平成くんと令和龍『改元』i

May 5, 2019

平成くんと令和龍 『改元』ⅰ

霧雲の中を、遠くから、何かが来る。

赤い空飛ぶ船だ。七福神が乗っている。

 

ここは天界みたいだ。空に浮く島がいくつもある。

一番大きな島から、人が手を振ったので、大黒天は打ち出の小槌を振り、福や道徳を降らした。赤い船はさらに進み、一番奥の島に来た。ちなみに、その先を抜けると、人間界らしい。しかし、簡単には抜けられない。

船を島につけ、七福神は森の山を歩いて、神社のような場所に来た。

 

恵比寿天は龍が眠る扉を開き、寿老人が言った。

「我が神のおりし場所の龍よ、30年の眠りから目覚めよ。」

 

弁財天が楽器を鳴らすと、金色の大きな龍が出た。

毘沙門天が言った。

「よく目覚めてくれたな。新しい時代が来る。」

「ついに来るか。ちょうどいい。眠るのにも、飽きたところだった。」

龍が言った。

「俺の時代の名前はなんだ?」

 

「令和じゃ。霊界の者たちが考えたんだ。」

「あの魂どもが、俺のために‥。」

龍は目を落とし、七福神は笑った。

「我が魂の子供達よ‥。」

龍は涙をこぼした。

 

 

ピピピ‥、ガチャ。電子時計は、午前9時をさしている。

『僕の名前は、薄井平成(うすいひらなり)。26歳になり、意気揚々と上京してきたが、なかなかうまくいかず、東京で派遣社員をしている。こんなんじゃダメだとは思うが、なかなかやる気が出ない。今まで、香川県の自然豊かな場所で生きてきたので、人が多い東京が合わないかもしれない。』

平成は立ち上がり、コーヒーをいれ、パンとコーヒーを飲んだ。

『平成という名前は、両親がふざけてつけた。ちなみに、お兄ちゃんの名前は、昭和(あきかず)だ。香川で、土木業をしている。僕はお兄ちゃんのことが好きだが、お兄ちゃんはあまり相手にしてくれない。』

平成は、テレビをつけた。改元のニュースがやっている。

『あと一週間で、平成が終わる。』

 

仕事は、10時からだ。満員電車は嫌だが、この時間は、比較的すいている。

平成は、今日も淡々と仕事をこなした。

「ただいまー。」

コンビニ袋をさげ、部屋に戻った。家賃は6万7千円だ。安いのか、高いのか分からない。

親からの仕送りがないと、生きていけない。

 

「疲れたー。」

平成はテレビを見て、ため息をついた。風呂に入り、またテレビを見る。

「あれ?」

開けていないはずの窓が開いている。今日は洗濯を干していない。

「閉めたはずなのにな。え?!」

一瞬、東京なのに、美しくて恐ろしいほど近い夜空が広がっていた気がして、平成は目を開いた。しばらくじっと見て、「気のせいか。」平成は部屋に戻った。

 

平成は爪を切る。また風が吹いたので、後ろを見た。

「妙だな。」

平成は首をかしげ、外に出ることにした。ジャージで寝ているので、このまま外に出ても問題ない。

 

ポケットに入れた部屋の鍵をじゃらじゃら鳴らし、スマホを見ながら、歩く。

閑静な住宅街なので、車はほとんど通らない。

「ん?」細い道の向こうに、女性が立っているのが見えた。

「秋華ちゃん?」

平成は走り、電柱の影から、秋華(あきか)を見つめた。

秋華は、平成が住むアパートの近所のアパートに住んでいる同い年の女の子だ。

落とし物を拾って、渡した時に、少しだけ話した。25歳で結婚したが、離婚してバツ1らしい。秋華は長野出身だが、実家に戻れていない。秋華のためには戻った方がいいと思うが、まだ近くにいてほしいという平成の願いもある。

 

「あっ。カブトムシ‥?」

大きなカブトムシが夜空から降りて来て、秋華はカブトムシの顔をなで、はしごを使い、カブトムシに乗った。

「ええ?!秋華ちゃんっ?」

カブトムシには、3名ほどの男が乗っていた。

「嘘でしょ‥。」

平成は尻もちをついた。

 

カブトムシに乗った男、助手席のワズが言った。

「大変だぞ。今、男に見られていた。」

助手席のボンが言った。

「ほほ、それは面白い。」

「いや、まずいんだよ。女の子を拾う所を見られたんだから。秋華ちゃん、大丈夫?あとで、もう2人、乗せるからね。」

「はい、わかりました。」

 

