5つの話Ⅱ

November 25, 2019

5つの話Ⅱ

  • ダンサーのヨシカの物語

ヨシカには、ミヨという妹がいた。しかし、二人でのお留守番の最中、ミヨは男に襲われて、亡くなってしまう。ちょうどヨシカとミヨは喧嘩中で、ヨシカは別の部屋で、リカちゃん人形の髪の毛をとかしていたのだ。

ヨシカは物音に気づいたが、なんだか恐い感じがして、見に行けなかった。この前、お母さんから、「2人は別の人生を歩むんだからね。」と言われたばかりだった。

ヨシカが見に行くと、ミヨは目を開き、血を流していた。

「ミヨ、大丈夫?」

ヨシカはミヨの頭をなで、目を閉じさせた。

ヨシカはぶるぶると震えながら、警察に連絡をした。

 

ヨシカの家は嘆き悲しみ、静まり返ってしまった。両親は心の病気になり、ヨシカに酷い言葉を言った。でも、ヨシカだけでも残ってくれた事に心から安堵した。

ヨシカは暗くなり、学校にも行けなくなる。

連絡帳を届けてくれた友達に、挨拶もできなかった。

 

落ち込んでいるヨシカに、女神様が声をかけた。

『ヨシカちゃん、ミヨちゃんがいなくなっても、普段通り生活できたのなら、いつか、ミヨちゃんを返してあげるよ。』

「ええ。でも、ミヨが死んじゃったのは、私のせいだから。」

『ううん。あれは、ちがうよ。あの恐ろしい鬼畜のせいだから。』 

「うん。ありがとう。」

 

ヨシカは、何度か女神様と話したが、ミヨが死んだせいで、少し心の病気になっていて、女神様の声が嘘だと思うようにもなった。

ヨシカはダンスを始める事にした。

『ヨシカちゃん、ダンスをやめれば、ミヨちゃんを返してあげるよ。』

女神様は言ったが、ヨシカには分からなくなっていた。

 

むしろ、ヨシカは、頭に響く神様の声を、ダンスのために使うようになった。

死者が蘇らない事は、何度も教えられていた。

 

高校を卒業したヨシカはため息をつき、テレビをつけるとバレーの試合がやっていた。

高校では恋をしても、うまくいかなかった。アニメにあるように、綺麗でもっと上品な交際がしたかった。

バレー選手はみんなが輝いていたが、ヨシカが一番かっこいいと思う人がいた。

しかし、休憩になると、チアダンスの人たちが出て来て、その人の前でダンスをした。

ヨシカは辛くなり、頬を切ってしまう。

ヨシカは顔をしかめた。悔しく思い、頬から血が流れる中、トレーニングをした。

そして、ヨシカは、アクロバットをできるようになる。

 

ヨシカはダンスにさらに熱中し、日本一のダンサーの地位を手にした。

そして、世界のステージにも上がるようになる。

ヨシカには厳しい目を向けられたが、ヨシカは気にしなかった。

 

そんな中、孤独になったヨシカは、変な男と付き合ってしまう。

汚い食堂で、目の前にようじを置かれた時、ヨシカは付き合った事を後悔した。

もっと素敵な人と恋がしたかった。

 

ヨシカはお別れをした。再びヨシカがテレビをつけると、ダンスの練習場近くでよく目にしていた男が、体操選手としてテレビに出ていた。

ヨシカはようやく素敵な好きな人が見つかったと思い、涙した。

でも、体操選手のカズキとヨシカが付き合う事は難しい事だった。

ヨシカはアクロバットの技を極めたが、その一方で苦しくなった。

夜中、ミヨと一緒に食べたポテトチップスをむしゃむしゃと食べた。

 

血液検査の結果が悪く、こんな物をカズキに見られたらおしまいだと思った。

ダンスには、どんどん若い子が出て来て、自分よりもうまかったので、腹が立った。

カズキとは、一度も会った事がない。

何度も話したように思ったが、それは全て空しゃべりだった。

 

