戦友【HIMEYURI】16

March 23, 2019

戦友【HIMEYURI】16

2月。ニャン係長は心を決め、女子生徒達に、地図を見せ、地上戦の説明をした。

敵は、どのルートを通るだろうとか、どこに味方が潜むとか、そういうことだ。

 

それからは、ニャン係長にとって、夢の中のような、朦朧とした日々が続いた。

「とにかく、犠牲者を、1人でも少なく。」

桃先生が言い、ウォルテスとリンダがうなずいた。

「おい、わかったのか。しっかりしろ。」

桃先生(桃田渥美)が優しい口調で言うと、「あ、うん。」ニャン係長(猫林恒夫)は、うなずいた。

 

「あの、今度からぁ、女子達のことを、姫と呼びませんか?」

ニャン係長が言うと、ウォルテス(水谷 雨織多)は眉間にしわをよせ、リンダ(山居林多)を見た。

桃先生が言った。

「ん?あぁ、いいよ。じゃ、今度から、あの子達のことは、姫な。」

「はい、それがいいです。」

 

3月23日。

姫達と4人の教師は、沖縄陸軍病院に配属された。

みんなてんてこ舞いで、いろいろな準備をした。

ヨーリは、薬のことなど、何も分からないので、タオル等を運ぶ係だ。

 

ニャン係長が包帯の巻き方を、もう一度、姫達に説明した。

「おい、ヨーリ。分かっているか。」

『あ‥。』 

ヨーリは、ニャン係長に名前を呼ばれたのは、初めてだった。

「ほら、やってみろ。」

「はい‥。」

ヨーリは、なかなか上手に、包帯を巻けた。

「よし。ちゃんと出来るな。」

ニャン係長は、優しく言った。

 

姫達はみんな、ニャン係長や、他の3人の男教師のことが好きだった。

 

ヨーリを含む、姫達の寝る所は同じ所で、みんなで雑魚寝だ。

 

「明日、アメリカの人達が来るんでしょ。」

姫の1人が言った。

みんな、本当は、アメリカ人がスキだったのだ。

 

「うん。でも、うちらが考えているよりずっと怖いと思うから。」

「だよね。すぐに殺されるんでしょ。」

「うん、怖いよぉ。」

 

「もう辞めたい。」

「うん‥。」

 

「ね、ヨーリは?どう思う?」

「うーん、今まで楽しすぎて‥あんまり、実感がわいてない。」

「だよね。」

「あ~。」

 

ふぅ~

姫の1人が、ろうそくを消した。

みんな、今日はニャン係長が来ないな、と思った。

「ね、今日来なくない?」

「うん、なんでだろうね。」

 

2人の姫が話した時、ニャン係長が突然ドアを開けた。

「キャー。」

「あ、ごめん、確認もなしに。‥なんだ、もう寝てるの?」

「うん、もう寝る。」

「わかった、じゃ、おやすみ。」

ニャン係長はのぞきながら、ドアを静かに閉めた。

 

ニャン係長は夢を見た。姫の1人、タユという女の子と話している夢だ。

「みんな死ぬかもしれないんでしょ。」

「うん。だから、帰ってもいいぞ?」

「いや、いいけどぉ。私さぁ、もしかしたら、生涯、キスすることなく、死ぬかもしれない。」

「えー、そうなんだ。」

「先生は?」

「んー、あるよ。一回だけね。」

「ええ!私もやりたい。」

「うん、誰か、相手を見つけてしな。」

「違う、先生とぉ。」

「あー、無理だよ。」

「お願い、一生のお願い。」

「ダメ。」

タユが泣いたので、仕方なく、ニャン係長はタユに軽いキスをした。

 

3月26日。アメリカ軍が到着した。

桃先生は、双眼鏡で、船を見た。

いつも透明な海は、茶色くにごっている。

空はとても白い。

 

「ヤバいっすね。」

リンダが言った。

「うん‥。」

ウォルテスはうつむいた。

 

「頼む、お前達だけは、死なないでくれ。」

桃先生が言うと、不安げな目で、2人は桃先生を見て、ウォルテスが言った。

「桃先生も。」

「ああ、うん。俺もな。」

 

26日の午後2時。

最初の患者が運ばれてきた。

一応医師もいたが、ニャン係長がかなり対応した。

 