ワズは双眼鏡で、平成を見た。ピンク色に光っている。

「今の奴、ピンク色だぞ。」

ワズは、秋華の隣にいるキュウに双眼鏡を渡した。平成はピンクに染まり、ハートが飛び出た。

「本当だ。ピンク色に染まっている。愛の色だね。秋華ちゃん、いい旦那さんが見つかったよ。」

「うん、いつまでも、おじさん達と遊んでいてもダメだしね。俺達だって、他の人も救わないといけないんだから。」

「東京ばかりには、いられないしな‥。」

運転手のボンがつぶやいた。

 

カブトムシは飛び、東京タワーの下に待ちぼうけしている女の子と、都会の河原にいる女の子を拾って、夜景ツアーをして、家に送った。

 

平成は首をかしげ、棚から薬箱を出し、安定剤を飲むために、グラスに水をいれた。

ブー。スマホが鳴り、平成は、友人からのラインを見た。

ため息をつき、グラスの所に戻ると、グラスの中に、黄色の生き物がいたように見えた。

「ええ?!」

目をこらしてみたが、何もない。水を捨て、新しい水を入れると、また生き物が見えた気がした。平成は不気味に感じながらも、安定剤を飲んだ。

 

次の日も仕事で、時々、正社員の人から嫌味を言われるが、こちらは何も言わない。

自分には子供がいないのでいいが、子供がいる人の悪口を言うと、その人が悲しくなって、子供さえ虚しい存在に見えてしまう。子供ではなく、家族でも同じことが言える。

平成は、昭和という兄貴が家族を見てくれているので、よかった。

一週間、誰の悪口も言わず、時々部屋では、一人で怒ったが、誰にも話さなかった。

時々、いろんな場所で、黄色の生き物が見えた。あの生き物はなんだろう?その事も、誰にも話さなかった。

 

やっと土日が来た。香川で引っ越しの仕事をしていた時の方が、一週間が長く感じていた気がする。活かしてはいないが、宅建の資格の勉強をしていたので、休みの日も忙しかった事を覚えている。

東京では、休みの日にする事が、遊びしか浮かばない。

今度の土日には、必ず秋華に話しかけて、大カブトムシの事を聞いてみることにする。

 

平成は、私服のシャツを着た。そこにネクタイを結ぶのはどうかと思ったが、それは間違いなく変だ。息をして、朝の9時半から、秋華の待ち伏せをする事にした。

秋華は今、働いていない。そんな事はずるいとは思うが、きっと何かのはからいがあるのだろう。

平成は、電柱の影でつばを飲んだ。

10時、秋華がアパートから出てきた。タイミングがいい。

うまく隠れて、秋華の後をつける事にした。行った先は、図書館だ。

ちょうどいい。騒いではいけないが、話しかけやすい。

 

平成は真顔になって、秋華に向かい、隣に座って、話しかけた。

「こんにちは、秋華ちゃんだよね?」

「はい。えっと‥、薄井くんだっけ?」

「うん。‥あのさ、月曜の夜に、秋華ちゃんが、空飛ぶ大カブトムシに乗るのを見ちゃったんだけど、あれは一体何かな?」

「ええ?!」

 

秋華は怒ったように、本を戻し、怒ったように歩いて、図書館を出た。

 

「ちょっと待って。」

平成は追いかけ、秋華の腕をつかんだ。

すると、秋華は平成を睨み、腕を離した。

 

「ごめん‥。」

「あの人達の事は、私だけの秘密なの。」

「そうなの?でも、僕にも見えたから何か教えてほしかったんだ。それに‥。」

平成は、風の中に、黄色の龍が見えた気がした。

「何?」

秋華は怒っている。

「秋華ちゃんのことが心配だから。」

「そうだったんだ。私のこと、心配してくれて、ありがとう。でも、これ以上は大丈夫だから。」

秋華と平成は、並んで歩いた。

「‥あの人達は、平成の神様だよ。」

「平成の神様?」

「そう。小さな頃に、私が困っていたら、来てくれたんだ。それからの知り合いなの。」

「へぇ‥。秋華ちゃんって、神様と知り合いだったんだ。」

「うん、それなのに、去年、私が変な人と結婚してしまって、すぐに離婚したの。私、騙されていたんだよ。」

秋華は泣き始めた。

「大丈夫だよ。そういう人はたくさんいる‥。」

「でも、自分が情けなくて‥。」

「平成の神様が、秋華ちゃんに会いにきてくれるんだから、もう泣かない方がいいと思うよ。」

「うん‥、そうだよね。」

しばらくの間、2人は無言で歩いた。

「でも、神様って、本当にいたんだ。僕、びっくりしちゃったよ。」

「うん。もうすぐ平成が終わるから、あの人達は、戻らないといけない。」

 

「戻らないといけない?一体、どこに戻るんだ?」

「天界。薄井君、行った事ないの?」

 