カズキの心は、ヨシカの物だったが、ヨシカには分からなかった。

とにかく、2人が付き合ったりするには、壁が高すぎた。

ある日、カズキが国際試合に出ているのを知り、ヨシカは激怒してしまう。

ヨシカは泣きながら家に帰った。そして、テレビをつけると、バレーの試合がやっていた。

ずっと前、ときめいた選手が出ていた。まだ独身みたいだ。

可愛くて、アクロバットができるヨシカは、きっと好きになってもらえる。ヨシカの心は楽になった。

 

ヨシカは、ミヨを殺した男を心の中で追っていた。そして、大人になり、落ち着いたヨシカは、もう一度、女神様の声を聞くようになる。

「やっぱり、ミヨを返してもらえますか?」

『もう遅いわ。でも、ミヨちゃんを殺した人は、あなたが思っている人で間違いない。』

「そうですか。」

ヨシカは本気になった。

ミヨを殺した男は、今では、オリンピック選手になっていたのだ。

男にとっても、それは若い頃の罪であり、心から反省した。もう二度と罪を犯さないために、悪魔に力をもらっていたのだ。

 

ヨシカは、男に復讐を果たすため、オリンピックの開会式でパフォーマンスする事を目標にするようになる。

本気になったヨシカは、テレビのステージに出るようにもなった。女神様がチャンスを与えてくれたのだ。

 

ある日、嫉妬で狂った女性カコが、ヨシカを殺そうと考えた。

ヨシカは可愛くて光り輝いていたが、男への憎しみで心は鬼のように汚く、カズキにもバレー選手にも会えていなかった。その上、夜中のポテチを止められていなかった。

でも、『今日はこのくらい。』と、ヨシカは皿にポテチを出し、天の神様に確認した。

ヨシカは、天の神様や女神様、五輪のドラゴンとも、心と伝えあうようにもなっていた。

でも、憎しみの心は治らなかった。

 

カコは、ヨシカのアパートを調べ上げ、オートロックでない事を確認した。

そして、ヨシカの部屋のドアのぶに、青酸カリをかけた。

 

練習で疲れ果てたヨシカがアパートに戻ってきた。

『今日、うまくできなかった。』そんな事を、ヨシカは思った。

ドアについた粉を見て、青酸カリだとすぐに分かった。

ミヨを思い出しては悲しくなり、男への憎しみの心も治せない。好きな人にも会えないヨシカは、死んでもいいと思い、冷蔵庫から酎ハイを出した。

「別に、死んでもいいよ。」

粉を顔と唇に塗ったヨシカが言うと、神様の声が鳴り響いた。

 

『死んではいけません。苦しいのなら、まず顔を洗い、うがいをしてください。』

「え‥。」

ヨシカは酎ハイをしまった。

『それから、救急車を呼ぶこと。』

「わかった。」

ヨシカは救急車を呼んだ。

 

オリンピックの開会式ダンサーを目指す女の子達は多かった。

それでも、みんな半端者だ。けれど、上手だったので、ヨシカは焦った。

ヨシカは、必ず、オリンピックの開会式に出て、男に見せつけ、男の試合を妨害し、復讐を果たさなければならない。

 

「みんな、どうして、ステージに出たい?良い男の人に見てもらえば、幸せになれるから?良い人と早く結婚したいから?私は結婚なんかしたくない。ダンスをして、みんなに輝いている姿を見てもらいたいの。」

ヨシカは言った。

 

ヨシカはあの日、本当に死ぬつもりだったのだ。

 

オリンピックの開会式のダンサーが発表され、ヨシカはメンバー入りした。

ヨシカは、最高の姿を見せ、みんなを魅了した。

なんと男は、オリンピックに出なかった。

ヨシカの復讐が完了したのだ。

 