「もう少し、しっかりしてくださいよ。」

ニャン係長は医師の石谷裕樹先生に言った。

「あ、はい。」

石谷先生はうなだれた。

 

日に日に、運ばれてくる患者は増えた。

女子生徒達は、男性患者より、民間の女性患者に複数でつき、心をこめた対応をした。

男性兵士の傷は、姫達にとって、見るに耐えない物で、ニャン係長がすぐに交代した。

 

「はああ。」

ニャン係長は、男性兵士の傷を見て、息を飲んだ。

後ろに、石谷がそっと来た。

「先生。」

「うん。」

 

「もうすぐ楽になりますからね。」

石谷は、兵士の耳元で何か言った。

 

言った言葉はこうだ。

「大丈夫ですから。」

 

兵士は最後の力で、石谷の手をとった。

「ありがとう。」

声にならない声で言った。

 

「いいんです。」

 

兵士は最後に何かを言った。

それは、「会いたい。」か、「生きたい。」か、「帰りたい。」である。

 

 

ヨーリは深夜、ぶるぶると震えた。

沖縄なのに、夜は、どうしてか、とても寒い。

今は4月で、どんどん人が亡くなっている。

薬や病気について、なんの知識もないヨーリは、死者の火葬を手伝うことになってしまった。

 

でも、明日から、別の医療施設に行く。

みんな分散されるのだ。

「あのぉ、私、何もできないのに、いいんですか?」

「ん?あぁ、いいよ。」

ヨーリが聞くと、桃先生が答えた。

「ふーん。」

「姫は、いてくれればいいから。」

 

次の日、ヨーリは、ニャン係長と、何人かの姫達と一緒に、移動することになった。

そのためには、米軍が潜んでいる、ジャングルの危険な場所を通らなければならない。

 

 

「おーい、みんな、ついてきているか?」

「うん!」

 

ニャン係長は平然を装っていたが、内心かなりビビっていた。

ザッ。

ジャングルに入り、1分ほどした時、木の上から、黒い忍者の服を着た男が飛び降りてきた。

 

「うわああ。」

「わー。」

ニャン係長はおどけて見せ、姫達は笑った。

 

「危険ですよ。」

「分かっています。でも、この子達と移動しなきゃいけないもんだから。」

 

ニャン係長が歩きだすと、忍者もついてきた。

「あのぉ~‥お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「俺?俺はシゲンです。」

「シゲンさん?俺の名前は、ニャンです。」

ニャン係長は、シゲンと握手した。

10分ほどした時、どこからか、英語が聞こえてきた。

「おい、伏せろ。」

シゲンが言い、ヨーリも、姫達も、伏せた。

姫達は、顔をしかめた。

 

米兵は去ったようだ。

みんな、ため息をつき、また、歩きだした。

 

「先生、便所。」

タユが言った。

「便所?我慢しなさい。」

「ダメ、もう漏れそう。」

「漏らしてもいいから、我慢しろ。」

それでもタユは、首を振った。

 

「うん、分かった。じゃ、いいよ。」

ニャン係長は、了承した。

 

「シゲンさん、お願いします。」

シゲンはうなずき、他の姫達と、ヨーリを連れて行くことにした。

 

 

ザッ、ザッ。

「あんまり遠くまで行くなよ。」

「うん、分かってる。」

タユは答えた。

ニャン係長は木の後ろで腕を組み、目を閉じて待った。

 

すると、誰かが歩いてきた。

米兵だ。

 

タユは人質にとられている。

タユは無表情だが、ニャン係長には、タユが満面の笑みを見せたように見えた。

 

米兵は英語で何か言った。

 

ニャン係長は息を飲んだ。

とっさに、後ろを見たが、誰もいなかった。

 

「先生、いいよ。行って。」

タユが言い、ニャン係長は両手を上げ、後退りした。

 

タユは、米兵に英語で何か言った。

米兵は了承したように、ニャン係長に、行っていいと合図をした。

 

ニャン係長は言葉を失い、目を開いたまま、逃げた。

タユはスパイだったのだ。

 

 

なんとなく、不気味な気配を感じたシゲン達は、走った。

「あのぉ。私、ちょっと別のルートで行きます。」

ヨーリは言った。

所詮、ヨーリは夢の中で、沖縄に来ているのだ。

「ああ、分かった。君の名前は。」

「ヨーリです。」

 