「僕‥、ちょっとまだ分からなくて‥。」

秋華のアパートの前に来て、2人は少し離れた。

「そっか。薄井君にも、いつか分かるといいね。」

「うん。そうだね。」

秋華は、手を振って、アパートに戻った。

 

次の日は日曜日だ。

ヒーリングミュージックを流して、座禅を組み、瞑想をして、神様や天界について考えることにした。

ゴォォ

飛行機の音だ。ブーン、次にハエが飛んできた。

考えない事に集中すると、自然と涙が出て、脳が楽になる。

暗くなり、瞑想に集中できた。

ガチャ、音楽が止まった。

「ん?」

平成が目を開けると、また音楽が流れだしたので、瞑想を再開した。

ガチャ「え?」また音楽が流れ、平成は瞑想を続けた。

ガチャ

「一体なんだっていうんだ。」

平成は目を開けた。

 

「薄井平成(ひらなり)。つまり、君は、平成(へいせい)くんだ。」

そこには、黄色の竜がいた。

「うわぁっ!!なんだ、お前はぁっ!!きもぉっ!!」

「神の俺に、その態度は失礼だ。」

黄色の龍は、大きくなり、平成を囲み、覗き込んで言った。

「すみません、すみません、許してください。言葉の弾みです。もう言いません。」

「ふん、よろしい。」

黄色の龍は、小さく戻った。

 

「もうすぐ新しい時代が来る。令和だ。令和は俺の時代。つまり、令和の神を俺が担当するという意味だ。」

「そうだったんですか‥。」

「それで、七福神から、1人の人間の力を借りていいと言われたよ。

だから、平成くん、君を選んだんだ。」

「ええ、俺がそんな大役、務められるわけないじゃないですか。」

「いや、大丈夫だ。平成の神の補佐を君と同じ年齢の子がやっていた。その子は秋華だよ。最初は、秋華の伯父がやっていたのだが、途中で、秋華に交代したんだ。」

「秋華ちゃんがそんなことを‥?去年、変なヤツと結婚したのに?」

「そうだ。平成は、曖昧な時代だった。」

「はい‥、そうですよね‥。」

 

「まず、平成の神と話をしないといけない。平成、一緒に、来てくれるか?」

「はい、いいですよ。僕でよければ。」

「ありがとう。君は話が通じる男でよかったよ。もしダメなら、記憶を消さないといけなかった。神に記憶を消されるとな、神の記憶がもう二度と戻らない場合がある。」

「そうなんですか?」

「そうだ。平成、俺はまた来る。」

黄色の龍は、虹色にも金色にも銀色にも輝き、大きくなって、窓から、大空に飛び、消えた。

 

平成はしばらく空を見上げた。

 

平成は、一晩眠ると、昨日のことが嘘のように思えた。でも、気分はすっきりとしている。

夢ではないかもしれない。

 

隣に住む大雅(たいが)とは、知り合いだ。

会社に出入りする宅配会社で働いている。

ベランダに立って、昨日のことを思い出していると、大雅が自転車で出かけるのが見えた。なんとなく、昨日の事を大雅も知っているように思えた。

 

グラスに水を注ぐが、黄色の龍は見えなかった。

 

平成は、いつも通り、仕事をこなした。

宅配会社の大雅が、段ボールを届けた。こちらを見て、笑い、サインをもらって、帰った。

次の日もまた次の日も同じ感じで、アパートでは大雅とは話さない。

だから、良い関係が続いている。

あの龍のことも、ただの夢なのかもしれない。

紙コップでコーヒーを飲みながら、窓の外を見た。

高層ビルではなく、小さな会社だ。

いつかでかい会社の本ビルで働いて、強くなりたいと思った。

でも、自分の人生には、まとまりがなかった。大学では物理や化学を学んだが、教員免許を取らなかった。その代わり、簿記の勉強をして、3級をとった。就職先は、引っ越しセンターで、宅建の資格を独学でとった。

今は、派遣社員として、電卓や文房具関係の会社で事務をしている。

次に狙う資格は、ドラッグストアで活かせる登録販売者だ。

 

木曜日。『今晩いい?龍』見知らぬ友人からのラインがはいった。

やっぱり、あの龍は誰かの陰謀だったか?だとしたら、その人は、CGが出せる。

平成は首をかしげ、ラインを無視した。

仕事中は、スマホは見ない。でも以前、社員の女の子が、昼休憩が終わってもずっとゲームをしていて、『やばいな。』と『やっぱりな。』を、両方思った。

 

アパートで、弁当を食べながら、少しうきうきしてしまった。

この前みたいに、夜道を歩けば、秋華ちゃんみたいにさらってもらえるかもしれない。

でも、そんな事をするのは、馬鹿げていた。しかし、ドアを見る。

ドアの向こうで誰かが待っている気もした。

夜10時。少しだけ残念な気持ちで、カーテンを閉めた。隣の部屋では、大雅が誰かと電話している。

風呂には早くに入った。残念だが、もう眠ることにする。もう一度、ドアを見た。

向こうで誰かが待っている気がしたが、むしろ、待っていたらヤバい気がする。

 

