戦友【トウナのその後】20

March 27, 2019

戦友【トウナのその後】20

未来のトウナは、数学教師の傍ら、プロボーリング選手として活躍していた。

過去に戻ってからは、日払いで片付け屋をして、途中、臭いがする遺体が出たりした。

 

トウナのアパートの近所のお爺さんが言った。

「腰が‥。」

「大丈夫?お爺さん。」

「おう‥。」

 

 

「大椋(おおぐら)のお爺さん、豆腐屋辞めるってね。」

トウナの親戚のうどん屋の女将が言った。

「そうなんですか?」

「うん。トウちゃん、継いであげたら?ハハ‥。」

女将は笑った。

「お前、トウちゃんが、豆腐屋なんかするわけないだろう。なぁ?」

うどん屋の大将が言った。

しかし、トウナは、豆腐屋を継いだ。

 

「豆腐~!」

トウナの豆腐は人気だった。

というか、トウナが人気だった。

 

お父さんは、子供を見せに来たし、お母さんは、少しは化粧をして、出てきた。

 

みんな良い人達だったが、トウナは、野丸さんという若いお母さんと知り合いになる。

野丸さんは、かなり綺麗だが、子供が3人いた。

 

トウナが大勢の客をさばく姿を、野丸さんは、遠くから見守り、客が少なくなると寄ってきた。

それは、毎回だ。

 

体のためにも、野丸さんに良い豆腐を食べてほしかったが、野丸さんは遅く出てくるので、悪い豆腐しか、残っていない。

 

「野丸さん!」

ある日、トウナは、野丸さんを呼んだ。

 

大衆は、野丸さんを見た。

「ごめんなさ~い、いつも野丸さん、良い豆腐買えてないから。」

 

「あ、そうなの?買いな。うまいぞぉ。」

 

野丸さんは、白くて細い手で、豆腐を買った。

「それだけでいいのぉ?」

「はい。」

野丸さんは、一丁だけだ。

 

「いいんですかぁ!!」

大衆達は言った。

「あ、はい。」

「まぁ~、もっと買えばいいのに。体にいいのよ~。」

 

次に来た時も、野丸さんは、遠くから見ていた。

トウナは、なぜか少し、心の状態が悪く、野丸さんを呼ばなかった。

 

客が引き、トウナと野丸さんは目が合い、野丸さんは来たが、若い女の子達がトウナに寄ってきたので、野丸さんは、逃げるように帰ってしまった。

 

夜、トウナは、車を引きながらつぶやいた。

『またかよ。くだらない。』

 

「お~、トウちゃん。どうしたぁ?」

大工の京奈(けいな)さんが話しかけた。

 

「こんばんは。今のは、1人ごとです。」

「1人ごと?ふ~ん。」

 

「じゃ。」

 

「トウちゃん。」

「え?」

「これは?」

京奈さんは、小指を立てた。

「いないです。」

「そっか。早く女作れよ。終わっちまうぞ。」

「終わるって、何がですか?」

「男の期限だよ。」

「そんなものが?」

「おう。」

 

トウナは振り向き、帰ろうと走った。

 

「若い女には気をつけろよぉ~!!米軍と遊んでいるらしいぞ!!」

 

『なわけねぇだろ。』

トウナは走った。

 

 

次の日の豆腐売りでも、その次も、野丸さんは同じようだった。

 

1人の女の人が、豆腐にケチをつけた。

トウナは言った。

「う~ん。そうですよねぇ。」

「そう!大体ね、この豆腐の衛生状態を、大学で、調べてもらった方がいいのよ!」

 

「そう‥かなぁ~。」

「何!お客様に対してその態度は!」

女の人は、引き下がらない。

 

「トウちゃ~ん、まだ、あれある?」

奥さん連れの常連客、柴下さんが話しかけた。

「ありますよぉ。」

「おお~。良かった。」

「あら、緑まめ豆腐もまだあるのねぇ。」

「はい。」

「これで美味しい鳥鍋ができるわ。」

「鳥ですかぁ、いいですねぇ!俺、最近、カエルしか食べてないんで。」

「や~だ~。若いんだから、お肉をしっかり食べて、精をつけなきゃ!」

 

気づくと、ケチをつけた女の人は、いなくなっていた。

 

夕方。

客が引くと、トウナの知り合いの若い女の子、テロンが来た。

「ああ、テロちゃん。」

「久しぶり。元気ぃ?」

「うん、元気。」

 

「最近、会えないから、つまらなかった。」

テロンは、トウナの胸に耳を当てた。

トウナも少し抱いた。

「え?ほぼ毎日、ここに来てたよ。」

「私の仕事が忙しくて。」

 

「仕事?仕事って何やってるの?」

「お店。夜のね。」

「夜?じゃあ、昼間に買いにくればいいじゃん。」

「ダメ。昼は、寝てるから。」

 

はぁぁ。テロンは、トウナに抱きついた。

トウナは言った。

「あんまり、いろんな人と、恋愛をしない方がいいよ。」

「してないよぉ。」

テロンは、トウナの胸の音を聴いた。

 

「トウちゃんが、一番だもん。」

「いや、どうかな。」

 

トウナは、野丸さんと目があった。

今日の野丸さんは、メガネをかけている。

 