カズキは体操で金メダルを取った。それは全て、悲しい思いをさせてしまったヨシカのためだ。カズキの下には、アイドルや女優たちが、集まってきた。

でも、カズキの心は、ヨシカのための物だったのだ。

 

ヨシカは感動して泣いた。

2人はきっと幸せになれるだろう。いつか、再び、ミヨと会う日を信じ、ヨシカはこれからも生きていく。

 

 

  • ヒロシの物語

ヒロシの伯父は、棒高跳びの先生だった。しかし、着地に失敗し、頭をうち、右半身麻痺となり、ヒロシが10才の頃から、一緒に暮らすようになった。

ガキ大将だったヒロシは戸惑い、恥ずかしいと悔しい、両方の気持ちになった。

ヒロシは元気がなくなり、大好きだった空手の稽古にも通わないようになる。

それでも、本だけは好きで、よく読んでいた。

中学校になると、ヒロシは、自分の体がまわりよりも遅れている事に気が付いた。

ヒロシは部活に入らなかったからだ。ヒロシは勉強をよくしていた。

父に言われて、2人の弟と10日に1回くらいは走りに行ったが、それ以外は手がつかなかった。伯父はいつ死んでもおかしくないと医師から言われていたが、一向にその気配はなかった。

ヒロシは、筋トレを始めてみた。終わってみるとすっきりした。でも、ヒロシはゼロに等しい所からの体作りをするので、毎日筋トレをする事は厳しい事で、ヒロシは学校でも、ぽろぽろと涙をこぼしてしまった。

小学校の頃のヒロシは、授業中、ふらふらと立ち上がる事もあった。でも、それはみんな、伯父さんのせいだった。最初、先生は怒ったが、ヒロシの事を理解したらしい。

中学校では、みんなに迷惑をかけないと決め、やっとの思いで1日を終わらせていた。

誰でも死と隣合わせだが、死に近い体の家族がいる事は、とても苦しい事だった。

それでも、ヒロシの家族は掃除をして、家の中を綺麗にし、やるべき事をした。

しかし、なかなか、伯父さんのその日はやってこなかった。

 

高校になったヒロシは少し元気になり、恋がしてみたいと笑うようになった。

でも、よくよく考えてみると、古くて伯父さんがいる家に住む自分が、女子と付き合う事は無駄な事だと分かった。弟がエロ本を読んでいたので、ヒロシもそれを読み、それで満足する事にした。

 

ヒロシの心はいまだ、重いままだった。1人でいる時、大声で叫んでしまったり、歯をかみしめて、猿のような顔をする事だってある。一方で、嬉しい時には、軽く踊ったりした。

足を広げて立ったら、腰を軽く左右に振ってみる。しかし、その動きを、自分が嫌いな人も、嬉しい時はするのかなと思うと、切ない気持ちになった。

思春期には心が傷つきやすく、動きやすい。死に近い人間と暮らすヒロシは、普通の高校生の5倍だった。

そんな人間が、チームに入っても、迷惑をかけるだけだ。

ヒロシは筋トレをつみ、体を作っていたが、部活に入らなかった。

 

別に大した思い出も作らず、高校を卒業した。

雪の中の卒業式に、少しだけ仲良くした女の子と写真を撮った時は、つまらない親父になった気分になった。

 

ヒロシは専門学校に入学した。1人暮らしをしたが、また実家に戻る事になった。

ヒロシは元気が出ず、浮かない顔で模型を組み立てた。

伯父さんのその日が来る気配はなかった。伯父さんは、トイレも部屋でしている。

とても臭い感じがした。

ヒロシはいまだ、ちゃんとした恋愛を出来ていない。

スポーツが出来なかった事を考えると、涙が出た。

しかし、どんなに苦しい思いの日でも、筋トレを続けてきた。

毎日同じ場所をいじめる事もあったし、日によって鍛える場所を変えたりもした。

ヒロシは、普通の男性よりも良い体になっていた。

心が辛い日こそ、マラソンをする事が大事である。

ヒロシは持久力もつけた。

 