眠りにつくと、平成はまっくらな空間に来た。

龍が来て、大きな本を開いた。

パラパラパラ‥

「平成、これが、今までの物語だ。」

 

人間が暮らす世界以外に、天界と霊界と魔界がある。

天国と地獄を合わせて霊界と呼んでいたが、天国の者達が嫌がったので、天国は霊界、地獄は魔界という呼び方になった。

天界は、人間の魂から神になった者達の住処である。

霊界の者達も天界をうらやましがるが、彼らは、来世を神に握られているので、ワガママを言う事が出来ない。

神も交代制だ。人間をやったことのない魂は、この世界に一つもない。

天界、霊界、魔界は、基本的には国別になっている。

世界を飛び回っている神様や精霊もいるが、基本的には国ごとだ。

 

日本には、元号がある。元号ごとに、神を決め、その神を人間界に降ろした。

その他、精霊やそれより下の神も多数降ろされる。

天界に戻って休むこともあるが、それは幽体離脱のようなものだ。

 

明治の神の姿は、獅子だった。大正の神の姿はうさぎだった。

動物の姿でも、人間にもなる。神様は元人間だからだ。

昭和の神は、龍だ。令和龍の祖父が担当していた。

みんな、役目を終えると、天界の神社に戻って、石となり、眠る。

元人間なので、生まれ変わらないといけない。

途中で、魂の交代がある。選ばれる魂は、空気の神の魔法によってである。

だから、ほとんどの者が納得する。

 

昭和最後の年‥。

霊界にそびえたっている最高仏の下に、神や精霊が集まっていた。

4人の人間の話を聞いている。

「昭和は最悪だったよ。みんな自分のことばかりでさ。夢も希望もなかった。」

ワズが言った。

「今まで、こんな世界があるなんて、全然分からなかった。ずっと、神なんかいないと思っていたんだよ!」

キュウが訴えた。

人間サイズに戻ったお釈迦様が言った。

「我々は、いつも神を人間のそばに降ろしていました。それに、気がつかなったということですか?」

「はい。僕たち、そんなこと、全然わからなかったよ。」

ボンが言った。

 

「なんか、昭和は窮屈だったんだ。偉そうな人がたくさんいてさ。もしかして、その人達が神だったというのかい?」

カブが聞いた。

「いえ‥、違います。神は、普段、人間の姿をしていませんので。」

お釈迦様が言った。

 

「じゃあ、僕たちのそばにいたっていう神は、誰なんだい!」

ワズが大きな声で言った。

「それは、俺達さ。」

蒼虎様が言った。

「お前達、俺に何度も会ったじゃないか。」

黒豹様が、ワズに言った。

「ああ‥、そうだ。」

ボンが言い、4人は息を飲んだ。

 

「でも、誰が、一番上の神様なの?」

キュウが聞き、神様や精霊たちは、お釈迦様を見た。

「ここでは、私が一番上なんですよ。」

「やっぱり、お釈迦様が‥。」

「はい、でも、昭和に降りていた一番上の神は、別の方です。」

 

ガオー

蒼獅子様が吠えると、雲の中から、蒼色の龍が現れ、赤色になり、雄大な姿を見せ、人間の姿に戻って、降り立った。

「昭和の神は、私だった。」

お爺さんの姿に戻った昭和の神は、なんとなく、昭和天皇に似ていた。

「もしかして、陛下ですか?」

「ちがうんだよ。少し似ているけどね。」

「へぇ‥あなたが、昭和の一番上の神様‥。」

「うん、そうだよ。すまないね。戦争を止めることができず、苦しい思いをさせてしまった。」

「はい‥。」

4人は、信じられないという顔で、昭和龍を見た。

 

「赤い龍が、昭和にいたとは。」

ボンが言った。

「もとは、蒼かったのだが、血の色で染まってしまったんだ。」

「そうだったんですか。」

キュウが言い、4人はうなだれた。

 

我慢できないワズが言った。

「でも、昭和はダメだったんだよぉ!!こんな場所で暮らしている人達なんかに、神様を任せられないよ!!」

「そうだな‥。」

昭和龍も悔しそうにした。

 

カブが聞いた。

「次の時代名はなんだい?」

「平羽です。」

お釈迦様が言い、蒼獅子様や青虎様、黒豹様も、ニヤニヤと笑った。

 

「平和‥?」

キュウが言った。

「平らな羽と書きます。」

お釈迦様が言った。

 