ヨーリは、道を外れた。

ヨーリに行く当てなどないが、海を目指そうと思った。

ジャングルには、食べられる実もありそうだ。

 

 

20分後、ニャン係長はぶるぶる震えながら、施設に到着した。

「遅かったですね、女の子は?」

「米兵に捕まりました。」

ニャン係長は目を見開き、でも、シゲンの目をまっすぐ見て言った。

シゲンは目を落とした。

 

次の日、桃先生、ウォルテス、リンダが来た。

姫達は、信頼できる日本人が見ているので、心配なかった。

 

「おい、ヨーリは。」

桃先生が聞いた。

 

「あ‥そういえば‥ヨーリは?」

ニャン係長は魂が抜かれた感じで、シゲンに聞いた。

「ヨーリさん?別のルートで行くと言っていたが。」

「でも、まだ、来てないじゃないか。」

「ごめん、分かんない。」

シゲンは、顔をしかめた。

 

「ま。ヨーリのことはともかくなんですけど、タユさんはどこですか?」

「いや、知らないよ。」

ウォルテスとリンダが聞き、ニャン係長は小声になった。

「タユは、米軍のスパイだったんだ。」

「ええっ。」

「うん、それでさ、米兵に連れて行かれたよ。」

ウォルテスとリンダは黙った。

「‥と思う。」

ニャン係長は付け加え、

「と思うってなんすか。」

リンダが突っ込んだ。

 

ウォルテスとリンダは、落ち込んだ。

みんな、お昼ご飯を食べた。

 

1時。ウォルテスとリンダは、タユを探してくると言いだした。

「ああ、うん。」

2人は、ニャン係長を睨み、行ってしまった。

 

1時間後、2人は戻ってきた。

「どうだった?」

2人は蒼白だった。

ウォルテスが、軽くうなずきながら、言った。

「死んでました。」

「ええっ。‥撃たれて?」

「いや、違います。」

リンダが言った。

「自分で、首をつって。」

「そんな。」

 

「で、どうしたの。」

桃先生が来た。

「そのままです。」

ウォルテスが答え、桃先生は舌打ちをした。

 

「行ってくるわ。」

桃先生は言った。

桃先生はオバケの存在を信じていたのだ。

 

「あ、自分も行きます。」

シゲンが言い、他の日本人も志願し、タユの下へ向かった。

 

タユは埋葬された。

ウォルテスとリンダは花を添え、ニャン係長は小さな墓の前に泣き崩れた。

その場所には、米兵は来なかった。

 

ニャン係長が去った後、米兵はタユを放した。

米兵は基地に戻った。

タユは、自分を基地に連れて行くよう頼んだが、米兵はできないと断った。

 

米兵はタユの末路を予想できたが、目を閉じた。

仕方のないことだ。

こんなことに巻き込まれた自分達も、馬鹿だった。

 

 

ヨーリは、小さな海岸に到着した。

そこには、現実社会でも知り合いだったアメリカ人がいた。

米兵の服を着ている。

 

クリストフはヨーリを見て、笑った。

「ヨーリも自殺を?」

ヨーリにはそう聞こえたが、クリストフはそう言わなかった。

 

「ヨーリ?」

「うん。」

「夢の中で会えるなんて光栄。」

「そうだね。」

ヨーリは、クリストフの隣に座った。

 

「めずらしいね、紫外線を気にしないなんて。」

「うん。」

「夢の中だから?」

「うん。」

「ヨーリ、もっと焼けちゃえばいいのになぁ。」

クリストフは笑った。

「うん、まあ。」

 

「まあ?アメリカ人は、そんなにイエスとは言わないよ。」

クリストフは、言った。

 

「そうなんだ。」

ヨーリも、笑った。

 

「今は戦争中。知ってる?」

クリストフがヨーリに聞いた。

「多分、沖縄だよ、ここ。」

「知ってる。だって前からいたもん。」

ヨーリが答えると、クリストフは、鼻で笑った。

 

「その服で‥俺といると、ヨーリがヤバいことになるかも。」

「うん。」

 

「ヨーリさ、ここで待ってて。」

クリストフは、ジャングルの中で言った。

 

クリストフはすぐに戻ると思ったが、30分しても戻らなかった。

ヨーリが、海か病院に戻ろうかなと思った時、クリストフは戻ってきた。

 