ヒロシの心には、まだ釘が刺さっていた。死に近い体の伯父さんがまだいるのだ。

勤め先はスーパーで、イラつく事もあったが、仕事は毎日行けた。

でも、やっとの思いで仕事を終わらせる事もあった。

 

ヒロシはまるで、霊に取り憑かれているように感じた。

けれど、元気を出し、ダンスを始めてみる事にした。

YouTubeを参考に、基本ステップを一つ一つ、マスターしていった。

10カ月後には、ヒロシは、テレビのダンサーよりも踊れるようになっていた。

ヒロシは、自分の才能を開花させたのだ。

 

オリンピックの年に、ヒロシの伯父さんが亡くなった。

ヒロシは、パラリンピックで、車椅子のメンバーとパフォーマンスをした。

なんと、ヒロシは音楽まで作れるようになっていたのだ。

ヒロシが作る音楽は、アメリカのヒップホップのようだと絶賛された。

車椅子のメンバーがステージに立つ事は、恥に近い事だと分かっていた。

でも、心と体が楽になったヒロシには分かった。

苦悩に苦悩を重ねる事で、人生が良くなるという事を。

我慢した生活を送る事で、脳が成長するからだ。

 

ヒロシは、パラリンピックのメンバーと家族の気持ちを痛いほどに分かっていた。

だから、いろいろな事を、神に祈った。

 

ヒロシはこれからも活躍していくだろう。なぜなら、祈る事を分かっているから。

 

 

  • エリナの物語

エリナはずっとスポーツを続けてきていた。バレー、ソフトボール、卓球、柔道‥。

子供の頃から、エリナは心配性だった。でも、明るい電気の下、スポーツをしている時は、それを忘れられた。

鍵を何度かけ直しても、心配になって見に行く。コンロの火を消した事をお母さんが確認しても、出かけた先で、心配になった。

顔見知りだった家族が、殺されたせいもあるかもしれない。

「いつになったら、エリナの心配性が治るのかな?」

エリナはお母さんと話した。

 

「どうすればいいのかな?」

苦しくなったエリナは、手を組み、神様に祈った。

すると次の日、エリナに考えが浮かんできた。この前アニメで見た、小さな天使を空想するのだ。大抵、エリナが心配する事は大丈夫な事だった。エリナが心配した時、小さな天使が代わりに確認してくれるという空想をする事で、エリナの心配性は治った。

 

エリナはずっとスポーツを頑張ったが、スポーツ選手になる夢は忘れる事になる。

小学校からの友達が逮捕されたり、高校の部活の友達が亡くなったりしたのだ。

エリナは東京に進学した。

東京での暮らしは夢のようだった。テレビの撮影で使われる場所がいたる所にあり、全てが憧れのスターが見た景色と同じだった。

全ての道が、憧れのスターが通った道だった。

 

エリナは高架下の小さな店でコロッケを買い、歩きながら食べると、いつも目にしていた男も同じように食べていた。

エリナはその人を元に、空想にふけるようになる。その男も、エリナの事が好きだった。けれど、今は勉強中で、エリナと付き合うわけにはいかなかった。

しかし、エリナは失敗をしてしまう。その男と似た人と交際をしてしまったのだ。

エリナが付き合った人は最低な男だった。男は、性的な事をして、朦朧としたエリナにフェラをさせたのだ。フェラだけなら、よくあるかもしれない。でももっと酷いのは、急所に米をつけたのだ。エリナは急所についた米を食べてしまった。

性的な事をすると、脳が麻痺してしまう。どちらから迫ったのかが鍵になる。

エリナも男も22才で、失敗をしてはいけない年齢だった。

エリナは米を食べられなくなってしまう。病気になったのだ。

性的な失敗を消してくれるカメレオンがいる。でも、同じ人には5回までで、そんな失敗をしたエリナはまた犯しかねない。だから、もっと年ごろになるまで、魔法をとっておく決断をしたので、エリナの悪い記憶は無くならなかった。