「ダメだよ!!平羽なんてさ!!羽なんて、ハエについているものじゃないか。鳥やエンジェルについているのは、翼だろう!!」

「確かに。平らな羽なんて、おかしいよ。」

ボンが言った。

「ダメダメダメ‥。」

 

「お前ら、ちょっと落ち着けや。」

青虎様が言った。

「釈迦に向かって、ワガママを言ったら、いけないんだよ。」

黒豹様が言った。

「少し、平静を保ってみたら、どうなんや。」

青虎様が言った。

 

「うう‥。」

4人は悔しそうだ。

 

「わかりました、じゃあ、こうしましょう。」

お釈迦様が言い、4人は、お釈迦様を見た。

「次の時代は、平静です。平らな静けさ。どうですか?」

 

「平静って言葉はいいけどさ、静かなんて、ダメだよぉ!!」

「静かにしていたら良い子なんて、違うからね!」

ワズとボンが言った。

 

「ちょっとお前ら、平らになれや。」

青虎様が言った。

 

「ああ、じゃあこうしましょう。平らに成るで、平成とすることにします。」

お釈迦様が言った。

 

「へぇ‥まぁ、それなら。」

キュウが、他の3人を見た。

 

「でもさ。その、平成って時代の神は、誰が務めるんだい!?」

ワズが聞いた。

お釈迦様が言った。

「それは、まだこれから、話し合います。」

 

『俺たちだ。』

青虎様と黒豹様と蒼獅子様が、ニヤニヤとした。

 

「こんな場所に住んでいたヤツらなんて、ダメだよ!!ちゃんと戦争を経験した者じゃないとダメ!!」

ワズが言った。

「ワズ‥?」

ボンが息を飲んで、ワズを見た。

 

「平成の神様は、俺にやらせてほしい!!」

ワズが言った。

「ええ、ワズ、何言ってんの?」

他3人は、少し身を引いた。

 

「ええ‥。」

蒼獅子様、青虎様、黒豹様の3人の神様も、驚いて、身を引いた。

 

神の子ザルが、「イイ、イイ、イイー!」と言って、シンバルを鳴らした。

 

昭和龍が言った。

「一番上の神様というのは、その時代で一番の責任者だぞ。これを見ろ。」

昭和龍は肩から腕にかけての、あざを見せた。

「まだあなた1人では、無理だ。」

 

「じゃあ、4人でやります。」

ボンが言った。

「はい、僕たち、4人で、平成の神をやります。」

「やらせてください。」

みんな黙った。

 

お釈迦様が言った。

「わかった。他の神や精霊たちも、あなた達のサポートをします。」

「いいのか?!」

青虎様と黒豹様、蒼獅子様はぎょっとした顔で、お釈迦様を見た。

 

「やらせてくれるんですか?」

「はい、あなた達の熱意が伝わりました。」

「やったー!!」

 

「じゃあ、俺達もサポートするからな。」

青虎様が言った。

黒豹様は少し悔しそうだ。

 

「いいです、俺達、あなた達の世話になんかならない!」

「僕たち、もう人間界に降ります。」

ワズとボンが言い、4人は背を向けて、歩き出した。

 

「でも、乗り物がないと、降りられないぞ。」

黒豹様が言った。

 

「私が‥。」

昭和龍が走り、龍に変身した。

「乗れ。」

 

「嫌だ、昭和、お前なんかに乗りたくない!」

ワズが言った。

 

「乗り物がないと、無理だぞ。」

昭和龍が言った。

 

「大丈夫。」

カブが3人を背負った。

 

「行けぇ‥カブ‥!!」

カブはよろよろと歩き始めた。

 

「無理だ。」

蒼獅子様が言った。

 

お釈迦様は4人を見つめ、数珠が動いたかと思うと、カブが若い龍に変身した。

 

「ああ!!」

4人は人間界に向かって落ち、昭和龍も下を見た。

 

「うわあああ!!」

カブはいろんな生き物に変身し、最終的にカブトムシになって、人間界の上空を飛んだ。

 

「イエーイ!!」

ワズ、ボン、キュウは歓声をあげた。

 

ザー‥

「雨だ。」

3人の上には、透明な傘が開いた。

「あっ‥。」

若い女性が走り、男の人を傘の中に入れた。

「2人はハッピーエンドだな。」

ワズが言った。

「結婚は終わりじゃない。」

ボンが悔しそうに言った。

 

「なんだ?うらやましいか?いいか、俺たちは神になったんだぞ。だから、人間の恋を応援してあげないといけない。」

ワズが言った。

「それにさ、僕たちはもう、恋愛なんてできないよ」

キュウが言った。

「そうだよな。でも、俺はもともと、女より仕事だったから。」

 