「ごめんごめん。」

クリストフは米兵の服を持っている。

「着て。」

「うん。」

 

「ちょっと俺は、用を足してくるから。」

「わかった。」

「ヨーリだってしただろう?トイレをさ。」

 

 

「あ、似合うじゃん。」

「うん。」

 

2人は、歩きだした。

 

「でもそれさー。さっきまで、死人が着てたやつだよ。」

クリストフはニヤリと笑った。

 

 

クリストフの心は、時に、氷のように冷たい。

ヨーリは、クリストフの過去の中に入ろうと集中するが、クリストフはヨーリを、自分の過去の中に、入れてくれない。

 

クリストフは、ヨーリの顔にツバを飛ばしたりする。

でも、クリストフは、ヨーリ以外の人の前では、完全潔癖な氷人間である。

 

今日も、クリストフは、ヨーリにツバをかけた。

「止めて。」

「ごめんごめん。」

クリストフは、口を拭いた。

ヨーリはニヤニヤと笑った。

 

クリストフは、ヨーリの手を握った。

予想外に、クリストフの手はとても温かく、クリストフが氷人間というヨーリの考えは、間違いかもしれないと、ヨーリは思った。

 

「ねえ、どこに行く?」

「うーん。」

「俺は嫌だよ、サルがいる所なんて。」

ヨーリは鼻で笑った。

 

「でもさ、とりあえず、私の病院に行かない?良い人もいるし、どうせ、夢の中でしょ?」

 

クリストフはため息をついて、英語かイギリス語で、何か言った。

 

「いいよ。ヨーリが行く方に。」

「うん。‥えーと、どっちだっけ?」

 

「ジーザス。」クリストフは、英語かイスラエル語で、聖書の言葉を言った。

 

 

「あれっ。ヨーリ。」

ニャン係長はヨーリを見て、目を丸くした。

「なーに。遅かったじゃん。」

「あの‥。」

 

「桃先生、ヨーリが。」

「おやおや。ヨーリちゃん。よくぅ。」

 

「あ、こちらの方は?」

「あの、知り合いの、アメリカ人です。」

「ええ。知り合いのアメリカ人?」

ニャン係長は、クリストフを上から下まで見た。

「この人は、味方です。信じてください。もしもの時は、私を殺していいですから。」

「ヨーリ、それは、アメリカの軍服か?」

「あの‥逃げるために。」

 

桃先生は、クリストフと何かを話していた。

 

「ええ?!米兵の死体の服を?」

「はい。」

「そりゃ、やっちゃいかんでしょう。」

桃先生は言ったが、口元は笑っていた。

 

夜、桃先生はクリストフに言った。

「いいか。そういうことをすると、化けて出るからな。」

クリストフは日本人に打ち解けた。

 

ヨーリは死者の火葬、クリストフは薬係について、しばらく毎日を送った。

クリストフは、薬に詳しかったのだ。

 

5月の末。佑ジャンやマロ、リンチル、多久、伸、その他大勢が到着した。

 

「わああ。」

姫達は、男達を見て喜んだ。

特に、マロとリンチルがスキだった。

沖縄で死ぬ運命にある男達である。

 

マロ達は、姫達と握手したりした。

姫達はとても喜んだ。

ちなみに、タユが死んだジャングルに、米兵は出なくなっていたので、姫達はほぼ全員で、男達を出迎えた。

 

「うわぁ~。」

ヨーリは腕組みをして、男達を眺めた。

「あの中に、君の彼氏とかいないよね?」

クリストフが聞き、ヨーリは鼻で笑った。

「いないよ。いるわけないじゃん。」

「よかった。」

クリストフは笑った。

 

「よくぅ!」

ニャン係長は、若い男に頬をほてらせた。

「お力になれるか、分かりませんが、頑張ります。」

マロが笑い、

「いい体してぇ。大丈夫だって!」

桃先生が、リンチルの背中を叩いた。

 

男連中は、夜な夜な作戦会議をし、沖縄市民がサル同然で困るという、アメリカからの暗号が来たので、沖縄市民の家や基地を回ったりした。

 

「オマルは用意してくださいよ!」

マロは叫んだ。

 

6月14日。

敗色濃厚となった。

男の先生4人は、犠牲者を1人でも少なくするために、解散を宣言する。

 