 

それでも、エリナはカメレオンの声を聞いた。

『俺が合図したら、メールしろ。』

「うん。ありがとう。」

『いい。』

 

1時間後、声が聞こえた。

『今だよ。もうお別れしない?おばあちゃんが病気だから。と言え。』

「わかった。」

すぐさまエリナはメールをし、男と別れた。

 

エリナはカメレオン様に感謝し、もう二度と迷惑をかけない事を約束した。

エリナは実家に戻り、両親に顔を見せると、両親は驚いた顔をした。

あの事はバレていないようだった。

エリナは言った。

「私、もう一度、柔道をやりたいの!」

エリナは、全国大会に出た事もあったのだ。

 

親は柔道の先生もしている。道場で稽古をつけると、あの時の事がバレているとひやひやしたが、エリナは「気にするもんか!」と言い、本気になった。

 

エリナは主要大会になかなか出場できなかった。だから、地元の聖地に行き、耳をすまし、神の声を聞いた。

エリナは、神の声を頼りに願掛けをする事にした。

例えば、夜12時になったら走りに行く。聖地を3周する。メッカの方向にお辞儀をする‥。

様々な願掛けをこなしていき、エリナは世界選手権に出場する事になる。

 

エリナにとって、外国人を負かすことはたやすい事だった。

ただ、試合の前に、あの時の事を思い出し、心と体を炎でつつむだけだ。

 

エリナは、五輪の竜とも、あの時の事を話した。そして、夢の中で、竜と抱き合った。

 

エリナはオリンピックに出場し、金メダルを取った。あの時の事を思い出し、カメラを見て、笑顔を見せた。

エリナは人生の苦しみに勝ち続けるだろう。なぜなら、エリナは願掛けのやり方を知っているからだ。それにはまず、神様を信じ、好かれる生き方をする事である。

 

  • 間違えたアーティストのコノハ

コノハには、絵の才能がある。でも、それ以外はゼロからのスタートだった。東京で1人暮らしをしているが、オリンピックは嫌いだった。

幼馴染の直人が、陸上でオリンピックに出ている。それも何度か‥。でも、いつもふざけてしまって、付き合えなかった。

コノハは仕事もうまくいっていない。でも、絵が上手いので、直人から突き放されるわけないと思っていた。

『もっと、絵を描けばいいじゃん。』コノハには、スヌーピーの精霊がまとわりついている。

「うん、でも‥今は忙しいから。」

東京の人込みで疲れてしまって、良いと思う絵が描けていなかった。

『君の好きな歌をかけてよ。』

「うん。」

『テレビ、観なくていいじゃん。』

「うん。そうだね。」

 

「どれにしよう‥。」

コノハは、スマホで音楽を探した。

『これでいいじゃん。』

「わかった。」

スヌーピーが言った曲をかけると、少し気分が癒された。

 

『絵本を描いてみたらどうかな?』

「えー、でも‥。」

『どうして?僕のお父さんが漫画家だから?でも、コノハのスヌーピーは漫画じゃないんだよ。』

「あー、そっかぁ。」

コノハはスヌーピーの精霊との会話をやめた後、電車の中で会っただけの男と空しゃべりをしてしまった。

空しゃべりをしてぐったりとしたコノハは、布団に横になった。

その瞬間が、人生で一番楽な時間に感じた。

 

『まだ寝るの?』

「うん‥。」

 

コノハの職場は、チェーンのカフェだ。1人暮らしを長く続けたので、昔、大切だった人と疎遠になった。でも、ふと、思い出す時がある。それは、直人ではない。雄介の事だ。

雄介もきっと、スポーツ選手になれた。その事を考え、仕事中、涙が出た事がある。

今は、何をしているのだろう?