パイロットの服を着て、パイロットの眼鏡をかけたボンは、ハッピーエンドの2人を見て、高度をあげた。

「よし、虹がかかった。」

「いいぞぉー!」

 

ウウー

「何の音だろう?」

キュウが聞いた。

「空襲のサイレンだ。敵機が来ているのなら、すぐに撃ち落とすぞ。」

ワズが言った。

「違う、僕たちだよ。見られている。」

ボンが言った。その通り、人間たちは走って逃げていく。

 

「俺たちは、平成の神だー!みんなを幸せにしてやる!!」

ワズが言い、キュウが手を振った。

 

岬まで来て、カブも人間に戻り、4人は寝転んで、きらめく海を見た。

「こうしていると、人間に戻ったみたいだ。」

ボンが言い、ワズが答えた。

「そうだな。」

「みな子ちゃん、元気かなー。」

ボンが涙を拭いた。

「みな子ちゃんって、誰だい?」

「人間だった時、好きだった人。別の人に、とられちゃったけど。」

「それは可哀そうに。」

「でも、大丈夫。人間だった頃は、毎日仲間と過ごして、楽しかった。」

 

「婆さん元気かのぉ。」

「なんだい、キュウ。婆さんって奥さんかい?」

「うん。僕は結婚していたんだ。子供が4人いて、孫が2人いた。」

「そうかい。幸せだったんだな。」

「うん、でも、今はすごく恋しいよ。死んだから、もう会えない。」

キュウも泣いた。

「そうか‥。」

 

「カブは好きな人がいたか?」

ワズが聞いた。

「いないさ。ずっと夢に恋をしていた。」

「カブの夢はなんだったんだい?」

「映画さ。東京で働きながら、映画作りを手伝っていたんだ。」

「そうだったのか。俺は、鉄道会社で働いていたから、映画とは無縁だったけど、よく観ていた。カブが撮った映画はなんだい?」

「手作り奇跡の物語。知っている?」

「ああ、知っているよ。あれ、カブが撮ったのか?」

「そうだよ。」

「へー、すごい。」

「あれは、面白い映画だったよ。」

キュウとボンも言った。

 

4人は大の字になり、空を見つめた。

『おーい、おーい、ダメだよぉ!!』

小さな精霊の声が聞こえた気がしたが、無視して、ワズはこぼれた涙を拭いた。

 

「何をシテイルノデスカ。すぐに仕事に戻りナサイ。」

「ええ?」

4人が起きると、イエスキリストのような外国人が立っていた。

「あなたは‥?」

「私は、キリストの精霊デス。普段はカナダの神デスガ、日本ニモよく来る。」

「そうでしたか、すみません。」

「あなた達が、平成の神デスカ?」

「はい、そうです。僕たちが平成の神をやります。」

ボンが言った。

「それは、大変デスヨ。でも、頑張ってクダサイ。」

「はい、ありがとうございます。」

カブが言った。

「では、ご機嫌ヨウ!」

キリストの精霊は消えた。

 

『おじさん、早く戻ってよー!』 

小さな精霊が、ワズのお尻を押した。

「はいはい、ごめんね。行こうか。」

「そうだな。」

ボンが言った。

 

「はい、乗って。」

カブが言った。

「すまんな。」

 

一瞬、曇り空の中に、昭和龍が見えた気がした。

 

カブは、今度は大きな白竜になり、3人を乗せ、飛び立った。

 

昭和から、平成に元号が変わる日、ワズ達4人は会議に入れなかった。

その代わり、入口で立って、政治家たちを待った。

会議室の中では、キーキーという猿の声が響き、ガタンガタンという音がして、恐ろしかった。

首相が男2人に支えられて出てきた。漏らしてはいないので、4人は胸をなでおろした。

「首相‥。」

ボンが声をかけたが、声が出なかった。

首相は、古い時代の政治家だった。

古き良き時代だったのなら、良いが‥。しかし、終わったことだ。

 

青虎様と黒豹様が出てきた。

「なんだ、来るなら、知らせてくださいよ。」

ワズが言い、人間の男が、ギョッとした顔で、4人を見た。

「すまん。お前たちのことは、すっかり忘れていたわ。もともと、ワシらで神をするつもりやったから。」

「こいつらが、神をするんや!!」

蒼虎様が階段を降りる人間に言い放ったが、人間達は驚いて、声も出ず、早足で外へ急いだ。

黒豹様はシャーという声で、4人を脅して、嘲笑って、階段を降りた。

CGのような青虎様と黒豹様、猿が後ろからついてくるので、人間達は辛そうだった。

 

人間の姿になった昭和龍が待っていて、首相や男達に挨拶をした。

「この者達に、引き継ぎますので‥。」

「そうですか‥。」

男が振り返り、4人は笑って、会釈をした。

 

