高跳びの大江季雄だった。

リオトが言った。

「季雄さん。てっきり、亡くなったかと。」

 

季雄は少し笑い、言った。

「早く乗れよ。」

 

「チル。」

ヒルカ達が来た。

「さようならだ。もう会えないかもな。」

 

「チル、来ないのか。」

季雄が呼びかけた。

 

「また、会えるよ。」

リオトは言い、飛行機に向かった。

 

「もう会えないよ、ばーか。」

ヒルカはつぶやき、震える手を見た。

ヒルカは体が動かなくなる病気にかかっていたのだ。

 

 

ダグラスは最高司令官として、終戦後の8月30日に、日本に来た。

ダグラスは本当に偉い人だったし、忙しいので会えないと思ったが、リオトは、ダグラスが泊っている、横浜のホテルに行った。

ダグラスはホテルに帰ってきた。

敬礼をして、要人に挨拶をしている。

リオトに気づいた。

 

「チル。久しぶりだな。」

 

「こっちに来い。」

リオトはホテルのロビーで、ダグラスと話した。

 

「私は酷いことをしている。とはいえ、全て私が命じたものではない。

しかし、最高司令官は全ての責任を、負わなければいけないんだよ。」

 

「ああ、たくさんの人を処刑したよ。しかし中には、自殺した者もいる。

その人の名誉のために、処刑したことにした。」

 

「リオト、天皇を狙うつもりか?」

 

「やめておけ。天皇を殺したら、日本人は憎む相手がいなくなり、また戦争になるだろう。」

 

リオトはうつむいた。

 

 

リオトは、岸道さんと居酒屋で飲んだ。

「おや、さっきの親父の物かな?」

羽織を忘れたようだ。岸道さんは、それを持って、居酒屋を出て、追いかけた。

 

「お前さん、綺麗な顔しとるな。」

近くの席のお爺さんが、リオトに話しかけた。

「いえ。」

「どこか行っていたの?」

「どこか?」

「戦地だよ。」

「フィリピンに行ってました。」

「ふん。それで、たくさん殺したかい?」

「いいえ。」

「殺しはよくないね。どんな時でもさ。‥親父、お勘定。」

 

「あれ‥わしの羽織がない。」

先ほどの羽織は、お爺さんの物だったようだ。

「あっ。」

 

「おい!!」

お爺さんは、居酒屋の外に向かって叫んだ。

 

1957年。

リオトはアメリカに行き、ダグラスに会った。

「たくさんの人を殺したが、なぜ私が許されたのかは分からない。

だけど、私は、始めから終わりまで、日本を愛していた。

まるで恋人を守るような気持ちだったよ。」

ダグラスは言った。

 

「チル。君のような人は、日本のリーダーになると思っていたが‥カフェの店員か。」

「いえ、僕は、店長です。」

「ははは、そうか。」

つまらん人生だねぇ‥。ダグラスはつぶやいた。

 

ダグラスは、戦争で得た勲章を、死ぬまで、誇り高く見つめ続けた。

 

[Fool] by Shino Nishikawa

 

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