6月20日。

地上戦はクライマックスになった。

6月21日の午後5時。

リンチルとマロの遺体が、運ばれてくる。

遺体といっても、まだ、細胞の一部は生きていた。

 

「うそぉ。」

姫達は本当に悲しんだ。

みんな、マロとリンチルにすがりついて泣いた。

しばらく泣くと、今度は、マロとリンチルの手を握ったり、顔にさわったりして、悲しんだ。

「おい、あんまりさわるなよ。英雄だぞ。」

ニャン係長が注意したが、姫達は泣くのを止めなかった。

 

「うわ、ついに死んじゃったよ。」

クリストフはヨーリを見た。

「どうすんの。」

「えー、分かんない。ってかこれ、夢でしょ?」

「うん。でも。」

「はああ。とりあえず、挨拶しとくか。」

「え‥。」

ヨーリとクリストフは、マロとリンチルの遺体のそばに行った。

「大丈夫ですか。」

ヨーリが言うと、クリストフは英語で何か言いながら、泣いた。

 

『死んだのは、6月22日ということで、伝えてください。』

どこからともなく、マロの声がしたので、ヨーリは振り返った。

 

石谷先生が首をふりながら来た。

「ダメ。」

 

「うん。」

「でもまだ生きてるかも。」

 

「え、そうなの?」

石谷先生、は2人の耳元で何か言った。

 

石谷先生は、ヨーリとクリストフの方を向き、無言でうなずいた。

 

「何か、言ってあげることある?」

「うーん。」

ヨーリは口をとがらせたが、クリストフは泣きながら、英語で何か言った。

 

「はああ。かわいそ。」

ヨーリは言った。

 

 

6月22日早朝。

ニャン係長は布団から、天井を見上げた。

沖縄の6月なのに、とても寒い。

 

「22日まで生きているとは思わなかった。」

『大丈夫。24日には死ねるから。』

ヨーリの声が聞こえた気がした。

 

マロとリンチルが死んだ次の日、2人に心酔していた、姫5人が亡くなった。

5人は、示し合わしたように、ふらりといなくなった。

 

「あら、あの子達は。」

桃先生が、午後3時頃気づいた。

ウォルテスは見抜いていたが、止めなかった。

 

桃先生は軽く舌打ちをした。

 

「仕方ねぇ。」

ニャン係長は、険しい表情で腰をあげ、シゲンや、他の日本人と捜索に向かった。

 

午後5時。

「いたぞ。」

崖の下で、姫4人を、桃先生が発見した。

「えっ。」

姫を発見する気がなかったリンダとウォルテスが駆け付けた。

 

姫は飛び降り自殺で、あちこちに散らばっていた。

 

ウォルテスは腰を抜かして、しばらくの間、膝を抱えて目をつぶったが、顔をあげると、リンダと桃先生が姫をお姫様抱っこで、一か所に運んでいた。

 

「ほら、見。安らかな顔しとるやろ。」

桃先生が言い、ウォルテスは口を半開きにして、桃先生を見た。

「好きな人と一緒のとこ行けて、嬉しいんやわ。」

桃先生が言い、リンダは涙をぬぐった。

 

残りの1名は、他の日本人男性が発見した。

首に跡があるので、首吊りだろうと、リンダが推測したが、森の中で横たわって死んでいたらしい。

きっと先に見つけた米兵が、縄を解いたのだろうと、ウォルテスは予想した。

5人はその晩、火葬された。

 

ニャン係長は、ムティに泣いてすがり、ムティの船で10名ほどを夜、運んでもらった。高選手と日比野も5人ほどを救った。

 

「アーユーオーライ?」

姫達は、少しおびえた可愛い顔をして、うなずいた。

この子達は、清い米兵2人の船で、本土に戻ることになったのだ。

 

その2人は途中で、船を捨て、姫達を泳がせた。

 

陸に着くと、日本人は2人に銃を向けたが、姫達が説得した。

 

2人は終戦後に、アメリカに戻った。

 

6月24日。

ニャン係長と一緒にいたかった、残りの姫達は、ぐずぐずと泣いた。

「なーに。帰らんのか。」

「うん。」

姫達は、ぐずぐずと泣き続けた。

 

「じゃあ死ぬのか?一緒に。」

 

ヨーリとクリストフは、無表情でその光景を眺めた。

 

「じゃ、行くよ。」

「うん。」

姫達はメソメソしながら、ニャン係長の後に続いた。

 