4人は、夜のパトロールは欠かさなかった。

悪さをする若者がいると、サイレンを鳴らして、脅しをした。

 

4人は時々、人間の姿に戻って、居酒屋やファミレスで食事をした。

4人がファミレスで食事をすませ、ドリンクバーの飲み物を飲んでいた時、テーブルの上に小さな赤い船が現れた。

カブが言った。

「あれ、これなんだろう?」

「赤い船だ。」

 

「俺たちは、七福神だよ。」

恵比寿天が言い、弁財天は楽器を弾きながら、他の神も船から降りてきた。

大黒天が言った。

「お前たち、ようやっとるのぉ!」

「そうですか?」

ボンがちらりと3人を見た。

「うん、初めてにしては、上出来じゃ。」

福禄寿が言った。

 

「うちらも昔は人間だったんだよ。」

布袋尊が言った。

「そうだったんですか。」

「うん、神も全知全能じゃないから、人間の知恵も必要になる。」

恵比寿天が言った。

「はい‥。」

 

「だから、一人の人間を選んでおいた。その者に力を借りる事だ。」

毘沙門天が言った。

「この人じゃ。」

寿老人が、映像を見せた。

「ああ、うちの甥っ子の博君だ。もう結婚して、孫までいる。」

ワズが言った。

弁財天はずっと楽器を鳴らしている。この方は本当の精霊みたいだ。

 

「お爺ちゃん、今日の私はウッサギです。」

孫の女の子が、ウサギの被り物をして、お爺さんの前で踊ったりした。

ウサギの女の子の妹が、お爺さんに飛びついた。

 

窓の外から、4人は姿を確認した。

「博君、立派になったなぁ。」

ワズが言った。

 

4人はその日、天界の寝床に戻って休んだ。

 

博と妻の静は一緒に寝ている。

「はぁ、トイレトイレ。」

静がトイレに起きた時、天界で寝ていた4人は幽体離脱で、博の寝床に行く事が出来た。

 

「博君、ワズおじちゃんだよ。」

「ええ?」

「おじちゃんさ、仲間3人と一緒に、平成の神になったんだ。それで、博君、神の手伝いをしてくれないかな?」

「ええっ‥?!私には‥そんな事できません。息子がいるので、そちらを好きにお使いください。」

博は南無阿弥陀仏を唱えだした。

静の足音がしたので、ワズは言った。

「わかった、仕方ないな。行こう。」

ワズは言い、4人は寝床に戻った。

ワズは切ない目をして、布団に入った。

もう一度、甥っ子の博と一杯やりたかったのだ。

 

次の日、博は、昨晩何が起こったのか分かった。博は、神についての知識があったのだ。

博は、同居している息子の陸人(あつと)に話しかけた。

「陸人、会社は大変か?」

「大変ではないですけど、家族を養うためにお金を稼がないといけませんから、資格をとろうと思っています。」

「そうか。資格も大事だけど、世の中にはもっと大事な事がある。それは‥目に見えない物だ。」

「へえ‥。お父さん、それはなんですか?僕に分かるように教えてください。」

「神様のことだよ。昨日、夢で、ワズおじさんが平成の神になったから、手伝いをしてくれと頼まれた。俺はもう無理だけど、陸人なら、どうかな?」

「無理ですよ。僕には、家族がいるんです。」

「そうか‥。」

 

「仕方ない。」

チーン、博は仏壇の前で手を合わせた。

「ワズおじさん、申し訳ありませんが、私も、長男の陸人も、神の手伝いは出来そうもありません。でも、次男のスズヤがいます。きっとお役に立てますので、スズヤをお使いください。」

 

スズヤは、仙台でサラリーマンをしていた。うまくいかない事も多いが、スマートな姿の自分を気に入っていた。

夢で、スズヤと4人は話し、スズヤは了承した。

 

スズヤは物分かりのいい男だったが、その後も、部屋で、1人で神と霊話を始めたため、スズヤの家に小人となって忍び込んだ4人は、手を広げて、「わからない」のポーズをした。

 

「へぇ~、神ってこんな感じなんだ。」

魔法の絨毯になったボンに乗りながら、スズヤは言った。

「うん。人間界にいて、何か気づいた事があれば、教えてくれよ。」

ワズが言った。

「うん。いいけど、どうやって伝えればいい?」

「いつもみたいにさ、霊話してくれれば、俺たちにも聞こえるから。」

「ええ、どうして俺が一人で話している事、知っているの?」

「この前、見たんだ。」

3人は目を合わせた。

「それはない!プライバシーの侵害だ。」

「すまない。これからは気をつける。」

 

スズヤはいろんな事を、ワズ達に伝え、一緒にパトロールをしたりした。

 

 

「これが、平成の始めの頃の物語だ。」

気が付くと、平成の前に、ワズ達4人が座っていた。

 