コノハの妹の知り合いの男が、バレーやバスケの試合に出ている。

妹は実家で暮らしている。妹の知り合いの試合をテレビで観るたび、自分の知り合いも選手ができると思い、胸が痛んだ。バレーを熱心にやっていた木与という男は、今は渋谷のよく分からない会社に勤めている。

数年前は、会えれば、胸がときめいたものだ。でも、今は、木与の身長は縮んでしまって、会えてもうれしくはない。

『全部、コノハちゃんのせいだからね!』

「私のせいな訳、ないでしょう!」

 

でも、やっぱり雄介かなと思い、コノハは唇同士をかみ、少し微笑んだ。

 

コノハは、人ごみの東京で、心を変にしてしまった。カフェに来る馴染みの不良男と話すようになる。

その上、直人に会えた時に、その人の事を話してしまったのだ。

 

結局、不良男とも直人とも、関係が悪化してしまった。

人にもよるが、26才くらいだと、恋愛対象をまちがえやすい。

26才というのは、お洒落なデートがしたい盛りなので、みんな恋をしたがる。

でも、特に意味はない。何もせず過ぎてしまえば、間違えを犯さなくてよかったと、せいせいするものだ。

お洒落なデートをしてもよいが、素敵な思い出で相手の価値を、測らない方がいい。

ずっと好きでいられるかが、一番のポイントだろう。

あの日の思い出が好きなの?あの日を思い出したら、別れられないの?

 

気合を入れ直したコノハは、漫画を描き始めた。それがうまくいってきたので、再び話すようになった不良男に見せてしまう。

都会の業界人に漫画を気に入ってもらえたコノハは、ドラマ化の話がトントン拍子で進んでいく‥。

主役は不良男をモデルにしていたので、俳優はその人でお願いをした。

不良男もやる気になり、テレビ局の人と話をした。でも、やっぱり話の最中で、不良男が役者を降りることになる。その不良男はよくない男だったが、不良男も不良男で、心に傷を負ってしまった。

 

例え、誰かをモデルにした作品を書いても、そのモデルが一般人ならば、ちがうと言い切る事だ。例え、俳優であっても、もっと良い人が見つかるかもしれないので、黙っておいた方がいい。書き手は、モデルに必ず失敗をする。本当に、そういう物らしい。

うまくいく場合もあるかもしれない。でも、ほんの1パーセントと考えておいた方がいい。

だから、空想の人物をモデルにしたり、同じキャラクターで名前を変えたりする事が大事である‥。

 

その頃には、スヌーピーの精霊が、コノハの下に来なくなっていた。

東京は人が多い。助ける人がたくさんいたのだ。

 

五輪のドラゴンが、コノハに話しかけた。テレビでは、コノハの同級生の女がスポーツ選手として、活躍している。

『お前も、何かやらなくていいか?』 

「うん‥。何もできなくて。」

『ちょっと鍛えてみろ。』

「分かった。」

 

コノハは、軽い筋トレやジョギングをした。

『これ、なんだ。』

「え‥。」

『そんなものじゃ、ダメだ。話にならない。』

「でも‥。」

『お前は、誰かと付き合っているのか?』

「いえ‥。」

コノハは、最近ではずっと、雄介を思い出していた。

雄介によく似た人が、バレーの試合に出ている。

 

『言いづらいけど、お前が想っている男はもういない。』

「どういう事?雄介は、ちゃんと、試合に出ているもん!」

『あいつは別の男だ。お前の雄介は、ずっと前に、もう死んだんだよ。』

コノハは立ち尽くした。

1人暮らしを長くしすぎて、雄介を想わなかったせいで、雄介は心臓発作で亡くなっていたのだ。

 

オリンピックには、呪いがかけられる。

ゼロから始めなければならないアーティストが呪いをかけるものだ。

大体は、選手の大事な家族のSNSのフォロワー数が0になるとか、顔に傷がつくとか、そういう物だ。

顔に傷をつけて、死んでまで、オリンピックに呪いをかけてくる。

 