トウナは、テロンを離した。

「はい、豆腐。」

「あ、じゃあ買う。」

「大丈夫。持ってきな。」

「いいの?」

「うん。たまにはさ、親に会った方がいいよ。」

「会ってるよ。だって、一緒に住んでるだもん。」

「そうなの?」

「うん。」

「じゃ、安心だ。」

「何それ。」

「もう帰りな。」

「うん‥また会える?」

「会えるっていうかぁ、買いに来てくれる?」

 

「うん、わかったぁ‥。」

テロンは小さく言った。トウナのことを、つまらない男と思ったようだ。

 

 

野丸さんが来た。

トウナは見ないようにしていたが、影で分かった。

 

「お豆腐、まだありますか?」

「あ、野丸さん。少し、ですけど。」

「じゃ、これ。」

 

「あの、お金、今日はいいです。」

「え‥。」

「今日はホント、大丈夫ですから。今日だけかもしれませんけど。」

トウナが言うと、野丸さんは笑った。

 

2人は一瞬、見つめ合った。

 

「おーい。トマル。」

京奈さんだ。

「ちょっと止めてくださいよ。野丸さんは、結婚しているんですから。」

「あっ、そうなんですか?」

「はい。」「お子さんは、3人。」

「3人も?すごいですねぇ。」

「いえ、うるさいんですよ。」

「いやいや、子供は元気な方がいいですよ。」

京奈は言った。

 

野丸さんが帰り、トウナが帰るために台車の様子を見ていると、温かい総菜をの紙袋を持った、京奈さんが来て言った。

「お前、ヤバくないか?」

「何がですか?」

「公衆の面前で堂々と、二股を披露しちゃって。」

「別に二股じゃないですよ。」

「だってさ、最初の人とは、抱き合ってたじゃん。」

「別にそういう関係じゃないですから。」

「へええ。そう?」

「はい。」

「抱き合うって普通じゃないけどな?!寂しいのか?」

「そんなんじゃないですから。ただの友達ですよ。」

 

「ふん、これいるか?」

「えっ。」

京奈さんが、カレーパンをくれた。

 

「あっ。じゃあ、これ。」

「いや、俺、豆腐苦手なんだわ。」

「え‥そうだったんですか?」

「うん。」

 

夕焼けをバックに、京奈さんがカッコいい感じで言った。

「お前さ、豆腐屋はいつか辞めな。そうしないと、いつかお前は、人妻に食われちまうぞ。」

 

「あ~‥はい、わかりました。」

「な?じゃ、俺は行くで。またな!浮気君。」

京奈さんは、黒自転車に乗り、行ってしまった。

 

トウナは、夜、テロンのことを考え、想いにふけった。

付き合うことになったら、どんな感じだろうと想像すると、ふわふわとした感じになる。

 

夜、京奈さんが自転車で徘徊中、ふらふらと歩く、野丸さんを見つけた。

キキッ

「野丸さん?」

「あ‥。」

「どうしたんですか?」

「あの‥。」

「えっ、大丈夫ですか?危ないですから。まだ戦後だもんでね。」

 

「ああ‥。」

野丸さんは泣いてしまった。

「どうした?何かあるなら、言ってごらん。」

「旦那が‥浮気してて。」

「ええ‥。」

「相手の人が、家に来るから。」

「そうだったのかい。」

「じゃあ、実家に戻ったら?」

「実家は‥兄夫婦が住んでいて。」

「そうか。でもな、今日は遅いから、家に帰れ。旦那の所にな。」

京奈さんは、野丸さんを自転車の荷台に乗せ、2人乗りして帰った。

 

京奈さんは、野丸さんのことを、役場に相談し、1年後には、野丸さんは、新しい人を見つけた。

 

 

「どうよ。最近。」

トウナはカフェで、大ちゃんと向き合った。

「別に普通ですよ。」

「これはできた?」

トウナは小指を立てた。

 

「う~ん。微妙です。」

大ちゃんは下を向きつつ、首をかしげた。

「え、そうなの?じゃあ、できたんだ。」

「う~ん、彼女というには、まだ早いですけどね。トウナさんは?」

「俺は、全然ダメ。」

「意外ですね。僕、てっきり、戦争が終われば、トウナさんが一番早く結婚すると思っていたんですよ。」

「無理でしょ。俺、女と手もつなげないから。」

「そうなんですか?自分は‥手とかは普通ですね。」

「へぇ~、そっかぁ。」

「抱き合うとかはちょっと‥。」

 

コンコン

京奈さんが、窓の外から手を振っている。

「京奈さん!」

大ちゃんが言った。

「京奈さんと知り合いなの?」

「はい。僕が住んでいるアパートの床を、直していただいたんですよ。」

 

「あ~、さむさむ。」

京奈は、カフェに入ってきた。

店員さんが来た。

 

「ケーキ一つ。あ、三つ。コーヒーは‥、コーヒーも三つ」

「そんないいですよぉ。」

トウナが言った。

 

「いいっていいって。俺、最近、金が入ったからさ。」

「ええ?お金が?」

 

京奈さんは、小声で言った。

「うん。実は、皇居の修理をしたんだ。」

「そうだったんですか。」

「それなら、まぁ、普通の仕事の10倍くらいは入りますよね。」

「まぁな。」

 

窓の外は、平和な夕焼け空だった。

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