第二次世界大戦の兵士の服を着た男の足が、見えた。

美しいお花の上を歩いてくる。

戦争で死んだ仲間を焼き、骨をリュックにいれ、持ち帰ってきたのだ。

 

凛とした若い男が顔を上げた。

その男は、黄色の龍となり、切なげな目で上に昇り、目をきゅっと閉じて、涙をこぼした。

 

天界のお花畑の中で生まれた子狐様。

眠っている子狐様を、お釈迦様が見つけ、抱きかかえた。

 

「はぁはぁはぁ。」

平成時代、キツネ神として、皆の体から、死んだ魚(邪気)を取り出したキツネ様は、本当によく働いた。

邪気の形が、基本的には死んだ魚だが、魚を食べる事は悪い事ではない。

 

「わああ。」

人間の姿になったキツネ様は、宴会に紛れ込んで、魚を見て、目を輝かせた。

 

時には、美容師、エステティシャン、男の美容家として活躍をした。

「女性に必要な物は、ダークルージュよ。」

美容家としての仕事を終えたキツネ様は、ニコニコして廊下を歩く。

 

「は‥。」

キツネに変身して、メイクルームで倒れた女性の体から、黒い靄で包まれた大きなどくろを、引っ張り出した。

「こりゃ、大変だ。」

それは、女性が、かつて喰った男だと分かっていた。

でも、キツネ様は、ありとあらゆる事を赦して、助けてきた。

「でも、彼の命はもう元には戻らない。あなたが罪を忘れたとしても‥。」

キツネ様は心配そうに、女性を見た。

 

「はぁはぁ‥。」

平成の間中、キツネ様は、走り回った。

 

「おりゃあああ!!」

平成の神4人が、上にいる大男と闘っている間、キツネ様は愚かな若者や、時には雪山の遭難者を助けたりした。

 

「ああ!可愛いキツネ。」

女子高生3人が、キツネ様を発見した。

「私たち、もう卒業だから、このリボンを君にあげるね。」

女子高生の一人が、黒っぽいリボンをキツネ様につけた。

 

「あー、可愛い!!」

女子高生は、スマホで写真を撮り始めた。

 

「あれ‥?」

女子高生が気づくと、キツネ様は、消えていた。

 

黒い傘の持ち手から紐が出ていて、キツネ様のお腹を結んで、空に運んだ。

可愛い顔で、キツネ様は、空に上がって行く。

 

キツネ様は、美容家の時の姿になり、傘を持ち、しばらく空を飛び、天界に来た。

 

天界では、お釈迦様、蒼獅子様、青虎様と黒豹様と猿が待っていた。

「あなたが次の時代の神に選ばれましたので、しばらくこちらで休んでください。」

お釈迦様が言った。

 

キツネ様は、祠に入った。

キツネ様は、祠の中で、龍に変身した。

 

 

「キツネ様が、令和龍‥。」

「そうだ。」

よりたくましくなった美容家が、椅子に座った。

 

「これから、平成と協力してやっていく。」

 

「平成とって‥。この子はまだ何も分かっておらんのだぞ!!」

「僕、頑張ります。」

平成が言い、令和龍が言った。

「秋華ちゃんも何も分かっていなかった。」

「ああ、そうだな。でも、この話だけでは、全てが語られていない。大体、神の助手が、スズヤから、どうして秋華ちゃんに、交代したのかも説明できていない。」

 

「一本の映画で、俺たちの時代が語れるわけがないんだ。みんなが想像するよりも、はるかに苦しくて、すごい時代だった。」

カブが言った。

 

「だから、続きはまた、誰かが書く。未来の話は、俺と平成でつないでいくから、心配しなくてもいい。」

「いや、君たちじゃ無理だ。」

「僕たちはまだ、残りますよ。仕事が残っているので。」

ワズとボンが言った。

 

「分かった。ありがとう、それは助かるよ。」

「ふん、きっと君の時代は、数年で終わるよ。」

キュウが嫌味を言った。

 

「平成、何か言ってみろ。」

ワズが言い、平成は、神の助手としての抱負を述べた。

 

「やっぱり心配だな。」

4人は、令和龍と平成を睨んだ。

 

「絶対に大丈夫だ。令和は最高の時代になる。

俺が、最高の時代を作る。」

令和龍が言い、人間の姿から、龍に変身した。

 

令和龍は平成を乗せ、空を飛んだ。

「わあああ!!令和だああ!!」

平成は、いくつかの歓声をあげ、令和龍は笑い、空を飛び続けた。

 

 

私が書く『平成くんと令和龍』は、これにて終了する。

 

【蒼い空】

【天界】

【Dragon's Song】

【Sumari】

By Shino Nishikawa

 

 

 

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