コノハは布団で休んだ。

スヌーピーの精霊がまた来た。

『コノハ、これからどうする?オリンピックのために、何かできるの?』

「わからない。」

『また後で来るから、それまでに考えておいてね。』 

「うん。」

 

『コノハ、顔を切る?どうする?』

「体は傷つけたくない。」

 

すると、ドラゴンが現れた。

『体に傷をつける以外の事で、何か考えろ。』

「それほどの力を持っていないから。」

コノハは起き上がり、泣いた。

『でもな、俺から見れば、日本一、才能を持っていたのは、コノハなんだよ。オリンピックには間に合わないけど、人生はまだ続く。それまでに、しっかりと力をつけてくれ。』

「はい、わかりました。ありがとうございます。」

コノハは泣いた。

 

『恐ろしい呪いがない五輪でも、別にいい。』

ドラゴンはそう言い、透明になった。

 

『呪いがない方がいいじゃん!』

スヌーピーの精霊が言った。

 

 

  • あと一歩の男

競輪競技のマークスは、とてもかっこいい男だったが、あまりテレビやネットには出なかった。周りを気づかう良い男だった。

「マークスってさ、どこで努力してんの?」

チビのロイがドリンクを飲みながら、聞いた。

「え‥。まぁ、大体、気づいた時にかな。」

「へー、そう。」

 

実際、マークスはかなりの努力をしていた。

トイレを10時間我慢したり、ペットボトルにした事もある。

そういう悪魔の努力こそ、勝利の鍵になるものだ。

自分の中だけならば、決して、犯罪ではない。

普通の努力と、凡人ではかなわない悪魔の努力も、マークスは重ねていた。

でも、それは、犯罪ではなかった。

物干し竿の先をなめたりして、自分自身に呪いをかけた。

 

しかし、代表入りまであと一歩のところで、マークスは恋人を作ってしまう。

代表入りしたのは、マークスが嫌いだったルーダである。

 

ある晩、古アパートで暮らす若い夫婦に、女神様が男の子を落とした。

「ああ!」

若い妻は、しりもちをついた。

「え?赤ちゃんだ!」

夫も顔を出した。

 

「ええ、何これぇ‥。誰?こわぁ。」

 

「きっと、神様だよ。困っている俺たちの事を見てくれたんだ。」

夫は赤ん坊を抱いた。

でも、神様の声は届かなかった。

2人はとてもふざけた夫婦で、神様にも敬意を示さなかったためだ。

 

2人は男の子を育て始めたが、神様に対して、ふざけたりした。

「うひょー、このハゲ、治してくだせぇ!」

赤ちゃんが置かれていた場所で、ふざけたりした。

 

その夫婦に育てられたのが、ルーダだった。

それを知っているマークスは、ルーダが嫌いだった。

 

マークスは神様に敬意を払ってきた。しかし、最後は裏切ってしまった。

でも、ルーダは、肝心な恋を、オリンピックのためにしなかったのかもしれない。

 

マークスは、夜はセクシーになる妻をぼんやりとながめた。

しかし、一般的には、そのようにして子供を作るので、仕方ない。

 

あのおバカな若夫婦には、2人きりの時、子供の手前、そのような事をしたくないという話があったのかもしれない。

あるいは、それをした私たちは別れようとも。

子供が来てから、そういう事はやめたのかもしれない。

 

馬鹿だが、馬鹿ではなかったのだろう。

だから、ルーダは、オリンピックに代表入りしたのかもしれない。

 

End

 

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

最新記事

December 9, 2019

December 7, 2019

November 30, 2019

November 29, 2019

November 29, 2019

November 25, 2019

Please reload

アーカイブ
Please reload

タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square

© 2023 by EMILIA COLE. Proudly created with Wix.com