一応、ヨーリとクリストフも後に続いた。

 

海岸の崖まで来た。

「ねー死ぬの?」

「うん。」

姫達はワーワー泣いた。

 

「まず、俺が手本を見せるから。」

「やだぁ。」

「来なくてもいいぞ?」

ニャン係長は飛ぼうとした。

 

「やだ、待って。」

「私から行くから。」

姫の1人が言い、飛び降りた。

「ちょっと待て。」

ニャン係長は顔をしかめ、舌打ちをした。

 

「先生。」

「うん。」

2人目の姫が、ニャン係長の手をぎゅっと握った。

 

次の姫はハイタッチをし、その次はハグをし、その次は、頬にキスをした。

次はハグをして、頬にキスをした。

その次は、ハグをしてキスをした。

「わー、口はやめろ。」

ニャン係長は笑った。

 

ヨーリとクリストフは、呆然と少し離れた場所から眺めていた。

シゲンも木の上から見ていたが、耐え切れなく、逃げた。

 

みんなが終わった後、ニャン係長が、姫達の亡骸に向かって叫んだ。

「おーい、いいか!」

ニャン係長はこちらを振り返り、

「先に行くからな!」

ニャン係長は、飛び降りた。

 

「ダメだ!」

クリストフが駆け寄ると、ニャン係長は姫の山の上に落ち、亡くなっていた。

 

クリストフは泣き崩れた。

ヨーリが近づくと、すがりついて泣いた。

 

本当は、ニャン係長は死んでいなかった。

ちょうど、姫の上に落ちてしまったのだ。

 

ニャン係長は立ち上がった。

 

「おい、生きているやついるか。」

姫の何人かが、手を動かしたが、体は動かないようだった。

 

ニャン係長の下にいた姫は、亡くなっていた。

ニャン係長は上から抱きしめ、言った。

「ごめんなぁ。お前が一番だ。」

 

「お前らと、ずーっと一緒にいるからな。」

ニャン係長は言い、本当にずっと一緒にいた。

「先生、キス。」

夕暮れ時、生きていた姫が言った。

「なに言ってんだ。」

ニャン係長は、姫の頭をなで、姫は息を引き取った。

 

「お前達は、本当にかわいかった。」

次の日の昼、ニャン係長は、姫を見まわった。

 

最後の姫が、かすかな声を出した。

「あー、辛いな。お腹も減ったしな。」

ニャン係長は、頭と顔をなでた。

「うん‥。」

姫は泣いた。

 

「かわいそうにな。」

姫は、最後に鼻をすすり、なくなった。

 

ニャン係長は、亡くなった姫達と、ずっと一緒にいた。

 

ニャン係長は、花をつみ、アレンジをした。

「ほら、やってみた。」

ニャン係長は、一人で笑った。

 

「かわいい。似合う。」

ニャン係長は、姫に、花の冠をつけたりした。

 

ニャン係長は、一週間、そこにいて、ちょうど潮の流れを見て、姫を流したりした。

 

最後に、大ちゃんに見つかった。

「大丈夫ですか。」

大ちゃんは、倒れたニャン係長を、基地まで運んだ。

 

桃先生とウォルテス、リンダも生きていたが、ニャン係長にバレないよう、影に隠れた。

3日後、ニャン係長は飲み物を飲みながら、大ちゃんに聞いた。

 

「あのさ、他に、男の先生いなかった?」

「はい。いました。呼んできますか?」

「うん、お願い。」

 

桃先生とウォルテス、リンダが来た。

「ああ、よかった。生きてて。」

「すみません、生きてました。」

ニャン係長は、安堵の表情で言った。

 

終戦の10年後。桃先生はなんとアメリカに行った。

ウォルテスとリンダは、アメリカンレストランをオープンした。

 

ニャン係長は、薬の研究職についた。

時々、4人で会ったりした。

そういうのが、人生で一番楽しかった。

 

ニャン係長にとって、姫達との思い出は、何より大切な物だった。

 

ヨーリとクリストフは、現実に戻った。

2人は付き合っていない。

なぜなら、別々の国に住んでいるからだ。

 

クリストフは、薬剤師であるが、あまりやる気はない。

 

ヨーリはこの物語を書いた。

 

[HIMEYURI] by Shino Nishikawa

 

 

 

 

 

 

 

 

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